私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん

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第二章 学園生活の始まり

102.

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 パーティー会場はすでに大勢の人でごった返していた。各々が交流を重ねて、人々の声が音楽と共鳴するかのように会場に響いている。
 でも、そんな賑やかな空間は、さらに盛り上がることとなる。

 レニシェン王国トップの権力者であるアルウェルト王家が入場してきたのだから。
 その盛り上がりぶりはまさにライブ会場さながら。

「ヴィオレーヌさま、美しい……!」
「エルクトさまだわ!素敵……!」
「ルナティーラさま、なんて可憐なんだ……!」
「シルヴェルスさまも気品があるわ……!」
「ハーステッドさまは影があるわ……」
「ルーカディルさま……直視できない」

 そんな声があちらこちらから聞こえて、改めてお兄さまたちの人気ぶりを再認識する。
 当の本人たちは普通だけど。むしろ、煩わしいとばかりに顔を歪めているくらい。

 でも、皆さまの感想には激しく同意します。特に、ハーステッドお兄さまとルーカディルお兄さまに関してのものは。

 お兄さまたちが注目されているうちに、私はすーっと空気のように会場入りした。私に対する反応は、特に聞こえてこない。

 よしよし、誰にも気づかれずに潜入成功。このまま抜き足差し足忍び足で壁の花に……

「何をこそこそしてるんですか?アナスタシアさま」
「へあっ!?」

 後ろから声をかけられたことで、変な声を出してしまった。声の主は会いたかったような会いたくなかったような人。

「驚かせないでよ、カイエン……」
「私はあなたの悲鳴に驚きましたけど」

 呆れた視線を向けてくるカイエンも、きっちりと着飾っている。
 髪色と同じ紺色のフォーマルジャケット着ている。飾り気はあまりないけど、そのシンプルさがカイエンの魅力を引き立てていた。

「カイエンも今日はカッコいいね」
「アナスタシアさまも今日は素敵ですよ」

 お互いに今日はという部分を強調するように相手を褒める。
 着飾っていても社交の場でも私たちの関係は変わらない。

「というか、よく私のことに気づいたね」

 カイエンは、私が会場入りしてすぐに話しかけてきたから、私が会場入りしたときには私の存在に気づいていたはずだ。
 でも、入場したときはお兄さまたちのほうに注目が集まっていて、私は空気同然だったのに、なんで気づけたんだろう?

「アナスタシアさまはかなり目立っていましたが」
「えっ、嘘!」

 周囲からは私について噂する声なんてまったく聞こえなかったから、てっきり気づいてすらいないものだと思っていたのに。

「他の王子殿下や王女殿下が堂々となさっているなか、一人だけ挙動不審な動きをしていれば嫌でも目に入ります」
「でも、私のことについては何か言っている感じはしなかったけど」
「それはそうでしょうね」

 私の疑問に、カイエンは肯定の言葉だけを口にして、理由までは話さなかった。
 即答しているから、理由にも心当たりがありそうだけど、多分話してくれないだろうな。

「アナスタシアさま」

 私を呼ぶ声が聞こえて、そちらのほうに顔を向けると、一人の少女がいる。
 彼女は紫色の髪に朱色の瞳をしている。

(……誰?)

 そんな心の声が顔に出ていたのかわからないけど、彼女は私に自己紹介してくれた。

「フォークマー伯爵家次女、ルージア・リナ・フォークマーと申します」

 フォークマーと聞いて、私は無意識にカイエンのほうに視線を向ける。カイエンは目を伏せるようにして頷いた。
 私はため息をつきたくなるのを堪えて、王女としての言葉を返す。

「アナスタシア・ヴィラ・アルウェルトです。フォークマーならば、カイエンの姉に当たるのでしょうか?」
「はい。年は同じなのですが、私のほうが生まれが早いので」

 ふむふむ。ハーステッドお兄さまと同じパターンね。なら、少女式のときにもいたはずなんだけど、まったく覚えてない。
 あのときは、式を乗り越えることに集中してたのと、リルディナーツさまとの対話とかいろいろあって、隣にいたエリシアさんしか目に入ってなかったしなぁ……

