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第一章 優しい家族

2. 水の像

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 異世界に転生してから、半年ほどが経過した。
 ついに僕は、ハイハイによって、自由に動き回れるようになっていた。
 赤ちゃんにしては、早いほうらしく、普通にハイハイしていたら、それはもう驚かれた。

 まぁ、暇なときに、ベッドの上で手足の運動してたからだろうね。

「こーら、ルイ!そっちはだめだって」
「にー!」

 ハイハイしていた僕をひょいっと軽々しく抱き上げるのは、僕の兄であるレオン。
 あの日、お母さんに叱られたレオンは、かなり反省したらしく、僕との距離感をほどほどに保つようになってくれて、今はいいお兄ちゃんである。
 そんな兄を、僕は親しみを込めて『にー』と呼んでいる。

 決して、舌足らずだからじゃないよ!?
 お母さんのことは『かーしゃ』で、お父さんのことは『とーしゃ』だから!舌足らずというのは、こういうことにだけ当てはまるの!

「今日は母さんたちいないから、いい子にしてて」
「あーう……」

 そうは言ってもね、ずっとベッドかお母さんの腕のなかだった僕にとって、動き回れるというのは、最高なんだよ。
 前から見えていた景色も視点を変えるだけで新鮮に見えるんだから。

「その代わり、また魔法を見せてあげるよ。ルイ、好きなんでしょ?」
「あい!みちゃー!」

 はい、見たい!と言ったつもりだったけど、あまり原型残ってない。
 でも、この兄には伝わっているはず。

 この世界には、ファンタジーにありがちな、魔法というものがある。
 魔法は、六歳になり、少年式(女の子の場合は少女式)の項目の一つである選定の儀を受けることで、使用方法を学ぶことが許可される。
 この世界では、魔法は複数の種類があって、代表的なものは、色魔法と魔法陣魔法である。

 色魔法というのは、自分の持つ魔力を消費して、適性のある色に準じて使う魔法のこと。
 どの人間も、必ず一つは適性を持っているらしい。
 適性を調べるときに使われる水晶がカラフルに光ることから、色魔法と呼ばれている。

 現在、存在が判明している色は、『赤』『青』『黄』『緑』『白』『黒』『金』『銀』である。

 『赤』は、俗に言う火魔法で、爆発させたり、暖かくしたりするものも、この色に分類される。
 『赤』の適性がある人は、熱に強くなるので、熱いものや火に、耐性ができるらしい。もちろん、個人差はあるけどね。

 『青』は、水魔法。『赤』とは反対に、凍らせたりとか、冷やしたりとかできる。
 そして、またもや『赤』と逆で、冷たいものに耐性ができる。

 『黄』は、土……というか、自然に関する魔法。土を自在に操ったり、岩を生み出したりする。植物を操ることができる者もいるらしい。
 『赤』『青』とはちがい、何かに耐性ができたりはしないけど、植物が育ちやすくなったり、土の良し悪しがわかったりするそうなので、農家の人たちは、大抵は黄魔法の適性があるそうだ。

 『緑』は風。単純に風を起こして攻撃とかもできるけど、物を自在に操る念力のようなこともできるらしい。それを使って、空を飛ぶことも可能。
 自在に空を飛び回れるというのは、僕からするとわくわくするので、緑魔法の適性があればいいなと思っている。
 そして、『緑』の適性がある人は、音を聞き分けたり、風に乗せられた音を聴くことで、ある程度の周囲の把握ができるそうだ。結構便利かも。

 『白』は、回復魔法や浄化などの、人を癒す力が使える。
 そして、『白』はそんな奇跡みたいな力を起こせるのと、適性がある人が少ないので、どこからも引っ張りだこらしく、『白』の適性があるだけで、今後の人生に困らないと言われるほどらしい。

