私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん

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1巻

1-2

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 ◇◇◇


 お兄さまから忠告をもらった後で、井戸にやってきました。私は使用人の人から洗濯セットを借りて、汚れたドレスをバシャバシャ洗っている。魔法ではろくに洗濯できないためだ。
 エルクトお兄さまからは、洗濯するなとは言われなかったからね! ……まぁ、私によくしてくれる使用人たちにはいろいろと言われたけどね。
 この井戸は、お子さまの私でも楽々に使えたので、魔法か何かの補正がかかっているのではと推測しているけど、真偽のほどはわからない。
 私の離宮からめちゃめちゃ近いところにあるので、家族が気を遣ってくれたのかな? と思ってたりもする。
 それに、めんどくさいかなと思ったけど、やってみると意外と楽しいんだこれが。

「ふんふんふ~ん♪」

 どんどん楽しくなってきて、鼻唄混じりに洗っていると、またもや足音が聞こえてくる。
 ここに私がいるのを知っているから、使用人たちは来ないはずなんだけど……? 

「……お前、何をしている?」

 そう聞いてきたのは、エルクトお兄さまだった。さっきの足音はエルクトお兄さまのものだったらしい。
 なんか、よく会いますね。私の後を追いかけてきたのかな? 
 遭遇率に違和感を感じながらも、私はお兄さまの質問にどや顔で答える。

「洗濯でしゅ!」
「それは見たらわかる。なぜそんなことをしているのかと聞いているんだ」


 ちっちっち。そんなのは愚問ってやつですよ、お兄さま。

「どれしゅが汚れたからに決まってりゅじゃあないでしゅか!」

 私が胸を張ってそう言うと、お兄さまの顔が一瞬だけゆがんだ。

「……腹の立つ言い方をするな。替えはないのか?」
「ないでしゅ。普段着はほとんどないので」

 私がそう言うと、エルクトお兄さまは不機嫌そうな顔をする。
 どうされました? 

「……支度金は十分にあるはずだが。この程度のドレスならば、百は余裕で買えるだろう」

 お兄さまはたらいにつけていたドレスを触りながらそう言った。

「しょうなんでしゅか!?」

 このドレスは、確かに見た目は平民が着るようなワンピースみたいな感じなんだけど、お姫さまである私が着るものなだけあって、素材は上等なもの。平民は一生かけても買えないようなお値段。
 それが百も買えるということは、相当なお金があったということなのだろう。
 あの人たちは予算がないって言ってたけどなぁ……って、答えは一つしかないよね。

「……今からでも仕立ててもらえ。替えのドレスはルナティーラが持っているだろう」
「ルナティーラおねーしゃま?」

 わぁ! 初めて"る"がまともに言えた! パチパチ……
 あっ、ルナティーラお姉さまというのは、第二王女である私のお姉さんです。お姉さまは、私のことをよく可愛がってくれている存在。
 私には兄姉が六人いるんだけど、お姉さまは第三子。
 三人いるお妃さまのうちの一人、ルルエンウィーラさまという人の娘。
 ちなみに私は、正妃であるシュリルカさまの娘です。
 つまり、ルナティーラお姉さまとは腹違いだけど、妹として可愛がってくれている。というか、家族のほとんどには可愛がられていると思います。一部わかりにくい人たちもいるけど。
 エルクトお兄さまもあんな言い方はしていたけど、歩き回るなというのは、私のことを心配しての発言だというのはわかってますから。

「ああ。ルナティーラには連絡を入れてやる。すぐに向かえ」
「あいあいさー!」

 私が右手をあげながらそう言うと、エルクトお兄さまに変な目で見られてしまいました。せぬ。


 ◇◇◇


 ドレスを貸してもらうために、ルナティーラお姉さまのもとにレッツゴー! 

「ふふふーん♪」

 鼻唄を歌いながら、陽気にルナティーラお姉さまの部屋に向かっていると、目の前にキラキラした存在が! 

