これが『契約』だとおっしゃったのはあなたです!~貧乏令嬢は、夫の愛は望まない~

りーさん

文字の大きさ
上 下
13 / 21

13 弟妹たちのお泊まり

しおりを挟む
 波瀾万丈な一日だったような気がする……。公爵家に来て、いろんな人と交流をして……弟妹たちとマギルーラみたいなことをしたせいで、お屋敷を破壊して……。
 ちゃんと直しておいたから、大丈夫よね?公爵様は知らないはずだから、なんとかごまかせるわよね?
 いや、知らないなら、ごまかす必要もないのか?でも、レーラたちが話さない可能性もないとは言えないし……。
 ……まぁ、ばれたらばれたで、どげざとやらでもして謝ろう。そして、たとえ離縁になったとしても、なんとか領民たちへの援助だけでも続けてもらおう。

「おねーさま。つづき、よんで」
「あなたたち、まだ帰らないの?」

 本を突きつけてくる妹に、私は疑問をぶつける。
 もうすぐ夕方だ。もう帰らないと、晩餐に間に合わないだろう。

「ねーさま、きいてないの?ぼくら、ここにとまるんだけど」
「……はっ?」

 とまる……泊まる!?いやいや、初耳なんだけど!?

「お、お父様の許可は……」
「もらってきたよ?」

 メイはそう言って、どこにしまってあったのかわからない紙切れを取り出した。
 そこには、お父様の直筆で、外泊を許可するという旨が綴られていた。
 あの人のことだから、脅されて書いてそうだな……。そういうことをやるみたいだからなぁ、この子たち。実際に見たことはないから、絶対とは言いきれないけど。

「でも、公爵様の許可もないといけないし」
「こうしゃくさま、いまはいないんでしょ?なら、いちばんえらいのはねーさまだから、ねーさまがいいっていえばべつにいいじゃない」

 メイの、まるでこっちがおかしいという言い分に、私は頭を抱える。
 ジルとメイはこの結婚が契約とは知らない。そして、結婚式で誓いを立てないと、正式な夫婦としても認められないというのも知らないのだろう。
 いわば、私がやろうとしているのは、婚約者の家に自分の家族を無許可で招き入れることと変わらない。
 さすがに、それは問題になる気がする。でも、出張先を教えてくれなかったから、手紙も届けようがない。
 私がどうするべきかと頭を悩ませていると、コンコンとドアのノックの音が響く。

「奥様。今よろしいでしょうか?」
「ええ。どうぞ」

 声の感じからして、多分シアンだろうと予測はたてているものの、誰だろうという思いで返事をする。
 入ってきたのは、予想通りシアンだった。

「シアン。どうしたの?」
「少々お聞きしたいことがございまして」
「なに?」

 私に答えられることなら、何でも聞いてくれていいけど……。そんな何かを聞かれるほどに物知りというわけでもないんだけどなぁ。

「先ほどの、屋敷や地面を修理したあの魔法は、なんなのでしょうか?」
「あぁ、あれは逆行リワイドという無属性魔法です。生物以外の時間を巻き戻せるんですよ。なぜか生き物の素材である服もきれいになりましたし、いまいちよくわからないんですけどね」

 私は、そんなことかと思いつつも説明した。要約したけど、意味はなんとなく伝わったはずだ。
 私の説明を聞いたシアンは、少し呆けてはいたものの、すぐに持ち直した。私の説明がわかりにくかったのかな。

「その魔法は、ジルスタ様やメイロード様も?」
「いいえ。魔力消費量が多くて、二人では魔力が足りないから無理なのよ。成長すれば多くなるから、大きくなったら使えるかもしれないけど」
「おねーさまは、むかしっからつかえたってきいたけどな~?」

 成長すれば使えるという部分に、メイが反応してしまい、ふてくされながらボソッと呟いた。

「あ、あれは、レンディアお兄様の教え方が上手だったからよ!というか、誰から聞いたのよ!?」

 昔の話ができるとなると、人物は限られてくる。メルビアは、不用意に人のことを話したりする性格ではないし、お父様もそういうことはしないし、私ではないし……

「れんでぃあ!ふぃーはすごいだろう?っていってた!」
「そ、そう……」

 あの人か……!いや、別にいいのだけど、弟妹たちにも妹自慢ならぬ従妹自慢してるんじゃないだろうな……?
 レンディアお兄様には、まだ怖くて結婚のことは話せていない。お兄様に話したら、公爵様の出張先に飛んでいってまで、公爵様を殺しにかかりそうだから。
 私を大切に思ってくれているのは嬉しいけど、限度というものがあるのではないかと思ってしまう。

