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第一章 優しい家族
4. 練習
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初めてのお出かけから一週間。レオンがいないので、再び外出もできずに、僕はお部屋で母さんの針子の仕事を見学している。
今は、領主のお嬢さまのドレスの裁縫をしているらしい。
お嬢さまのドレスのことを任されるということは、母さんは相当な腕前なんだろう。お金も、相当には稼いでいたはす。
母さんが働けなかった間、レオンがいろいろなところに出稼ぎに出るわけだ。
「かーさんは、どうやってこのもようつくってるの?」
その腕前の秘密が気になった僕は、母さんの仕事を覗き込みながら聞く。
「練習したのよ。元々、裁縫スキルを持っていたのもあるけどね」
「すきう?」
あっ、るがうまく言えなかった。
子どもの体は、時々こういうことがあるから困る。
でも、母さんには伝わっていたようで、ふふっと微笑みながら言う。
「スキルはね、その人が元々持っているものだったり、練習したりして使えるようになるの。ルイにも、何かあるかもしれないわね」
「どーやってわかるの?」
「少年式や少女式で調べるの。その後は、お金を払えばいつでも調べることができるわ」
あっ、有料なんですか。それくらい、サービスしてくれてもいいような気がするけど、商売の一つなら、あまり贅沢は言えないな。
お金がないと、ろくに生きていけないしね。綺麗事では飯は食えぬってやつだ。
それにしても、スキルかぁ……。ちょっと、使っているところ見たいかも。
「すきるは、どーやってつかうの?」
「魔法と同じように魔力を使うのよ。見せてあげようか?」
「うん、みたい!」
僕が、期待を込めた目で見ると、母さんは縫っていたドレスをその場に置き、小さい布切れを取り出した。
さすがに、お嬢さまに献上するドレスにスキル縫いはできないみたいだ。
母さんは、軽く一息つくと、針の穴に糸を通し、針を布に刺した。
その瞬間母さんの腕は止まることなく、みるみると模様を作り上げていく。
さっきは、かなり丁寧な手つきだったけど、今はロボットのような素早さだ。
五分もたたないうちに、美しい薔薇の刺繍ができあがってしまった。
「わぁ、しゅごい!」
「これは『刺繍』というスキルなの。これを使うと、頭の中に思い浮かべた複雑な模様を、素早く、正確に仕上げることができるのよ」
「ほわぁ~……!」
本当に、機械みたいだ。量産品を作るには便利な力かもしれない。
でも、なんでお嬢さまのドレスには使わないんだろう?
僕がドレスのほうをじっと見たからか、母さんは「ああ」と言って説明してくれる。
「一度は縫ったことがある模様しかできないのよ。あの方は、毎回違うデザインを求められるから」
「へぇ~」
でも、そうやって新しいデザインを考えられる母さんも、すごいと思うけどね。
◇◇◇
「う~ん……」
僕は、部屋で頭を悩ませていた。
どうやったら、スキルが手に入るんだろう?と……
せっかく魔法のある異世界に転生したんだから、チートじゃなくても、スキルの一つや二つは使ってみたい。
異世界に来たんだという幸福感を味わいたい。
でも、母さんのような裁縫スキルは、練習すれば手に入れられそうだけど、三歳児にそんなことさせてはくれないだろうし……
「まずは、まほうからかな」
欲張っても仕方ないと、僕は、新しい日課になった魔法の練習を始めることに。
兄の魔法を何度も見ているうちに、僕は我慢ができなくなって、一人で練習するようになっていた。最近は、ある程度成長したからか、一人になれる時間がかなり増えた。
昼寝した振りでもすれば、簡単に出ていってくれる。
とはいっても、魔法を取得するやり方なんて知らないので、前世のファンタジー小説などの知識を元に、いろいろと試行錯誤を繰り返している状態なんだけども。
今までやったのは、呪文っぽいのを呟いてみるとか、手に魔力を集めてみるとか、そんな感じ。
……うん?成果?使えなかったよ。
手に魔力を集めようと意識したときに、何か温かいような冷たいような、変なものは感じたので、それが魔力かなって思うくらいの進捗率である。
でも、それでめげる僕ではない!
今日は、魔力循環というのをやってみる。よく、体のなかの魔力を感じ取って、循環させるという方法を見かけるから。
感じ取るのは、多分できているので、循環にチャレンジだ。
循環は、ぐるぐると巡らせばそれっぽくなるかなと思って、まずは手に集めてみる。
指が温かいような、冷たいような感覚になったところで、僕はそれを腕の付け根辺りまで戻す。強く念じているからか、お腹に力が入ってしまうけど、それは仕方ない。
僕が慣れていないからか、だいぶゆっくりだけど、腕のほうに移動してきてる何かは感じた。
五分ほどで、腕の付け根まで移動できたので、今度は頭のほうに上らせる。
「うっ!」
首の辺りまで来たところで、頭がくらっとして、前のほうに重心が動く。
倒れるーーと思ったところで、手で支えられたので、頭をぶつけなくてすんだ。
でも、魔力らしき何かは、塵になったように消えてしまった。
今のはなんなんだろう?循環させたらいつもこうなるのか?それとも、僕のやり方が間違ってる?
