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りーさん

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第二章 赤い月と少年の秘密

28 ルイスの異変 1

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 蒼風の刃たちがウルフの退治を終えて、ルイスの元へと戻ってくる。

「おい。ちょっとは参考になったか?」
「違いがよくわからなかったです……」
「そうか……」

 ルイスは、四人の動きをまんべんなく見ていた。見落としていた部分がないとは言わないが、視野を広く持ち、ダンカが剣を握るときの指の動きや、踏み込むタイミングなど、一つ一つの細かな動きにまで注目していた。
 それを、いつもの自分の動きと比べてみたのだが、違いはあまりないように感じた。
 それは、当然のことだ。ルイスは、力の加減ができないだけであって、魔物を倒すときの立ち回りなどには、特に無駄があるわけではない。さらに効率化することはできるだろうが、今のままでも問題があるわけではなかった。
 ルイスもダンカも、それに気づくことはなく、何が問題なのか、しばらく頭を悩ませることとなった。

◇◇◇

 依頼を終えて、ルイスと蒼風の刃たちは、街に戻ろうと準備を始める。

「ルイスくん。街に戻る前に報酬の配分を決めておきたいんだけど」
「全部皆さんのほうでいいですよ。僕はあまり役に立ってませんし」

 ルイスがやったことといえば、ウルフの体を粉々にしたくらいだ。
 そのウルフは、討伐証明にならないので、本来、貰えたはずの報酬が貰えなくなっている。ルイスは役に立つどころか、足を引っ張りまくっていた。
 そんな自分が、金を寄越せなんて図々しい真似はできない。

「それは私たちが困るのよ。合同依頼という形だから、報酬を分けておかないと、私たちがいろいろ言われてしまうわ」
「お前がいらないと言ったんだとしても、周りからすれば、俺たちが報酬を独占したようにしか見えないからな」

 リリカたちからすれば、ルイスは充分といえるほど役に立っている。
 確かに、ウルフの素材を台無しにはされたが、そもそもリリカたちがルイスを連れてきたのは、護衛代わりとしてだ。
 依頼を受けなければ暮らしていけないが、最近は魔物の活動が活発になってきており、いつも以上に街の外は危険だった。
 そんな状況でも、ルイスがそれなりの強さを持っていたからこそ、襲撃などを警戒することもなく、ウルフの退治に集中することができた。
 だが、リリカたちがこう思っていて、説明したとしても、実際に襲撃などはなかったわけなので、ルイスが納得してくれるとは思えない。だからこそ、受け取ってくれないと自分たちが困るという体で受け取らせることにした。
 ルイスは、子どもにしては大人びており、かなりのお人好しだ。ルイスの活躍を説明するよりも、自分たちが困るといったほうが、受け取ってくれる可能性は高かった。

「わ、わかりました……。そういうことなら、少しだけ貰っておきます」

 リリカたちの予想通り、ルイスは渋々ではあったようだが、受け取ることを納得してくれた。

「それじゃあ、ギルドに戻りましょうか」
「はい」

 ルイスはこくりと頷いて、リリカたちの後をついていこうとしたところで、あるものが視界に入る。
 それは、馬車だった。
 馬車が走っていることは、そこまで珍しいことではない。商人が街を出入りするのは、ルイスもよく見ていた光景だ。
 だが、その馬車が通っている時間と場所には違和感を覚えた。

(なんでこんな時間にこんなところを……?)

 ここは、整備された場所からは大きく外れており、時間は夕暮れに差し掛かろうとしているころだ。
 街に帰るために馬車を走らせているのなら、まだわかるが、馬車の向きからして、どう見ても街から出てきた馬車だろう。
 そして、大きさは大きいほうだというのに、護衛の一人も見当たらない。あんな状態で馬車を走らせるなど、無謀以外の何者でもないだろう。

「ルイスくん?どうしたの?」

 急に歩みを止めたルイスを不審に思い、リリカが聞いてくる。
 ルイスは、馬車のほうを指差した。

「リリカさん、あの馬車ーー」

 ルイスがそう言うと、リリカも馬車のほうを見る。

「ああ、確かにこの辺りを通るのは珍しいけど……それがどうかしたの?」
「護衛もなしにこの時間帯に通ってるんですよ?おかしくないですか?」
「まぁ、そうかもしれないけど、護衛を雇えるのはお金持ちだけだし、ここを通ると判断したのはあの人たちでしょう?私たちが首を突っ込むことではないわよ」
「そうですけど……」

 この時間帯に街を出ると決めたのも、護衛を雇わないことにしたのも、ここを通るのも、すべてはあの馬車の持ち主の判断だ。
 それで何か危険な目にあったとしても、すべては自己責任。
 この時間帯にしたのが悪い、護衛を雇わなかったのが悪い、この道を通ったのが悪いとされるだけだ。
 それは、ルイスもわかっているのだが……どうにも、引っかかる。
 馬車に意識を集中していたからだろう。その時、ルイスの嗅覚がある匂いを感じとる。それはーー血の匂い。
 リリカたちは違う。そもそも怪我をしていないように見えるし、していたとしても側にいるのだから、すぐに気づく。ルイスも怪我をしていないので違うだろう。
 それならば、残るは一つしかない。

「リリカさん。僕、ちょっとあの馬車を見てきます」
「だからねーー」

 リリカは、先ほどと同じようにルイスを説得しようとしたところで気がついた。
 ルイスの様子が、先ほどまでとは、まるで別人のようだったことに。
 駆け出しとはいえ、冒険者として、いろいろな魔物を討伐してきたリリカは、その変化に気づいた。
 先ほどまでは、あの馬車のことを心配しているような様子だったが、今は、何か獲物でも見つけたかのような、捕食者のような笑みを浮かべている。
 ルイスの笑みが、無力な人間を見つけたときの魔物の様子に重なって見えたのだ。

「ル、ルイスくん……?」
「リリカさんたちは先に戻っていていいですよ。僕も、ちょっと見てすぐに戻りますから」

 ルイスは、すぐに目を閉じた笑みを向けたが、こちらに顔を向けたその一瞬、リリカの目にはあるものが映った。
 陽光に照らされ、キラリと光った、ルイスの赤い瞳を。
 どんな光の当たり方でも、黒い瞳が赤く輝いて見えたりはしないだろう。ということは、ルイスの瞳は、本当に赤くなっているのだ。
 ルイスのその異様な様子には、リリカだけでなく、クロードやアズサ、ダンカも気づいていた。

「そんなに言うなら私たちも残るわよ。あなたはまだ子どもだし、置いて帰るわけには行かないわ」
「そうだ。お前を置いて帰ったら、ギルマスになんて言われるかわからん」
「合同依頼を受けている以上、ルイスくんも仲間ですしね」
「俺も同意見だ」

 こんな状態のルイスを置いて帰るわけにもいかないと、リリカだけでなく、蒼風の刃全員が残る意志を示す。
 ルイスは、それに反抗するかのように、リリカたちをじっと睨むように見る。
 その時に、再びその赤い瞳が見え、先ほどのは勘違いでないことを、再認識させられた。

「じゃあ、何があっても怒らないでくださいよ?」

 ニヤリとしながらそう言ったルイスは、馬車のほうに歩みを進めた。
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