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第一章 優しい家族
12. 領主との面会 1
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僕のスキル検査からおよそ半年、ついに領主さまとの面会の日がやってきた。母さんが言うには、僕はただ隣にいればいいらしいけど、それでも気持ちはげんなりとしてしまう。
領主さまと面会するということで、僕も可能な限りの礼装で向かうことに。
「ルイ、がんばってね」
「うん、にーにもおてつだいがんばってね」
今日は母さんが領主の屋敷に行くことになったので、レオンは母さんの代わりにお店の手伝いをすることになったのだ。
母さんが働いていない間もお手伝いをしていたらしく、顔馴染みの客には可愛がられているという話だから、そこまで心配していない。
「ルイ、行くわよ」
「はーい!」
行きたくないなぁという本心は隠しながら、僕は元気よく返事をした。
◇◇◇
領主さまの屋敷は街の一番北にある。そして、僕たちの家は南寄りにあるので、まあまあな距離を歩かなければならない。
でも、今回は領主さまが特別に馬車を出してくれた。母さんのコネに感謝しないと。ちなみに、馬車で行くのだからとお嬢さまへの新しいドレスも一緒に持っていくらしい。
お陰で、外の景色を楽しんでいるうちにお屋敷に着いてしまった。領主さまの用意した馬車なので、そのまま大きな門を通り、敷地内に入る。
馬車が止まったのを確認して、僕は母さんに抱かれる形で馬車を降りた。さすがに抱かれたまま入るのは失礼だからか、馬車を降りたらすぐに地面に下ろされたけど。
「わぁ……!」
口から感嘆の声が漏れる。領主さまということは貴族ということだから、それなりに豪勢な屋敷なのだろうとは思っていたけど、実際に見てみるとかなりすごい。
馬車の中からチラチラと見えてはいたけど、全体像は今初めて見た。
「はぐれないでね」
「はーい」
僕は母さんと手を繋いで、屋敷の中に入る。正面扉はやっぱり豪華だな……
少し警戒心を持ちながら扉を通ると、使用人が一斉に頭を下げて出迎える。動きがぴったり揃っているから、すごくかっこよくて圧倒される。
「ルーシーさま、お久しぶりです。そちらがご子息のルイさまですね」
貫禄のあるおじいさんが代表するように声をかけてくる。
雰囲気からして、執事さんかな?
とても優しくて暖かい雰囲気を纏っているのに、全然隙を感じさせないのは、さすがプロといったところか。
「お久しぶりです、メルゼンさま。息子のルイです」
「ルイです。よろしく、おねがいします!」
僕が手を差し出すと、「よろしくお願いいたします」と優しく握り返してくれる。最高の執事さんだぁ……!
「こちらはお嬢さまへのドレスになるのですが、いかがいたしましょうか」
「お嬢さまへ直接お渡しください。そのほうが喜ばれると思います」
「かしこまりました」
ここのお嬢さまは母さんがお気に入りなのかな?直接渡すとなれば、お嬢さまにも会うことになりそうだな。
「では、旦那さまの元へご案内いたします」
メルゼンさんの案内についていきながら、僕は屋敷内を観察する。
使用人たちは、僕たちを出迎えた後は仕事に戻ったようで、調度品を磨いている人もいれば、何かを運んでいる人もいる。
視線に気づくのか、時折目が合う人もいるけど、その度ににこりと笑いかけられるので、とりあえず手を振り返している。
僕が手を振り返すと、嬉しそうな反応をしてくれるので、悪印象を持たれるのは避けられているだろう。
これなら、面会もうまく行くかもしれない。
「こちらにいらっしゃいます」
メルゼンさんはドアをノックする。
「旦那さま。ルーシーさまとルイさまをお連れいたしました」
「入りなさい」
部屋の中から男性の声で入室の許可があり、メルゼンさんがドアを開ける。
僕がひょこっと覗き込むと、そこには華やかな服を身に纏った男がいた。メルゼンさんよりは若そうだけど、皺や顔つきからして、それなりに年はいっていそうなおじさんだ。
執務机と思われるところに書類らしきものが積み重なっているので、結構忙しいのかな、と他人事のように思う。
「失礼いたします」
「しつれーいたします」
母さんの真似をして挨拶をし、ペコリと頭を下げる。
「そこのソファに座ってくれ。メルゼンは下がっていい」
「「かしこまりました」」
メルゼンさんと母さんの声が揃う。メルゼンさんは音も立てずに速やかにその場を立ち去り、母さんは僕の手を引きながらソファに腰かける。
「ある程度話は聞いているが、改めて聞かせてくれ」
「はい、当主さま」
母さんは、丁寧な口調で説明を始める。僕が魔力暴走を起こしたところから、スキルのこと、最初は隠そうとしたことなどもすべて。
「私たちを気遣ってのことですので、医者のことは寛大なお心でお許し願います」
領主さまは、見据えるばかりで何も言葉を発しなかったけど、母さんが話し終わると静かに口を開いた。
「その検査は確かなものなのか?」
「間違いないかと思われます。スキルの効果を実感したこともございましたし、未知のスキルと称されるものもございましたので」
僕が『複製』でやらかしたことかな?それとも、魔力暴走で高熱を出したときだろうか?