う~ん……わからない。
「じゅんかんはちがうのかなぁ……?」
それなら、他にどんな方法があったっけ……?それとも、考えはあってるけど、やり方がちがう?うむむ……
「よし!とりあえずやれるだけやってみよう!」
考えてるだけ無駄だと判断した僕は、もう一度循環をやってみたり、前にやっていた呪文を唱えたり、手のひらに集めるなどと試行錯誤を繰り返した結果ーー
「ルイ~!もう起きてる……ってどうしたの!?」
「からだ……あつい……」
三十分くらいして、遊びにきたレオンに、高熱を出した状態で発見されることになった。
今は、領主のお嬢さまのドレスの裁縫をしているらしい。
お嬢さまのドレスのことを任されるということは、母さんは相当な腕前なんだろう。お金も、相当には稼いでいたはす。
母さんが働けなかった間、レオンがいろいろなところに出稼ぎに出るわけだ。
「かーさんは、どうやってこのもようつくってるの?」
その腕前の秘密が気になった僕は、母さんの仕事を覗き込みながら聞く。
「練習したのよ。元々、裁縫スキルを持っていたのもあるけどね」
「すきう?」
あっ、るがうまく言えなかった。
子どもの体は、時々こういうことがあるから困る。
でも、母さんには伝わっていたようで、ふふっと微笑みながら言う。
「スキルはね、その人が元々持っているものだったり、練習したりして使えるようになるの。ルイにも、何かあるかもしれないわね」
「どーやってわかるの?」
「少年式や少女式で調べるの。その後は、お金を払えばいつでも調べることができるわ」
あっ、有料なんですか。それくらい、サービスしてくれてもいいような気がするけど、商売の一つなら、あまり贅沢は言えないな。
お金がないと、ろくに生きていけないしね。綺麗事では飯は食えぬってやつだ。
それにしても、スキルかぁ……。ちょっと、使っているところ見たいかも。
「すきるは、どーやってつかうの?」
「魔法と同じように魔力を使うのよ。見せてあげようか?」
「うん、みたい!」
僕が、期待を込めた目で見ると、母さんは縫っていたドレスをその場に置き、小さい布切れを取り出した。
さすがに、お嬢さまに献上するドレスにスキル縫いはできないみたいだ。
母さんは、軽く一息つくと、針の穴に糸を通し、針を布に刺した。
その瞬間母さんの腕は止まることなく、みるみると模様を作り上げていく。
さっきは、かなり丁寧な手つきだったけど、今はロボットのような素早さだ。
五分もたたないうちに、美しい薔薇の刺繍ができあがってしまった。
「わぁ、しゅごい!」
「これは『刺繍』というスキルなの。これを使うと、頭の中に思い浮かべた複雑な模様を、素早く、正確に仕上げることができるのよ」
「ほわぁ~……!」
本当に、機械みたいだ。量産品を作るには便利な力かもしれない。
でも、なんでお嬢さまのドレスには使わないんだろう?
僕がドレスのほうをじっと見たからか、母さんは「ああ」と言って説明してくれる。
「一度は縫ったことがある模様しかできないのよ。あの方は、毎回違うデザインを求められるから」
「へぇ~」
でも、そうやって新しいデザインを考えられる母さんも、すごいと思うけどね。
◇◇◇
「う~ん……」
僕は、部屋で頭を悩ませていた。
どうやったら、スキルが手に入るんだろう?と……
せっかく魔法のある異世界に転生したんだから、チートじゃなくても、スキルの一つや二つは使ってみたい。
異世界に来たんだという幸福感を味わいたい。
でも、母さんのような裁縫スキルは、練習すれば手に入れられそうだけど、三歳児にそんなことさせてはくれないだろうし……
「まずは、まほうからかな」
欲張っても仕方ないと、僕は、新しい日課になった魔法の練習を始めることに。
兄の魔法を何度も見ているうちに、僕は我慢ができなくなって、一人で練習するようになっていた。最近は、ある程度成長したからか、一人になれる時間がかなり増えた。
昼寝した振りでもすれば、簡単に出ていってくれる。
とはいっても、魔法を取得するやり方なんて知らないので、前世のファンタジー小説などの知識を元に、いろいろと試行錯誤を繰り返している状態なんだけども。
今までやったのは、呪文っぽいのを呟いてみるとか、手に魔力を集めてみるとか、そんな感じ。
……うん?成果?使えなかったよ。
手に魔力を集めようと意識したときに、何か温かいような冷たいような、変なものは感じたので、それが魔力かなって思うくらいの進捗率である。
でも、それでめげる僕ではない!
今日は、魔力循環というのをやってみる。よく、体のなかの魔力を感じ取って、循環させるという方法を見かけるから。
感じ取るのは、多分できているので、循環にチャレンジだ。
循環は、ぐるぐると巡らせばそれっぽくなるかなと思って、まずは手に集めてみる。
指が温かいような、冷たいような感覚になったところで、僕はそれを腕の付け根辺りまで戻す。強く念じているからか、お腹に力が入ってしまうけど、それは仕方ない。
僕が慣れていないからか、だいぶゆっくりだけど、腕のほうに移動してきてる何かは感じた。
五分ほどで、腕の付け根まで移動できたので、今度は頭のほうに上らせる。
「うっ!」
首の辺りまで来たところで、頭がくらっとして、前のほうに重心が動く。
倒れるーーと思ったところで、手で支えられたので、頭をぶつけなくてすんだ。
でも、魔力らしき何かは、塵になったように消えてしまった。
今のはなんなんだろう?循環させたらいつもこうなるのか?それとも、僕のやり方が間違ってる?
う~ん……わからない。
「じゅんかんはちがうのかなぁ……?」
それなら、他にどんな方法があったっけ……?それとも、考えはあってるけど、やり方がちがう?うむむ……
「よし!とりあえずやれるだけやってみよう!」
考えてるだけ無駄だと判断した僕は、もう一度循環をやってみたり、前にやっていた呪文を唱えたり、手のひらに集めるなどと試行錯誤を繰り返した結果ーー
「ルイ~!もう起きてる……ってどうしたの!?」
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三十分くらいして、遊びにきたレオンに、高熱を出した状態で発見されることになった。
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