35 / 49
第二章 ユニークスキル
34. 平民と貴族
しおりを挟む
僕は一体、どうするのが正解なのでしょうか?
「ルイはわたくしといるのです!」
「今日だけはダメなんです!」
リーリアさまとレオンが、僕の腕をお互いに引っ張り合いながら僕の取り合いをしている。
両親はというと、レオンのほうを止めようとはしているけど、レオンもなかなか強情で僕の腕を離そうとしない。
リーリアさまもお付きの人に止められているけど、離す素振りは見えない。
一体、どうしてこうなったのか。時は、三日前に遡る。
◇◇◇
食事の場での祈りが効いたのか、両親の仲もだんだんと元通りになり始めたころ、僕に久しぶりに招待状が届けられた。
内容は、三日後に僕を屋敷にお誘いしたいとあるだけで、具体的なことは何も書かれてない。
僕は、何かおかしいとは思った。僕を招待するときは、事前に文通でアポを取ってくれるのに、今回はほのめかすことすらなかった。
まぁ、このようなことが一度もなかったわけではない。文通のときも、明日屋敷に呼びたいと言われることはあったから。
でも、よりにもよって三日後だった。理由はわかってるし、普通ならなにがなんでもお受けするのが礼儀というものだろうけど、今年は難しい。
返事の紙は母さんから貰わないといけないので、リーリアさまから招待状が届いたことと、母さんに断りを入れることを伝えると。
「お嬢さまの招待を断ったらダメよ」
このように、領民として当たり前の返答が返ってきた。
「でもさ、三日後なんだもん」
僕がそう答えると、母さんも少し悩む素振りを見せる。まだ二日後や四日後ならよかったかもしれないけど、よりにもよって三日後なのだ。運命とはよく言うものだと思う。
「それならせめて、他の日にちをお伝えしなさい。断るだけなのは失礼よ」
「うん。わかった」
僕は、母さんから紙をもらって、お断りの言葉を丁寧にオブラートで包み、他の日時を伝えた。それを、ずっと返事を待ってくれていた使者の人に渡す。
これでリーリアさまも他の日時を指定してくれると、甘い考えを抱いていた。
翌日、使者が持ってきた返事にはこのように書いてあったのだ。
ーーーーーーーーーー
三日後しか認めません。
リーリア・ヴァレリー
ーーーーーーーーーー
僕は、大いに焦った。
空いてないならまだしも、認めないとはどういうことかと。三歳の頃から三年間はリーリアさまの元にいたのだから、今年はこちらがいいという思いを、どうにか汲み取ってもらいたいんだけど。
でも、僕たちもならしょうがないねと折れることもできず、再びお断りの返事を書いた。
リーリアさまからは、わかりましたという言葉だけが返事として届いて、これで解決したと思った。
翌日、リーリアさまの乗った馬車が家の前に止まるまでは。
◇◇◇
まぁ、こんな経緯があって今にいたるわけだ。リーリアさまが来たのは、どうしても僕を屋敷に連れていきたいからなんだろうけど、レオンがそれを許さない。
お互いに、まったく同じ理由で譲れないのだ。
「明日ならいいですけど、今日だけは絶対にダメです!今年はみんなでやるって決めてるんですから!」
「今年はわたくしが少女式を迎えためでたい年よ。わたくしの誕生日は、ルイもお祝いするべきなの」
「絶対に行かせません!今年の僕の誕生日は、こっちで過ごさせるんです!」
そう。争っている理由は、僕がどちらの誕生会に参加するか、ということである。
運命のいたずらか、レオンとリーリアさまの誕生日がまったく同じなのだ。僕がそのことを知ったのが、三歳のとき。リーリアさまと交流を始めた年である。
リーリアさまにお誕生日を一緒にお祝いして欲しいと相談され、その日時がレオンとまったく一緒だったのだ。
僕としては、リーリアさまよりもレオンのほうをお祝いしたかったんだけど、お嬢さまのお誘いを断るわけにはいかないからと、珍しくレオンが譲ってくれて、僕はリーリアさまのお誕生日を祝いに屋敷に向かい、レオンの誕生日に家を開けていた。
でもその日以来、リーリアさまが毎年のように一緒にいたいとおねだりして、レオンの誕生日を一緒に過ごせないことが続いた。
それを、弟LOVEのブラコンがずっと譲るわけもなく、去年から来年は絶対にこっちと言い続けていて、僕もそろそろレオンのことをお祝いしたいと思っていたから今年はこっちにいるつもりだったんだけど……
リーリアさまは、今年もお祝いして欲しいらしい。
「それなら来年は譲るわ。でも、今年はわたくしのほうに来てもらうの!」
「三年ずっとそちらでお祝いしてるじゃないですか!もう行かせたりしません!」
お互いにだんだんと僕の腕を引っ張る力が強くなる。ちょっとちょっと!このままじゃちぎれそうなんですけど!