「ルナティーラおねーしゃま!」

 私はそれに気づいて、思わず駆け出してしまう。向こうも私の存在に気づいて、近寄った私を抱き締めてくれた。

「ふふ。アナ、どうしたの?」

 ほがらかな笑みで、私に笑いかけてくれる。お姉さまはひかえめに言って天使だ。美しい白金の髪に、淡い水色の瞳。ルナティーラお姉さまの実母である、ルルエンウィーラさまのミニチュアがお姉さま。
 ルルエンウィーラさまも女神のように神秘的な雰囲気ふんいきただわせている。
 ルルエンウィーラさまは、私に会った時にはクッキーの差し入れをしてくれるので、可愛がってくれているのだろう。
『皆には内緒ですよ』といたずらっ子みたいに微笑んでくるところが最高すぎるのです。数回ほど昇天しかけました。
 こっそりと渡されている理由は、私が落ちこぼれ末姫なことも関係するけど……以前に私が虫歯になりかけたことがありまして、それ以来、お菓子は厳しく管理されているのです。
 でも、家族の皆は、時々こっそりとお菓子をくれるというわけです。大抵は、ルルエンウィーラさまだけどね。
 ルナティーラお姉さまも、そんな女神みたいなルルエンウィーラさまの血をしっかりと引いていて、とてもお優しい方です。
 お姉さまは、魔法の扱いが王家で一番上手なお方。光魔法と回復魔法が得意なのだとか。
 即死じゃなければ大抵の怪我や病気は治してしまうルナティーラお姉さまは、庶民の間では治癒姫なんて呼ばれているそうですよ。
 そんなルナティーラお姉さまは、私より七つ年上の十歳で、学園に通っている。
 私もポンコツとはいえ魔法が使えるから、いずれ学園に行くことになるらしい。う~む……ま、なんとかなるでしょ! 友だちを何人か作って、のんびりとした学園ライフが送れればいいよね! 
 学園のことよりも、ルナティーラお姉さまに用件を話さないと! 

「あのね、おねーしゃまのお洋服がほしいの!」
「私の服? そういえば、兄上から連絡があったわね。でも、どうして?」
「しょくじかいに着るおようふくがないの! エルクトおにーしゃまに、おねーしゃまからもらえって!」

 エルクトお兄さまに言われてここに来たことを伝えると、ルナティーラお姉さまの目が細くなる。

「あら、支度金は十分に支給されているはずよ? それで足りないの?」

 エルクトお兄さまとまったく同じことを聞かれてしまった。

「ひちゅようないとおもって買ってないの」

 なんとなく言いづらくて、少し目線をそらしながらそう言ってしまった。
 お姉さまは、少し考えるような動作をして口を開く。

「そう。それなら、今回は貸してあげるけど、これからは替えを仕立てなさい。お金はあるでしょう?」
「う、うん……」

 私がなんとか作り笑いをして頷くと、ルナティーラお姉さまの目はさらに細くなった。信じるどころか、さらに疑われたように見える。

「……ないみたいね。なぜかしら?」

 あっ、やっぱりバレた。

「よしゃんがないって……」
「……アナ。あなたへの予算は年間に金貨二千枚ほど下りているはずなのだけど」
「えっ!? しょうなの?」

 金貨二千枚って、前世で言えば二千万円くらいの価値がある。それって使おうとしても使いきれない金額じゃない!?

「……まさかとは思いますが、使用人があなたの支度金に手を出しているのですか?」
「わ、わかりましぇん……」

 ルナティーラお姉さまが真剣な顔で聞いてくるので、思わず敬語になってしまう。

「……そうですか。他に何か気になることはありませんでしたか?」
「う~ん……離宮にしては地味だなぁ……なんて思ったことは……」

 私がそう言うと、お姉さまは深くため息をつく。

「いいですか。離宮に限らず王族の住まいというのは、いわば王家の顔のようなもの。それが粗末であれば、他国から舐められる理由にもなります」
「つ、つまりは……?」
「装飾品は最低限であろうが必ずそれぞれの離宮に存在しています。それがないということは、意図的に外されたということしかあり得ません。私たちを舐めているのですかね……」

 あっ、お姉さまガチギレモードに入った。ルナティーラお姉さまとルルエンウィーラさまは、怒ると敬語を使うというわかりやすい特徴がある。いるよね、そういう人。
 ……まぁ、さっきから敬語だったけども。

「あなたに任せるとなあなあになりそうですので、この件は私の預かりとさせていただきますが、よろしいですね?」
「は、はい……」

 私に聞いてはいるけど、もはや決定事項みたいなトーンと表情で話すので、体が強張こわばってしまう。
 怖いよ、お姉さま。いつもみたいに笑顔でいきましょう? 

「それで、ドレスですね。夕方頃に取りに来なさい。早めに渡せば、あなたはまた汚しそうだもの」
「ひゃ、ひゃい! しょうちしまちた!」

 もう怒ってないんだろうけど、やっぱり体は強張ったままだ。
 怒ったお姉さまは怖いよ~! 


