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第一章 優しい家族

8. お友達

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 今日はお兄ちゃんとお出かけである。領主さまとの面会は、領主さまのスケジュールが空いてからとのことでまだまだ先になるらしく、早くても半年は先らしい。領主さまは忙しいから仕方ないね。
 それまでは、僕のスキルのことは公表せずに、普通に暮らすことに。僕も、なるべく隠すように意識しないと。

「にーに、どこ行くの?」
「今日はみんなと遊ぶ約束してたから、ルイも一緒にどうかなって思ってね」
「あそぶの!?」

 僕はパアッと顔を輝かせる。前世から根っからの鍵っ子だった僕は、お世辞にも友達は多くない。話しかけられれば話すくらいのコミュニケーション能力だ。
 学校でも教室の片隅で本を読むような生徒だったくらい。だからこそ、外で友達と遊ぶというのは、それなりに憧れのようなものがあった。
 まさか、それが異世界で叶うことになるとは。

 精神が子どもに引っ張られてるのもあり、自分でもビックリするくらいにわくわくしているのを感じる。
 レオンのお友達って、どんな子達かな~。

◇◇◇

 家から十分くらい歩くと、林のようなものが見えてきた。
 林と言ってもそこまで深くはなく、木々の隙間から向こうの景色が見え隠れするくらいの深さしかない。
 どうやら、ここが子どもたちの遊び場のようだ。近くには商店街もあるし、民家もそれなりにあるのを見るに、大人の目があるようだから大丈夫だろう。

「おーい、レオン!」

 レオンの名前を呼びながらこちらに走ってくる子どもがいる。
 その子は、オレンジの髪に金の瞳というまるで太陽みたいな子だった。

「サン、待たせちゃったか?」

 名前がサンなの!?ますます太陽みたい。

「いや、オレはいま来たとこだから。他のやつらも待ってるぜ!」

 そう言って走り出そうとしたところで、僕と目があった。
 僕は、思わずレオンの後ろに隠れてしまう。

「そのチビはなんだ?」
「僕の弟のルイだよ」

 レオンは、僕の後ろに回って僕を紹介する。
 ぐぬぬ。これでは隠れられないじゃないか。

「レオンの弟かぁ~。オレはサンって言うんだ。よろしくな」

 サンくんは、僕に目線を合わせるようにしゃがむ。ニカッと笑い、手を差し出してきた。僕は、おずおずとしながらも差し出してきた手に自分の手を重ねる。
 すると、ぎゅっと握りしめてきた。その手は、とても暖かい。

「うん。よろしくね、サンおにーちゃん」

 僕がニコリと笑ってそう言うと、なぜかサンくんが硬直する。
 あれ?何か間違ったかな?

「……なぁ、レオン」
「ダメだよ」
「まだ何も言ってないだろ!」

 満面の笑みで断りを入れたレオンにサンくんは鋭いツッコミを入れる。
 レオンと同じくらいの年齢なら、十歳くらいだよね?ツッコミが大人顔負けだよ。

「どうせ、ルイをオレにくれないか?とか言うつもりだったんでしょ?ルイは僕の弟だから」
「そんなこと言わねぇよ!ルイと一緒に遊んでいいか聞こうとしただけだっての!」

 逆になんで僕を欲しがると思ったのか聞いてもいいかな、お兄ちゃん。
 母さんに叱責されてからちょっとはましになったかと思ったけど、中身は全然変わってないみたいだ。

「危なくないならね。ルイに怪我させたくないし」
「そんな危なくねぇよ。ただのフェラグだし、お前が一緒にいれば大丈夫だろ」

 フェラグってなんですか?聞いたことないんですけど。

「それならいいけど……」

 いや、説明して?僕の理解が追いついてないから。

「にーに、ふぇらぐ、なーに?」
「ああ、フェラグって言うのはね、フェルとラグに分かれて……」

 レオンは、わかりやすく説明してくれる。
 いわく、フェラグというのは鬼ごっこのようなもので、フェルが逃げてラグが追いかける。

 フェルというのは、昔の言葉で妖精という意味で、妖精がラグという狐みたいな姿をした神の使いにいたずらをしたところ、ラグにずっと追いかけられたという昔話を元にしているのだという。
 詳しい説明はありがたいけど、普通の三歳児に昔話は理解できないと思うよ。

「ルイ、ふぇるやるー!」
「その前に、他の奴らに会ってからな」

 あっ、まだいたのね。言われてみれば、鬼ごっこを三人でやるわけもないか。僕がいなければ二人だったわけだし。

「ほら、こっちだ!」
「ちょっとサン!」

 レオンの制止を振りきるように僕の手を引いて、サンくんは走り出す。だけど、僕とは歩幅が違いすぎて何度も体がふらつく。

 おおー!こけるこける!

 ついに足がもつれてしまって、そのまま地面に顔をぶつけるーーそう思って目をつぶったけど、なぜか衝撃が来ない。
 おそるおそる目を開けると、誰かが僕を支えていた。いや、誰かなんてわかりきってる。こんなことをしてくれるのは一人しかいない。

「ちょっとサン!危ないでしょ!」

 支えてくれたのは、僕のお兄ちゃんのレオン。やっぱりいざというときは頼りになるね、お兄ちゃんって。

「ご、ごめん。次は気をつけるよ」
「ルイ、にーにといく!」

 もうこんな思いはごめんだ。レオンにぎゅっと抱きつくと、レオンも抱き締め返した。

「そんなに言うなら仕方ないな~。一緒に行こうか」
「……ひとりでいく」

 デレデレとしたレオンに危機感を感じた僕は、スッとレオンの側を離れた。
 ショックを受けたようなレオンを置いて、僕はサンくんの後についていった。
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