手加減を教えてください!

りーさん

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第一章 最強の少年

9 迷宮の異変

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 ギルドでは、一人の女性が、ダグラスに掴みかかっていた。
 それを、なんだなんだと、野次のように他の冒険者たちは見ている。

「ルイスは!ルイスはどこなのよ!」
「落ち着けって!あいつなら大丈夫なはずだ!信じて待ってろ!」
「待ってろって……もう日暮れまで一時間もないのよ!?ルイスが、もしも魔物と戦っていたら……」

 脳裏によほど恐ろしいことがよぎったのか、その女性は、顔を青くして、体を震わせている。
 ダグラスは、落ち着かせるように、その女性の肩に手を置いた。

「落ち着けって言ってるだろ。迷宮だから、いざとなれば転移陣でいつでも帰れる。もう少し待ってみろ。三十分を切っても来なかったら、俺が責任を持って探しに行く」
「……わかったわ。それじゃあ、それまでここで待ってるわ」

 女性は、ずっと興奮状態にあったが、落ち着きを取り戻す。
 女性は、ギルドに置かれている椅子に腰かける。
 それから数分後、ルイスと共に迷宮に潜った蒼風の刃がギルドに戻ってきた。

「マスター!ギルドマスターはいますか!」

 蒼風の刃のリーダーであるリリカが叫ぶように呼びかける。
 ダグラスは、リリカたちの前に顔を出す。

「俺ならここにーーってルイスがボロボロじゃねぇか!何があったんだ!?」

 ダグラスがルイスという名を出したことで、先ほどまで椅子に座っていた女性も、吸い込まれるようにリリカたちのほうへ飛び出す。

「ルイス!?どうしたのルイス!」

 リリカの腕に抱えられている少年の腕を、乱暴な手つきで掴む。
 リリカは、反射的にその女性の腕を掴んで離させた。ルイスの腕に、掴まれた後がうっすらと浮かぶ。

「だ、誰かは知らないけど、やめなさい!ルイスくんは寝ているだけよ!」

 リリカがその女性を睨み付けると、女性は、安心するように息を吐く。
 そして、リリカに謝罪した。

「取り乱してごめんなさい。私は、ルイスの養母のレカーティアよ。ルイスがなかなか戻ってこないから、心配でギルドに来ていたの」
「あっ、いや……。こちらこそ、時間ギリギリになってしまってごめんなさいね。日暮れまでには間に合うと思って、ボス部屋の攻略をしていて……」
「おい!リリカ!お前、今なんて言った!?」

 ダグラスの大声に、体をびくんと震わせながらも、リリカは答える。

「だ、だから、日暮れまでには間に合うと思って、ボス部屋の攻略をーー」
「お前ら、一日でそこまで行ったのか!?」
「ルイスくんが、次々と倒していくもので、行き詰まることがなく……」

 賛同するように、アズサとクロードもこくこくと頷く。
 ギルドにいた冒険者たちは、ルイスが魔物を倒したという発言に騒ぎ出す。
 ダグラスは、はぁとため息をつく。それに釣られるように、レカーティアも、頭を抱えた。

「ほんと、自重を覚えない子ね……」
「まったくだ」

 レカーティアは、リリカのほうに近づくと、ルイスを自分の腕に抱えた。

「ルイスを連れてきてくれてありがとう。お礼はちゃんとさせて貰うわ。じゃあ、ダグラス。ルイスからの事情聴取は、明日にしてちょうだい」
「わかってる」

 レカーティアは、リリカにお礼を言ったあと、ダグラスにそう告げて、ギルドを去っていった。

(本当に騒がしいやつだ……)

 ダグラスは、別の意味でため息をつきそうになったが、まずはルイスがあんなにボロボロだった理由を聞かなければならない。

「リリカ、アズサ、クロード。何があったのか、奥で詳しいことを聞かせてくれ」
「え、ええ。もちろん」

 リリカたちは、ダグラスの後について、ギルドの奥へと向かった。

◇◇◇

 ギルドマスターの事務室で、事のあらましを聞いたダグラスは、リリカたちに頭を下げる。

「すまなかった。危険な目に合わせちまったな」

 ギルドマスターに頭を下げられたので、リリカは慌てた様子で言う。

「謝らなくても大丈夫ですよ!ルイスくんのお陰で無事だったので……」
「いや、今回はギルドの見立ての甘さが原因だ。もう数年は先だと思っていたんだが……」
「……あの、それだと、レッドロックワームが出た理由がわかるんですか?」

 アズサの質問に、ダグラスはゆっくりと口を開く。

「お前たちも、“赤い魔物”について、聞いたことくらいあるだろ?」

 ダグラスの質問に、リリカたちはこくりと頷く。
 赤い魔物は、魔物の突然変異で、理由はよくわかっていないが、魔物によって違いはあるものの、体が固くなったり、動きが素早くなったりと、通常時と比べて、強さが格段に上がる。

「迷宮では、周期的に、ボス部屋や、各階層の魔物が、赤い魔物に変貌することがあるんだ。やませ迷宮も、十年周期で赤い魔物が確認されている。その時は、迷宮を立ち入り禁止にして、赤い魔物を間引きしているんだ。放置していると、地上に出てきちまうからな」
「ぜ、前回は何年前だったんですか……?」
「前が二年前だ。だから、少なくとも五年は先だと思っていて、特に封鎖はしていなかったんだ」
「そうだったんですか……」

 もし、ルイスがいなければ。そう思うと、リリカとアズサは震えが止まらなかった。
 そんななか、クロードは冷静に、あることを尋ねる。

「それじゃあ、そんな危険な魔物を単独討伐したルイスは……何者なんだ?あいつは、子どもにしか見えんが、俺の知っている子どもは、あんなに高く跳躍したり、レッドロックワームを一撃で倒すような魔法を使ったりしないぞ」

 決して目をそらさず、ダグラスに問い詰めるようにそう言ったクロードだが、ダグラスは何も打ち明けない。

「……今はまだ言えねぇ。いつ、あいつの耳に入るか、わからないんでな」

 ダグラスは、確実に何かを知っている。
 それは、ルイスが普通の人間ではないことを、暗喩しているように見えた。

「なら、聞かない。話は終わったから、ラルフのところに見舞いにでも行くぞ」
「ええ、そうね」
「では、ギルドマスター。もう帰ってもいいでしょうか」
「あ、ああ。時間を取らせてすまなかったな」

 ダグラスが出ていくのを了承すると、三人は笑顔で出ていった。

(物分かりのいい奴らだな)

 ルイスのことを追求しなかった蒼風の刃たちに、ダグラスは心からほっとした。
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