転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん

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第一章 優しい家族

1. お兄ちゃんとお父さん

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 僕の赤ん坊としての日常は、とにかく寝ることだ。
 寝て、寝て、とにかく寝て……起きている間に、ご飯を食べたり、家族に甘えたりする。

 そして、今日も母親に甘えながら抱っこされていた日のこと。

「今戻ったぞ、ルーシー!ルイ!」

 ダダダと勢いよく階段を駆け上がる音が聞こえたかと思うと、バンと勢いよくドアを開けて、男の人が入ってくる。
 反射的にびくっとしてしまった僕は、瞳に涙を浮かべてしまった。

 どうも、赤ん坊の体は、感情に反応しやすくなっているみたいだ。特に、涙が流れやすい。

 僕の涙に気づいた母は、男を睨み付ける。

「ちょっとあなた!ルイが怯えているではありませんか!」
「す、すまん……。三日ぶりにゆっくりできると思ったら、つい……」

 母に怒鳴られた男は、しゅんと小さくなってしまう。
 この男の人は、僕の父親で、名前はロード。夜空のような紺色の髪に、黒い瞳をしたダンディー。飲食店を経営しているんだけど、今の時期は特に忙しいみたいで、なかなか時間が取れないようだ。

 それでも、客が少ない時間帯に、ちょこちょこ様子を見に来てるけど。
 この家は、一階が飲食店で、二階が僕たちの居住スペースとなっているため、様子を見に来ることはできるから。

 構造は、前世の二世帯住宅に近く、飲食店の入り口は目立つように大きく正面にあり、そこから二階に行くことはできない。二階に出入りするには、裏口を通る必要がある。
 父さんたちの場合は、キッチンのドアから裏口に繋がる廊下に出られるから、わざわざ裏口に回る必要はないんだけどね。

 ちなみに、母であるルーシーは、料理人兼針子の仕事をしているんだけど、育休のような扱いのため、休業中である。

 父は、息子の僕に怯えられたのが相当ショックだったのか、小さくなったまま微動だにしない。まるで石像のようだ。

 仕方ないので、甘えてみることにする。

「たぁー。あーい」

 僕は、ニコニコと笑いながら、父のほうに手を伸ばす。

 父は、そっと様子をうかがっているけど、僕が必死に手を伸ばすと、自分の手を僕の小さな手に合わせてきた。
 僕は、その小さな手で、父の人差し指を掴む。すると、とたんにデレデレした表情になった。

 ふっ、ちょろいな。

 僕が機嫌を直したと思ったんだろう。父は、僕を母さんから奪うように抱き上げて、よしよしと頭を撫でる。
 少し不器用な感じだけど、ちゃんと愛情がある温かい手だった。

「そういえば、あなた。レオンはどうしたの?一緒に帰ってくるって言ってなかったかしら?」
「受付が混んでいるらしくてな。まだ査定に時間がかかるそうだ。もう少ししたら帰ってくるだろう」
「そう……」

 母が、心配そうに僕を見てくる。僕は、そっと目をそらした。
 レオンというのは、ルイの六つ上の兄にあたる。

 そして、レオンを一言で表すならば、ブラコンである。
 今は、働けない母の給料を賄うために、いろいろなところにお手伝いしに行っているのだが、年の離れた弟の僕のことが可愛くて仕方ないのか、家にいるときは、常に僕のところに来て、猫可愛がりするのだ。

 愛してくれるのは嬉しいんだけど、何しろ、レオンは加減を知らない。自分勝手に可愛がってくるので、僕が疲れて寝ようと思っても邪魔されることがある。
 なかなか寝れないから、僕も不満になって、当然ながら泣きわめくわけで、それを聞いた母がすっ飛んできて、僕をあやす。

 母は、なるべく側にはいてくれるんだけど、ご飯の用意とかで、どうしても離れないといけないときもあり、僕はそのときに寝るように心がけているんだけど、兄に邪魔されるというわけだ。
 そのとき、当のお兄ちゃんは、あわあわするだけ。

 そんなことばかり起きてるから、両親は僕が兄のことを嫌いだと思っている節があるらしい。

 嫌いではないんだけどね、タイミングが悪いだけで。

「ルイのことを可愛がってくれるのはいいんだけどね……」
「まぁ、今回は俺がいるから、何かあっても大丈夫だろう」

 その言葉に、僕は固まる。
 いや、むしろ不安なんですけど。お母さんにいてほしいんですけど。

「そうね……」

 母は、ボソッと呟いて同意する。

 ダメだって!力が正義の男たちに任せたら、僕はろくに休めないで、赤ん坊のまま過労死するよ!
 お母さん!正気に戻るんだ!

「あー!あう!」

 嫌だと力一杯に訴えてみる。涙は当たり前のように溢れていた。

「あらあら、どうしたの?お父さんが嫌になったのかしら」
「えっ……」

 母のストレート過ぎる言葉に、父がまたショックを受けているけど、そんなことを気にしている場合ではない。

「よーしよし。もう大丈夫ですよ~」

 母にあやされると、涙は一瞬で引っ込んだ。
 その様子を見て、父が震えながら手を伸ばしてくる。

「ルイ……そんなに嫌なのか?」
「だっ!」

 僕はプイッとそっぽを向いた。ろくでもない提案するからだ。

 僕がチラッと様子をうかがうと、父は石像になっていた。

◇◇◇

 父が帰ってきてから一時間ほどで、再びドアが開く。
 ドアから入ってきたのは、父さんと同じ、夜空のような紺色の髪に、母さんと同じエメラルドグリーンの瞳をした男の子。

「ただいま~」
「おっ、レオン。戻ったか」

 父が、入ってきた少年に声をかける。

 そう。彼こそが僕のお兄ちゃんであり、ブラコンのレオンだ。

 家族の贔屓目で見なくても、結構なイケメンのため、この辺りのお嬢さんたちの初恋の九割は、レオンがかっさらう。
 性格も、頼みごとは嫌な顔もせずに引き受ける優しさと、平民にしては珍しく字が読める賢さと、マナーもいいところが、イケメンにさらに拍車をかける要素だ。

 でも、そんなイケメンも、たちまち家に帰ればーー

「ルイ~!会いたかったよ~!」

 真っ先に弟に駆け寄って、デレデレした顔で抱っこする残念な人になります。
 その抱っこされている弟は、無になるしかありません。

「会いたかったって……今朝も会っただろ」
「何を言うんだよ、父さん!もう八時間三十四分も間が空いてるんだよ!?ルイが足りない!」

 父の冷静なツッコミも、そんな寒気しかしない言葉で反論してきます。

 家には時計はないのに、どうやって正確な時間を割り出してるの?怖いよ?
 あと、ルイが足りないってなに?僕は栄養素じゃないんだけど。

「ルイもお兄ちゃんがいなくて寂しかっただろ~?」

 いや、そんなことないけど。むしろ、たっぷりお昼寝ができて最高でしたけど。
 むしろ、もう少し寝させてくれない?

「う~……!」

 僕が不満を訴えるために足をバタバタしたり、手で押しのけようとしても、兄は絶対に僕を離さない。
 というか、さらに強く抱き締めてくる。ちょっと痛い。
 これでは、まったく寝れそうにない。

「照れてるんでちゅか~?かわいいでちゅね~」

 やーめーろー!はーなーせー!

