聖女と邪龍の娘

りーさん

文字の大きさ
上 下
23 / 107
第一章 森の少女達

第22話 字の勉強

しおりを挟む
「この国で使われている公用語は二種類ありますわ」
「二種類ですか?」
「ええ、カオルさんのフードに縫ってあるそれもこの国の公用語ですわ」

 このイニシャルが?母様の話では、私達の名前の頭文字だって言ってたけど。母様はこの国の出身だったのかな?

「一つはレクタ語。もう一つはラルバ語と呼ばれております。カオルさんのフードに縫ってあるのはレクタの方ですわね」

 れくた?らるば?

「ここの国の母国語はレクタ語の方ですから、こちらから覚えましょうか」
「は、はい……」

 自分から提案しておいてなんだけど、もうついていけなくなっている。

「レクタ語は全部で26文字です」

 そう言ってルーフェミア様は紙に文字を書いていく。

 これがレクタ語?

 全部書き終わると、ルーフェミア様は順番に読み上げていく。

「では、見ながらで構いませんから、カオルさんも書いてみてください」

 紙とペンを渡されたので、ルーフェミア様の字を見ながら写していく。全部写し終えて、ルーフェミア様に見せる。

「カオルさんは字がきれいですわね」
「ありがとうございます」
「では、今日はここまでにしましょう。一週間後までに見ないで書けるようになってくださいね」
「は、はい」

 ルーフェミア様は本当に先生みたいになっている。すっかり機嫌は良くなったようで、くっつくような事もせず、すんなりとドアから出ていく。

 よし。頑張って覚えないと。何度も書いたら覚えられるよね。

「覚えるのが早いですわね」

 一週間と言わず、2日で覚えてしまった。何度も繰り返し書いたら覚えやすいみたい。

「では、簡単な単語を書いてみましょうか」
「単語……ですか?」
「はい。まずはカオルさんの名前から書いてみますわね」

 ルーフェミア様はサラサラっと書いていく。私の名前は5文字で表すみたい。

「この文字の組み合わせで“カ”。次は一文字で“オ”最後の組み合わせで“ル”となります」

 真ん中はオと発音するのか。しっかり覚えておかないと。

「私の名前ですとこうなりますわね」
「これでルーフェミアと読むんですね」

 ルーフェミア様は8文字もある。それを、さっきと同じように少しずつ読み方を教えてくれる。ついでにという事で、ルーフェミア様は、クラウド様達の名前も書いていく。

「これでどう読むのか何となくは分かるでしょう?他に教えて欲しい名前の表記はありますか?」
「リーズヴァルトと……マリアとガーノルドという名前を」
「その方達とはどういう関係ですの?」
「リーズヴァルト……リーズとは昔からの知り合いです。そして、マリアとガーノルドは…母と父の名です」

 忘れた事は一度だってない。母様はマリアという名前だった。本当の・・・家名もあったらしいけど、教えて貰った事はない。父様にも教えてなかったみたいで、リーズは記憶を引き継いでいない。

「そうでしたか。では、推測でしかありませんが、お教えしますね」
「推測……ですか?」

 絶対この表記とは限らないという事?

「ええ、読み方が同じでも、使われている文字が違う事はよくありますわ。カオルさんの最初の文字も二種類の表記がありますから」

「これとこれですわね」と言って二つの文字を指差す。私は、最初の方にある文字だから、さっきの私の名前を書くときも、こういう風に書いてくれたのかな?

「一般的な表記だとこうなりますわね」

 さっきの私達の名前の読み方から考えると……左から順番に、リーズヴァルト、マリア、ガーノルドになるのかな?

「最初の名前はリーズヴァルトです。伸ばすときは同じ文字を繰り返すのが一般的ですわ」

 だから、同じ文字が二回続けて出てきてるんだ。……あれ?でも、父様の名前であるガーノルドは同じ文字を繰り返している部分が無いんだけど……?

「父様の名は……」
「これが例外ですわ。アの音を伸ばすときは、このように表しますの」
「そうなんですか……」

 こういうのもしっかり覚えておかないとね。忘れないようにメモしておこう。

「では、カオルさんも知っている言葉を書いてみてください。間違っていれば教えますから」

 知っている言葉と言われても……ルーフェミア様も知っている言葉じゃないといけないよね。

 それなら……と何となく思いついた言葉を書いていく。そこそこ長い言葉も書いて、ルーフェミア様に見せる。

「……全部合っていますわ。カオルさんは優秀ですのね」
「ルーフェミア様の教え方が上手だからですよ」

 こういうのは、教わる側だけでなくて、教える側の実力も必要だと思う。教え方によって、覚えやすさは変わると思うし。

 事実、母様は教えるのが上手だったけど、父様はあまり上手じゃなかった。そして、母様に教えて貰った方が早く覚える事が出来た。だから、相手が理解出来るように話せば、相手も早く理解出来ると思う。

「ここまで出来るなら、本を読み始めても良いかもしれませんね」
「本……ですか?」
「はい。分からなかったら私が教えますから、出来るだけ自分で読んでみてください。これがスラスラと読めるようになれば問題ないですよ」

 出来るだけ自分で……

 近くにある本を開くと、たくさんの文字が書かれている。

「あの……どこから読めば良いですか?」
「この面が表紙ですから、こちら側から一枚ずつ紙をめくって読んでください。左から右に、下に降りていくんです」

 左から右に、下に降りていく。なら、最初は一番左にある一番上にある文字から右に読んでいけば良いという事かな?

 よし、分かった。

 しばらく読み進める。今の所、少し止まったりするだけで、分からない所はない。

 何か、静かだな。

 そんな風に思って、一旦本から目を離すと、小さく寝息が聞こえる。ルーフェミア様が、椅子に座りながら、ベッドに倒れるようにして眠っている。

 疲れたのかな。

「ルーフェミア様をベッドに寝かせてくれる?」

 近くにいる精霊達にこっそり頼んで、私は他の本を持ってルーフェミア様のベッドに移動する。しっかりベッドで休まないと良くないから。

 持ってきた本を近くにあるミニテーブルにおいて、本の続きを読む。

 文字が読めなかったら、明日じゃないと続きが分からなくなっちゃったな。

 そう思ってたけど、二週間後には、三冊全ての本を読み終えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...