「カイエンから聞きましたが、アナスタシアさまは座学の認定試験には合格なされたとか」

 表情はニコニコしていて印象は悪くないけど……なーんか、言葉の節々にトゲがある気がするなぁ。
 座学の認定試験にはって……確かに、私は魔法の実技には受かってないけども。
 一度、釘を刺しておくべき?でも、相手は六歳だし、ここで敵対的になってしまうと、カイエンがどんな扱いを受けるかわからない。
 カイエンからルージアさんに暴力を振るわれているみたいな話もこの前聞いたし、カイエンのためにもはっきりと言うのはやめておこう。

「お兄さまたちが丁寧にお教えくださったので、そこまで難しくはありませんでしたよ」

 私は、釘を刺す……とまでは言わなくても、忠告めいた言葉を告げる。

「……まあ、そうなのですか」

 ルージアさんはワンテンポほど遅れて返事をした。
 子どもだしこれくらいにしておくかと思ったその瞬間。

「皆さまは優秀なお方ですものね」

 ルージアさん……いや、ルージアから言葉のナイフをぶん投げられた。
 皆さま“は”ということは、私はそうではないと言っているも同然だ。
 ふーん?そっちがその気ならやってやろうじゃないか!

「ええ、私からお願いしたこととはいえ、まさか毎日教えてくださるとは思いませんでした。きっと生徒会のことでお忙しいでしょうに」

 ハーステッドお兄さまとルーカディルお兄さまの生徒会入りに私が関わっているのを知らない生徒はまずいない。
 エルクトお兄さまやルナティーラお姉さまとは違い、ハーステッドお兄さまとルーカディルお兄さまは、すでにシルヴェルスお兄さまが生徒会長を務めていたため、生徒会に入る必要はなく、まっすぐにお城に帰ってきていた。
 でも、教師たちからすれば優秀なお兄さまたちには生徒会に入ってほしくて勧誘していたものの、あの二人は私に会えなくなるからという理由で拒否し続けていた。
 その二人を私の一言で入会させたのだ。まぁ、ちょっとトラブルもありましたけど。

 ルージアはその場にはいなかったと思うけど、それを知らないはずがない。

 その上で私の言葉を訳すなら、『私のお願いならなんでも聞いてくれるの』という意味合いになるのだ。
 嫌味と言えるかは微妙なラインだけど、お兄さまたちのことは褒めつつも私をバカにしてくるこの子にはそれなりに効果はあるはず。

 完璧な兄姉たちが落ちこぼれの私の言いなりになっているとも取れるからね。そんなことはないけど。

「皆さまはとてもお優しい方ですもの。アナスタシアさまの些細な頼みも快くお引き受けくださるのでしょう」

 むむむ。なかなか手強いな。カイエンからの評価が散々だったから、これくらい言えばどうにかなると思ってたんだけど。
 これ以上の口撃は私には厳しい。過剰攻撃になると、皺寄せがカイエンに行きかねないし……

