悪妃の愛娘

りーさん

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12 ついにやってきた

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 絶対にないと思っていたわけではなかった。
 福利厚生の件はともかく、マリエとラファエルの保護なんて、確実にあの男・・・の耳に入るに決まっている。だけど、まさか、こんなに早いとは。

「お前は、何を考えている」

 偉そうにふんぞり返ってそう言うのは、この国で最も偉大で冷血な男。

「私は、自分の心のままに行動しているまででございます。お父さま」

 私は、その男から視線をそらさずにそう言ってのけた。

◇◇◇

 事の発端を説明するには、今日の朝まで時間を巻き戻さなければならない。
 マリエとラファエルを保護してからおよそ三日。まだまだ二人は私を離してくれないので、一緒の部屋で寝ていた。
 後見人の件は、二人はよくわかっていなかったみたいだけど、お母さまに会うかをたずねたら、私と一緒なら会うと言ったので、お母さまに白星輝宮まで来てもらった。
 本来なら、私のほうが立場が下なので、私が白月光宮まで出向かなければならない。本来なら、失礼な行いだ。
 でも、お母さまはそんなことでは怒らない。私の事情をよくわかっているから。

「あなたたちがマリエ王女とラファエル王子ね。わたくしはアイリーン。リリーの母親よ」

 お母さまは、私の後ろに隠れている二人に視線を合わせる。
 侍女たちが慌てていたけど、私が手で制した。
 お母さま付きの侍女は、お母さまがしゃがむことで、頭を低くしたから慌てていたのだろうけど、白星輝宮の侍女たちが慌てている理由がよくわからなかった。
 ギャン泣きされるとでも思っていたのかな?自分で言うのもなんだけど、私がいるから大丈夫だと思う。
 現に、二人とも、お母さまに多少の警戒心は抱いているようだけど、ギャン泣きしたり、ブルブル震えたりはしない。

「ねえちゃまの……かあしゃま?」

 ラファエルが、私の後ろから顔を出して言う。うん、かわいい。

「ええ、そうよ。この国の王妃というのをやっているから、王妃さまと呼んでくれればいいわ」
「おーひ?」
「おーひしゃま?」

 二人は、こてんと首を傾げている。まだ三歳だ。母親の意味はわかっても、王妃の意味はわかっていないだろう。
 でも、おーひしゃまなんてかわいいが過ぎる!!

「リリー……弛んでいるわよ?」
「あっ……すみません」

 お母さまに呆れたように言われてしまって、私は慌てて通常通りに戻す。
 二人は、今度は私のほうを見て首を傾げている。

「マリエ王女。ラファエル王子」

 名前を呼ばれると、私に向けていた視線を、お母さまに向ける。

「あなたたちのお母さまはユリアさまだけど、わたくしも、あなたたちと一緒にいてもいいかしら?」

 お母さまは、なるべく二人が理解できるような言葉を選んでくれている。女神さまお母さま……!

「ねえちゃまも?」
「ねえちゃまもいっしょ?」
「ええ、もちろんよ。そうでしょう?リリー」
「当然です。私は二人のお姉さまなので!」

 私が胸を張ってそう言うと、二人が強く抱き締めてくる。
 その顔は、とても嬉しそうに笑っていた。

「じゃあ、わたくしが一緒にいてもいいか、あなた方のお父さまに聞いてみますから、もう少し待っていてくださいね」
「「あい」」

 げっ!でも、そうか。今の二人に対しての様々な権限は、国王が持っているから、後見人とはいえ、国王の許可がいるのか。
 あの人のことだから、好きにしろとか言って、あっさり許可するような気がするけど。

 その私の予想は見事に的中し、王子たちのことを優先するのならばかまわないとあっさりと許可が降りたのだとか。
 王子たち……王女が入ってねぇなぁ?たちに含まれるのかもしれないけど、なんか悪意がないか?
 そのやり場のない怒りを抱え、私は双子を可愛がっていた……のだけど。
 午後、私たち三人で昼食を取り、双子がお昼寝した直後に、事件は起きた。
 お母さまも一緒に食べてもらおうかと思ったけど、最低限の身なりも整っていない二人を王妃の宮である白月光宮には入れられないし、かといって、お母さまもそうほいほいと白星輝宮に来られる立場ではない。
 だから、お母さまだけは別だ。
 だけど、そんなことは今は関係ない。双子を寝かしつけた時に、見計らったかのようにそいつはやってきたのだ。
 二人を起こしてしまうことを憂いた私は、とりあえず客室のほうに案内するように指示。また離れてしまうのは心苦しいが、かといって、あの男の前に立たせるわけにもいかない。
 今回は、同じ宮だから、さっきよりもひどいことにはならないはずだ。
 そして、私は、客室のドアを開けた。

「お久しぶりです、お父さま」

 私は、目の前の人物ーー国王に、静かに頭を下げた。

「礼はいい。早くそこに座れ」

 ここは私の宮だってーの!何をこの部屋の主人みたいにやってんだこの野郎!
 内心では罵りながらも、私は「はい」と返事をして、向かい側に座った。

「事の顛末は、王妃からある程度は聞いた」

 最低な男でも、国王は国王だ。言葉の一つ一つに、王さまらしい重みがある。私の緊張も、さらに引き締まるのを感じた。

「お前は、何を考えている」
「私は、自分の心のままに行動しているまででございます。お父さま」

 私は、静かにそう返した。
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