私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん

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第二章 学園生活の始まり

105. (神器視点)

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※第2巻エピローグの書き下ろしに登場した魔鏡が出てきます。読まなくても理解できるストーリーにはしてありますが、よろしければ2巻をご覧になってからお読みください。
(レンタルは2-16に収録してあります)

ーーーーーーーーーー

 アナスタシアがパーティーで疲弊している頃、アナスタシアの離宮の私室では、ライがのんびりとくつろいでいた。
 部屋には水鏡もいるが、必要以上の会話をする関係でもないため、互いに関わりを持っていない状態だったが……

『おい、水鏡』
『わかってる』

 ライの呼びかけに水鏡はため息をつきながら応答する。
 その瞬間、ミニテーブルの上に無造作に置かれたペンダントが光の粒子となり、人の形を取った。
 それとほぼ同時に、ライも人間の姿となる。水鏡が人の姿になったのは、神器の姿のままだと抵抗が難しく、獣よりは人間状態のほうが力の消費が少ないからだが、ライが変化したのは単純に合わせただけである。

「隠れてるつもりがねぇんなら出てこい」

 ライが外に向かって呼びかけると、窓の向こうに一人の少女がふわふわと浮かびながら現れた。
 それは、人間形態となっている吸魔の指輪である。

「な~んだ。金剣はこっち残ってたんだ」

 ぶつぶつと言いながら指輪はふっとその場から消えると、部屋の中に再び出現した。
 これは、神器の持つ能力の一つである空間移動だ。
 神器の空間移動は、現在地からの距離さえ把握していればどこへでも自由に瞬間移動することができ、自分自身だけでなく、周囲の生物も移動させることができる。
 学園の森でアナスタシアとカイエンが水鏡により飛ばされたのもこの力である。

 空間移動は、どんな神器でも可能だが、それなりに力の消耗があるため、よほどの長距離を移動するときか、緊急時にしか使わない。
 決して、目の前の部屋に入るためだけに使うものではないのだ。

(やっぱり、力を惜しまないな……)

 指輪が契約したのがあの書物に載っていたアリーという人物であるのなら、もう亡くなっているため指輪の契約者は存在しないはずだ。
 主となる契約者を持たない神器の力は有限であるため、無闇に使うことはないはずなのだが、指輪は力を使うことを惜しむ様子が見られない。
 仮契約している人間がいるのかもしれないが、指輪の性格を考えると腑に落ちない。

 誰かに忠実になることもなく、好き勝手に周囲を振り回す相手と手を組むことはないだろうし、指輪は本性を隠して行動できるほど世渡り上手でもない。
 まぁ、聞いたところで適当にはぐらかされるだけだろうが。
 
「それで、何をしに来た?」
「勧誘なら断ったはずなんだけど」
「いやまぁ、できることならやりたいけど、今回はそれとは別というか、いや、関係なくはないんだけど」

 珍しく言い淀む指輪に二人は訝しむ。

「はっきり言え、お前らしくもねぇ」

 ライが急かすように言うと、指輪はクスッと笑って用件を告げる。

「多分、しばらくはあんたたちに手は出さないよって話をしに来ただけ。いろいろと立て込んでてね」

 指輪の言葉に二人の疑惑はさらに深まる。

「お前が立て込むことなんてねぇだろ」
「ただの暇人のくせして」
「キウのことをなんだと思ってるのさ!」

 二人からの散々な評価に指輪が噛みつく。だが、なまじ自覚がある分、それ以上の言葉は出てこない。

「……まぁ、そういうことだから。パーティーから帰ってきたらお姫さまと王子さまにも伝えといてよ」

 そう言って立ち去る気配を見せた指輪をライが「待て」と呼び止める。
 指輪は顔だけを後ろに向けた。

「ちょうどいいからな、お前に聞きたいことがある」
「なに?」
「神器のことを人間に吹き込んだのはお前か?」

 指輪はきょとんとしていたが、とたんにクスッと笑う。

「違うよ~?水鏡のことを知ったのは最近だし」

 ニヤニヤとしているが、その言葉に嘘はないように思えた。
 だが、真実を話したわけでもない。

「聞きたいことがそれだけなら、またね」

 指輪は、目の前から突如として消える。また空間移動をしたのだろう。

(また面倒なことが起こりそうだな)

 これからの未来を想像して、ライはため息をついた。

◇◇◇

 用事を終えた指輪は、事前に決めていた待ち合わせ場所へと向かう。
 待ち合わせ相手はすでに到着していたようで、指輪の気配に気づいたのか、視線を向けてきた。

「やあ、魔鏡。待たせちゃった?」

 指輪に魔鏡と呼ばれた少年は、上から下に向かって指輪の様子を見た後、はぁとため息をつく。

「手ぶらで帰ってきたということは、成果はなさそうだな」
「金剣が残ってたからねぇ~。さすがにあの二人と戦うのはムリムリ」

 相も変わらない指輪の態度に魔鏡はすでにストレスが溜まり始めていた。
 命令がなければ一緒に行動するなど万に一つもあり得ないというのに。

「まぁ、エサは撒いてきたから、それに食いついたらってところかな」
「エサだと?」

 指輪が命じられたのはあくまでも水鏡の回収のみであり、そのようなことは命じられていなかったはずだ。
 命令違反をすることはよくあるが、わざわざそれを口にするようなことはいくら指輪が抜けていたとしてもやることはない。

 ならば、考えられることは一つ。

「お前にだけ下された命令があったようだな」
「そっ。お姉さんにやってこいって言われたからね。何の意味があるのかわかんないけど」
「あの人は無意味なことはしない」

 冷たい目を向けてくる魔鏡を、指輪は軽く睨み付ける。
 わざわざ魔鏡に言われなくても、そんなことくらいはわかっている。

「じゃあ、その意味のある指示をあんたはこなせたって言うの?」
「目的は果たした」
「へぇ~?目的果たしたんだぁ~?」

 魔鏡の言葉の意味に気づいた指輪はじっとりとした目で魔鏡に圧をかける。
 しばらく黙っていた魔鏡だが、観念したように口を開いた。

「第一王子に気づかれた可能性があるってだけだ」
「はぁ?そんな至近距離で見てたの?」

 魔鏡の能力を使うには、対象となる存在を一度は視界に入れておく必要があるが、それは個々を判別できる程度の距離で問題はない。
 だからこそ、魔鏡の存在が人間に気づかれることなどないはずだ。

「当然、距離は取っていた。だが、視線に気づいたのか、こちらを睨み付けてきた」
「うわぁ……やっぱヤバイね、あの王子さま」

 いくら気にも止めてない存在だったとはいえ、神器である指輪に一撃を入れられる存在が普通の人間であるはずはなかった。
 だが、気配をとぼけさせるだけでなく、居場所も勘づかれるとなると、監視は難しいだろう。……通常ならば。

「まぁ、ちゃんと見てきたんならいいんだけどさ」
「お前に許される必要などない。さっさと戻るぞ」
「あいつらにもいろいろ言われたけど……やっぱあんたからだとイライラ度合いが違うね」
「奇遇だな。僕もお前の一言一言に腹が立って仕方ない」

 互いに言い合いながら、二人の少年少女の姿は、闇に消えていった。
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