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第二章 学園生活一年目
97. 新入生歓迎パーティー
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離宮での一室。私は、ある人物を待っていた。
それは暇で暇で仕方なく、ライの毛並みを堪能することしかやることがない。
『他にやるべきことはあるだろうが』
私にまさぐられているライは、部屋の一角を指差す。
そこには、本が山積みになって置かれていた。その内容は、各領地の特産品に関する資料だったり、マナーについての教材だ。
すべて、社交に関する参考書である。
『後でちゃんと目を通すって』
『そのセリフ、三日も言い続けてるぞ。その“後”とやらはいつ来るんだろうな?』
ライの言うとおり、どうしても読む気が起きない私は、後でやると言ってずっと後回しにしている。
でも、私も王女ですから。ちゃんとやりますよ……やる気が出たら。
『だからそのやる気はいつ出るんだっつーの!』
『いつかは出る!』
『まったく出る気配がねぇから言ってんだろうが!』
『いつもいつも飽きないよなぁ……お前たち』
もう日常と化した、私とライによる他人から見れば次元の低い争いにペンダントが呆れ果てるという光景に、平和を感じる。
指輪には逃げられちゃったし、まだラフィティクト公爵の暗躍の可能性とか、いろいろと考えないといけないことはあるけど、今はこの日常を味わっていたい。
『話をそらすな。勉強しろ』
『だからいつか……ね?』
今はその時ではない。時を待つのだ。
その後もうだうだ言うライをたしなめていると、コンコンとノックが響く。
私が「どうぞ」と許可を出すと、ドアがゆっくりと開く。
そこに立っていたのは、私と同じくらいの背丈の少年。夜空を思わせるようなネイビーの髪はいつも以上に暗く、ルビーのような朱色の瞳は輝きを失っていた。
それだけで、何があったのか薄々察しがついてしまい、私は彼に同情の目を向ける。
「お疲れさま……カイエン」
「本当に、殺されるかと思いましたよ」
少年ーーカイエンは、深くため息をつきながら部屋の中に入ってくる。
私は、ベッドからクッションを一つ持ってきて床に置いた。
「座って休んで。お茶を頼むから」
私はベッドの傍らに置いてあるベルを鳴らす。すると、間もなく使用人がやってきた。
「私とカイエンのお茶とお菓子を持ってきて」
「かしこまりました」
私の指示を受けて、使用人はすぐさま立ち去る。
私が用意したクッションに座ったカイエンに、私は意を決して尋ねる。
「ルナティーラお姉さまとシルヴェルスお兄さま?」
「そこにハーステッド王子殿下とルーカディル王子殿下も加わっておりました」
全員やないかい!いや、なんとなく想像はできていたけど、本当にカイエンに申し訳ない……!
「私のことになるとなんでかああなるの」
「いえ、覚悟の上でしたので。あれくらい退けなければあなたの側近は務まらないとわかっただけでも僥倖です」
カイエンは先日、私の側近となった。立会人はエルクトお兄さまで、エルクトお兄さまがお父さまたちや他の兄姉にも報告した。
みんな、私に早々に側近ができたことに喜んではいたけど、なぜか私抜きで会いたいと言ってきたのだ。
そのため、カイエンはわざわざお城に登城し、兄姉たちに会うことに。学園でやろうとすれば目立ちすぎるし、側近となったカイエンはお城の出入りも自由になったためだ。
だけど、兄姉たちの思惑に気づかないほど私もバカではない。私は事前にカイエンに、嫌なことがあればいつでも帰っていいと言い含めていた。
だけど、カイエンは甘んじて受け入れたようだ。一体どんな会合だったのかは想像できないし、したくもない。
「それに、普段の癇癪に比べれば理屈が通っている分、遥かにましですよ」
「普段の癇癪?」
さすがにカイエンが癇癪を起こすとは思えない。となると、可能性がありそうなのは同い年の姉とかいう人だけど……
「ええ。頭を殴られたり、髪を引っ張りあげられたり、胸ぐらを掴まれたりしています」
「それ癇癪じゃなくて暴力だよ!」
六歳になんてことをしてるんだ!どうしてカイエンはそれを癇癪で片づけられるの?
