転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん

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第一章 優しい家族

20. お茶会

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 ついに、リーリアさまとのお茶会の時間がやってきた。
 手土産を持って迎えの馬車に乗り、屋敷を目指す。こんなに頻繁にお貴族さまの馬車が来てたら、街の人たちから変な目で見られそう。
 母さんがディアナさまの針子じゃなかったら、絶対に理由を聞かれたと思う。

「お待ちしておりました、ルーシーさま、ルイさま」

 お屋敷についたら、メルゼンさんが出迎えてくれる。決して油断できない相手ではあるけど、このお屋敷で一番気が抜けてしまう相手でもある。

「ルイ、もってきたのがあるの!」
「おや、なんでしょう?」
「こちらです」

 母さんがメルゼンさんにサンドイッチを渡しながら、これがどういったものなのかを説明する。メルゼンさんは、サンドイッチを訝しい目で観察している。毒とかは入ってませんよ?

「ルイがお茶会に持っていきたいと言い出しまして、持参したのです」
「そうでしたか。では、確認次第お嬢さまの意向をお伺いします」

 突き返されたりしなかったことに、僕は一安心する。これも、母さんが信用されているからなんだろうけどね。

「では、お嬢さまの元にご案内いたします」

 僕と母さんは、メルゼンさんの案内についていく。だけど、場所はしっかりと覚えている。領主さまやディアナさまも誘ったらどうかと提案してみたので、二人もいるかもしれない。
 ……提案しておいてなんだけど、ちょっと緊張してきた。ディアナさまはともかく、領主さまの相手はどうも苦手だ。
 こちらを見透かすような、含みのある視線は勘弁願いたいところだけど、今回はどうだろうか。さすがに娘たちの前で僕を探るような真似はしないとは思うけど、観察くらいはしてくると思う。
 子どもらしく振る舞えるように気をつけないと。

「ルーシーさまとルイさまをお連れしました」
「どうぞ」

 中から上品な声が帰ってくる。本当に、初日とは大違いだ。本当は、明るい性格なのが声だけで伺える。
 僕たちが中に入ると、すでにテーブルと椅子がセットされていて、リーリアさまの他にも領主さまとディアナさまが待機していた。

「わたくしのおちゃかいにようこそ、ルイ」

 リーリアさまが優しく笑いかけてくる。僕は、静かに後ろにいる母さんに目を向ける。どう返すのが正解か、目線で尋ねた。
 母さんは僕の心情を察したのか、背を低くして僕の耳に耳打ちしてくる。

「お招きいただき光栄です」
「おまねきいただきこうえいです」

 母さんの真似をするように、少し棒読みぎみに返事をした。
 これをしてるのは、母さんからなんて言うのかわからなかったらこうしなさいと言われてるから。前回があまりにも不躾だったからだろう。僕は子どもっぽく振る舞っただけなんだけどね。
 でも、いくら針子の仕事をしてるからって、母さんは普通の平民のはずなんだけど、貴族の作法に詳しいのはなんでなんだろう。お陰で助かるけど。

「おせきへどうぞ」

 リーリアさまが空いている席を手で示したので、僕は言われた通りに席に着く。僕が席に着くと、リーリアさまも再び椅子に座った。
 領主さまとディアナさまから視線を感じるのは、気のせいだと思っておこう。

「ルイの好きなものがわからなかったので、いろいろとよういして……じゃなくて、させていただきました」

 立派な主催者として振る舞おうとしているリーリアさまの姿にほっこりしてしまう。この日のために、相当練習したのだと思うと、提案して正解だったみたいだ。

「これは、さとうとこむぎこを使ったおかしです。これは……」

 リーリアさまの説明を聞きながら、僕はテーブルに置かれているお菓子を観察する。
 食べていないのでわからないけど、クッキーらしきものや、スコーンらしきもの。カップケーキらしきものもある。
 でも、パイやタルトは見当たらない。たまたま作ってないだけなのか、この国にはないのか。お茶会が終わったら母さんにさりげなく聞いてみるか。

「ルイ、このお茶をのんでみてください」
「うん……じゃなくて、はい」

 母さんから鋭い睨みがあった気がして、僕は言葉を訂正しつつ、カップを手にとってお茶を飲む。
 う~ん……おいしいんだけど、前世でも紅茶なんてろくに飲んだことないから、なんか新鮮な感じがする。
 これもいい茶葉を使ってるんだろうけど、それもわからない。

「こちらもどうぞ。リア……じゃなくて、わたくしのおすすめです」
「はい」

 リーリアさまに勧められたクッキーらしきものを食べてみる。
 味もほとんどクッキーだ。サンドイッチとかコロッケがないから、あまり食文化は発展してないのかなと思ったけど、そうでもなさそう?それとも、母さんたちが平民だから、食事の贅沢は知らなかったりするのだろうか。

