私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん

文字の大きさ
表紙へ
上 下
33 / 61
第二章 学園生活の始まり

97. 新入生歓迎パーティー

しおりを挟む
 離宮での一室。私は、ある人物を待っていた。
 それは暇で暇で仕方なく、ライの毛並みを堪能することしかやることがない。

『他にやるべきことはあるだろうが』

 私にまさぐられているライは、部屋の一角を指差す。
 そこには、本が山積みになって置かれていた。その内容は、各領地の特産品に関する資料だったり、マナーについての教材だ。

 すべて、社交に関する参考書である。

『後でちゃんと目を通すって』
『そのセリフ、三日も言い続けてるぞ。その“後”とやらはいつ来るんだろうな?』

 ライの言うとおり、どうしても読む気が起きない私は、後でやると言ってずっと後回しにしている。
 でも、私も王女ですから。ちゃんとやりますよ……やる気が出たら。

『だからそのやる気はいつ出るんだっつーの!』
『いつかは出る!』
『まったく出る気配がねぇから言ってんだろうが!』
『いつもいつも飽きないよなぁ……お前たち』

 もう日常と化した、私とライによる他人から見れば次元の低い争いにペンダントが呆れ果てるという光景に、平和を感じる。
 指輪には逃げられちゃったし、まだラフィティクト公爵の暗躍の可能性とか、いろいろと考えないといけないことはあるけど、今はこの日常を味わっていたい。

『話をそらすな。勉強しろ』
『だからいつか……ね?』

 今はその時ではない。時を待つのだ。

 その後もうだうだ言うライをたしなめていると、コンコンとノックが響く。
 私が「どうぞ」と許可を出すと、ドアがゆっくりと開く。
 そこに立っていたのは、私と同じくらいの背丈の少年。夜空を思わせるようなネイビーの髪はいつも以上に暗く、ルビーのような朱色の瞳は輝きを失っていた。

 それだけで、何があったのか薄々察しがついてしまい、私は彼に同情の目を向ける。

「お疲れさま……カイエン」
「本当に、殺されるかと思いましたよ」

 少年ーーカイエンは、深くため息をつきながら部屋の中に入ってくる。
 私は、ベッドからクッションを一つ持ってきて床に置いた。

「座って休んで。お茶を頼むから」

 私はベッドの傍らに置いてあるベルを鳴らす。すると、間もなく使用人がやってきた。

「私とカイエンのお茶とお菓子を持ってきて」
「かしこまりました」

 私の指示を受けて、使用人はすぐさま立ち去る。
 私が用意したクッションに座ったカイエンに、私は意を決して尋ねる。

「ルナティーラお姉さまとシルヴェルスお兄さま?」
「そこにハーステッド王子殿下とルーカディル王子殿下も加わっておりました」

 全員やないかい!いや、なんとなく想像はできていたけど、本当にカイエンに申し訳ない……!

「私のことになるとなんでかああなるの」
「いえ、覚悟の上でしたので。あれくらい退けなければあなたの側近は務まらないとわかっただけでも僥倖です」

 カイエンは先日、私の側近となった。立会人はエルクトお兄さまで、エルクトお兄さまがお父さまたちや他の兄姉にも報告した。
 みんな、私に早々に側近ができたことに喜んではいたけど、なぜか私抜きで会いたいと言ってきたのだ。

 そのため、カイエンはわざわざお城に登城し、兄姉たちに会うことに。学園でやろうとすれば目立ちすぎるし、側近となったカイエンはお城の出入りも自由になったためだ。

 だけど、兄姉たちの思惑に気づかないほど私もバカではない。私は事前にカイエンに、嫌なことがあればいつでも帰っていいと言い含めていた。
 だけど、カイエンは甘んじて受け入れたようだ。一体どんな会合だったのかは想像できないし、したくもない。

「それに、普段の癇癪に比べれば理屈が通っている分、遥かにましですよ」
「普段の癇癪?」

 さすがにカイエンが癇癪を起こすとは思えない。となると、可能性がありそうなのは同い年の姉とかいう人だけど……

「ええ。頭を殴られたり、髪を引っ張りあげられたり、胸ぐらを掴まれたりしています」
「それ癇癪じゃなくて暴力だよ!」

 六歳になんてことをしてるんだ!どうしてカイエンはそれを癇癪で片づけられるの?

「誰にやられてるの?私ががつんと言うよ?」
「姉であるルージアです。アナスタシアさまの助けは必要ありません」

 ルージア……というと、確か一年生の上級クラスに所属していたはず。
 伯爵家は魔力の関係から、上級クラスと中級クラスに半々くらいに分かれることが多い。そんななかで上級クラス入りできるのは、さすがは魔力主義のルーメン派閥の幹部のご令嬢というべきか。
 でも、人間性にかなり問題がありそうだな。できることなら関わりたくない。

「それなら、私の側近になったときも何か言われてそうだけど」
「ええ。無能には無能がお似合いねと嘲笑われましたよ」
「あっ、本当にそう言われたんだ……」

 カイエンが側近の誓いをしてくれたときに、家族のことを聞かれたときにそんな風に答えていたのは覚えていた。

「ということは、伯爵は……」

 私のその言葉に、カイエンはにこりと笑みを返すだけ。それが答えだということに気づき、私はそれ以上は何も聞かなかった。 
しおりを挟む
表紙へ
感想 58

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

私には何もありませんよ? 影の薄い末っ子王女は王の遺言書に名前が無い。何もかも失った私は―――

西東友一
恋愛
「遺言書を読み上げます」  宰相リチャードがラファエル王の遺言書を手に持つと、12人の兄姉がピリついた。  遺言書の内容を聞くと、  ある兄姉は周りに優越を見せつけるように大声で喜んだり、鼻で笑ったり・・・  ある兄姉ははしたなく爪を噛んだり、ハンカチを噛んだり・・・・・・ ―――でも、みなさん・・・・・・いいじゃないですか。お父様から贈り物があって。  私には何もありませんよ?

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。