転生精霊の異世界マイペース道中~もっとマイペースな妹とともに~

りーさん

文字の大きさ
15 / 30
第一章 辺境の街 カルファ

15. ベッドと串焼き

しおりを挟む
 父さんたちと話した翌日、僕たちは屋敷の外に出て、街に繰り出していた。

 僕は、ふわぁとあくびをする。昨日は、全然眠れなかった。ソファがベッドよりも固かったというのもあるけど、ルーナが落っこちないように気を配っていたら、熟睡なんてとてもできなかった。
 ルーナは僕を抱き枕のようにしながらぐっすりと寝ていたようで、元気いっぱいみたいだけど。

 そういえば、昨日の朝に屋敷に来ていた兵士長に聞いた話では、約束通り会いたいなら会いに来いという言葉をギルドマスターに伝えに言ったところ、さすがにすぐに時間は取れないらしく、後日にということになったらしい。
 なので、今日の目的は、ルーナの購入するベッドの検討をつけることと、食べ歩きである。

 ウォルターさんから、日没までの外出許可をもらっているので、ギリギリまで楽しむつもりだ。

 まずは、ベッドから。

「お兄ちゃん、早く早く!」
「そんな慌てなくてもベッドは逃げないよ」

 ようやく自分のベッドを手に入れることができる嬉しさからか、普段のルーナからは想像できないほど活発的だ。
 珍しく先導を切って、僕の手を引いている。

 一応、釘を刺しておかないと。

「ルーナ、今日はベッドを見るだけだからね?買うのはお金が貯まってからだからね?」
「わかってるわかってる!」

 ほんとかな~?駄々をこねまくる未来が見えるんだけど……まぁ、わかってるならいいか。

◇◇◇

 お屋敷から数分ほどで、目的のお店に到着した。ここは、ウォルターさんに紹介してもらったお店だ。
 お屋敷の近くというのもあるのか、他の建物も大きめで、富裕層が多いらしい。ここは一等地のようだ。それなりに繁栄している街なのかもしれないな。
 フラッフィーのベッドは、寝具店ならば比較的どこにでも売っているそうだけど、高価なものだとそれなりのグレードのお店にしか売ってないらしい。

 そういうお店は、一見さんお断りのところがほとんどのため、常連と一緒に来るか、紹介状を持ってないと、店に入れてすらもらえない。
 貴族御用達なことが多いからね。ここも、富裕層の平民が使うくらいのレベルらしい。

「お客さまですか?紹介状などはお持ちでしょうか」

 案の定、僕らは店の入り口で止められた。子どもみたいな見た目なのに、丁寧に接するのは、貴族の子どもの可能性があるからだろう。
 美人な母さんに似て、顔は良いほうだからね。

「お兄ちゃん、紹介状は?」
「ちゃんと持ってるよ」

 僕は、カバンからウォルターさんにもらった紹介状を取り出して、店員に渡す。
 昨日はレイクスさんと兵士長もいたから、その二人にも連名として書いてもらったので、かなりの効力のはずだ。

「お三方からの……!失礼しました、中へどうぞ」

 先ほどとはうってかわって、店員は自らドアを開ける。
 よかった、偽物扱いされたりしたらどうしようかと思ったよ。身分証があるにはあるけど、怪しいやつ扱いされたら嫌だしね。

 中に入ると、まずはかなり洗練された内装に圧倒された。
 外観は、周囲に合わせてかありきたりな見た目だったし、中もそんなものかなと思ってたのに。

 そして、高級店だからかはわからないけど、寝具専門というわけではないらしく、食器や棚なども置いてあった。
 ここは、家具全般を取り扱う店みたいだな。

「ベッドはこちらです」

 店員の案内に、ルーナは我先にとついていく。
 どうやら、紹介状には僕らが店を訪ねた理由も書いてあったみたいだ。
 僕が少し遅れてついていくと、店の一角のベッドコーナーが見えてきた。

 そこには、プリンセスベッドと呼ばれるような豪華絢爛なものから、安宿にあるような質素な見た目のものまで多くある。

 ルーナは、感動のあまりか震えている。残っているわずかな理性で、ベッドに飛び込むのを抑えているようだ。

「触って確かめてみてもいいですか?」
「ええ、座るまでなら自由に触れていただいてかまいません」
「だってさ、ル……」

 僕がルーナと呼ぶ前に、ルーナは手で触ってその感触を楽しんでいた。
 本当に、こういうことになると素早いんだから。あちらこちらと様々なベッドに触っているルーナに、僕は声をかける。

「ルーナ、気に入ったのはある?」
「全部!」

 いや、お金があったとしても、さすがに全部は買えないよ。余裕で上限金額の小金貨一枚分を越えるし。

「……特にいいのは?」
「う~ん……これ!」

 ルーナは一つのベッドに腰かけた。それは、デザインはシンプルながらも、そこそこのお値段のベッドだ。

 表示を見ると、ちょうど十万リーゼ。小金貨一枚分だ。
 上限ギリギリの物に目をつけるのは、さすがルーナと言ったところか。

「そちらがお気に召しましたか」
「ええ。ですが、今は購入できるだけの資金がないので、ここに置いておいてくれますか」

 なんで買えないのに来たのかと問われれば素直に答えるつもりだったけど、紹介状に書いてあったのか、店員は「かしこまりました」と頷いてくれる。

「じゃあ、ルーナ。もう行くよ。お金貯めたらまた来よう」
「はーい……」

 ルーナは不満たらたらだが、約束は約束だからか、素直にベッドから離れて、僕にくっついてくる。
 よかった、子どもみたいに駄々をこねられないで済んで。

◇◇◇

 再び街に繰り出す。今度は、僕の目的のための食べ歩きだ。

「お兄ちゃん、何食べたいの?」
「特に決めてないけど、おいしそうなやつかな」

 こういうのは、直感で楽しむものだ。無難なものを選んで楽しむのもいいし、チャレンジするのも悪くない。
 僕は、辺りをキョロキョロと見回す。そして、おいしそうな香りを漂わせている肉のほうに引き寄せられるように歩いた。

 そのお肉は、バーベキューみたいに金網で焼かれているけど、見た目は焼き鳥っぽそうな感じ。

「おじさーん。これなぁに?」

 子どもらしく無邪気な風に尋ねると、おじさんはニカッと笑う。

「これはブラクって言ってな。肉を細かく切って、タレにつけて焼くんだ。俺の作るブラクは世界一だぞ!」
「へぇ~!じゃあ、一本ちょうだい!」
「おう!100リーゼだ!」

 僕は、100リーゼ分である大銅貨一枚を取り出して渡して、おじさんからブラクを受け取った。

 そして、パクンと一口。

「これおいしいね!」
「だろ?」

 本当においしい。何の動物の肉なのかまではわからないけど、本当に焼き鳥みたいな食感だ。ももが近いかな?
 前世の僕は塩派だったけど、タレも好きだったなぁ。
 でも、この甘い感じは食べ続けるとくどいな。きつくはないけど、水分が奪われて、なんか飲み物が欲しくなる。
 精霊界でサラダを食べるときに使うドレッシングの作り方は知ってるし、オリジナルのタレでも考えてみようかな?
 さっぱりした味つけもこのお肉には合いそうだし。ビネガーや玉ねぎ、オレンジは隠し味に使ったりして。レシピがぽんぽん浮かんでくるなぁ。
 精霊界では似たような植物で簡単に作れたけど、下界にもあるだろうか。

(……うん?)

 ふと視線が気になり、そちらのほうを見ると、ルーナが僕をじっと見つめている。

「……ルーナもいる?」

 僕が残り半分になった肉串を差し出すと、ルーナはパクンと一口で全部食べた。
 どうやら、食べたいという訴えだったらしい。言ってくれれば普通に買ったのに。

「おいしい!」
「ね~」

 タレは甘い味つけなので、子ども舌のルーナにとっては好みの味のはずだ。

「おじさん、もう一本ちょうだい!」
「わたしも!」
「おう、出来立てをやるよ!」

 まだ物足りなくて、僕はもう一つ注文する。ルーナも釣られるように頼んだ。おじさんは気前よく返事をして、準備してくれる。
 おじさんは、細かく切られた肉片を串にさして焼き始める。

 タレをつけるんじゃないの?と思ったけど、肉の色が茶色っぽく変わると、一度焼くのを止めて、タレが入っていると思われる花瓶のような器に突っ込んだ。
 三秒くらいそのままにしてから引き抜くと、肉串に絡まったタレがぽたぽたと垂れる。
 そして、再び金網の上に置いた。

 ほうほう。二度焼きするのか。タレが焦げないようにかな?
 時間にして十秒くらいで、おじさんは僕たちのほうに二本の串焼きを差し出してくる。ブラクの完成のようだ。

 僕たちはお金を払ってそれを受け取ると、パクパクと食べる。

「お前ら、いい食いっぷりだなぁ~」
「だっておいしいもん!お肉ってあまり食べたことなかったからなのもあるけど」

 昨日は肉のスープを食べたけど、茹でるのと焼き上げるのとは、食感はもちろんのこと風味もまた違うんだよね。どっちもおいしいけど、僕はこっちのほうが好きかも。

「へぇ~。それくらいのお肉なら安価で手に入ると思うけどね~」

 不意に後ろから声をかけられて、僕は咄嗟に振り返る。それとほぼ同時に、ルーナがぎゅっと僕の腕を掴むのを感じた。
 振り返った先には、見覚えのない女性がいた。
 人がいることに気づいてなかったわけではないけど、声をかけてくるとは思わなかった。

「……おばさん、誰?」

 ルーナが冷たい目で見つめながら言う。これは、スイッチが入りかけてるな。

「おばさんってなんだ!私はまだ24だよ!」
「じゃあ、赤ちゃんだ」

 確かに、百年以上生きてる僕たちからすれば24歳は赤ちゃんだろうけど……いくら不審者とはいえ、さすがに失礼じゃない?

「赤ちゃんでもないよ。お姉さまって呼びなさい」

 なぜか誇らしそうにそう言う女性に、僕たちは何の言葉も出なかった。
 一つ理解できたのは、この人には関わらないほうがいいってことだ。

「帰ろう、お兄ちゃん」

 ルーナも同じ意見だったのか、僕の手を引っ張って屋敷のほうに誘導する。

「うん。そうだね」

 僕はそれに抵抗することもなく受け入れた。
 帰ろう帰ろう。この人と話しちゃダメだ。

 後ろからあの人が何かぎゃあぎゃあ言っていた気がするけど、僕たちはその場から走り去るようにして屋敷に戻った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...