「だーっ!やっ!やっ!」

 僕が本気の抵抗を見せると、さすがに兄もたじたじになる。父も、さすがに様子がおかしいと思ったのか、音を立てながら椅子から立ち上がり、僕のほうに駆け寄った。

「ルイ、どうした?」
「ルイ……?」
「びゃあああ!!!」

 僕は、いつも以上に涙が溢れていた。
 寝れないことは、赤ちゃんにとっては、相当なストレスのようで、前世では、決して沸点の低いほうではなかった僕も、イライラしていた。

「ルイ!どうしたの!?」

 僕の泣き声を聞きつけたのか、母が颯爽と現れた。
 慣れた手つきで、僕を奪うようにして、それでいて、優しく抱き抱える。
 そして、優しい手つきで撫でてくれて、気持ちを落ち着かせてくれた。

「あう~……」
「もう!なんでレオンはいつもルイを泣かせるのよ!」
「だ、抱っこしてただけだよ!」
「泣いて嫌がってるように見えたわ。そんなときに抱っこなんてしてたらだめよ」
「母さんだって、ルイが泣いたら抱っこするじゃん!僕はルイを可愛がってるだけだよ!」

 自分は悪くないとばかりにそう言うレオン。
 僕がムッと思っていると、母は、パチンとレオンの頬を叩いた。

 えっ?と思っているうちに、母は捲し立てる。

「赤ちゃんはおもちゃじゃないのよ!私がルイを抱っこしてるのは、そうするとルイが落ち着くからなの!あなたみたいに自分勝手な思いはないわ!」
「じ、自分勝手なんかじゃ……」

 兄が何か言おうとするものの、母は止まらない。

「じゃあ、なんでルイを寝かせてあげないのよ!この時間は、いつもお昼寝をしているの!それを邪魔して無理やり抱っこなんかしたら、嫌がられて当然でしょ!」

 兄は、叩かれた頬を抑えながらうつむいた。どこまで理解しているかはわからないけど、自分が何かをやらかしてしまったということは、間違いなく理解している。

「ごめん、なさい……」

 そう言うレオンから、何か光るものが流れる。

 そのとき、僕は、レオンが泣いていることに気づいた。
 まぁ、あんな風に大声で怒鳴られたら怖いか。ちょっと、悪いことしたかなぁ。

「おい、ルーシー。もうそれくらいに……」

 父が仲裁しようとしてくるけど、母は今度は父のほうを睨みつける。

「あなたもあなたよ!なんで止めないの!レオンのときのことをもう忘れたの!?」

 何も言い返せないのか、父は目をそらす。
 父さん、なんか前科があるっぽい……?

「ほんと、男たちは頼りにならないんだから……!」

 イライラした形相で、母が呟くように言う。
 間近でそれを見ている僕は、ちょっと怖い。

 そして、恐怖を感じると、赤ん坊が取る行動は一つ。

「ふぇっ、ふぇ~ん……」

 そう、泣くのである。体に引っ張られるとはいえ、ちょっと怖いくらいで泣くのは恥ずかしいけど、涙は止まってくれない。
 そうなると、当然ながら、母は慌ててあやす。

「あら、眠いの?待ってて、今ベッドに……」

 母は、慌てて僕をベッドに置こうとする。
 無理だよ!いくら寝るのが仕事だからって、こんな最悪な空気感で眠れるわけないじゃん!

「やっ!やっ!」

 僕が抵抗すると、母はおどおどするだけだった。
 普段なら、僕が不機嫌な理由をすぐにひらめいて、対処するんだけど、それをしないということは、考える余裕もないのかもしれない。

 母さんは、疲れてるんだ。

 ならばと、僕はそこで呆然としている男たちを視界に入れる。

「あう!だー!」

 僕が手で必死にアピールすると、最初はポカンとしていたけど、兄はなんとなく察しがついたのか、少しずつ近づいてきて、僕が伸ばした手に触れる。

「あーい!」

 ここぞとばかりに喜んで見せると、兄は、嬉しそうにしながらも、慎重に母から僕の抱っこを変わった。
 ブラコンとしては、思いきり抱きついたりしたいんだけど、母から言われたのが聞いているのか、手つきが先ほどとちがって優しい。

 そして、ゆりかごみたいに、ゆっくりと揺らしている。母さんの真似かな。

 赤ん坊の僕は、泣き疲れたのもあるのか、それだけで気づいたらぐっすりと眠ってしまっていた。
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