「あ、あの……」
僕が小さく声をあげると、二人はようやく僕の存在を認識したとばかりに僕に尋ねてくる。
「ルイ!ルイは僕と一緒がいいよね!?」
「いえ、わたくしと一緒がよいのでしょう!?」
「そんなことより、痛いから離してください!!」
大きく叫ぶと同時に周囲は静まり返り、僕の声がこだまする。
レオンとリーリアがハッとしたように僕の腕を離したので、僕は少しバランスを崩してしまう。でも、なんとか立っていられた。
「ご、ごめん、ルイ……」
「痛くするつもりはなかったのです……」
二人は申し訳なさそうに謝罪をする。本当に、どこまでも似ている二人だ。
「なんで僕の意見を聞いてくれないんですか?二人だけで争わないでください」
「で、でも。ルイは僕と一緒にいるって約束してくれたよね?」
「この季節はお父さまもお姉さまもお忙しくて一緒にお祝いできないことは、ルイはご存じでしょう?わたくし、一人は嫌なのです」
二人が必死な訴えかけをしてくる。レオンの言う通り、僕は去年から来年のレオンの誕生日は一緒に過ごすという約束をしていた。だからこそ、リーリアさまに断りを入れたのだ。
でも、せっかくの誕生日に、家族や友だちが誰もお祝いしてくれないというのも寂しいだろう。リーリアさまは六歳。まだまだ親に甘えたい年頃だ。領主さまたちもなるべく時間を取ろうとはしているらしいけど、そう都合よくはいかないようだ。
本音を言えば、今年はレオンのお祝いをしたい。でも、寂しがるリーリアさまを想像すると、心からのお祝いはできないかもしれない。
「……では、両方に参加するというのはどうでしょう?」
僕の提案に、レオンとリーリアさまだけでなく、両親やお付きの人も首をかしげる。
「レオンもリーリアさまも僕の参加を譲れないなら、僕がどっちにも参加すればいいんです。二人の誕生日会を一つの会場でやれば、どっちのこともお祝いできるでしょう?」
レオンとリーリアさまが顔を見合わせる。そんなことは考えもしなかったというように。だけど、大人である両親やお付きの人は顔を青くしていたり、開いた口が塞がらない状態になっている。
リーリアさまの話し相手としてマナーを学んでいた僕にもわかる。これは、だいぶ失礼なことを言っている。
貴族のパーティーは、主役は基本的に一人である。一家主催でパーティーを開催することはあるものの、まったく無関係の人間が同時に褒め称えられるというのはない。
なぜなら、パーティーは自分を誇示する場だからだ。自分や家の存在をアピールして、地位を築くための手段である。
そんな場にまったく無関係の人間を主役にしろというのは、相手を侮辱しているも同然である。「そんなやつよりもこちらのほうがこの場にはふさわしい」と誇示しているようなものだからだ。
だけど、だからこそ僕はこの案を提案する。
「領主さまのお屋敷ならいいかもしれませんね。三歳だった僕が入れたのですし、レオンも入れるでしょう?父さんも領主さまに息子の自慢話を勝手にするくらいの仲みたいですし」
僕が最後にトゲのある言い方をしてみれば、父さんがどうして知ってるとでも言いたげな目をして、それを母さんが冷たい視線で見ていた。
母さんも食堂の手伝いをすることがあったから、領主さまがお忍びで来ていることを知っていたのかもしれないけど、僕たちの話をしていたというのは初耳なのだろう。
「ロード。私たち、後でいろいろと話さないといけないことがあるみたいね……?」
「そ、それは言葉通りに後でいいだろう?今は、ルイがリーリアさまのお祝いに参加するかどうかだろう」
いや、それはさっき答えたじゃん。
「だから、レオンのことも一緒にお祝いしてくれるなら参加するって言ってるでしょ」
「わたくしの誕生日なのよ?それなのに、どうして平民なんかとーー」
リーリアさまは、それ以上言葉を続けることはなかった。なぜか顔を青くしているリーリアさまと目が合う。
「そうですね。兄は平民で、僕も平民です」
自然と、その言葉が口から漏れていた。ダメだ、これ以上は。
そう思っていても、口は無意識のうちに開いてしまう。
「リーリアさまの誕生日を祝う場に、平民の僕たちはふさわしくないことでしょう。僕たちを招待してくださったリーリアお嬢さまの慈悲に深く感謝を捧げることと思います」
リーリアさまに友人だと思われるのは嬉しいし、僕もリーリアさまのことは友人であり妹のような存在だと思っている。
でも、あくまでも思っているだけなのだ。リーリアさまが、実際の家族であるレオンよりも優先されるかと聞かれれば、答えはノーである。
今までリーリアさまのお祝いに参加していたのも、家族に直接お祝いしてもらえないリーリアさまへの同情心もあったけど、一番はリーリアさまの機嫌を損ねることで家族に迷惑がかかるのを避けたかったからだ。