「ルイくん」
「は、はひ!?」

 思考を飛ばしていたのと、クッキーもどきを味わっていたのもあって、話しかけられたことに驚く。はいという返事が裏返ってしまった。恥ずかしいという前に、変だと思われていないか不安だ。
 だけど、そんな僕の不安はよそに、領主さまは表情を変えることなくたずねてくる。

「ディアナから聞いたが、ドレスの柄の提案をしたそうだね」
「……はい」

 僕がやらかしたあれか。普通に考えれば領主さまに報告が行くに決まってるのに、そのときはそこまで考えが及ばなかった。

「おねーさまのドレスかんがえたの?」
「うん、そうだよ」

 リーリアさまは今でもすごく興味津々な様子だけど、領主さまの次の言葉で、さらに顔を輝かせる。

「他にもいろいろとやっているみたいだ」

 領主さまは楽しそうに笑う。リーリアさまは今すぐにでも聞きたそうな目をしているし、ディアナさまも興味がありそうな様子だ。
 そんな一家とは裏腹に、僕は内心、冷や汗をかいていた。

 他にもって、この人はどこまで知ってるんだ?ハッタリかもしれないから、不用意に口にできない。

「ルイくん。このお茶会が終わった後、ルーシーと一緒で構わない。お話ししたいことがあるんだ?」
「お話しするの?」

 スキルのことは前に教えたから、もう僕のことで話すことなんてないと思うんだけど。

「もちろん、この後すぐというわけではないが、なるべく近いうちにね」

 領主さまはにこりと笑みを向けているけど、その顔はどこか悲しげに見えた。何か、いろいろと思うところがあるのかな。

「おとーさま。リアとあそんでくれないの?」
「ごめんね、リア。なかなか時間が取れないんだ」

 いや、僕との時間を取れるならその時間をリーリアさまのために使ってあげればいいのに。リーリアさまは、先ほどまで輝かせていた顔を曇らせる。
 ほら、今にも泣きそうだよ。リーリアさまが引っ込み思案になったのって、領主さまのこの態度もありそうだよね。
 リーリアさまが何かお願いしても、領主さまは断り続けたから、リーリアさまは何も言わなくなって、それを引っ込み思案だからと思ってるのが真実っぽい。ディアナさまも勉強を理由にリーリアさまの誘いを断ってたんだろう。

 リーリアさまの様子に気づいたのか、領主さまも少し戸惑っているようだけど、そのまま目をそらした。
 おい、そこで「明日遊ぼう」くらい言えよ!明日が無理なら、明後日でも明々後日でもいいから!

 僕はジト目で領主さまを見てしまう。子どもらしからぬ行いではあるけど、呆れを抑えられなかった。

「リーリアお嬢さま。ルーシーさまとルイさまからいただいたものがあるのですが」

 この最悪な空気をメルゼンさんが破ってくれる。リーリアさまも、プレゼントとなると嬉しいのか、少しだけ顔が明るくなった。

「それ、なに?」
「ルイさまがお考えになったものだそうです。パンの間に様々な具材を挟んだものだそうです」

 リーリアさまとディアナさまは不思議そうにサンドイッチを見るけど、領主さまだけ僕のほうを見る。その目は、疑いや関心など、多くの感情が入り交じっているように見えた。
 僕、普通の子どもだよー。ちょっと思いつきがいいだけだよー。

 そう心のなかで思ったところで、領主さまは僕から目をそらさない。
 うぅ……どうすれば。

「ルイ、これはどのように食べるのかしら?」

 ディアナさまが僕に尋ねてくれる。神の助けとも思えるそれに僕は迷いなく乗っかった。

「あっ、それは手で……」

 僕はサンドイッチを手にとって食べて見せる。見本を見せるためだったので、中身は特に確認せずに食べたけど、これはたまごとエクテルのようだ。僕が食べられる組み合わせでよかった。

「すきなやつたべるといーよ」

 僕がそう言うと、リーリアさまとディアナさまはどれを食べようかと見比べている。そして、リーリアさまはたまごオンリーのものを、ディアナさまはオータとオニオというヘルシーなものを選んで食べた。

 ちなみに、オニオとは地球で言うたまねぎのことである。
 やっぱり、英語に似た響きのものからまったく聞いたことのないものまでいろいろとあるみたいだ。

「ルイ、これおいしー!」
「サラダを挟むなんて変わっているわね」

 サンドイッチは好評なようだ。サンドイッチはアレンジし放題だし、好きなもの挟めるからいいよね。
 それに、調理が簡単だから貴族のお嬢さまたちでもできると思う。まぁ、お貴族さまが料理することなんてほとんどないだろうけど。

 結局、この日のお茶会はこのままサンドイッチを食べ続けて終わった。
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