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旅立ち
【幕間】サラとセルの秘密
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「ねえ、サラ」
2日前、陽の光がまだ淡く、まだ誰も起きていない早朝。本を持ったセルは、森の外の様子を見に行っていたサラを呼び止めていた。
「おお、セルか、早起きだな」
窓を器用に開けて家に入っていたサラは、少し驚いた声をあげた。
「おかえり。ちょっと聞きたいことがあって、待ってたんだ」
「なんだ、サラにわかることか?」
サラは、セルの持っている分厚い本を見て、「難しいことはわからんぞ」と苦い顔をしながら、セルが座っているテーブルに向かう、
セルは黙ったまま、本の表紙の埃を優しく取り除くように撫ぜた。
そして、一息ついて、サラを見つめて問うた。
「この家を作った人って、100年前の人だよね。」
サラは一瞬虚をつかれたように動きをとめた。
「…なぜそう思う」
「本の内容がね、どれも100年以上前のことしか書いてなかったんだ。服も家具も、今の形とは少しだけ違うしね。」
「そうか。」
「サラはきっと10年とかじゃなくて、100年近く二人のことを待ってたんでしょう?」
村などでは、叫び声に似た音は今も聞こえていたので、最近の話として伝えられているが、孤児院の古い本にも叫び声の記述はあったのだ。
「ねぇ、サラ。シンは…」
「シンは20歳だ」
「でも、初めて彼女に会った時、彼女はずいぶん前から年齢を数えるのを辞めていたと言っていた。」
サラは少し昔のことを思い出した。
ーーーーーーーあの日は、少し乾いた初冬だった。
いつも通り、家族で、森の中で遊んでいたら、突然、大きな鷲に襲われた。
家族は一瞬で鷲に飲み込まれて、怖さと怒りで思い切り叫んだら、口から炎も飛び出てて周りが真っ赤になってしまった。
炎の熱さに慌てて飛んだけど、逃げれたのも、飛べたのも僕一人だった。
鷲が驚いて誰かを吐き出してないか、誰か一匹でも逃げられていないか、しばらくは探していたけど、煙が邪魔でよく見えなかった。
そして、そのうち慣れない飛行にも疲れて、森のまだ燃えていない場所にドスンと落ちてしまった。
痛くて動けないままうずくまって、どれくらい時間が経っただろう。
お母さんはどこだろう、他の家族は?火はもうすぐここまで燃えてくるだろうか。そしたら僕もきっと死んじゃうなぁ。
だんだん暗くなる森の中で、寂しさと絶望を感じていた時だった。
少し森が燃える匂いが薄くなった気がした。
そして、声をかけられた。
「ねえ、トカゲさんどうしたの?」
少年の声に、僕は薄く目を開けて相手を確認した。そして、少し考えた後、言葉をゆっくり返した。
「…お母さんたちとはぐれたんだ」
「そう、私たちと一緒だね」
目を開けると目の前には、少年と少女が屈んでこちらを見ていた。
「私たちと一緒にくる?」
連れて行かれたのは、子供達だけで住んでいるとは思えない大きな2階建てのおうちだった。
「あまりものだけど」と言いながら、何かのスープを飲ませてくれた。
そして、手当てをしてもらった後、少女の膝の上で気づいたら寝ていた。彼女の膝はお母さんよりも暖かかった。
だけど、次の日起きたらびっくりしたなぁ。
「おはようトカゲさん」
「気分は良くなった?」
優しく声をかけてくれたのは、昨日の少年少女と似た顔をした、大人の人だった。
混乱した僕の顔を見た彼女は、1日で随分と大人びた顔を傾げて、「どうしたの?」と聞いた。
正直何から聞けばいいかわからなかったけど、一番気になることを聞いた。
「君たちは…なんさい?」
僕の問いに、彼は「ん?んー?」と唸りながら彼女の方を向いた。
「そりゃ混乱するよね。」と彼女は笑った。
「歳は…たくさん生きてたんだけど、歳を数えるのが難しくなってきて…よくわかんないや。」
