32 / 107
第二章 神殿の少女達
第31話 狙われたカオル
しおりを挟む
セレスティーナ様の部屋から自分達の部屋に戻ってきた。外はもう月が煌めいている。
「ルーフェミア様、セレスティーナ様は何と言っていたんですか?」
「それは本人の口から聞くべきですわよ」
ルーフェミア様は聞こえていそうだったので、聞いてみたらこう返された。
確かに、本人から聞いた方が良いのかもしれないけど、だからって、今から本人の口から聞くために、セレスティーナ様の所に行くのもおかしな話。
「それよりもカオルさん。ナルミス様には気をつけた方が良いと思いますわ。わたくしは何度でも言いますからね」
ルーフェミア様の言う通り、もうこの話は何度目だろう。
「でも、根っからの悪人ではないと思うんです。私がそう思いたいだけなのかもしれませんが……」
白いもやがあったし、まるっきり嘘とは思えない。だからと言って、信用しているかと言われれば、そうとは言いきれないけど。
「……カオルさん。少し、夜風に当たりに行きませんか?」
「構いませんが……」
急にどうしたんだろう?ルーフェミア様が突拍子もない事を言い出すのは良くある事だけど、こんな事は今まで無かった。
ルーフェミア様と一緒に、寮の近くの庭に出る。ほとんどの精霊は寝てしまっていたので、それぞれの属性の精霊が一人ずつついてきてくれた。ここは、男女共用の庭。
「わたくし、お友達らしいお友達を作るのは、カオルさんが初めてですの」
「セレスティーナ様はお友達では無いのですか?」
「友人関係とは違いますわ。家柄が同じですから、交流があるだけですもの。貴族とはそういうものですわ、カオルさん」
貴族……まだあまり自覚はない。準貴族は、そこまで貴族らしい振る舞いは必要ないらしいけど。
「……カオルさん。家名の理由をお聞きしても?」
「母様の家名から考えました。本当の家名は知りませんが……」
「“本当の”家名とは?」
……あっ。思わず口を滑らしてしまった。どうしよう……
思わず、うつむいて、しばらく黙っていると、ルーフェミア様が折れた。
「言いたくないのなら構いませんわ。ですが、社交界では失言は厳禁ですわよ。お気をつけくださいますよう」
「は、はい」
「では、話は変わりますが、そろそろお話くださいませんか?カオルさんの両親が亡くなった訳を」
「母様と父様……ですか?」
母様と父様が亡くなった理由は、私のせいだろう。だって、そもそもあの時に、私が欲張らなければ良かった。
「ずっと森に住んでいたのでしょう?自然死とは思えませんし、事故が起こるような場所はあの付近にはありませんし、精霊に好かれていたというあなた方に自然が危害を加えるとは思えませんわ。でしたら、何者かに危害を加えられたと考えるのが妥当でしょう?」
だいたい合っている。クラウド様とお話ししたのかな?
「両親は……私のせいで死んだようなものです」
「……どういう事ですの?」
「あの森では、迷い人が多かったんです。両親は、その人が弱っていたら元気になるまで看病していました。誰であっても、森の外に案内したんです」
いろんな人に会ったのを覚えている。中には、悪い人もいたけど、父様達はそんな人でも関係なく看病していた。さすがに、盗賊とかは、見張りも兼ねて父様だけで看病していたけど。
「お優しい両親ですのね」
「それで、私が3歳の頃に、森をもっと見てみたくなって、勝手に一人でいろいろな所に行ってしまったんです」
まだ私とリーズが完全に分離する前に、子供心からの興味心で、一人で森の中を走り回っていた。
「その時に、ある一人の男性に会いました」
その男性は、身綺麗で、森で遭難した人には見えなかった。だけど、もしかしたら迷ったばかりなのかもしれないと思って、森の出口まで案内した。
「その男性を森の出口まで連れていった後、少しお話したんです」
『ねぇねぇ、お兄さんは何しに来たの?』
『……山菜を採りにね』
『あのおいしいやつだよね!カオルも好き!』
あの時は、ただお話しするのが楽しかった。笑顔が一切耐える事はなかった。
『カオルちゃん。両親はどうしているんだ?』
『かあさまととうさまなら、ご飯の用意してるよ!かあさまの作るお料理おいしいの!』
『そうか。楽しみだね。なら、早くお家に帰らないとね。君を送り届けたいから、案内してくれるかい?』
『いいよ!』
了承してしまった。まだ、もやが見えなかった頃だから、この人が悪巧みをしているなんて考えもしなかった。
「それで、どうなったんですの?」
「母様は、その男性の国から追われていた身らしく、私を使って、居場所を探ったんです」
「……なるほど。それで?」