「誰にやられてるの?私ががつんと言うよ?」
「姉であるルージアです。アナスタシアさまの助けは必要ありません」
ルージア……というと、確か一年生の上級クラスに所属していたはず。
伯爵家は魔力の関係から、上級クラスと中級クラスに半々くらいに分かれることが多い。そんななかで上級クラス入りできるのは、さすがは魔力主義のルーメン派閥の幹部のご令嬢というべきか。
でも、人間性にかなり問題がありそうだな。できることなら関わりたくない。
「それなら、私の側近になったときも何か言われてそうだけど」
「ええ。無能には無能がお似合いねと嘲笑われましたよ」
「あっ、本当にそう言われたんだ……」
カイエンが側近の誓いをしてくれたときに、家族のことを聞かれたときにそんな風に答えていたのは覚えていた。
「ということは、伯爵は……」
私のその言葉に、カイエンはにこりと笑みを返すだけ。それが答えだということに気づき、私はそれ以上は何も聞かなかった。
それは暇で暇で仕方なく、ライの毛並みを堪能することしかやることがない。
『他にやるべきことはあるだろうが』
私にまさぐられているライは、部屋の一角を指差す。
そこには、本が山積みになって置かれていた。その内容は、各領地の特産品に関する資料だったり、マナーについての教材だ。
すべて、社交に関する参考書である。
『後でちゃんと目を通すって』
『そのセリフ、三日も言い続けてるぞ。その“後”とやらはいつ来るんだろうな?』
ライの言うとおり、どうしても読む気が起きない私は、後でやると言ってずっと後回しにしている。
でも、私も王女ですから。ちゃんとやりますよ……やる気が出たら。
『だからそのやる気はいつ出るんだっつーの!』
『いつかは出る!』
『まったく出る気配がねぇから言ってんだろうが!』
『いつもいつも飽きないよなぁ……お前たち』
もう日常と化した、私とライによる他人から見れば次元の低い争いにペンダントが呆れ果てるという光景に、平和を感じる。
指輪には逃げられちゃったし、まだラフィティクト公爵の暗躍の可能性とか、いろいろと考えないといけないことはあるけど、今はこの日常を味わっていたい。
『話をそらすな。勉強しろ』
『だからいつか……ね?』
今はその時ではない。時を待つのだ。
その後もうだうだ言うライをたしなめていると、コンコンとノックが響く。
私が「どうぞ」と許可を出すと、ドアがゆっくりと開く。
そこに立っていたのは、私と同じくらいの背丈の少年。夜空を思わせるようなネイビーの髪はいつも以上に暗く、ルビーのような朱色の瞳は輝きを失っていた。
それだけで、何があったのか薄々察しがついてしまい、私は彼に同情の目を向ける。
「お疲れさま……カイエン」
「本当に、殺されるかと思いましたよ」
少年ーーカイエンは、深くため息をつきながら部屋の中に入ってくる。
私は、ベッドからクッションを一つ持ってきて床に置いた。
「座って休んで。お茶を頼むから」
私はベッドの傍らに置いてあるベルを鳴らす。すると、間もなく使用人がやってきた。
「私とカイエンのお茶とお菓子を持ってきて」
「かしこまりました」
私の指示を受けて、使用人はすぐさま立ち去る。
私が用意したクッションに座ったカイエンに、私は意を決して尋ねる。
「ルナティーラお姉さまとシルヴェルスお兄さま?」
「そこにハーステッド王子殿下とルーカディル王子殿下も加わっておりました」
全員やないかい!いや、なんとなく想像はできていたけど、本当にカイエンに申し訳ない……!
「私のことになるとなんでかああなるの」
「いえ、覚悟の上でしたので。あれくらい退けなければあなたの側近は務まらないとわかっただけでも僥倖です」
カイエンは先日、私の側近となった。立会人はエルクトお兄さまで、エルクトお兄さまがお父さまたちや他の兄姉にも報告した。
みんな、私に早々に側近ができたことに喜んではいたけど、なぜか私抜きで会いたいと言ってきたのだ。
そのため、カイエンはわざわざお城に登城し、兄姉たちに会うことに。学園でやろうとすれば目立ちすぎるし、側近となったカイエンはお城の出入りも自由になったためだ。
だけど、兄姉たちの思惑に気づかないほど私もバカではない。私は事前にカイエンに、嫌なことがあればいつでも帰っていいと言い含めていた。
だけど、カイエンは甘んじて受け入れたようだ。一体どんな会合だったのかは想像できないし、したくもない。
「それに、普段の癇癪に比べれば理屈が通っている分、遥かにましですよ」
「普段の癇癪?」
さすがにカイエンが癇癪を起こすとは思えない。となると、可能性がありそうなのは同い年の姉とかいう人だけど……
「ええ。頭を殴られたり、髪を引っ張りあげられたり、胸ぐらを掴まれたりしています」
「それ癇癪じゃなくて暴力だよ!」
六歳になんてことをしてるんだ!どうしてカイエンはそれを癇癪で片づけられるの?
「誰にやられてるの?私ががつんと言うよ?」
「姉であるルージアです。アナスタシアさまの助けは必要ありません」
ルージア……というと、確か一年生の上級クラスに所属していたはず。
伯爵家は魔力の関係から、上級クラスと中級クラスに半々くらいに分かれることが多い。そんななかで上級クラス入りできるのは、さすがは魔力主義のルーメン派閥の幹部のご令嬢というべきか。
でも、人間性にかなり問題がありそうだな。できることなら関わりたくない。
「それなら、私の側近になったときも何か言われてそうだけど」
「ええ。無能には無能がお似合いねと嘲笑われましたよ」
「あっ、本当にそう言われたんだ……」
カイエンが側近の誓いをしてくれたときに、家族のことを聞かれたときにそんな風に答えていたのは覚えていた。
「ということは、伯爵は……」
私のその言葉に、カイエンはにこりと笑みを返すだけ。それが答えだということに気づき、私はそれ以上は何も聞かなかった。
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