これが『契約』だとおっしゃったのはあなたです!~貧乏令嬢は、夫の愛は望まない~

りーさん

文字の大きさ
上 下
6 / 21

6

しおりを挟む
 あぁ~。死ぬかと思った……。案外、なんともなくてよかった。あまりにも目覚めなければ、公爵様に言う予定だったみたいだけど、言われなくてよかったよ。
 残すのがもったいなくて、食べすぎて倒れましたなんて、貧乏なところが滲み出てて、さすがに恥ずかしすぎるから。公爵様が出張中というのもあって、出張なのに、夫人が食べすぎで倒れたことを報告するのはどうかみたいな考えだったらしい。毒味はしていたようなので、毒殺などとは思われなかったみたいね。ちょっと危機感が低いような気もするけど、それが功を奏したのだから、前向きに考えよう。
 でも、なんとか弟妹たちとの約束を反故にすることはなさそうで、そこは安心した。
 それに、望みがあれば、できうる限り叶えると言っていたから、ある程度は自由にしていいだろう。社交が大変そうだけど、権利がある分だけ義務も増えるものだ。子作りはしなくてもいいのだから、私はまだ権利のほうが多いと思うけどね。

「奥様」
「あっ、シアン」

 後ろから声をかけられて振り返ると、そこにはシアンが立っていた。

「ジルスタ様とメイロード様がご到着されました」
「本当っ!?すぐに行くわ!」

 私は、思わず玄関のほうに走り出す。
 はしたないと思われようと、この嬉しい気持ちを隠すことはできない。
 玄関のほうに行くと、ちょうどジルとメイが降りてきたところだった。

「おねーさま!」
「ねーさま!」

 二人も私の姿を見つけると、すぐに駆け寄ってきた。抱きついてきた二人を、私も抱き締め返す。
 男爵家を出たのは、今日の朝のはずなのに、もう一週間は会っていないように感じるのだから、時間の流れというのは、不思議なものだった。

「なんともなかったかしら?」

 アリジェント王家の血は、こういうところでも、悪い意味で注目されてしまう。私はあまり覚えていないけど、誘拐されたこともあるらしい。お母様と、従兄であるレンディアお兄様がすぐに私を奪還したらしいけど。
 レンディアお兄様は、アリジェント王家の血を引いてはいるものの、ユールフェースよりも分家の筋になるので、男爵家である私たちよりは警戒されていない。この国の騎士でもあるので、よほどでない限り、裏切りはないし、城にいるのであれば、監視もしやすいという考えなのだろう。
 お兄様のことは置いておくとして、そんなんだから、道中に危険がないとは言いきれない。
 そんな私の不安を書き消すように、メイが笑顔を向ける。

「ううん。きしさまがまもってくれたの!」

 きしさま……騎士様か。弟妹たちの危険を考慮して、公爵家の騎士をつけてくれたのかもしれない。自分の部隊の騎士ということは、さすがにないと思うから。
 やっぱり、思ったよりは、優しい方かもしれない。『アリジェントの血筋を取られると困りますから』と冷たく言うのが目に見えているけど。
 でも、口にするのと、行動に移すのは別だからね。綺麗事だけを言うよりも、建前であっても、行動に移してくれる人のほうが、私は好感が持てる。

「それなら良かったわ。それじゃあ、何しようか」
「ほん!ほんよんで!」
「ぼくはぼーるあそび!」

 どうやら、この前うやむやになってしまった遊びをしたいらしい。
 もう準備は万端のようで、メイはあのとき落としてしまっていた本を、ジルも落としていたボールを持ってきている。

「それじゃあ、まずはメイの本から読みましょうか。ジルは、ちょっと待っててね」
「はーい!」
「はーい……」

 メイは本を読んでもらうことに喜んで、ジルは後になったことに、不満を漏らすように返事した。

*ー*ー*ー

「それから、マリアは……あら?」

 まだ完璧に文字が読めない妹のために、読み聞かせていると、すーすーという音が聞こえる。読み聞かせを止めて、近くを見てみると、私の膝枕で寝息をたてている妹がいた。

「う~ん……どうしようかな……」

 この後は、ジルと遊ぶ約束をしているというのに、膝枕させられてしまっては、ここから動くことができない。
 考えた末に、いつもの方法で行くことにした。

「レーラ。ミリス。ここにクッションと掛け布団を運んでくれませんか?よければ、シーツも」
「ここに……でございますか?」
「ええ」
「……かしこまりました」

 レーラとミリスは、少し戸惑いながらも、部屋を出ていって、しばらくすると、クッションをいくつかと、掛け布団。シーツも持ってきてくれた。

「それじゃあ、シーツとクッションを置いてくれますか?」
「……はい」

 まだ戸惑っているようで、少し困惑しながら、シーツを敷いて、クッションを置いた。

「それでは、少し離れていてください」

 レーラとミリスが離れたのを確認すると、私は魔力を練り始める。
 貧乏貴族の男爵家だけど、隣国の王家の血筋ではあるからか、私は魔法が使える。いや、一家全員魔法が使える。といっても、優遇されるような属性魔法ではなく、どこにも属さない、通称無属性といわれるものだ。
 これも、男爵家止まりの理由ではあるだろう。でも、王家の血筋らしく、魔力量だけは多いらしいので、それを狙っていたのかもしれない。

(念動力テレキネシス)

 私が使える無属性魔法の一つ。魔力で動かしたいものを覆うことで、自由に動かすことができる。これだと、直接触れてはいないので、人を動かしても、気づかれることは少ない。
 風魔法に似たようなものがあるらしいけど、見たことがないから、違いはわからない。
 私は、メイに気づかれないように運んで、そっとシーツの上に寝かせた。そして、これまたそっと布団をかけてあげる。
 ジルやメイが昼寝をしてしまったときは、いつもこうしている。これでも、ジルやメイの勘はするどくて、2割くらいしか成功率がないけど。
 起きてしまったら、一緒に遊べばいいから、起きたとしても大丈夫だろう。
 今回は起きなかったみたいで、布団を被せても、すーすー寝息をたてている。

「それじゃあ、私はジルと遊んでくるから……うん?」

 ジルと遊んでくるために、メイを二人に預けようとしたら、二人はあんぐりと口を開けている。そんなに驚くようなことがあったかな?

「あの……ジルと遊んでくるので、メイをよろしくお願いしますね?」
「あっ、はい!承知しました!」

 私が肩をぽんぽんと叩きながらそう言うと、やっと現実に戻ってきたようで、大きな声で返事をする。
 その声で起きてしまったかとメイのほうを見るも、熟睡しているみたいで、特に起きることはなかった。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!

山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」 夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

処理中です...