「僕は、兄の誕生日を祝いたいです。ですが、リーリアさまが命令なさるのであれば、ヴァレンの民として従いましょう。僕は平民ですからリーリアお嬢さまの命は絶対ですので」
最後に一押しとばかりにそう言うと、リーリアさまは思い詰めたような顔をする。
意地悪な言い方をしているとは思う。リーリアさまが、立場を指摘されるのが嫌いなのを知ってて言ってるのだから。
リーリアさまは、僕のことを本当に対等な人間として見てくれている。だから、僕が本気で拒否したら、そのことを強要したりはしないし、僕が平民だからと卑下すれば、すぐさま説教してくる。
リーリアさまからすれば、僕は初めての友だちで、とても特別な存在なのだろうと思う。だからこそ、平民と貴族という立場の違いに最も頭を悩ませているのだろう。
まだ僕が身分差を理解できないような子どもならば、多少無礼に振る舞っても多めに見られるが、少年式を迎えて、ヴァレンの民として認められた以上、もう無礼に振る舞ったりするのは許されない。平民と貴族という距離感でなければならないのだ。
リーリアさまが、悲しむとわかってても。
「……わかりました。また後日、お伺いしますわ」
僕たちに背を向けて、静かに立ち去るリーリアさまに、僕たちは礼をする。
普段なら、馬車が去るのを見送るけど、今日はそんな気分になれずに、僕は早々に家のなかに戻った。
「ルイはわたくしといるのです!」
「今日だけはダメなんです!」
リーリアさまとレオンが、僕の腕をお互いに引っ張り合いながら僕の取り合いをしている。
両親はというと、レオンのほうを止めようとはしているけど、レオンもなかなか強情で僕の腕を離そうとしない。
リーリアさまもお付きの人に止められているけど、離す素振りは見えない。
一体、どうしてこうなったのか。時は、三日前に遡る。
◇◇◇
食事の場での祈りが効いたのか、両親の仲もだんだんと元通りになり始めたころ、僕に久しぶりに招待状が届けられた。
内容は、三日後に僕を屋敷にお誘いしたいとあるだけで、具体的なことは何も書かれてない。
僕は、何かおかしいとは思った。僕を招待するときは、事前に文通でアポを取ってくれるのに、今回はほのめかすことすらなかった。
まぁ、このようなことが一度もなかったわけではない。文通のときも、明日屋敷に呼びたいと言われることはあったから。
でも、よりにもよって三日後だった。理由はわかってるし、普通ならなにがなんでもお受けするのが礼儀というものだろうけど、今年は難しい。
返事の紙は母さんから貰わないといけないので、リーリアさまから招待状が届いたことと、母さんに断りを入れることを伝えると。
「お嬢さまの招待を断ったらダメよ」
このように、領民として当たり前の返答が返ってきた。
「でもさ、三日後なんだもん」
僕がそう答えると、母さんも少し悩む素振りを見せる。まだ二日後や四日後ならよかったかもしれないけど、よりにもよって三日後なのだ。運命とはよく言うものだと思う。
「それならせめて、他の日にちをお伝えしなさい。断るだけなのは失礼よ」
「うん。わかった」
僕は、母さんから紙をもらって、お断りの言葉を丁寧にオブラートで包み、他の日時を伝えた。それを、ずっと返事を待ってくれていた使者の人に渡す。
これでリーリアさまも他の日時を指定してくれると、甘い考えを抱いていた。
翌日、使者が持ってきた返事にはこのように書いてあったのだ。
ーーーーーーーーーー
三日後しか認めません。
リーリア・ヴァレリー
ーーーーーーーーーー
僕は、大いに焦った。
空いてないならまだしも、認めないとはどういうことかと。三歳の頃から三年間はリーリアさまの元にいたのだから、今年はこちらがいいという思いを、どうにか汲み取ってもらいたいんだけど。
でも、僕たちもならしょうがないねと折れることもできず、再びお断りの返事を書いた。
リーリアさまからは、わかりましたという言葉だけが返事として届いて、これで解決したと思った。
翌日、リーリアさまの乗った馬車が家の前に止まるまでは。
◇◇◇
まぁ、こんな経緯があって今にいたるわけだ。リーリアさまが来たのは、どうしても僕を屋敷に連れていきたいからなんだろうけど、レオンがそれを許さない。
お互いに、まったく同じ理由で譲れないのだ。
「明日ならいいですけど、今日だけは絶対にダメです!今年はみんなでやるって決めてるんですから!」
「今年はわたくしが少女式を迎えためでたい年よ。わたくしの誕生日は、ルイもお祝いするべきなの」
「絶対に行かせません!今年の僕の誕生日は、こっちで過ごさせるんです!」
そう。争っている理由は、僕がどちらの誕生会に参加するか、ということである。
運命のいたずらか、レオンとリーリアさまの誕生日がまったく同じなのだ。僕がそのことを知ったのが、三歳のとき。リーリアさまと交流を始めた年である。
