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異端の子供達

無くした記憶

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 夜、子供たちはそれぞれラグの上で小さくまるまっていた。。
 冬じゃなくてよかったけど、どこかに布団があるかどうか…明日探してみよう。

 子供達が寝たのを見届けた後、今後のことを考えながら、外を警戒する。
 しかし、シリンはいつのまにか、耐えきれない眠気に引き込まれ、テーブルに座ったまま、突っ伏してしまう。

 暗い中で、声が聞こえる。

『お前の名前は物知りのオババにも聞いて、遠い国で大事な意味を持つ言葉にしたんだよ』
『それにね語呂が可愛いじゃない、みんなが呼びたくなる名前よ』

 両親の声だ。
 ああ、思い出した。いつか、寝込んでいた時に、名前の由来を聞いた時の場面だった。
 親からもらった、数少ないプレゼントを捨ててしまった後悔がシンを襲う。つい、リスクを負ってでも似たような名前にしてしまったが、それでも、もう元の名前を使うことはないだろう。

「ごめんね・・・」この思い出だけは忘れないようにしよう。
 小さくつぶやくと場面が切り替わる。
 昨夜見たどこまでも続く白い世界だ。

 女の子は私の近くにいた。
「こんばんは」
 相変わらず似た顔をしているが、ふわふわしたこの空間の白さにいると、違和感がよく分からなくなってくる。

「名前を変えて…髪も切ったのね、その姿も素敵だわ」
 その子の髪は、そういえば、りんごと引き換える前くらいの長さだった。
 腰まである髪が艶々と光っている。

「あなたは一体だれなの?」
「本当に忘れてしまったのね」
 女の子はシンの問いかけには答えずに、悲しげにまつ毛を伏せて、シンに問い返した。
「あなたは、昔よく体調をくずしていたでしょう?」

「うん。小さい頃はあまり覚えていないけど…大人になる直前まで、よく寝込んでたなぁ」
 シンは10歳くらいまでの記憶がほとんどない。それ以降の覚えている記憶も、子供の時のことほど途切れ途切れにしかなく、それもほとんどが寝込んでいて、18歳の成人する少し前くらいまでは、少し無理をするとすぐに倒れていた。

「あなたの力はね、小さい体には負担をかけ過ぎていたの」
 彼女が両手で丸を作ると、丸の中心から光が溢れ、丸の外側へと広がっていた。

「だから、力とそれに関わる記憶を閉じ込めながら、調整を繰り返して自分の命を守っていたの」
 私達の記憶もね、きっとどこかに閉じこもっていると思うわ。という言葉に合わせるように、手の丸の中に数点青い光が寂しげにまたたいた。

「力を制御するために、私は昔の、あなた達に会っていた記憶も忘れてしまっていたのね…悲しいな」
 寝込んでいたから記憶があやふやなのかと思っていたが、こんなに私のことを思ってくれる人を忘れてしまっていということに、急に寂しさと歯痒さを感じた。
「でも、あなたが生きるためだもの」
 彼女はシンの方を見つめ、困ったように微笑んだ。

「じゃあ、力を使えるようになったら記憶は戻るはずよね?」
 シンの問いかけに彼女はそっと頷く。
「そう、私もてっきりそう思っていわ。あの日、力を使ったあなたはそのまま、全ての力と記憶を取り戻すのだと」

 でもね、と続ける。
「実際はそうではなかった。力もまだ安定はしていないし、きっと、器となる体は成長しても、あなた自身の魂に思い出す準備がまだ整っていないと思うの」

 それだけ大きな力を持つということだから、無理に思い出させることは怖くて出来ない。と、彼女は言う。

 だから、過去を知りたかったら、子供達のために強くなろうと思うのなら、
「自分で記憶を取り戻して。」と彼女は言った。
 突き放すようは淡々した言葉とは裏腹に、彼女の言葉は「お願い私たちを思い出して」と叫んでいるように聞こえた。

「二つだけヒントをきいてもいい?」
 シンの問いかけに、答えられることかしら?と言いつつ、彼女は先の言葉を促す。

「あなたは私の双子?名前は?」
 意を決して投げた言葉のあと、目の前の彼女は数秒考え込む仕草をしてから口を開いた。
「似たようなものだけど、あなたの両親は私を産んではいないわ」
「じゃあ他人…?こんなに似ているのに?」
 混乱したまま首を傾げるシンの顔を、女の子は優しく包み込んだ。
「シン、ここは夢の世界で、私は見た目を自由に変える能力をもっているの。どんな姿で会えばいいかわからなくて、あなたの姿をかりているだけ。」
 いつか違う見た目で会いにくるわね。と女の子は言った。

「もう一つ、あなたと私はいつ知り合ったの」
 女の子の瞳が揺れて、難しそうな顔をする、これは答えられないことだったのだろうか。
 そう不安になった時、女の子は2~3回息を吐いて、答えてくれた。
「あなたの記憶がある頃よ、すごく、仲良しだったの」
 なるほど、全て取り戻すためには子供の頃の記憶が必要なのか。

 少し眠気を感じたシンは、もうそろそろ夢から覚める時間がきたと感じた。あと、一つだけ大切なことを聞き忘れていたことも思い出した。
「あと、ヒントじゃないけど一つ聞いてもいい?」
「あらもう一つあるのね」
 女の子はおかしそうに、シンに続きの言葉を促す。
「あなたの名前は?」
 女の子は少し目を開いた後、微笑んでこたえてくれた。
「呼びたいように呼べばいけど、昔のあなたは理と呼んでいたわ」
「ことわり…」

「ほかの呼びやすい名前でもいいわよ。あ…ちょうどもうそろそろ朝みたいね。次会うまでになんて呼ぶか考えておいてね」

 じゃあね、愛しい子。
 そう聞こえた後、別の光が差し込んで、再び世界が白に包まれた。
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