 『白』の適性がある人は、病気になりにくかったり、ケガの治りが早いらしいので、結構羨ましい。

 『黒』は、闇魔法。辺りを暗くしたり、影から影に移動したりできる。他の色魔法の真似事もできるという噂があるけど、定かかは知らない。
 そして、黒魔法の怖いところは、呪いとかも使えるということだ。だからこそ、白魔法と同じくらいに貴重なのに、差別されることも多いらしい。

 黒魔法の適性のある者は、暗視ができたり、影がものすごく薄かったりするので、闇に生きる者も多いらしい。
 この家族なら大丈夫だと思いたいけど、怯えられたら嫌だから、『黒』の適性は欲しくない。

 『白』と『黒』は、珍しいけど、まぁいなくはないというレベルだった。でも、『金』と『銀』は、さらに貴重で、国に一人でもいればすごいレベル。

 『金』は、支援が得意な色魔法である。体に魔力を纏って、身体能力をあげたり、体を硬化させたりして、防御もできる。
 他の色魔法の適性があれば、それを武器などに付与なんてこともできるのだとか。

 『銀』は、空間魔法が使える。瞬間移動や、異空間に物を収納したり、空間隔離をして守ったりする、いわゆる結界的なものも使えるとか。

 この二つの色魔法のすごいところは、自分だけでなく、他人にも効果を乗せられるところだろう。
 どちらも、軍隊が欲しがる色魔法だけど、適性者が少なすぎるので、金魔法や銀魔法を使う軍隊は、よほどの大国でないと存在しないらしい。 
 もちろん、そういう人間が小国に生まれたりすることはあるけど、大抵は大国に金なり武力なりで奪われるみたいだからね。

 魔法陣魔法は、その名前の通り、魔法陣を描き、その魔法陣に魔力を通して使用する魔法である。
 魔道具を作るときや、大規模魔法を使うときなどに重宝されるため、日常ではあまり使われない。

 色魔法と決定的にちがうことは、充分な魔力さえあれば、適性に関係なく使用できるところだろう。

 さて、魔法のトリビアはこれくらいにして、僕のお兄ちゃんに話を戻そう。

 兄の色魔法の適性は、『青』と『緑』のため、水魔法と風魔法が使える。
 さすがに、家のなかだと風魔法はちょっと危ないので、使ってくれるのは水魔法だ。

 兄は、僕を膝の上に乗せて、ぶつぶつと呪文らしきものを唱えると、小さい水の塊を、指先に生み出した。

「ほわぁー!」

 何度見てもファンタジーだ。マンガやアニメのなかでしかなかった夢が、目の前に繰り広げられていると考えるだけで、感嘆してしまう。

 兄は、くるくると指を動かして、水を操る。
 その指の指示に従うように、水はゆらりと宙を舞い、どんどん膨張していく。

 ちょ、ちょっと?危なくない?大丈夫?

「にー!おーき!ちーしゃ!」

 大きいから小さくと言ったつもりが、よくわからない単語の羅列になってしまった。
 でも、兄には通じたのか、ふふっと笑って、「大丈夫だよ」と言った。

 僕は、ハラハラしながら水の行方を見ていると、水は膨らまなくなり、ぐにゃぐにゃと歪んでいく。

 どうなるんだろうとそのまま見ていると、水はどんどん形を変えて、長細くなっていく。
 大きな変化は終わったのか、動きが細かくなっていき、まるで彫刻でも作るかのように、少し縮んだり、模様が浮かび上がったりしていた。

 見た目は、どんどんと人間に近づいていき、それは、とても見覚えのあるものだった。
 水が完全に動きを止めるのと、僕が指を差したのは、ほぼ同じタイミングだった。

「かーしゃ!」
「そうだよ。そっくりでしょ?」

 自慢気に言う兄に、僕はこくこくとうなずく。

 髪や指の長さ、優しそうに笑う顔には、えくぼができるところまで、母さんそっくりだ。

 魔法って、こんなこともできるのか。僕も、早く使ってみたい。
 でも、家族の目があるから、下手に練習ができないんだよね。

「父さんも作れるけど、見たい?」
「いやない!」

 僕が笑顔でそう言うと、兄は顔をひきつらせた。
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