転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん

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第二章 ユニークスキル

34. 平民と貴族

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 僕は一体、どうするのが正解なのでしょうか?

「ルイはわたくしといるのです!」
「今日だけはダメなんです!」

 リーリアさまとレオンが、僕の腕をお互いに引っ張り合いながら僕の取り合いをしている。
 両親はというと、レオンのほうを止めようとはしているけど、レオンもなかなか強情で僕の腕を離そうとしない。
 リーリアさまもお付きの人に止められているけど、離す素振りは見えない。

 一体、どうしてこうなったのか。時は、三日前に遡る。

◇◇◇

 食事の場での祈りが効いたのか、両親の仲もだんだんと元通りになり始めたころ、僕に久しぶりに招待状が届けられた。
 内容は、三日後に僕を屋敷にお誘いしたいとあるだけで、具体的なことは何も書かれてない。

 僕は、何かおかしいとは思った。僕を招待するときは、事前に文通でアポを取ってくれるのに、今回はほのめかすことすらなかった。
 まぁ、このようなことが一度もなかったわけではない。文通のときも、明日屋敷に呼びたいと言われることはあったから。

 でも、よりにもよって三日後だった。理由はわかってるし、普通ならなにがなんでもお受けするのが礼儀というものだろうけど、今年は難しい。

 返事の紙は母さんから貰わないといけないので、リーリアさまから招待状が届いたことと、母さんに断りを入れることを伝えると。

「お嬢さまの招待を断ったらダメよ」

 このように、領民として当たり前の返答が返ってきた。

「でもさ、三日後なんだもん」

 僕がそう答えると、母さんも少し悩む素振りを見せる。まだ二日後や四日後ならよかったかもしれないけど、よりにもよって三日後なのだ。運命とはよく言うものだと思う。

「それならせめて、他の日にちをお伝えしなさい。断るだけなのは失礼よ」
「うん。わかった」

 僕は、母さんから紙をもらって、お断りの言葉を丁寧にオブラートで包み、他の日時を伝えた。それを、ずっと返事を待ってくれていた使者の人に渡す。
 これでリーリアさまも他の日時を指定してくれると、甘い考えを抱いていた。

 翌日、使者が持ってきた返事にはこのように書いてあったのだ。

ーーーーーーーーーー

 三日後しか認めません。

            リーリア・ヴァレリー

ーーーーーーーーーー

 僕は、大いに焦った。

 空いてないならまだしも、認めないとはどういうことかと。三歳の頃から三年間はリーリアさまの元にいたのだから、今年はこちらがいいという思いを、どうにか汲み取ってもらいたいんだけど。
 でも、僕たちもならしょうがないねと折れることもできず、再びお断りの返事を書いた。

 リーリアさまからは、わかりましたという言葉だけが返事として届いて、これで解決したと思った。
 翌日、リーリアさまの乗った馬車が家の前に止まるまでは。

◇◇◇

 まぁ、こんな経緯があって今にいたるわけだ。リーリアさまが来たのは、どうしても僕を屋敷に連れていきたいからなんだろうけど、レオンがそれを許さない。
 お互いに、まったく同じ理由で譲れないのだ。

「明日ならいいですけど、今日だけは絶対にダメです!今年はみんなでやるって決めてるんですから!」
「今年はわたくしが少女式を迎えためでたい年よ。わたくしの誕生日は、ルイもお祝いするべきなの」
「絶対に行かせません!今年の僕の誕生日は、こっちで過ごさせるんです!」

 そう。争っている理由は、僕がどちらの誕生会に参加するか、ということである。

 運命のいたずらか、レオンとリーリアさまの誕生日がまったく同じなのだ。僕がそのことを知ったのが、三歳のとき。リーリアさまと交流を始めた年である。
 リーリアさまにお誕生日を一緒にお祝いして欲しいと相談され、その日時がレオンとまったく一緒だったのだ。

 僕としては、リーリアさまよりもレオンのほうをお祝いしたかったんだけど、お嬢さまのお誘いを断るわけにはいかないからと、珍しくレオンが譲ってくれて、僕はリーリアさまのお誕生日を祝いに屋敷に向かい、レオンの誕生日に家を開けていた。
 でもその日以来、リーリアさまが毎年のように一緒にいたいとおねだりして、レオンの誕生日を一緒に過ごせないことが続いた。
 それを、弟LOVEのブラコンがずっと譲るわけもなく、去年から来年は絶対にこっちと言い続けていて、僕もそろそろレオンのことをお祝いしたいと思っていたから今年はこっちにいるつもりだったんだけど……
 リーリアさまは、今年もお祝いして欲しいらしい。

「それなら来年は譲るわ。でも、今年はわたくしのほうに来てもらうの!」
「三年ずっとそちらでお祝いしてるじゃないですか!もう行かせたりしません!」

 お互いにだんだんと僕の腕を引っ張る力が強くなる。ちょっとちょっと!このままじゃちぎれそうなんですけど!