「レンディア……とは、近衛騎士だった国境警備隊所属の方ですか」
「ええ、そうよ。私とは違って、属性魔法すらも自在に操れるわ。何か気になることでもあるの?」

 正確な数字は忘れたけど、十万人に一人とか、それくらいの天才と呼ばれているそう。属性魔法と言われる、火と氷を操れる。私の使う無属性も使えるけど。
 そんなんだから、近衛騎士という立場ではあるけど、今は国境警備隊に所属している。だったというのは、今は地方騎士だから。城に自由に出入りできる地方騎士というのが、レンディアお兄様の立場だ。
 お兄様を敵に回して、無事だった人を私は見たことがない。公爵様は、魔法騎士団長を務めるくらいだから、大丈夫だとは思うけど、どこかで私の結婚のことを知ったお兄様が暴走しないか心配だ。
 お兄様は国境付近にいるから、情報が入るまで時間はかかりそうだけどね。

「いえ、優秀な騎士だと小耳に挟んだことがありまして。奥様のお知り合いですか?」
「ええ。私たちの従兄よ。お父様の弟である叔父様のね。向こうのほうが年は3つ上だったはず」

 騎士としてのお仕事が忙しいのか、そこまで頻繁には会わないから、年齢差もはっきりとしていないのよね。
 私が従兄の姿を思い浮かべていると、シアンが爆弾発言をする。

「それでしたら、結婚式の招待状をお送りしては?」
「絶対に呼ばないわよ!知らせもしないわ!神聖な結婚式に死人を出すつもり!?」
「レンディア様はどのようなお方なので……?」
「私たちを好きすぎる人……かな」

 自惚れていると思われるかもしれないけど、本当にそんな感じだ。
 あくまでも話に聞いた程度だけど、私を誘拐した者たちを消したそうだから。社会的にではない。物理的にだ。
 もし、陛下がお兄様の性格を知っているのであれば、よりにもよって公爵様を結婚相手にさせた理由もわかるというものだ。
 本来は、公爵と男爵では差がありすぎる。私がアリジェントの血筋だから、できただけのこと。それくらいに、身分差というものは厳しい。
 メイのことも、爵位があり、それなりの実力を持った優秀な人を婚約者にするのだろう。おそらくは、お兄様が都にいない間に。あの人は、私たちのことになれば、王様にも容赦なく斬りかかるから。
 失礼な態度を取っていないかとか、こっちが無駄にドキドキしてしまう。

「れんでぃあがね~、おねーさまとこうしゃくさまがけっこんしたってしったら、れんでぃあ、かなしくなるよ!」
「しのうとするとおもう」

 結構二人が怖いことを言っているけど、私はそれを否定することができないどころか、それだけで済めばいいと思っている。
 あのお兄様は、隣国がきな臭い動きをしているというのに、戦力を減らすようなことをしてしまいそう。

「そうですか……。では、公爵様にはお話ししないようにという旨のお手紙を書いておきますか?ちょうどお屋敷の様子を報告するつもりでしたので……」
「えっ?公爵様がどこにおられるのかわかるの?」
「ええ。アリジェント王国の国境警備隊の砦におられると思いますよ」
「えっ……?ええぇえええぇええええ!!?」

 まずいまずいまずい!!!しばらくは大丈夫かなとのんきに考えていた私を殴りたい!
 死人が!死人が出る!公爵様が死ぬだけならまだいい!……いや、よくはないけど。でも、無関係な人までも巻き込んでしまうかも!怒っているときのお兄様は魔法の制御ができないから!

「今すぐに書きましょう!ついでに、弟妹たちの宿泊の許可も……」
「かしこまりました。便箋を取ってきてまいります」

 シアンは、そう言って出ていったけど、私の頭の中では、お兄様の暴走の姿しか浮かんでいない。
 公爵様……大丈夫かな……?
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?

ピコっぴ
恋愛
7歳の時から婚姻契約にある我が婚約者は、どんな努力をしても私に全く関心を見せなかった。 13歳の時、寄り添った夫婦になる事を諦めた。夜会のエスコートすらしてくれなくなったから。 16歳の現在、シャンパンゴールドの人形のような可愛らしい令嬢を伴って夜会に現れ、婚約破棄すると宣う婚約者。 そちらが歩み寄ろうともせず、無視を決め込んだ挙句に、王命での婚姻契約を一方的に「破棄」ですか? ただ素直に「解消」すればいいものを⋯⋯ 婚約者との関係を諦めていた私はともかく、まわりが怒り心頭、許してはくれないようです。 恋愛らしい恋愛小説が上手く書けず、試行錯誤中なのですが、一話あたり短めにしてあるので、サクッと読めるはず? デス🙇

処理中です...