「その時に、母様が裏切り者だと思われて、殺されてしまいました。父様も一緒に」
母様が邪龍である父様との間に、私という子供を産んでしまった。それは、あの人達にとっては、ひどい裏切り行為だったらしい。
「そう……だったのですか。ですが、その話だと、最初から知っていたように思えるんです。その男性が、カオルさんの親が自分達が探している人物だとなぜ分かったのでしょうか?」
「顔が似ているからだと思います。父様からは、母様に似ているとよく言われていたので」
顔つきは、母様に似ている。でも、体格とかは、人間状態の父様に似ているみたい。
「だから、私のせいなんです。今でも後悔しているんです。顔を見せなければとか、案内しなければとか、そもそも一人で出歩かなければとか」
「カオルさんのせいではありませんわ!カオルさんを騙したその男性が悪いのです!」
むくっと膨れている。自分の事でもないのに、こんなにも怒ってくれている。その事実がとても嬉しい。
「カオルさ──」
ルーフェミア様がそこまで言った時、辺りが暗くなる。お月様が雲に隠れてしまったのかな?
──ザッザッザ……
草を踏むような音が聞こえる。誰か来るのかもしれない。どっちにしても、明るくしないと。
「光の精霊。明かりをつけられる?ルーフェミア様に被害が出ないように、明るく照らすだけで良いから」
「ワカッタ!」
光の精霊はそう言うと、小さな光の珠を生み出す。ちゃんと手加減してくれたみたい。
明かりが灯って、ルーフェミア様がいた方を見ると、そこにルーフェミア様はいなかった。
「ルーフェミア様!?ルーフェミア様!どこですか!」
ルーフェミア様がいた所の近くを探してみる。見当たらない。精霊達も探してくれているけど、見つからないみたい。
「ルーフェ──んぐっ!」
何か布のような物で口を塞がれる。これは、あの時と同じような……
その布で、あの時のようにまた眠ってしまう時に、悲しそうな、決意をした顔で、ナルミス様が立っていた。
「ルーフェミア様、セレスティーナ様は何と言っていたんですか?」
「それは本人の口から聞くべきですわよ」
ルーフェミア様は聞こえていそうだったので、聞いてみたらこう返された。
確かに、本人から聞いた方が良いのかもしれないけど、だからって、今から本人の口から聞くために、セレスティーナ様の所に行くのもおかしな話。
「それよりもカオルさん。ナルミス様には気をつけた方が良いと思いますわ。わたくしは何度でも言いますからね」
ルーフェミア様の言う通り、もうこの話は何度目だろう。
「でも、根っからの悪人ではないと思うんです。私がそう思いたいだけなのかもしれませんが……」
白いもやがあったし、まるっきり嘘とは思えない。だからと言って、信用しているかと言われれば、そうとは言いきれないけど。
「……カオルさん。少し、夜風に当たりに行きませんか?」
「構いませんが……」
急にどうしたんだろう?ルーフェミア様が突拍子もない事を言い出すのは良くある事だけど、こんな事は今まで無かった。
ルーフェミア様と一緒に、寮の近くの庭に出る。ほとんどの精霊は寝てしまっていたので、それぞれの属性の精霊が一人ずつついてきてくれた。ここは、男女共用の庭。
「わたくし、お友達らしいお友達を作るのは、カオルさんが初めてですの」
「セレスティーナ様はお友達では無いのですか?」
「友人関係とは違いますわ。家柄が同じですから、交流があるだけですもの。貴族とはそういうものですわ、カオルさん」
貴族……まだあまり自覚はない。準貴族は、そこまで貴族らしい振る舞いは必要ないらしいけど。
「……カオルさん。家名の理由をお聞きしても?」
「母様の家名から考えました。本当の家名は知りませんが……」
「“本当の”家名とは?」
……あっ。思わず口を滑らしてしまった。どうしよう……
思わず、うつむいて、しばらく黙っていると、ルーフェミア様が折れた。
「言いたくないのなら構いませんわ。ですが、社交界では失言は厳禁ですわよ。お気をつけくださいますよう」
「は、はい」
「では、話は変わりますが、そろそろお話くださいませんか?カオルさんの両親が亡くなった訳を」
「母様と父様……ですか?」
母様と父様が亡くなった理由は、私のせいだろう。だって、そもそもあの時に、私が欲張らなければ良かった。
「ずっと森に住んでいたのでしょう?自然死とは思えませんし、事故が起こるような場所はあの付近にはありませんし、精霊に好かれていたというあなた方に自然が危害を加えるとは思えませんわ。でしたら、何者かに危害を加えられたと考えるのが妥当でしょう?」
だいたい合っている。クラウド様とお話ししたのかな?