リーリアさまにお誕生日を一緒にお祝いして欲しいと相談され、その日時がレオンとまったく一緒だったのだ。
僕としては、リーリアさまよりもレオンのほうをお祝いしたかったんだけど、お嬢さまのお誘いを断るわけにはいかないからと、珍しくレオンが譲ってくれて、僕はリーリアさまのお誕生日を祝いに屋敷に向かい、レオンの誕生日に家を開けていた。
でもその日以来、リーリアさまが毎年のように一緒にいたいとおねだりして、レオンの誕生日を一緒に過ごせないことが続いた。
それを、弟LOVEのブラコンがずっと譲るわけもなく、去年から来年は絶対にこっちと言い続けていて、僕もそろそろレオンのことをお祝いしたいと思っていたから今年はこっちにいるつもりだったんだけど……
リーリアさまは、今年もお祝いして欲しいらしい。
「それなら来年は譲るわ。でも、今年はわたくしのほうに来てもらうの!」
「三年ずっとそちらでお祝いしてるじゃないですか!もう行かせたりしません!」
お互いにだんだんと僕の腕を引っ張る力が強くなる。ちょっとちょっと!このままじゃちぎれそうなんですけど!
「あ、あの……」
僕が小さく声をあげると、二人はようやく僕の存在を認識したとばかりに僕に尋ねてくる。
「ルイ!ルイは僕と一緒がいいよね!?」
「いえ、わたくしと一緒がよいのでしょう!?」
「そんなことより、痛いから離してください!!」
大きく叫ぶと同時に周囲は静まり返り、僕の声がこだまする。
レオンとリーリアがハッとしたように僕の腕を離したので、僕は少しバランスを崩してしまう。でも、なんとか立っていられた。
「ご、ごめん、ルイ……」
「痛くするつもりはなかったのです……」
二人は申し訳なさそうに謝罪をする。本当に、どこまでも似ている二人だ。
「なんで僕の意見を聞いてくれないんですか?二人だけで争わないでください」
「で、でも。ルイは僕と一緒にいるって約束してくれたよね?」
「この季節はお父さまもお姉さまもお忙しくて一緒にお祝いできないことは、ルイはご存じでしょう?わたくし、一人は嫌なのです」
二人が必死な訴えかけをしてくる。レオンの言う通り、僕は去年から来年のレオンの誕生日は一緒に過ごすという約束をしていた。だからこそ、リーリアさまに断りを入れたのだ。
でも、せっかくの誕生日に、家族や友だちが誰もお祝いしてくれないというのも寂しいだろう。リーリアさまは六歳。まだまだ親に甘えたい年頃だ。領主さまたちもなるべく時間を取ろうとはしているらしいけど、そう都合よくはいかないようだ。
本音を言えば、今年はレオンのお祝いをしたい。でも、寂しがるリーリアさまを想像すると、心からのお祝いはできないかもしれない。
「……では、両方に参加するというのはどうでしょう?」
僕の提案に、レオンとリーリアさまだけでなく、両親やお付きの人も首をかしげる。
「レオンもリーリアさまも僕の参加を譲れないなら、僕がどっちにも参加すればいいんです。二人の誕生日会を一つの会場でやれば、どっちのこともお祝いできるでしょう?」
レオンとリーリアさまが顔を見合わせる。そんなことは考えもしなかったというように。だけど、大人である両親やお付きの人は顔を青くしていたり、開いた口が塞がらない状態になっている。
リーリアさまの話し相手としてマナーを学んでいた僕にもわかる。これは、だいぶ失礼なことを言っている。
貴族のパーティーは、主役は基本的に一人である。一家主催でパーティーを開催することはあるものの、まったく無関係の人間が同時に褒め称えられるというのはない。
なぜなら、パーティーは自分を誇示する場だからだ。自分や家の存在をアピールして、地位を築くための手段である。
そんな場にまったく無関係の人間を主役にしろというのは、相手を侮辱しているも同然である。「そんなやつよりもこちらのほうがこの場にはふさわしい」と誇示しているようなものだからだ。
だけど、だからこそ僕はこの案を提案する。
「領主さまのお屋敷ならいいかもしれませんね。三歳だった僕が入れたのですし、レオンも入れるでしょう?父さんも領主さまに息子の自慢話を勝手にするくらいの仲みたいですし」
僕が最後にトゲのある言い方をしてみれば、父さんがどうして知ってるとでも言いたげな目をして、それを母さんが冷たい視線で見ていた。
母さんも食堂の手伝いをすることがあったから、領主さまがお忍びで来ていることを知っていたのかもしれないけど、僕たちの話をしていたというのは初耳なのだろう。
「ロード。私たち、後でいろいろと話さないといけないことがあるみたいね……?」
「そ、それは言葉通りに後でいいだろう?今は、ルイがリーリアさまのお祝いに参加するかどうかだろう」
いや、それはさっき答えたじゃん。
「だから、レオンのことも一緒にお祝いしてくれるなら参加するって言ってるでしょ」
