元天才子役は悪役王女に転生する 名誉回復したら、なぜかいろんな人から溺愛されるんですけど!?

りーさん

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第二章 溺愛はいりません

1. 周囲の扱いが

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 今日は学園の授業がある日だったが、とある理由から、エルルーアは中止になった。国王に闇の眷族と遭遇したというのをほのめかしたので、そのことを説明しなければならないからだ。
 王女が、闇の眷族と接触したというのは、機密事項なので、限られた人物しかいない。この場には、国王の他には、アルフォンス、宰相の計三人。
 本来なら、王妃とフランキスカも参加するはずだったのだが、王妃は体調不良、フランキスカは、進級に関わる試験があるので、どうしても休むわけにはいかなかった。

 彩花はそう聞いていた。

「では、どういう経緯で闇の眷族と接触したのか答えてくれるか」
「はい」

 彩花は、順番に説明した。ルカたち三人のことは言わなかったが、スラムに行ったときに遭遇し、倒したときの記憶はないが、その闇の眷族は、どこにもいなかったので、おそらく倒したのだろうということを。

「闇の眷族に普通の攻撃は通らないぞ。何を使った?」
「エクスカリバーという聖剣です」

 彩花がそう言うと、アルフォンスは国王の方を見る。
 国王は、少しだけ宰相の方を見たが、宰相は小さく首を横に振ると、国王が言葉を発した。

「そんな聖剣は聞いたことがない。作ることができるとすれば、クリエイトだろうが、どこで知った?クリエイトは、存在しないもの・・・・・・・は作れないぞ?」

 クリエイトの欠点は、オリジナルは作ることができないことだ。現実に存在しているものでないといけない。
 本に書いてある物は、現実にある本という世界に存在しているので、クリエイトで作ることができる。
 簡単にいえば、自分で目にしたことがあるものしか作れないということだ。

「それは……えーっと…………どこだったかな……岩に刺さっていたのは覚えてるんだけど……」

 彩花の世界では有名なものだったなんて言えるはずもないので、適当にごまかしておく。
 いきなり、覚えてませんなどと言えば怪しまれるので、思い出そうとして思い出せないという体で。
 そして、少しだけ真実も混ぜておく。これで真実味が増す。

「それなら、本の挿し絵か何かか。それか、記憶の伝達かもな」
「記憶の伝達……ですか?」

 そんな言葉は本当に聞いたことがなくて、普通に聞き返した。

「エルフに継がれる魔法のようなものだ。本人が覚えのない記憶を有しているならそうだろう。大抵は、親の何かしらの記憶を受け継ぐが、先祖の場合もあれば、親戚の場合もある。共通しているのは、自分が生まれる前に、死ぬか仮死状態になっていることと、自分と血が繋がっていることだ」

 ゲームには、そんな設定はなかったように思える。
 エルルーアが、そんなすごい肩書きを持っていることもなかったので、少しずつゲームの流れから外れてきている。
 今回の闇の眷族もそうだ。自分が狙われていた理由がそれならしかたないかもしれないが、ゲームが始まる前に、ゲームの敵キャラが現れるなんてことは、まずないだろう。

(これからも気をつけた方がいいかもね)

 まだ、命の危機があるのは変わらない。むしろ、幹部クラスの闇の眷族を本当に倒していたのだとしたら、もっと狙われるかもしれない。
 芽は早いうちに摘んでおくべきだからだ。

「それじゃあ、もう戻ってもいい」
「はい。これからはなるべくおとなしくしてますので」

 エルルーアのその言葉を聞いた国王が、不信な目でエルルーアを見る。

「……カシティアみたいに、自分そっくりの人形を置いてごまかすなんて真似はするなよ?」
「あっ!その手があったか!」

 人形とは、魔力で動く魔導人形オートマタのことだ。自分の命令に従って、自由に動かしたり、音声を届けることもできるので、簡単に身代わりをさせられる。
 じゃじゃ馬だとアルフォンスが知らなかったのはそれが理由かと納得しながらも、自分もそうしていれば怒られなかったのかとも思っては声に出していた。
 もちろん、無意識ではなくわざとだ。

「やるなと言っているだろうが!」
「それは、やれというふりですか?」
「そんなわけないだろ!」
「そんなに言わなくてもやりませんよ。……多分」
「「「多分!?」」」 

 エルルーアは、そう言いながら出ていった。彩花の言葉を聞いて、その場にいる全員が大きなため息をついた。 

*ー*ー*ー

 翌日になり、学園に復帰した日。周りの扱いが一変していた。
 変わらないと言われれば、そこまで変わらないが、悪評は聞かなくなっていた。
 その理由が気になって、彩花は友人のイルーミアにたずねる。