あなたと同じで、少し変わった力を持っててね、見た目は変えられるんだ。と、付け加えて、僕を安心させるように頭を撫でた。
ここで初めて、自分が普通と違うこと、二人も同じようにそう言った力を持っていることを知った。
その後は、何度も「トカゲ」と呼んでくる彼に火を吹いて、彼女からは新しい名前を、大好きな名前をつけてもらったんだったな。
「とまあ、この話はまだシンにはできそうに無いんだかな」と、短い回想をこう締めくくったサラは、セルに問いかける。
「御主はそれが聞きたくて、こんな時間に早起きをしたのか」
サラの問いかけに、ハッとしたセルは首を振る。
「ううん、エジムの追手の足を少しでも長く止める方法を相談したかったんだ」
「ほう」
「僕らの孤児院では、サラの事は森の悪魔と呼ばれていて、100年前の災厄の原因や、災厄を生み出したもの、災厄の使い魔…大体こんな感じで言われていたんだ」
「なかなかの言われようだな。」
ふふっとサラが自嘲するように笑った。
「うん、すっごく怖かったよ。孤児院だけじゃなくて、みんなその物語が描かれた絵本で育ってるから知ってる。」
誰が描き始めたのか、たくさんの国民の、記憶の一番深く古いところで、恐怖の対象として、サラはインプットされている。
だから、最初にサラを見た時、あの辛そうな声が分からなかったら、血塗れのあの姿を見ても、一目散に逃げていたとセルは思う。それくらい、心の底から怖かった。
「だから、サラ、僕が教えるから、みんなが知ってる伝説の災厄になってくれないかな。」
そうして兵たちの心を折って少しでも時間を稼ごう。
それから、2日後
舌を噛むぞ、と言われてシンたちが静かになった後、セルはサラにも聞こえるか分からない声で謝った。
「さら、悪者にしてごめんね」
「シンを守るためなら、なんてことない。お前たちのことも。」
サラの表情は見えない。けど声は優しかった。
セルはありがとうとつぶやいて再び、舌を噛まないように静かにしがみついた。
曇った夜空の下、一行は東に向けて、夜明けまで飛び続けた。
2日前、陽の光がまだ淡く、まだ誰も起きていない早朝。本を持ったセルは、森の外の様子を見に行っていたサラを呼び止めていた。
「おお、セルか、早起きだな」
窓を器用に開けて家に入っていたサラは、少し驚いた声をあげた。
「おかえり。ちょっと聞きたいことがあって、待ってたんだ」
「なんだ、サラにわかることか?」
サラは、セルの持っている分厚い本を見て、「難しいことはわからんぞ」と苦い顔をしながら、セルが座っているテーブルに向かう、
セルは黙ったまま、本の表紙の埃を優しく取り除くように撫ぜた。
そして、一息ついて、サラを見つめて問うた。
「この家を作った人って、100年前の人だよね。」
サラは一瞬虚をつかれたように動きをとめた。
「…なぜそう思う」
「本の内容がね、どれも100年以上前のことしか書いてなかったんだ。服も家具も、今の形とは少しだけ違うしね。」
「そうか。」
「サラはきっと10年とかじゃなくて、100年近く二人のことを待ってたんでしょう?」
村などでは、叫び声に似た音は今も聞こえていたので、最近の話として伝えられているが、孤児院の古い本にも叫び声の記述はあったのだ。
「ねぇ、サラ。シンは…」
「シンは20歳だ」
「でも、初めて彼女に会った時、彼女はずいぶん前から年齢を数えるのを辞めていたと言っていた。」
サラは少し昔のことを思い出した。
ーーーーーーーあの日は、少し乾いた初冬だった。
いつも通り、家族で、森の中で遊んでいたら、突然、大きな鷲に襲われた。
家族は一瞬で鷲に飲み込まれて、怖さと怒りで思い切り叫んだら、口から炎も飛び出てて周りが真っ赤になってしまった。
炎の熱さに慌てて飛んだけど、逃げれたのも、飛べたのも僕一人だった。
鷲が驚いて誰かを吐き出してないか、誰か一匹でも逃げられていないか、しばらくは探していたけど、煙が邪魔でよく見えなかった。