 ◇◇◇


 夕方になったので、私はルナティーラお姉さまのもとに、ドレスを貸してもらいにやってきた。ちょっと離れてたから歩くのが大変だったけど。

「アナスタシアでしゅ。ルナティーラおねーしゃまによばれてきました」
「ようこそおいでくださいました、アナスタシアさま。ルナティーラ王女殿下がお待ちです」

 ルナティーラお姉さまのお付きの人が、私を案内してくれる。
 しばらく歩いていくと、何人か警備の騎士たちを見かける。ルナティーラお姉さまの護衛なのだろう。

「ルナティーラ王女殿下。アナスタシアさまをお連れしました」
「入りなさい」

 お部屋に案内された私は、中に入る。すると、お姉さまはすでに準備万端のようで、白金の髪に合った薄いパステルカラーの黄色いドレスを着ている。
 美しすぎる……! これは、女神の化身と言っても過言ではない。

「来たわね、アナ。ドレスはそこにあるものを着なさい。私には小さくて着られなくなったものよ」

 そう言ってお姉さまが手で示した場所には、何着ものドレスがある。十着以上はあるんじゃないだろうか。
 私が今着ているものしかないと言ったから、これだけ用意してくれたのかもしれない。
 とりあえず、飾りが少ない一番シンプルなものを選んだ。それは、淡い緑色のドレスで、私の地味な色合いが負けてしまうくらいにきれいなものだ。

「あら、それを選ぶのね。あなたたち、アナを着せ替えなさい」
「アナスタシアさま、失礼します」

 いつの間にか背後にいた使用人が私の腕をぐっと掴んできた。ちょ、ちょっと? 痛いんですけど……離してくれません? 
 その瞬間、背筋に寒気が走った。おそるおそる振り返ると、あの女神のような姿には似つかわしくない冷血なオーラを宿した瞳でルナティーラお姉さまがこちらを見つめていた。

「あなた、王女であるアナの腕を乱暴に掴んだわね。今すぐに離しなさい」

 普段のルナティーラお姉さまとは似ても似つかないようなその声色に、私まで震えてしまう。

「えっ……話が違う……」

 使用人の女性がボソッと呟く。
 話とはなんぞや? そう言えばこの人、私のいる離宮で見かけたような……? いや、他の人たちも見たことがあるぞ? 

「離しなさいと言っています」

 お姉さまが強い敬語口調でそう言うと、使用人の女性はパッと私の腕を離した。
 怖い。怖いよお姉さま。

「も、申し訳ありません! わざとでは……」
「わざとじゃなかったらかまわないとでも? あなたたち、この無礼者を連れていきなさい」

 近くにいた騎士たちに指示をするお姉さま。騎士たちは、突然のことに戸惑っているような様子を見せながらも、王女であるお姉さまには逆らえなかったのか、使用人をまるで罪人のように連れていった。

「ルナティーラさま! どうかお慈悲を……!」

 連れていかれた使用人の叫び声が遠ざかる。
 きゅ、急展開すぎてついていけない……! 
 私があわあわとしていると、お姉さまが微笑んだ。これは、いつも私に向けてくれている慈愛の笑みではない。冷たい吹雪のような笑みだ。

「アナ。あなた、いつもあのような扱いを受けているの?」
「いえいえ! ちょっと態度がわるいくらい……」
「態度は悪いのね?」

 はっ! しまった、口がすべった! こんな陰口みたいなことを言うつもりはなかったのに! 
 お姉さまは、わざとらしくため息をついて、私に言い聞かせるように言った。

「アナ。あなたは気にしていなくても、王女たるもの、下の者には威厳を示さなければならないわ。おそらく、父上や母上は、あなたへの扱いについて報告を受けているはずよ。それでも何もしないのはなんでかわかる?」
「えーと……そうする必要がないからなのでは……?」

 そもそも、お母さまたちの耳に入っていたのですか。だとすると、装飾品の横領でクビになっていそうなものだけど……

「あなたが直接とがめるのを期待していたのよ。でも、あなたは優しすぎて無理だったようね」

 それ、三歳児に期待することじゃなくないですか? 私の考えがおかしいんですかね? 
 でも、それが王族としては普通なのかもしれないな。私の常識は非常識なのかもしれない。

「改めて言います。あなたが何もしないというのなら、私が何とかしますが、異論は?」
「あ、ありましぇん……」

 敬語を使っているお姉さまに異論なんてぶつけようものなら、間違いなく灰になる。

「では、アナは食事会が始まるまでここにいなさい。私が帰ってくるまで外出はしないように」
「しょ、しょうちしました!」

 私が返事をすると、お姉さまは部屋を出ていく。
 お姉さまの去り際の笑みが忘れられない。慈愛に満ちたような笑みだったけど、どこか不気味にも感じられた。


 ◇◇◇


 結局あの後、お姉さまは部屋に帰ってこなかった。その代わりに、一通の手紙だけを送ってきた。


  晩餐会には出なさい


 お姉さまらしい、美しい字体で書かれていた。手短に用件だけを伝えるのは、お姉さまらしいというかなんというか。いや、王族らしいというべきなのかな? 
 変に回りくどい言い方をしないからうれしいけど。

