悪役令嬢?それがどうした!~好き勝手生きて何が悪い~

りーさん

文字の大きさ
上 下
50 / 53
公爵令嬢?それがどうした!

第50話 引きこもり

しおりを挟む
 カルディアは、あの宣言通り、本当に抜け出す隙を与えなかった。
 一時間に一度くらいの割合で見てくるし、レイ達をつけはするものの、大抵はケーナとシズハとペア。
 この二人は最初は敵だったくせに、今はもうパパさんレベルで、私に対しては過保護になる。
 そんなだから、絶対に外には出させない。レイの事も叱っていたしね。体を張ってでも止めろとか言っていたかな。
 レシピを教えると言ってしまったからと言っても、カルディアがレシピを代筆して、シェフ達の元に持っていた。
 くっそぉ……本当に出してくれねぇ~……!転移魔法とかが使えれば楽なんだけどなぁ……絶対に教えてはくれないだろう。
 こうなったら、目が届かない所に移動するしかないかな……

「義姉上。気分はいかがですか?」
「誰かさんのお陰で最悪だけど?」

 私はドアの方も見ずに、悪態をつく。もう本性なんて隠している暇はない。

「気分が良いみたいで嬉しいです」

 耳が腐ってんのか!“最悪”ってはっきりと言っただろうが!
 本当にゲームのカルディアとそっくりだ。ゲームのカルディアも、王子にまともに相手されないエリカをこんな風にからかう……というか、おちょくってた。
 そのたびにエリカは癇癪を起こし、お父さんがカルディアを叱る図ができあがる。
 ゲームのヴィルク……ティアンゴルグ公爵は、今以上にエリカを溺愛していた。ゲームではママさんが死んでいるから当然だろう。唯一の血縁はエリカしかいなくなった。ママさんの分もエリカに行ったのだ。
 カルディアは、それでちょっとイライラしていたんだろうね。家に味方がいないから。それで、癇癪を起こすエリカを見て楽しんでいたと……ドSやん。

「今日は義姉上にお伝えする事がありまして」
「なぁに?」
「義姉上はここにいると勝手な行いばかりするので、療養を名目に領地にある別邸に行く事になったそうです」
「へぇ~」

 一言余計じゃよ義弟よ。特に、ここにいるというあたりが。それにしても、領地の別邸か……行ったらシシーちゃんと会えなくなるなぁ……って、うん?

「……別邸!?」

 ぎゃああああ!!!いってぇええええええ!!!!
 勢いよく起き上がったので、体全体に激痛が走った。今はゆっくり起き上がれば少しズキズキするくらいだけど、勢いよく起き上がったらこうなります。
 痛みで再びベッドに倒れました。

「義姉上!大丈夫ですか!?」
「大丈夫に見えるの?」

 それなら、あんたは目も腐ってる事になるぞ。

「勢いよく起き上がるからですよ」

 はぁとため息をつきながら呆れるようにそう言った。

 お前がビックリさせるような事を言うからだろうが!私にまったく非がないとは言わんが、なんで私に10割非があるみたいに言うんだよお前!

「とりあえず、いつ行くの?」
「明日です」

 へぇ~、明日ね……明日!!?えっ!?早くない?なんで私が事前に知らされてないんだよ!おかしいだろうが!
 あの四人からも特にそんな話は聞いてないし……断られると思ったのかな?別に、衣食住がちゃんとしてれば……うん?ちょっと待て。
 転生直後を思い出してみよう。衣はロリータみたいな感じ。食は前世の方がマシだというレベルの激マズ飯。そして、転生してから領地には一度も行っていない。なので、環境に変化はナシ。
 ……あっ、死んだ。
 頭を高速回転させた答えで私が思ったのは、それだけでした。

* * *

「レイさーん!なんとかしてくれません?」

 レイが呼ばれて振り返ると、そこにはアルトがいた。

「どうした?アルト」
「お嬢様が部屋にこもって出てこないんですよね……」
「……は?冗談だろ」
「本当ですって!」

 レイはアルトの言う事が信じられなかった。ベッドで寝ていた時、動きたいだの、本当に暇だだの言っていたのを聞いていたからだ。
 それなのに、なんで前とは真逆の行いをしているのかが分からなかった。

