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図太い眠り姫(仮)と、コミュ障の王子様(仮)※フローラルの香り付き①

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「兎に角、採用は決定だから。 ニコラスも困ってるしね。 彼女を辞めさせるのは君の自由だけど、仕事に不備があるようならにしてあげてよ? 経歴や成績を含めた書類は研究室の机に置いてあるから許可証作ってあげてね」
「ちょっ……!」
「じゃあ、私は忙しいから」

通信を一方的に切られたベネディクトは、舌打ちをひとつ。
とりあえず研究室へ戻ろうとして、時計を確認する。

(……定時は過ぎてるな。 だが──)

すぐには戻らず、服を脱ぎながらシャワーブースへ一直線。

頂いたものの使わず放置していたフローラルな香りの石鹸を脱衣所の棚から取り出すと、それを駆使してかつてない程念入りに全身をくまなく洗った。

──何度も言うが、彼は決して女嫌いではない。

別にどうこうなろうだとか考えたりはしない……というか『僕のような男と女の子がどうこうなるわけがないだろう!(※キレ気味に)』というタイプなので、なにかを望んだり夢見たりはしない。

しかしそれでいて、自尊心は非常に高いのだ。

術式を含めた容貌などによる『不気味』という類の『キモい』は全然許容できるものの、『やだーコイツキモい~』的な不快感や生理的嫌悪を主とした『キモい』は嫌。

侮られるのも嫌いだ。
夜会やパーティーでも堂々たる振る舞いをするし所作も美しく、研究発表の場では淀みなくハッキリと喋る。
エスコートをする機会はあまりないが、それでも『ちょっとの間だけ』とかはあり、やや義務的な感じはあれど問題なくこなせる。

(クソッ! 今日は完全に油断していた!!)

とどのつまり、ベネディクトはモテない自負のあるエエカッコしい。
エエカッコしいなので、モテは関係なく知らん人の前でのカッコはつけねばならんのである。

人を雇いたがらないのはその為。
尊大で気難しいように見えるのは彼なりの防御でもある。

(だから嫌なんだ女の子を採るのは!!)

できればカッコつけなくていい今の緩い環境でいたいというのに、助手が可愛い女の子なんて以ての外だ。
警戒心が高いのも事実だが、女の子はどうしても余計に意識してしまう。
そのことを本人に悟られようものなら羞恥で死ねるので、なるべく近寄りたくない。





「ちッ」

盛大に舌打ちしながらいつもは自然乾燥に任せる髪をきちんと乾かしつつ、クローゼットから服を取り出す。

ベネディクトにとってお洒落とは『やることに意味を見い出せる者だけがやればいい』というもの。
お洒落やその心の否定はしないが、彼にとっては時間の無駄でしかない。
なのでカルヴィンに見立てて貰った『普遍的で清潔感のある普段着一式』と、同じ物を十数着作っている。
日常的にいいモノしか目にしていない彼の見立てだけあり、シンプルでありながらも小洒落ているのだが、ベネディクトにはよくわからない。
ついでに気を利かせたカルヴィンに申し付けられた仕立て屋によって、シャツだけは『全く同じ』ではなくそれぞれ微妙に違う。
ボタンダウンだったり胸ポケットがあったりフロントやバックに加工がしてあったりもするのだが、当然それにも一切気付いていない。

まあ大体、部屋から出る際にはクソ長いローブを羽織ってしまうので、実際何を着ようとあんまり関係ないのだけれど。

それでもカルヴィンのお陰で、今のベネディクトは貴族やそれなりにお金持ちのちゃんとした人に見える。
さりげないお洒落さが小粋な紳士である。
カルヴィンのお陰で。(※二回目)





こざっぱりしたベネディクトは緊張しつつ転移し、余裕のあるフリでゆっくりと扉を開け足を踏み出した。

さりげなくリリアンの姿を探す。
──定時はとっくに過ぎている。
いるわけないし、いて欲しくないし、『いたらどうしよう』と思うが……少しだけいてほしい気持ちもある。
だが、それは断じて恋心からではない。
なんせ今の彼は、フローラルの香り漂う小洒落た紳士。
今のうちに先程与えたであろう『汚い・キモい』印象をなんとかリカバーしたいのである。

(ふっ、いるわけないよな……)

部屋はシンと静まり返っている。
安堵と脱力に息を吐いた、彼の視界が捉えたものは──

「!!」

シューズロング(※片側のみの肘掛け付きロングソファ)の肘掛けのない方に膝から下をおろし、真っ直ぐの状態で仰向けに寝ているリリアンである。
布団代わりに掛けたコートの上で、祈るように両手を重ねている。

(てっ天使……!)

安らかな寝顔は『天使』と言えなくもないが、寝姿的にはどちらかと言うと『ご遺体』といった感じだ。
まあある意味、近いと言えば近いけれど。    

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