「あ、あの……」

 僕が小さく声をあげると、二人はようやく僕の存在を認識したとばかりに僕に尋ねてくる。

「ルイ!ルイは僕と一緒がいいよね!?」
「いえ、わたくしと一緒がよいのでしょう!?」
「そんなことより、痛いから離してください!!」

 大きく叫ぶと同時に周囲は静まり返り、僕の声がこだまする。
 レオンとリーリアがハッとしたように僕の腕を離したので、僕は少しバランスを崩してしまう。でも、なんとか立っていられた。

「ご、ごめん、ルイ……」
「痛くするつもりはなかったのです……」

 二人は申し訳なさそうに謝罪をする。本当に、どこまでも似ている二人だ。

「なんで僕の意見を聞いてくれないんですか?二人だけで争わないでください」
「で、でも。ルイは僕と一緒にいるって約束してくれたよね?」
「この季節はお父さまもお姉さまもお忙しくて一緒にお祝いできないことは、ルイはご存じでしょう?わたくし、一人は嫌なのです」

 二人が必死な訴えかけをしてくる。レオンの言う通り、僕は去年から来年のレオンの誕生日は一緒に過ごすという約束をしていた。だからこそ、リーリアさまに断りを入れたのだ。
 でも、せっかくの誕生日に、家族や友だちが誰もお祝いしてくれないというのも寂しいだろう。リーリアさまは六歳。まだまだ親に甘えたい年頃だ。領主さまたちもなるべく時間を取ろうとはしているらしいけど、そう都合よくはいかないようだ。

 本音を言えば、今年はレオンのお祝いをしたい。でも、寂しがるリーリアさまを想像すると、心からのお祝いはできないかもしれない。

「……では、両方に参加するというのはどうでしょう?」

 僕の提案に、レオンとリーリアさまだけでなく、両親やお付きの人も首をかしげる。

「レオンもリーリアさまも僕の参加を譲れないなら、僕がどっちにも参加すればいいんです。二人の誕生日会を一つの会場でやれば、どっちのこともお祝いできるでしょう?」

 レオンとリーリアさまが顔を見合わせる。そんなことは考えもしなかったというように。だけど、大人である両親やお付きの人は顔を青くしていたり、開いた口が塞がらない状態になっている。
 リーリアさまの話し相手としてマナーを学んでいた僕にもわかる。これは、だいぶ失礼なことを言っている。

 貴族のパーティーは、主役は基本的に一人である。一家主催でパーティーを開催することはあるものの、まったく無関係の人間が同時に褒め称えられるというのはない。
 なぜなら、パーティーは自分を誇示する場だからだ。自分や家の存在をアピールして、地位を築くための手段である。
 そんな場にまったく無関係の人間を主役にしろというのは、相手を侮辱しているも同然である。「そんなやつよりもこちらのほうがこの場にはふさわしい」と誇示しているようなものだからだ。
 だけど、だからこそ僕はこの案を提案する。

「領主さまのお屋敷ならいいかもしれませんね。三歳だった僕が入れたのですし、レオンも入れるでしょう?父さんも領主さまに息子の自慢話を勝手にするくらいの仲みたいですし」

 僕が最後にトゲのある言い方をしてみれば、父さんがどうして知ってるとでも言いたげな目をして、それを母さんが冷たい視線で見ていた。
 母さんも食堂の手伝いをすることがあったから、領主さまがお忍びで来ていることを知っていたのかもしれないけど、僕たちの話をしていたというのは初耳なのだろう。

「ロード。私たち、後でいろいろと話さないといけないことがあるみたいね……?」
「そ、それは言葉通りに後でいいだろう?今は、ルイがリーリアさまのお祝いに参加するかどうかだろう」

 いや、それはさっき答えたじゃん。

「だから、レオンのことも一緒にお祝いしてくれるなら参加するって言ってるでしょ」
「わたくしの誕生日なのよ?それなのに、どうして平民なんかとーー」

 リーリアさまは、それ以上言葉を続けることはなかった。なぜか顔を青くしているリーリアさまと目が合う。

「そうですね。兄は平民で、僕も平民です」

 自然と、その言葉が口から漏れていた。ダメだ、これ以上は。

 そう思っていても、口は無意識のうちに開いてしまう。

「リーリアさまの誕生日を祝う場に、平民の僕たちはふさわしくないことでしょう。僕たちを招待してくださったリーリアお嬢さまの慈悲に深く感謝を捧げることと思います」

 リーリアさまに友人だと思われるのは嬉しいし、僕もリーリアさまのことは友人であり妹のような存在だと思っている。
 でも、あくまでもなのだ。リーリアさまが、実際の家族であるレオンよりも優先されるかと聞かれれば、答えはノーである。
 今までリーリアさまのお祝いに参加していたのも、家族に直接お祝いしてもらえないリーリアさまへの同情心もあったけど、一番はリーリアさまの機嫌を損ねることで家族に迷惑がかかるのを避けたかったからだ。

「僕は、兄の誕生日を祝いたいです。ですが、リーリアさまが命令なさるのであれば、ヴァレンの民として従いましょう。僕はですからリーリアの命は絶対ですので」

 最後に一押しとばかりにそう言うと、リーリアさまは思い詰めたような顔をする。

 意地悪な言い方をしているとは思う。リーリアさまが、立場を指摘されるのが嫌いなのを知ってて言ってるのだから。
 リーリアさまは、僕のことを本当に対等な人間として見てくれている。だから、僕が本気で拒否したら、そのことを強要したりはしないし、僕が平民だからと卑下すれば、すぐさま説教してくる。
 リーリアさまからすれば、僕は初めての友だちで、とても特別な存在なのだろうと思う。だからこそ、平民と貴族という立場の違いに最も頭を悩ませているのだろう。

 まだ僕が身分差を理解できないような子どもならば、多少無礼に振る舞っても多めに見られるが、少年式を迎えて、ヴァレンの民として認められた以上、もう無礼に振る舞ったりするのは許されない。平民と貴族という距離感でなければならないのだ。
 リーリアさまが、悲しむとわかってても。

「……わかりました。また後日、お伺いしますわ」

 僕たちに背を向けて、静かに立ち去るリーリアさまに、僕たちは礼をする。
 普段なら、馬車が去るのを見送るけど、今日はそんな気分になれずに、僕は早々に家のなかに戻った。
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