「わたくしの誕生日なのよ?それなのに、どうして平民なんかとーー」
リーリアさまは、それ以上言葉を続けることはなかった。なぜか顔を青くしているリーリアさまと目が合う。
「そうですね。兄は平民で、僕も平民です」
自然と、その言葉が口から漏れていた。ダメだ、これ以上は。
そう思っていても、口は無意識のうちに開いてしまう。
「リーリアさまの誕生日を祝う場に、平民の僕たちはふさわしくないことでしょう。僕たちを招待してくださったリーリアお嬢さまの慈悲に深く感謝を捧げることと思います」
リーリアさまに友人だと思われるのは嬉しいし、僕もリーリアさまのことは友人であり妹のような存在だと思っている。
でも、あくまでも思っているだけなのだ。リーリアさまが、実際の家族であるレオンよりも優先されるかと聞かれれば、答えはノーである。
今までリーリアさまのお祝いに参加していたのも、家族に直接お祝いしてもらえないリーリアさまへの同情心もあったけど、一番はリーリアさまの機嫌を損ねることで家族に迷惑がかかるのを避けたかったからだ。
「僕は、兄の誕生日を祝いたいです。ですが、リーリアさまが命令なさるのであれば、ヴァレンの民として従いましょう。僕は平民ですからリーリアお嬢さまの命は絶対ですので」
最後に一押しとばかりにそう言うと、リーリアさまは思い詰めたような顔をする。
意地悪な言い方をしているとは思う。リーリアさまが、立場を指摘されるのが嫌いなのを知ってて言ってるのだから。
リーリアさまは、僕のことを本当に対等な人間として見てくれている。だから、僕が本気で拒否したら、そのことを強要したりはしないし、僕が平民だからと卑下すれば、すぐさま説教してくる。
リーリアさまからすれば、僕は初めての友だちで、とても特別な存在なのだろうと思う。だからこそ、平民と貴族という立場の違いに最も頭を悩ませているのだろう。
まだ僕が身分差を理解できないような子どもならば、多少無礼に振る舞っても多めに見られるが、少年式を迎えて、ヴァレンの民として認められた以上、もう無礼に振る舞ったりするのは許されない。平民と貴族という距離感でなければならないのだ。
リーリアさまが、悲しむとわかってても。
「……わかりました。また後日、お伺いしますわ」
僕たちに背を向けて、静かに立ち去るリーリアさまに、僕たちは礼をする。
普段なら、馬車が去るのを見送るけど、今日はそんな気分になれずに、僕は早々に家のなかに戻った。
1,397
お気に入りに追加
3,434
あなたにおすすめの小説

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!
小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。
しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。
チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。
研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。
ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。
新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。
しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。
もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。
実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。
結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。
すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。
主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。
亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。
さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。
南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。
ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる