私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん

文字の大きさ
上 下
42 / 61
第二章 学園生活の始まり

106. 

しおりを挟む
 パーティーの翌日。私は約束していた通りカイエンのお菓子を堪能していた。
 夢中で頬張る私に、カイエンは呆れた視線を向けてくる。

「よく食べますね」
「甘いものはいくらでも食べられるでしょ?」
「いえ、私には限度があります」

 そう言いつつも、スローペースではありながらお茶と一緒にお城で出されたお菓子を食べている。

「カイエン。聞きたいことがあるんだけど」

 私が話を切り出すと、カイエンはお菓子に手を伸ばしながら「何でしょう?」と聞いてくる。

「伯爵夫人のことを母と呼ばなかったのはなんで?」

 カイエンの体が硬直する。私は少し戸惑いながらも言葉を続けた。

「伯爵のことは父と言って、ルージアのことは姉と言ってたのに、どうしてかなと思って」

 カイエンの表情が強ばっていく。私は、決してカイエンから目をそらすことはしなかった。
 カイエンは観念からかはぁとため息をついて理由を話してくれた。

「私の母親は伯爵夫人ではないので」
「それって……」

 どういうことと続けようとしたところで気がついた。

 この国は一夫多妻制であり、ほとんどの貴族は婚姻関係の妻が複数存在する。位によって第一夫人や第二夫人と呼ばれることはあっても、全員が夫人であることは変わりなく、それはフォークマー伯爵家も同じ。
 だけど、例外がある。それは、婚姻関係を結んでいない女性……いわば、妾と呼ばれる存在であり、身分や立場などで婚姻関係を結ぶことができない相手を妾とすることが多い。
 母親が伯爵夫人ではないというのは、そういう意味だろう。

 お父さまは政略的なものがほとんどだし、恋愛にうつつを抜かしたりはしないから妾はいないけど、貴族だと決して少なくはないそうだ。

「ルージアの当たりが強いのってそういうこと?」
「まぁ……そうなりますね」

 側近だから踏み込んでもいいかと思って聞いたけど、早速後悔し始めている。

「ですので、私にはミドルネームは存在しません。当主候補として認められていないので」

 そう言われて、私はカイエンのフルネームを思いだしハッとなる。

 カイエンの名前は、カイエン・フォークマー。
 ルージアの名前は、ルージア・リナ・フォークマー。

 この国の法律では、ミドルネームは貴族だけが持ち、ミドルネームを持つ者だけが当主となることができる。

 当主と当主候補によってミドルネームも異なり、王族……つまり国王ならばミドルネームはヴォル。国王候補である王位継承権所有者はミドルネームはヴィラとなる。
 私も継承権は最下位ながら持っているのでヴィラのミドルネームがあります。

 貴族の場合は当主がロア、当主候補がリナ。

 なんでこんなミドルネームが使われるようになったかというと、名付けの問題があったためだ。
 昔は名前は長ければ長いほど身分が高かったため、たくさんの名前をつけることがあったんだけど、それで自分よりも高位な人の子どもと名前が被ってしまったり、庶子は短い名前をつけられることが多かったんだけど、それでも父親が上級貴族だったりすると、下級貴族の嫡子よりも名前が長くなっちゃったり……などのトラブルがあったりしたので、ミドルネームで立場を決めるようになったらしい。

 それに伴い、名前もどんどん短くなってきたのだ。お陰で昔の人物の名前は長すぎて覚えられない。
 私、よく歴史の試験合格できたなと思うくらいには覚えられない。

「手を出してくるのはルージアだけですよ。他はいないものとして扱ってくるのでましなほうです」
「ルージア以外にもいるの?」
「兄が二人と姉がもう一人。全員が学園に通っています」
「そうなんだ」

 パーティーではそれっぽい存在は見かけなかったけど……お互いに関わらないようにしてるのかな。

 貴族の兄弟は大体がこんな感じなんだろう。家督を争う関係だしね。私の兄姉たちも、私がいない時は仲が悪そうだってライが言ってたし、私もその片鱗くらいは見たことあるし。
 しかも、王さまになりたがっている感じはしないから、単純に性格が合わないだけの可能性が高そうっていうね。

 私がふとカイエンの様子を伺うと、あまり浮かない顔をしている。
 やっぱり話したくなかったのかなと思うと、罪悪感が強い。

「あまり聞かれたくなかった……?」
「話していて気分のいいものではありませんね」

 それって、いいのか悪いのかどっち?
 カイエンって、どっちつかずな言い回しばかりするから本心が読み取りにくいんだよね。

「……その目は何ですか?」
「ちゃんと話してほしいって目だけど」
「話したでしょう?」

 そういうことじゃないんだけどなぁ……。まぁ、今はいっか。

「じゃあ、他にもいろいろ聞こうかな~?」
「……他とは?」
「だって、ほとんど知らないから。カイエンのこと」

 カイエンのことは、フォークマー伯爵令息、魔法が火、水、風、地の四属性。認定試験は座学で満点という対外的なことしか知らないんだよね。
 今の会話でカイエンが妾の子ってのはわかったけど、それも知ってる人は知っている対外的なものだろう。

 でも、どうせならもっと単純なことも。

「好きな食べ物とか、趣味とか、将来の夢とか。知りたいことはいっぱいあるから、教えてほしいなって」

 主と側近という関係になった以上は、これからもずっと関わっていくことになるのだ。そんな相手のプロフィールを知らないなど言語道断。
 カイエンは珍しくぽかんとしていたけど、ふっと笑って言った。

「我が君のお望みでしたら」
「ありがとう!カイエンも私のこと知りたかったら聞いていいからね」
「いえ、それは結構です」
「なんで!?」

 側近なら私のことも知ろうとせんかい!
 むすっとした態度で不満げなことをアピールするも、カイエンは澄まし顔のまま。

「アナスタシアさまの嗜好に関する情報は秘匿されているでしょう?」
「それはちゃんとわかってるよ」

 そんなミスをしたことがバレたら、そのことを教えてくれたヴィオレーヌお姉さまになんて言われるかわかったものではない。
 あの人を怒らせたら普通に怖いもん。

「アナスタシアさまがお話しされるときは、きちんとお聞きしますから」
「……そっか」

 つまりは、私から話すまで待つってことね。私のことを聞き出そうとはしないってことかな。

「じゃあ、とりあえずお互いの好きなものでも……」
「話聞いてました?」

 カイエンの冷たいツッコミが飛んできた。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

私には何もありませんよ? 影の薄い末っ子王女は王の遺言書に名前が無い。何もかも失った私は―――

西東友一
恋愛
「遺言書を読み上げます」  宰相リチャードがラファエル王の遺言書を手に持つと、12人の兄姉がピリついた。  遺言書の内容を聞くと、  ある兄姉は周りに優越を見せつけるように大声で喜んだり、鼻で笑ったり・・・  ある兄姉ははしたなく爪を噛んだり、ハンカチを噛んだり・・・・・・ ―――でも、みなさん・・・・・・いいじゃないですか。お父様から贈り物があって。  私には何もありませんよ?

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。