「あの……着替えを手伝っていただけましゅか」

 お姉さまのぶちギレ事件から、少し距離を置かれている使用人に着替えを頼む。
 使用人たちは、少しおどおどしながらも、私の着付けを手伝ってくれた。
 先ほどみたいに、腕を掴まれたりはしていないけど、びくびくしているのが手の震えから伝わる。どうやら、使用人の皆さんにとって、あのお姉さまは震えてしまうほど怖いらしい。うん、わかるよ、その気持ち。

「終わりましたか?」
「あっ……はい。完了しました」

 う~む……明らかに顔色を窺っている。私はそう簡単に怒ったりはしないんだけどなぁ。

「それでは、晩餐会に行ってきましゅ!」

 私がいそいそと部屋を出ると──扉の前にこの国の騎士の制服を着た女性がいた。
 横を通りすぎると、その人はついてきた。
 あれれ? なんで? 

「あの……なんでついてくるんでしゅか?」
「ルナティーラさまより、護衛の任を頂戴しましたので」

 ごっごごっごっごごごっごえい!?
 いらないいらない! 私にそんなものはいらない! ノーセンキュー! 

「おーきゅーまででしゅから、らいじょうぶでしゅ」
「いえ、そういうわけにはまいりません」

 うう……でも、騎士の人も仕事だから仕方ないか。

「……では、おねがいしましゅ」

 結局、私が折れました。


 ◇◇◇


 晩餐会会場に着いた私は、その扉を守っていた騎士さんに声をかけた。

「アナスタシアでしゅ」
「アナスタシアさま、中へどうぞ」

 ドアが開かれたので、私は中に入る。
 すると、ルナティーラお姉さま以外は全員が揃っていた。
 時間ギリギリとなっているのに、ルナティーラお姉さまがいないのは、やっぱり大事な用事があるんだろう。

「アナ、久しぶりね」
「おひしゃしぶりでしゅ、シュリルカおかーしゃま」

 席に着いた私に真っ先に声をかけてきたのは、お母さまであるシュリルカ王妃。席が離れているから声が聞こえにくいけどね。
 この国では身分によって席に座る場所も決まっていて、基本的には男のほうが上。順番は当主、妻、息子、娘となる。そして、母親の身分が高いほど位も高くなる。
 私たち兄弟はどういうふうになるかというと、正妃の子どもであるシルヴェルスお兄さまが一位。ヴィオレーヌお姉さまが二位。
 第二妃、アリリシアさまの子どもであるエルクトお兄さまが三位。ハーステッドお兄さまが四位。
 第三妃、ルルエンウィーラさまの子どもであるルーカディルお兄さまが五位、ルナティーラお姉さまが六位となる。
 それから、私はシュリルカ王妃の娘なんだけど、権力の象徴である魔力がないので最下位。いやー、複雑だね! 
 ちなみに兄弟の年齢は、高い順にヴィオレーヌお姉さま、エルクトお兄さま、ルナティーラお姉さま、シルヴェルスお兄さま、ハーステッドお兄さまとルーカディルお兄さまだ。
 年齢は結構差があってバラバラなんだけど、皆大人びています。
 しばらく食事を楽しんでいると、扉をノックする音が部屋に響いた。

「申し訳ございません。遅くなりました」

 そう言いながら入ってきたのは、ルナティーラお姉さまだった。
 走ってきたのか、お姉さまは息切れしていた。

「ずいぶんと長引いたようですわね」
「申し訳ありません。アリリシアさま」

 ルナティーラお姉さまに声をかけたのは、アリリシアさま。

「いえ、遅刻はかまいませんが、そのような言伝ことづてがなかったことが問題なのです」

 ……うん? もしかしてお姉さま、他の皆には事情を伝えていなかったのかな。

「失念しておりました」
「次からは気をつけなさい。では、遅刻の理由を説明していただけますか」
「それは……」

 ルナティーラお姉さまは、こちらのほうをちらりと見ます。

「アナスタシア。出ていってくれ」

 エルクトお兄さまが、私に冷たくそう言った。
 なぜ!? なぜ私が出ていくことに? 

「エ、エルクトおにーしゃま……」

 私がエルクトお兄さまを見ると、お兄さまは視線でドアのほうを指す。
 本当に出ていくの!?

「アナスタシア、早く行け。今日は戻らなくていい」

 今度はお父さまにそう言われてしまった。
 お父さまからは、断るのは許さないという王の貫禄を感じる。

「……はい」

 とりつく島もないとはまさにこのこと。
 何も意見を言えずに、追い出されてしまいました。解せぬ。


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