 どうしようかと悩んでいる頭に、何かがぽんぽんと触れる。

「僕はアナの頼みならなんでも聞いてあげるけど?」

 声が聞こえたほうにくるりと振り返ると、そこにはハーステッドお兄さまがいた。

「ハーステッドお兄さま……なぜこちらに?」

 たまたま私のことを見つけたのだとしても、あまりにもタイミングが良すぎないだろうか。
 お兄さまはふいに私から視線をそらす。その視線の先にはカイエンがいた。

「あれが僕のことを呼びに来たんだよ。アナが絡まれてるから来てくれって」

 あれって……。カイエンが気に入らないのは知ってるけど、呼び方がひどすぎる。
 というか、私を置いて何してるんだ!これくらい一人でなんとかしたのに。

「それで、フォークマー令嬢はアナと何の話をしてたのかな?」

 お兄さまに尋ねられたルージアは、なぜか目を輝かせながら答える。

「アナスタシアさまのご家族は素晴らしい方々だという話をしておりました」

 うん、間違ってない。本当のことも言ってないけど。
 でも、その言葉に隠された真実に気がつかないお兄さまではないだろうけど。

「僕たちはそこまでできた人間じゃないよ。可愛い妹のために互いに足を引っ張るどころか、へし折るくらいはするからね」

 ニコニコしながら恐ろしいことを言う。ハーステッドお兄さまの笑顔を見ると、へし折るというのが物理的な意味に聞こえる。

 ……違うよね?単なる足を引っ張るという慣用句の上位互換程度ですよね?

 ルージアはというと、より一層目を輝かせている。

「お互いに競いあって技術を高めていらっしゃるのですね。素晴らしいです!」

 今のどこをどう聞いたらそうなった?
 その思考もだけど、先ほどまでの私に向けていた態度とあまりにも違いすぎませんかね?
 まさかと思うけど、お兄さまたちに媚でも売ろうとしてる?だとしたら、絶対に無駄だと思うんだけど。

「……お前、馬鹿にしてるの?」

 ハーステッドお兄さまの声のトーンが下がる。なぜか、背後から冷気を感じる。
 もしかして、怒ってる?でも、今の言葉にそんなに怒る要素はなかった気がするけど。

「そんな……とんでもございません。ハーステッドさまを馬鹿にするようなこと……」

 ルージアはハーステッドお兄さまの様子に気づいていないのか、顔を伏せながらも否定の言葉を口にしている。なんかわざとらしくて、申し訳なさをアピールしているようにしか見えない。

 ハーステッドお兄さまもそんな気配を感じ取ったのか、さらに声を冷たくして告げた。

「僕はお前に名呼びの許可を与えた覚えはない。僕を馬鹿にするのも程がある」

 うわぁ……やっちゃったなぁ。

 名呼びというのは、相手を名前だけで呼ぶことであり、許されているのは身内くらいで、他人……それも、目上の人間に無許可での名呼びはマナー違反に当たる。
 それは王族でも例外ではなく、私も側近になる前はカイエンのことをフォークマー令息と呼んでいたし、カイエンも私が許すまではアナスタシア王女殿下と……って、うん?

「私もフォークマー令嬢に名呼びの許可を与えた覚えがないのですが」

 さっきから名呼びされていることに今さらながら気づいた。
 王女殿下という堅苦しい呼び方が嫌で、使用人やカイエンには名呼びさせてたから、違和感を感じ取れなかった。

 カイエンからは今さら?とでも言いたげな視線を向けられている。
 
「へぇ~……アナもなんだね」

 いつも明るいハーステッドお兄さまから出たとは思えないくらいに冷たい声に、私はぶるりと震える。

「アナ、もうすぐ父上たちが来るだろうから、こんな無礼者は置いて行こうか」
「は、はい」

 なんでいきなりと思ったけど、今のハーステッドお兄さまにそんなことを聞く度胸は私にはない。
 お兄さまは、私の腕を引っ張って誘導しようとする。

「カイエン・フォークマー。お前もだよ」
「……かしこまりました」

 えっ、カイエンもなの?私の側近だからかな。
 カイエンは私たちの少し後ろに位置するようにしてついてくる。後ろに控える姿勢は側近っぽいけど、多分こんな状態のハーステッドお兄さまに近づきたくないだけなんだろうな。

 カイエンを見ていると、視界の隅にルージアの姿が映る。その顔は歪んでいて、私たちを睨み付けているようだった。

 私は、ルージアから目をそらして、少し駆け足になり、ハーステッドお兄さまの横に並んだ。
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