そして、そのうち慣れない飛行にも疲れて、森のまだ燃えていない場所にドスンと落ちてしまった。
痛くて動けないままうずくまって、どれくらい時間が経っただろう。
お母さんはどこだろう、他の家族は?火はもうすぐここまで燃えてくるだろうか。そしたら僕もきっと死んじゃうなぁ。
だんだん暗くなる森の中で、寂しさと絶望を感じていた時だった。
少し森が燃える匂いが薄くなった気がした。
そして、声をかけられた。
「ねえ、トカゲさんどうしたの?」
少年の声に、僕は薄く目を開けて相手を確認した。そして、少し考えた後、言葉をゆっくり返した。
「…お母さんたちとはぐれたんだ」
「そう、私たちと一緒だね」
目を開けると目の前には、少年と少女が屈んでこちらを見ていた。
「私たちと一緒にくる?」
連れて行かれたのは、子供達だけで住んでいるとは思えない大きな2階建てのおうちだった。
「あまりものだけど」と言いながら、何かのスープを飲ませてくれた。
そして、手当てをしてもらった後、少女の膝の上で気づいたら寝ていた。彼女の膝はお母さんよりも暖かかった。
だけど、次の日起きたらびっくりしたなぁ。
「おはようトカゲさん」
「気分は良くなった?」
優しく声をかけてくれたのは、昨日の少年少女と似た顔をした、大人の人だった。
混乱した僕の顔を見た彼女は、1日で随分と大人びた顔を傾げて、「どうしたの?」と聞いた。
正直何から聞けばいいかわからなかったけど、一番気になることを聞いた。
「君たちは…なんさい?」
僕の問いに、彼は「ん?んー?」と唸りながら彼女の方を向いた。
「そりゃ混乱するよね。」と彼女は笑った。
「歳は…たくさん生きてたんだけど、歳を数えるのが難しくなってきて…よくわかんないや。」
あなたと同じで、少し変わった力を持っててね、見た目は変えられるんだ。と、付け加えて、僕を安心させるように頭を撫でた。
ここで初めて、自分が普通と違うこと、二人も同じようにそう言った力を持っていることを知った。
その後は、何度も「トカゲ」と呼んでくる彼に火を吹いて、彼女からは新しい名前を、大好きな名前をつけてもらったんだったな。
「とまあ、この話はまだシンにはできそうに無いんだかな」と、短い回想をこう締めくくったサラは、セルに問いかける。
「御主はそれが聞きたくて、こんな時間に早起きをしたのか」
サラの問いかけに、ハッとしたセルは首を振る。
「ううん、エジムの追手の足を少しでも長く止める方法を相談したかったんだ」
「ほう」
「僕らの孤児院では、サラの事は森の悪魔と呼ばれていて、100年前の災厄の原因や、災厄を生み出したもの、災厄の使い魔…大体こんな感じで言われていたんだ」
「なかなかの言われようだな。」
ふふっとサラが自嘲するように笑った。
「うん、すっごく怖かったよ。孤児院だけじゃなくて、みんなその物語が描かれた絵本で育ってるから知ってる。」
誰が描き始めたのか、たくさんの国民の、記憶の一番深く古いところで、恐怖の対象として、サラはインプットされている。
だから、最初にサラを見た時、あの辛そうな声が分からなかったら、血塗れのあの姿を見ても、一目散に逃げていたとセルは思う。それくらい、心の底から怖かった。
「だから、サラ、僕が教えるから、みんなが知ってる伝説の災厄になってくれないかな。」
そうして兵たちの心を折って少しでも時間を稼ごう。
それから、2日後
舌を噛むぞ、と言われてシンたちが静かになった後、セルはサラにも聞こえるか分からない声で謝った。
「さら、悪者にしてごめんね」
「シンを守るためなら、なんてことない。お前たちのことも。」
サラの表情は見えない。けど声は優しかった。
セルはありがとうとつぶやいて再び、舌を噛まないように静かにしがみついた。
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