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第一章 悪役王女になりまして

17. 侵入者?

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 アルフォンスが寮の廊下を歩いている。授業の傍ら、エルルーアの毒殺未遂について調べているが、これといった成果が出ない。

(そろそろ、復帰させてもいいか……?)

 毒殺に失敗したとなれば、他の手を使って、始末してくるかもしれないと思って、ずっと部屋にいさせていたが、そろそろエルルーアの不満が爆発するかもしれない。
 アルフォンスに、いつも授業に行きたいだの、外を散歩したいと訴えているからだ。エルルーアは、よく癇癪を起こす。最近はあまりないが、だからといって、起こさないとはかぎらない。
 そうなると、面倒でしかない。今は、書類整理をさせるという名目でここに残らせているが、それも、エルルーアを生徒会にいれればいいだろうと言われれば、ぐうの音も出ない。
 アルフォンスが部屋の前に戻ってきたとき、アランだけを残して、レンがいなくなっていた。

「アラン。レンはどうした?」
「それが……」

 少し言いにくそうに話し始める。聞けば、エルルーアが部屋からいなくなった。ずっとドアの前にいたし、窓が開いていたので、窓から外に出たのだろうということだった。

(あいつがこんな高さを降りたのか?)

 3階なので、お世辞にも低いとはいえない高さだ。それを、年端も行かない少女が降りられるというのか。信じられないが、ドアの他には、窓から出る方法しかないし、エルルーア以外に窓を開ける存在はいない。
 そのため、あり得ないとは思っていても、彼女は窓から出ていったのだ。

(魔法で何とかしたのかもな)

 そう思って、探すのは従者たちに任せて、自分は書類を片づけようと、机と向き合う。
 すると、一番上に少し乱雑に置かれている書類があった。

(……うん?)

 乱雑に置かれている書類を見比べると、一部分だけ、内容が違っていた・・・・・・・・
 大まかな部分は同じなのに、ある部分だけは違うことが書いてあった。
 元の書類は、アイシクル。エルルーアが書いたであろうものの方は、フレイマー・・・・・と書いてあった。
 他の部分は同じなので、読み間違えていることはないだろう。ということは、エルルーアにはこういう風に見えていたことになる。

 アルフォンスは、棚の引き出しからあるものを取り出す。それは、普通のアクセサリーのようだが、魔道具の一種だ。
 それを、腕にはめて、魔力を通して、かざした。すると、内容が変わっていく。
 それを読み進めていくうちに、アルフォンスの顔色が変わっていく。

(まさか、一人で向かったのか?)

 そう考えて、アルフォンスも窓から外に出た。ドアの方に回る時間も惜しかったからだ。
 風魔法で宙に浮かんでいるため、アルフォンスは怪我もなく地上に降り立った。
 そして、周囲を見渡す。周りにエルルーアの姿は見当たらなかった。
 遠くに行ったのかもしれないと、少し歩き回ってみる。

(私だったらどこに向かう?あれを見て、どこに……)

 エルルーアの書いていた内容を思い出す。エルルーアは、フレイマーと書いていた。おそらく、それを読んで外に出ていった。それなら、エルルーアはフレイマーが保管されている場所に向かったかもしれない。

(南の倉庫か!)

 アルフォンスは、すぐに方向転換して、走り出した。

*ー*ー*ー

「う~んと……」

 まだ昼間だが、辺りは薄暗い。彩花が倉庫の中にいるからだ。

(何かあるとしたら、ここだと思ったんだけど……)

 倉庫の中を捜索してみたが、おかしなところは見当たらなかった。しばらく探すと、フレイマーが見つかる。

(これがフレイマー。エルルーアの記憶で知ってはいたけど、実物は初めてって感じね)

 エルルーアが知っているのだから、エルルーアは実物を見たことがあるが、彩花はない。図鑑やカタログで見て知っているような感覚だった。

(──っ!なるほど、そういうことか・・・・・・・)

 一人で納得したところで、エルルーアは少しだけ魔力を通してみる。魔力はまったく通らなかった。
 あの紙に書かれていた通り、フレイマーは壊れていた。
 とりあえず、魔力で体を覆って強化をしたあと、取り出しやすいように、フレイマーは入り口の近くに移動させておいた。
 もう倉庫に用はないと、立ち去ろうとしたとき、後ろでほんのわずかにガサッと音がした。彩花は反射的に反応する。

(明らかに人がいる。位置は……そこか!)

 彩花は、魔法で東南東の方角にある物陰に魔法を放つ。
 すると、明らかに驚いた声が聞こえた。

「うわっ!」
「なんだ!?」
「場所がバレてるんじゃ……」

(数は三人か)

 今の声で、彩花は人数を把握した。

「私はあなた達に気づいてる。数は三人。一人は女性。声からして、おそらく全員20代~30代」

 どこか間違っているかという雰囲気を醸し出しながら、彩花は淡々と言い放つ。
 返事がないので、彩花はさらに言葉を続けた。

「先ほどまで気配をほとんど消せていたから、その手の者でしょう?目的は?」

 なんとなく想像ができていたが、一応聞いてみた。相手からの応答はない。

「答えるつもりがないなら、当ててあげる。フレイマーを使って、テロを起こそうとしたんじゃない?それかクーデターかな」

 彩花がそう言ったとたんに、物陰から音がする。彩花の目には、動揺しているように見えた。
 彩花があのとき気づいたのは、フレイマーの魔石の色が違ったこと。フレイマーの魔石は、赤っぽい色合いをしている。
 それに対して、今嵌まっているのは、青い魔石。
 青い魔石に通せるのは、水の魔力だけだ。そして、青い魔石に火の魔力なんて通したら、簡単に爆発する。それも、かなりの規模だ。
 修理してほしいという依頼は、大抵はどこが壊れているか、そもそも壊れているのかなどを確かめるために、一度魔力を通す。当然、フレイマーなら火の魔力だ。

「なんでアイシクルでやらなかったのかは、アイシクルがちょうど点検に出しているから。今、この場にないのに、修理してくれなんて言っても、引っかかるわけがないし」
「……それで、どうするんだ?」

 そう言いながら、物陰から人が出てくる。彩花の言ったように、三人。

「あなた達、使えそうなのよね」
「……は?」

 結構気配に敏感である方の彩花でも、途中まで全然気づかなかった。それくらいに、気配遮断に長けている。

「どうせ、雇われたんでしょ?私が全部拾うわ」
「……ふざけてるのか?お前は」
「いいえ?いたって大真面目だけど?」

 そんなにおかしなことを言っているのかという目で三人を見つめ返す。
 すると、さっきまで彩花と会話をしていた男以外の二人がクスクス笑い出す。

「私は別にいいよ。あんたの方が面白そうだし」
「お前まで何言ってるんだ!?」
「僕もいいよ~」
「なんでお前も!?」
「ほら、最後はあんたよ」

 彩花と、両隣にいる二人にじーっと見られて、半ばやけになって叫んだ!

「あーもう!わかったって!好きにすりゃいいだろ!」

 彩花はそれを聞いて、内心ほくそ笑みを浮かべた。

(男に二言はないわよね?)

 これからのことを考えると、彩花は思わずにやけてしまいそうだった。
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