「スキルの隠匿は罪だ。罰しないわけにはいかない。だが、軽いものにしておこう」
「寛大なお心に感謝します」
領主さまの言葉に、僕もほっとする。とりあえず、あのおじいさんがひどい罰を受けることはないみたいだ。
「だが、彼のことは放っておけないな」
そう言ってニヤリと笑みを浮かべる領主さまと僕の目が合う。
僕は、ごくりと息を飲んだ。
やっぱりこうなるのか。さて、どうやって乗りきるかな……
領主さまと面会するということで、僕も可能な限りの礼装で向かうことに。
「ルイ、がんばってね」
「うん、にーにもおてつだいがんばってね」
今日は母さんが領主の屋敷に行くことになったので、レオンは母さんの代わりにお店の手伝いをすることになったのだ。
母さんが働いていない間もお手伝いをしていたらしく、顔馴染みの客には可愛がられているという話だから、そこまで心配していない。
「ルイ、行くわよ」
「はーい!」
行きたくないなぁという本心は隠しながら、僕は元気よく返事をした。
◇◇◇
領主さまの屋敷は街の一番北にある。そして、僕たちの家は南寄りにあるので、まあまあな距離を歩かなければならない。
でも、今回は領主さまが特別に馬車を出してくれた。母さんのコネに感謝しないと。ちなみに、馬車で行くのだからとお嬢さまへの新しいドレスも一緒に持っていくらしい。
お陰で、外の景色を楽しんでいるうちにお屋敷に着いてしまった。領主さまの用意した馬車なので、そのまま大きな門を通り、敷地内に入る。
馬車が止まったのを確認して、僕は母さんに抱かれる形で馬車を降りた。さすがに抱かれたまま入るのは失礼だからか、馬車を降りたらすぐに地面に下ろされたけど。
「わぁ……!」
口から感嘆の声が漏れる。領主さまということは貴族ということだから、それなりに豪勢な屋敷なのだろうとは思っていたけど、実際に見てみるとかなりすごい。
馬車の中からチラチラと見えてはいたけど、全体像は今初めて見た。
「はぐれないでね」
「はーい」
僕は母さんと手を繋いで、屋敷の中に入る。正面扉はやっぱり豪華だな……
少し警戒心を持ちながら扉を通ると、使用人が一斉に頭を下げて出迎える。動きがぴったり揃っているから、すごくかっこよくて圧倒される。
「ルーシーさま、お久しぶりです。そちらがご子息のルイさまですね」
貫禄のあるおじいさんが代表するように声をかけてくる。
雰囲気からして、執事さんかな?
とても優しくて暖かい雰囲気を纏っているのに、全然隙を感じさせないのは、さすがプロといったところか。
「お久しぶりです、メルゼンさま。息子のルイです」
「ルイです。よろしく、おねがいします!」
僕が手を差し出すと、「よろしくお願いいたします」と優しく握り返してくれる。最高の執事さんだぁ……!
「こちらはお嬢さまへのドレスになるのですが、いかがいたしましょうか」
「お嬢さまへ直接お渡しください。そのほうが喜ばれると思います」
「かしこまりました」
ここのお嬢さまは母さんがお気に入りなのかな?直接渡すとなれば、お嬢さまにも会うことになりそうだな。
「では、旦那さまの元へご案内いたします」
メルゼンさんの案内についていきながら、僕は屋敷内を観察する。
使用人たちは、僕たちを出迎えた後は仕事に戻ったようで、調度品を磨いている人もいれば、何かを運んでいる人もいる。
視線に気づくのか、時折目が合う人もいるけど、その度ににこりと笑いかけられるので、とりあえず手を振り返している。
僕が手を振り返すと、嬉しそうな反応をしてくれるので、悪印象を持たれるのは避けられているだろう。
これなら、面会もうまく行くかもしれない。
「こちらにいらっしゃいます」
メルゼンさんはドアをノックする。
「旦那さま。ルーシーさまとルイさまをお連れいたしました」
「入りなさい」
部屋の中から男性の声で入室の許可があり、メルゼンさんがドアを開ける。
僕がひょこっと覗き込むと、そこには華やかな服を身に纏った男がいた。メルゼンさんよりは若そうだけど、皺や顔つきからして、それなりに年はいっていそうなおじさんだ。
執務机と思われるところに書類らしきものが積み重なっているので、結構忙しいのかな、と他人事のように思う。
「失礼いたします」
「しつれーいたします」
母さんの真似をして挨拶をし、ペコリと頭を下げる。
「そこのソファに座ってくれ。メルゼンは下がっていい」
「「かしこまりました」」
メルゼンさんと母さんの声が揃う。メルゼンさんは音も立てずに速やかにその場を立ち去り、母さんは僕の手を引きながらソファに腰かける。
「ある程度話は聞いているが、改めて聞かせてくれ」
「はい、当主さま」
母さんは、丁寧な口調で説明を始める。僕が魔力暴走を起こしたところから、スキルのこと、最初は隠そうとしたことなどもすべて。
「私たちを気遣ってのことですので、医者のことは寛大なお心でお許し願います」
領主さまは、見据えるばかりで何も言葉を発しなかったけど、母さんが話し終わると静かに口を開いた。
「その検査は確かなものなのか?」
「間違いないかと思われます。スキルの効果を実感したこともございましたし、未知のスキルと称されるものもございましたので」
僕が『複製』でやらかしたことかな?それとも、魔力暴走で高熱を出したときだろうか?
「スキルの隠匿は罪だ。罰しないわけにはいかない。だが、軽いものにしておこう」
「寛大なお心に感謝します」
領主さまの言葉に、僕もほっとする。とりあえず、あのおじいさんがひどい罰を受けることはないみたいだ。
「だが、彼のことは放っておけないな」
そう言ってニヤリと笑みを浮かべる領主さまと僕の目が合う。
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