「それは、エルルーアさまが悪漢を魔法で捕らえたという噂が広まっているからですよ!エルルーアさまは、本当は良い人説が出回ってるんです!」

 それを聞いて、彩花は納得すると同時に、少し違和感を感じる。
 自分はあのとき、お忍びだったはずだ。騎士がいるとはいえ、第二師団が街の警備をしているのだから、いたとしてもおかしくはない。
 それなら、悪漢を自分が捕まえるのはもちろんのこと、自分が詰所に行ったのを見たか、マティアスと一緒にいたのを見られでもしていないと、その悪漢を捕らえたのが自分だという噂は広まらないはずだ。
 でも、相手はつけてきたような感じはしなかった。そんなのがあれば気づいている。

「それで、心当たりはある?」

 どうにもわからなかったので、授業の終わりにマティアスを捕まえてたずねてみた。

「……あるとすれば、あいつですね」
「あいつ?」
「ほら、以前に城でお会いになられたでしょう。ソルディアですよ」

 彩花は、記憶をたどって思い出す。そして、お城を抜け出そうとしたときに会ったのを思い出した。

「そんなのもいたわね」
「それで、王女殿下。夜中まで出歩いていたとお聞きしたのですが」
「失礼ね。夜中までは出歩いてないわよ」
「なるほど。では、出歩いたのは事実なのですね」
「そうよ?悪い?」

 まったく悪びれないエルルーアに、マティアスは思わずため息をつく。わがまま放題なのも困っていたが、こんなじゃじゃ馬になられるのも困る。

「王女殿下、ご自分の立場を理解してくださらないと……」
「してるわよ?悪評がなくなってきたから、多分狙ってくるのが増えるでしょ。……あれとかね」

 エルルーアの含みのある言葉に、マティアスは少し気になったが、言いたいことはそれではなかった。
 自分が言っているのは、そうやって狙ってくるのが多くなってくるから、おとなしくしていてほしいという意味で、おとりをやってくれという意味ではない。

「それなら、もう良い子ちゃんを演じて、おびき寄せてみようかな?」
「いや、だから、そういうことでは……」

 マティアスが何かを言う前に、エルルーアは体の向きを女子寮の方に変える。

「じゃあ、私の用はそれだけだから!」
「あっ、ちょっとお待ちください」
「なに?」

 もう寮に帰ろうと思っていたところだったが、マティアスに呼び止められたので、体をマティアスに向けた。

「お茶会の招待に応じていないと聞きましたが、本当ですか?」
「ええ。ほとんどのは、見てすらいないわね。でも、なんであなたがそんなことを聞くの?」
「西の公爵家のご令嬢が、あなたが招待に応じてくれないと、私にまで愚痴をこぼしてきましたので」

 西の公爵家は、公爵家の中で唯一の令嬢で、何かとフランキスカをライバル視してきた。
 フランキスカさえいなければ、自分が社交でトップに立てるからだ。つまり、エルルーアは眼中にすらなかった。それを、急に招待状を送ってくるようになったのは、自分の存在を危険視し始めたということだ。

「こんなじゃじゃ馬王女を呼んで何をしたいのかしらね?」
「自覚があるのなら控えてください」
「それは、私に呼吸をするなと言っているようなものよ」

(そこまで不可能ではないだろ!)

 馬鹿じゃないのというような顔でため息をつきながらそう言われて、マティアスは内心、腹を立てる。

「まぁ、おとなしくしようかなとは思っていたから、ちょっとはおとなしくしてるわ。向こうが手を出してこなければね」
「“ちょっと”ではなく、“かなり”くらいにしておいてください」
「愛しい婚約者にそう言われたらしかたないわね。じゃあ、私が動かなくても良いように守ってくれる?」

 ニコニコ微笑みながら、そう言ってくるエルルーアに乗せられたような感じはしながらも、彼女の言うとおり、自分が守っていれば、彼女が動き回るようなことはしないと理解した。
 ちょっとやり返してやろうという子供心が芽生えて、エルルーアの右手をとって、そこに口づけをする。

「もちろんですよ、愛しい婚約者殿・・・・・・・・
「……あなたにそれを言われると、寒気しかしないわね」
「それはこちらのセリフです。合わせてあげたのに、それはないでしょう」

 予想外の返答が返ってきて、思わず生意気な口調で言い返してしまった。

「じゃあ、もう用はないわね?私は戻るから」
「はい。どうぞ」

 ちょっとからかうつもりでやったのに、思ったよりも響かなかったことに、少しだけふて腐れながら、マティアスは男子寮に戻った。

「まさか、手の甲にキスしてくるとは思わなかった……!」

 彩花は、少しだけ頬を赤くしながらも、あれは急にされて驚いただけだと、女子寮に走って帰っていった。
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