「両親は……私のせいで死んだようなものです」
「……どういう事ですの?」
「あの森では、迷い人が多かったんです。両親は、その人が弱っていたら元気になるまで看病していました。誰であっても、森の外に案内したんです」
いろんな人に会ったのを覚えている。中には、悪い人もいたけど、父様達はそんな人でも関係なく看病していた。さすがに、盗賊とかは、見張りも兼ねて父様だけで看病していたけど。
「お優しい両親ですのね」
「それで、私が3歳の頃に、森をもっと見てみたくなって、勝手に一人でいろいろな所に行ってしまったんです」
まだ私とリーズが完全に分離する前に、子供心からの興味心で、一人で森の中を走り回っていた。
「その時に、ある一人の男性に会いました」
その男性は、身綺麗で、森で遭難した人には見えなかった。だけど、もしかしたら迷ったばかりなのかもしれないと思って、森の出口まで案内した。
「その男性を森の出口まで連れていった後、少しお話したんです」
『ねぇねぇ、お兄さんは何しに来たの?』
『……山菜を採りにね』
『あのおいしいやつだよね!カオルも好き!』
あの時は、ただお話しするのが楽しかった。笑顔が一切耐える事はなかった。
『カオルちゃん。両親はどうしているんだ?』
『かあさまととうさまなら、ご飯の用意してるよ!かあさまの作るお料理おいしいの!』
『そうか。楽しみだね。なら、早くお家に帰らないとね。君を送り届けたいから、案内してくれるかい?』
『いいよ!』
了承してしまった。まだ、もやが見えなかった頃だから、この人が悪巧みをしているなんて考えもしなかった。
「それで、どうなったんですの?」
「母様は、その男性の国から追われていた身らしく、私を使って、居場所を探ったんです」
「……なるほど。それで?」
「その時に、母様が裏切り者だと思われて、殺されてしまいました。父様も一緒に」
母様が邪龍である父様との間に、私という子供を産んでしまった。それは、あの人達にとっては、ひどい裏切り行為だったらしい。
「そう……だったのですか。ですが、その話だと、最初から知っていたように思えるんです。その男性が、カオルさんの親が自分達が探している人物だとなぜ分かったのでしょうか?」
「顔が似ているからだと思います。父様からは、母様に似ているとよく言われていたので」
顔つきは、母様に似ている。でも、体格とかは、人間状態の父様に似ているみたい。
「だから、私のせいなんです。今でも後悔しているんです。顔を見せなければとか、案内しなければとか、そもそも一人で出歩かなければとか」
「カオルさんのせいではありませんわ!カオルさんを騙したその男性が悪いのです!」
むくっと膨れている。自分の事でもないのに、こんなにも怒ってくれている。その事実がとても嬉しい。
「カオルさ──」
ルーフェミア様がそこまで言った時、辺りが暗くなる。お月様が雲に隠れてしまったのかな?
──ザッザッザ……
草を踏むような音が聞こえる。誰か来るのかもしれない。どっちにしても、明るくしないと。
「光の精霊。明かりをつけられる?ルーフェミア様に被害が出ないように、明るく照らすだけで良いから」
「ワカッタ!」
光の精霊はそう言うと、小さな光の珠を生み出す。ちゃんと手加減してくれたみたい。
明かりが灯って、ルーフェミア様がいた方を見ると、そこにルーフェミア様はいなかった。
「ルーフェミア様!?ルーフェミア様!どこですか!」
ルーフェミア様がいた所の近くを探してみる。見当たらない。精霊達も探してくれているけど、見つからないみたい。
「ルーフェ──んぐっ!」
何か布のような物で口を塞がれる。これは、あの時と同じような……
その布で、あの時のようにまた眠ってしまう時に、悲しそうな、決意をした顔で、ナルミス様が立っていた。
0
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。
レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。
【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる