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第一章 優しい家族

6. スキル 1

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 発熱してから数日後。僕の体調はみるみる回復していき、普通に歩き回ることもできるようになっていた。

 そして、それからの僕の生活は変わってしまった。

 まず、家族がつきっきりで側にいるようになり、一人の時間がなくなってしまった。そして、僕の反応にいちいち過敏になってしまったのだ。
 僕が「あっ」と何気なく発した言葉にも慌てたように理由を尋ねてくるし、僕がちょっとしたお願いをしたらすぐに叶えてくれるという甘やかしも始まった。

 そして、僕はあれから魔法の練習をやめて、少年式までちゃんと待つことにした。家族を心配させたくないしね。
 その代わりと言ってはなんだけど、兄や両親に魔法を見せてもらうようにおねだりしていた。

 そこでわかったことは、父さんは赤魔法が使えて、それを食堂でも生かしていること。

 母さんはまさかのまさか、白魔法が使えるんだって!

 その白魔法の力を刺繍に込めることで、領主一家を病気や怪我から守ってるんだとか。どうりで、貴族の針子を任されるわけだよ。
 母さんの刺繍の腕が高いのもあるんだろうけど。

 ちなみに、母さんは緑魔法の一つである風魔法も使える。白魔法ほど強くはないらしいけど。

「ルイ、そろそろ行くわよー!」
「はーい!」

 母さんの呼びかけに、僕は大きく返事をしてから、ささっと駆け寄る。
 どこに行くのかというと、これも新たな生活の一部となってしまった習慣だ。

 連れてこられたのは、清潔感のある白い建物。
 ここは、平民たちが利用する治療院である。そして、僕が訪ねた理由は、もちろんこの方。

「おじいさーん!」
「おお。来たか、ルイくん」

 僕の魔力暴走を止めてくれたおじいちゃん先生である。
 この人には、僕の魔力を定期的に見てもらって、もし暴走の兆候が見られれば、静めてもらっている。魔法具が使えないから、この人に頼るしかないんだよね。
 特に、薬を使うわけでもなく、先生に疲労がたまるわけでもないため、格安で引き受けてくれているのは、家計にはありがたい。無料にしてほしいなぁと思わないでもないけど、この世界の経済事情も知らないのに、無闇にそんなことは言えない。

 そして、暴走を静めるといっても、あくまでも兆候程度なので、静めるときも、以前のときのような痛みなどはほとんどなく、ぬるま湯に手を突っ込んでいるくらいの熱さしかなかった。
 そんなわけで、以前のように泣き叫ぶことはなく、ただぽけーとするだけだ。

 そして、検査が終われば帰るだけ。そんな生活を、一ヶ月ほど送っていた。

 今日も、先生が僕の手首から手を離したのを確認して、帰ろうと立ち上がると、「ちょっと待ってくれ」と止められた。

「ルイくんさえよければ、選定の儀を受けないかと思ってね」
「ふぇっ!?」

 僕は、心底驚いた。だって、選定の儀はそもそも少年式を受ける年齢である六歳にならないとできないはずだし、なんでこんな提案をしてくるのかもわからない。
 驚いたのは僕だけではないようで、付き添いの母さんも、目を見開くくらいに驚いているようだ。

「ルイはまだ三歳ですよ!?魔力暴走もあったんですし、魔法は……」
「ああ、勘違いさせたのでしたら申し訳ありませんが、私が調べたいのは、ルイくんの魔力量とスキルの有無です。魔法を教えるつもりはありませんよ」
「魔力量はともかく……スキルの有無ですか?」

 僕も同じ疑問が浮かぶ。
 魔力が暴走した僕の魔力量が気になるのはわかるけど、なんでスキルまで?

「通常は平民……しかも、少年式も終えていない子どもが魔力暴走を起こすことは、滅多にありません。遺伝でないのであれば、スキルによる影響の可能性もありますので、調べておきたいのです」
「スキルが魔力に影響があると……?」

 僕も、そんなのは聞いたことがない。母さんが戸惑っているのを見ると、一般に知られていることではないらしい。

「例えば、常時発動型である『魔力強化』のスキルは、魔力を強める効果がありますから、少ない魔力量で暴走することもあります。他には『成長促進』や『魔力変換』などのスキルは、魔力量を増幅させることもあるので、それらが暴発し、魔力量が増幅することがあったのなら、魔力暴走を引き起こしてもおかしくはありません」

 ほほう?つまりは、特殊なスキルがあれば、僕の魔力量が特別多いわけではないかもしれないってことね。
 そう考えると、魔力量が多いよりは納得できるかも。この世界では、平民で魔力量の多い場合は、ほとんどが貴族の先祖返りと言われるほど、魔力量は血筋による遺伝が多いらしいし。

 それなら、調べてもらったほうがいいかも?

「かーさん、やってもいい?」
「……そうね。危険がないなら、やってもらいましょう」
「では、準備をしてきますので、ここで少しお待ちください」

 そう言っておよそ十分後。先生はガラス板のようなものを持って戻ってきた。
 それを覗き込むように見ると、子どもの顔が映る。

 これって、僕?

 髪色とかは自分で見ることができたけど、家に鏡がなかったので、顔は知らなかった。
 子どもだから当たり前だけど、全体的に丸っこく可愛らしい顔立ちをしている。女の子みたい。
 髪色は母さん譲りのダークブラウンに、瞳は父さん譲りの黒。見事に、地味な色を受け継いでしまったらしい。レオンはきれいな色を受け継いでいたのに!

 それはともかくとして、顔が映るということは、これは鏡なのか。

「ルイくん、これに触ってみてくれるかな」
「うん」

 僕は言われた通りにその鏡に触れる。すると、その鏡は赤くキラキラと輝きだした。

 うわっ!何これ!

「……やっぱりか」

 先生は、その光を見て納得したように呟く。
 あの、一人で納得してないで、説明してくださいよ。

 僕がじとっと先生を見ていると、母さんがおそるおそるといった様子で言葉を発する。

「あの、魔力量はどうなのですか?かなりの光のようですが……」

 あっ、これが魔力量を調べる道具なんだね。それならそうと最初から言ってほしかったよ。

 それで、これで何がやっぱりなんだろう?

「平民にしては多いほうですが、魔力暴走が起こるほどではありません。やはり、スキルのほうに原因がありそうですね」

 あっ、そうなんだ。ちょっと残念な気もするけど、僕が有り余る力を持っても宝の持ち腐れになりそうだ。ほどほどでいいだろう。

 そして、あれが魔力量を調べるためのもので、母さんの言葉からして、光の強さが魔力量の多さで、光の色が使える魔法の種類なんだろう。赤色になったということは、僕は赤魔法が使えるのかも。

 魔法の使い方を学んだら、火起こしでもしてみようか。

「ルイくん。今度はこれを覗いてみてくれるかい」

 自分の名前を呼ばれて、僕は飛ばしていた思考を振り払い、現実に戻る。
 先生が持っているのは、虫眼鏡みたいなもの。

 なんだこれと思いながらも、僕は言われたように覗き込んでみる。

 ……あれ?何も見えない?

 虫眼鏡なら、そのレンズを通したものが拡大して見えるのかと思いきや、拡大どころか向こうの景色が真っ暗で何も見えないのだ。

 なんだこれと思いながらも僕が目を細めて凝視していると、不意にレンズが持ち上がり、先生と目があった。
 どうやら、検査が終わったらしい。

「あの、どうだったのですか」

 母さんが再びおそるおそるといった様子で尋ねる。
 僕も、魔力暴走がスキルのほうにある可能性が高いとわかってるから、ちょっと不安だった。

 でも、魔力量がたいした問題はないと言われたからか、スキルもそこまでではないだろうという期待の目で先生を見ると、何やら深刻そうな顔をしている。

 それを見て、僕は察した。これは……期待が裏切られたパターンだと。

「ルイくんは、スキルを持っていました。それも、強力なものから、見たことのないスキルまで」

 ……へ?
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