48 / 61
第二章 学園生活の始まり
112.
しおりを挟む
お出かけのお誘いを受けてから三日後。私たちはお忍びで出かけることになった。
視察のための服を買うから、貴族用の華美な服よりも機能性の高い庶民の服のほうがいいらしい。
でも、そんな店に王子がぞろぞろとやってきたら大騒ぎどころではないので、お忍びで向かうわけだ。
まぁ、お店の人は王家もお忍び用の服を買ったりして懇意にしているそうだから多分驚かないけどね。
そのお忍びはというと、髪や瞳の色を変えて、服も飾り気のないものにするというもの。でも生地は最上のものだ。
あくまでも貴族のお忍びというスタイルは変えずに、王子だと思われない程度にするってことみたいだ。
完全に平民に溶け込むとトラブルに巻き込まれる可能性もあるからとのこと。まぁ、中身はともかく見た目は子どもだもんね。
どうやって姿を変えるかというと、魔法を使うらしい。染め粉とかもあるんだけど、魔法のほうがムラが出ず、髪色を戻しやすい。髪も痛まないそうだ。
姿を変える魔法は闇属性の魔法なので、ハーステッドお兄さまが行うことになる。
ハーステッドお兄さまは手慣れているのかさっと髪色を変えてしまった。
色は薄茶色で、心なしかわたしの髪色と同じに思える。
お兄さまたちは嬉しそうにしていて、エルクトお兄さまだけが髪色を見て呆れていた。きっと、私と同じ感想を抱いていたのだろう。
でも、それとは別にもう一つ気になることがある。
「ハーステッドお兄さま。目の色は変えないんですか?」
変わったのは髪色だけで瞳は変わっていないのだ。私やハーステッドお兄さま、ルーカディルお兄さまはともかく、シルヴェルスお兄さまとエルクトお兄さまの金の瞳は王族の証なので、目を見られれば正体は一発でバレる。
「目は魔法具を使うんだよ。魔法を使って失敗したら、魔力が暴走して目が見えなくなる可能性があるから。魔法薬を使うこともあるけど……それも魔法よりはマシって程度だし」
「そうなんですか……」
それは知らなかった。でも、魔力が神経を傷つけるというのはあり得なくはなさそうだ。
だって、魔法は相手を傷つけることができるのだから。その元である魔力でも傷つけることはできてもなんらおかしくないし、むしろ当然のことといえる。
でも、目の色を変えるってどうするのかな。
「よく使うのはこれだよ」
シルヴェルスお兄さまが見せてくれたのは、一見するとどこにでもありそうなシンプルな作りのメガネだった。
これが魔法具なの?
私が訝しんでいるのを察したのか、シルヴェルスお兄さまはクスリと笑って眼鏡をかける。
(うわぁー!メガネ姿ヤバい!)
イケメンがメガネをかけるという最高のシチュエーションに見惚れていると、瞳の色が一瞬で金から黒に変わってしまった。
おおー、すごい!すごいん……だけど。
「なぜ瞳まで黒くした?」
私の言葉を代弁するようにエルクトお兄さまが尋ねる。
そんなエルクトお兄さまの瞳は青色なので、別に黒しかないというわけではなく、シルヴェルスお兄さまが自分の意思で黒色を選んだのだろう。
でも、髪色も同じ感じなのに、瞳も黒かったら色合いが私と一致しますよね。
「お忍びでくらい色を揃えてもよいではありませんか。アナとは同腹ですが、あまり似ていませんし」
確かに、私はシルヴェルスお兄さま……に限らず、同じく同腹のヴィオレーヌお姉さまとも似ていない。
強いていえばシュリルカお母さま……?でも、それも共通点は童顔ってことくらいだしなぁ。
隔世遺伝という可能性もあるだろうけど、どうしてこんな地味~な色合いなんだか。
「でも、兄上だけずるくない?僕だって目の色揃えたいのに」
「俺も……」
いや、勘弁してください。お兄さまたちはただでさえ容姿端麗だというのに、色合いまで揃えたら確実に目立ちますよ。
ある程度はバラバラのほうがある意味溶け込めると思うんですけど。
エルクトお兄さまがはぁとため息をついて言う。
「お前たちは隠さないほうがいいだろう?」
「わかってますよ、そんなことは」
エルクトお兄さまの言葉に内心でうんうんと頷いていると、ふと引っかかりを覚える。
エルクトお兄さまの言葉はどういう意味だ?
隠さなくてもいいとか、隠す必要がないならわかる。だけど、隠さないほうがいいというのは少しおかしくないだろうか。
ハーステッドお兄さまはエルクトお兄さまの言葉がなんらおかしいとは思っていない様子。なら、何か意味があるんだろうけど……聞いたら教えてくれるだろうか。
「あのーー」
「無駄話していないでさっさと行くぞ」
私が聞こうとした瞬間に、話を切り上げるようにしてエルクトお兄さまが先導する。なんか、パーティーでも同じことがあったような気がしますよ?
あの時はお父さまたちが来たから聞けなかったけど、今回はそうはいかない。
「お兄さま。先ほどの言葉はどういう意味ですか?」
私がエルクトお兄さまの服を引っ張って尋ねる。
エルクトお兄さまはハーステッドお兄さまたちのほうを見ながら言う。
「気になるなら奴らに聞け」
私もお兄さまたちのほうを見た。ハーステッドお兄さまはにこりと笑って言った。
「また今度ね」
どうやら、私の疑問が解消されないのは変わらないみたいです。
視察のための服を買うから、貴族用の華美な服よりも機能性の高い庶民の服のほうがいいらしい。
でも、そんな店に王子がぞろぞろとやってきたら大騒ぎどころではないので、お忍びで向かうわけだ。
まぁ、お店の人は王家もお忍び用の服を買ったりして懇意にしているそうだから多分驚かないけどね。
そのお忍びはというと、髪や瞳の色を変えて、服も飾り気のないものにするというもの。でも生地は最上のものだ。
あくまでも貴族のお忍びというスタイルは変えずに、王子だと思われない程度にするってことみたいだ。
完全に平民に溶け込むとトラブルに巻き込まれる可能性もあるからとのこと。まぁ、中身はともかく見た目は子どもだもんね。
どうやって姿を変えるかというと、魔法を使うらしい。染め粉とかもあるんだけど、魔法のほうがムラが出ず、髪色を戻しやすい。髪も痛まないそうだ。
姿を変える魔法は闇属性の魔法なので、ハーステッドお兄さまが行うことになる。
ハーステッドお兄さまは手慣れているのかさっと髪色を変えてしまった。
色は薄茶色で、心なしかわたしの髪色と同じに思える。
お兄さまたちは嬉しそうにしていて、エルクトお兄さまだけが髪色を見て呆れていた。きっと、私と同じ感想を抱いていたのだろう。
でも、それとは別にもう一つ気になることがある。
「ハーステッドお兄さま。目の色は変えないんですか?」
変わったのは髪色だけで瞳は変わっていないのだ。私やハーステッドお兄さま、ルーカディルお兄さまはともかく、シルヴェルスお兄さまとエルクトお兄さまの金の瞳は王族の証なので、目を見られれば正体は一発でバレる。
「目は魔法具を使うんだよ。魔法を使って失敗したら、魔力が暴走して目が見えなくなる可能性があるから。魔法薬を使うこともあるけど……それも魔法よりはマシって程度だし」
「そうなんですか……」
それは知らなかった。でも、魔力が神経を傷つけるというのはあり得なくはなさそうだ。
だって、魔法は相手を傷つけることができるのだから。その元である魔力でも傷つけることはできてもなんらおかしくないし、むしろ当然のことといえる。
でも、目の色を変えるってどうするのかな。
「よく使うのはこれだよ」
シルヴェルスお兄さまが見せてくれたのは、一見するとどこにでもありそうなシンプルな作りのメガネだった。
これが魔法具なの?
私が訝しんでいるのを察したのか、シルヴェルスお兄さまはクスリと笑って眼鏡をかける。
(うわぁー!メガネ姿ヤバい!)
イケメンがメガネをかけるという最高のシチュエーションに見惚れていると、瞳の色が一瞬で金から黒に変わってしまった。
おおー、すごい!すごいん……だけど。
「なぜ瞳まで黒くした?」
私の言葉を代弁するようにエルクトお兄さまが尋ねる。
そんなエルクトお兄さまの瞳は青色なので、別に黒しかないというわけではなく、シルヴェルスお兄さまが自分の意思で黒色を選んだのだろう。
でも、髪色も同じ感じなのに、瞳も黒かったら色合いが私と一致しますよね。
「お忍びでくらい色を揃えてもよいではありませんか。アナとは同腹ですが、あまり似ていませんし」
確かに、私はシルヴェルスお兄さま……に限らず、同じく同腹のヴィオレーヌお姉さまとも似ていない。
強いていえばシュリルカお母さま……?でも、それも共通点は童顔ってことくらいだしなぁ。
隔世遺伝という可能性もあるだろうけど、どうしてこんな地味~な色合いなんだか。
「でも、兄上だけずるくない?僕だって目の色揃えたいのに」
「俺も……」
いや、勘弁してください。お兄さまたちはただでさえ容姿端麗だというのに、色合いまで揃えたら確実に目立ちますよ。
ある程度はバラバラのほうがある意味溶け込めると思うんですけど。
エルクトお兄さまがはぁとため息をついて言う。
「お前たちは隠さないほうがいいだろう?」
「わかってますよ、そんなことは」
エルクトお兄さまの言葉に内心でうんうんと頷いていると、ふと引っかかりを覚える。
エルクトお兄さまの言葉はどういう意味だ?
隠さなくてもいいとか、隠す必要がないならわかる。だけど、隠さないほうがいいというのは少しおかしくないだろうか。
ハーステッドお兄さまはエルクトお兄さまの言葉がなんらおかしいとは思っていない様子。なら、何か意味があるんだろうけど……聞いたら教えてくれるだろうか。
「あのーー」
「無駄話していないでさっさと行くぞ」
私が聞こうとした瞬間に、話を切り上げるようにしてエルクトお兄さまが先導する。なんか、パーティーでも同じことがあったような気がしますよ?
あの時はお父さまたちが来たから聞けなかったけど、今回はそうはいかない。
「お兄さま。先ほどの言葉はどういう意味ですか?」
私がエルクトお兄さまの服を引っ張って尋ねる。
エルクトお兄さまはハーステッドお兄さまたちのほうを見ながら言う。
「気になるなら奴らに聞け」
私もお兄さまたちのほうを見た。ハーステッドお兄さまはにこりと笑って言った。
「また今度ね」
どうやら、私の疑問が解消されないのは変わらないみたいです。
187
お気に入りに追加
4,592
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

私には何もありませんよ? 影の薄い末っ子王女は王の遺言書に名前が無い。何もかも失った私は―――
西東友一
恋愛
「遺言書を読み上げます」
宰相リチャードがラファエル王の遺言書を手に持つと、12人の兄姉がピリついた。
遺言書の内容を聞くと、
ある兄姉は周りに優越を見せつけるように大声で喜んだり、鼻で笑ったり・・・
ある兄姉ははしたなく爪を噛んだり、ハンカチを噛んだり・・・・・・
―――でも、みなさん・・・・・・いいじゃないですか。お父様から贈り物があって。
私には何もありませんよ?

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。