「事実だとして、なんでそれで俺の所に来る?」

 引きこもっているだけなら、最悪無理やり中に入ってしまえば良いだけだ。それなのに、アルトは自分を呼びに来ている。

「レイさんなら中に入れるかなぁって。魔力透過症ですし?」
「……魔力透過症と中に入れる事と何の関係があるんだ」
「……だってお嬢様、結界張って入れないようにしてるんですもん」

(そういう事か……)

 自分を呼びに来た理由が分かった。結界は、本人の意思以外で解除できない。突破するには、本人以上の術者か、魔力透過症のみ。
 エリカは自覚していないが、エリカの魔力量は常人の数十倍は軽くある。いわゆる転生チートというものだ。転生していることなど、誰も知らないが。
 そんな訳なので、今この場にエリカ以上の魔力を持つ者はいない。残るのは、魔力透過症の人物のみだが、それもこの場にはレイしかいない。

「とりあえず行ってみるが……出てくるとは限らんぞ」

 仕事を中断して、レイはアルトの後についていった。

 レイがエリカの部屋の前に来る。そこには、公爵、カルディア、ケーナ、シズハの姿があった。

「旦那様。連れてきましたよ~!」

 大きな声でアルトが公爵に呼びかける。公爵は、チラッとこちらを向いて、「来たか」と一言呟いただけだった。

「エリカが部屋にこもって出てこない。理由を聞いてこい」
「かしこまりました」

 レイは、ドアノブに手をかける。本来なら、そこで拒否反応が起こるが、魔力透過症のレイには、そんな事は関係なかった。
 

「お嬢様、入りますよ」

 ドアを開けて中に入ったとたんにバンと大きな音が鳴ってドアが閉まる。

「……レイね」

(うわっ……)

 思わず声に出そうなくらいには、中はひどかった。
 明かりはついてない。日に当たったら死ぬのかと聞きたくなるくらい、カーテンはびっちりと閉まっている。
 そしてそんな暗い部屋で、布団にくるまっているエリカがいた。その周りは、どよめいたオーラがたちこもっていた。

「お嬢様……いかがされましたか?」

 部屋の向こうには公爵やカルディアもいるので、レイは敬語を使っている。

「ほっといて」

(ほっといたらほっといたで俺が外にいる奴らに殺されるんだよ……!)

 理由を聞いてこいと言われたので、理由を聞けませんでしたなどと言おうものなら、エリカがよく言っている、説教(物理)が待っている。だからと言って、無理に聞こうとして泣かせようものなら、もっとひどい仕打ちが待っているだろう。
 どうするべきかと考えたが、辛抱強く聞くしかないという結論にいたった。

「旦那様から理由を聞いてくるように言われてますので」
「一緒にいたのに分からないの?」

 分からないから聞いてんだよと言いそうになるのを抑えて、「分かりません」と答える。

「だって、別邸に行ったら地獄が帰ってくるじゃない……」

(地獄……?)

 レイは、エリカの言っている言葉を理解できなかった。

 いくら別邸と言っても、貴族の屋敷。そこまでひどい場所ではないように感じた。

「地獄って何がですか?」
「あそこに戻ったらマズ飯とロリータ服がカムバックなんだよー!」

(ろりーた?かむばっく?)

 最悪だ最悪だと呟き続けているエリカをよそに、レイはエリカの言葉の意味を考えていた。
 エリカは、時々訳の分からない言葉を使いだす。
 そもそも、ドSという言葉もエリカが言い出して、元刺客とエリカの五人の間で使われるようになった。
 アルトの本性を知った時、エリカが言ったのは、「犬の皮を被ったドSの狼じゃん」だった。
 それから、アルト=ドSという、アルトはドSの代名詞のようになったのだ。

「意味は分かりませんけど、理由は分かりました。別邸に行きたくないって事ですね」
「そう!私は撤回されるまでずっとここに引きこもってやるから!誰にも会わないもん!」
「分かりました。旦那様にそうお伝えします」

 レイが事の顛末をすべて報告すると、誰にも会わないという部分で公爵がショックを受けていた。

「どうしたら良いのだ……?」

(行かせなければ良いんじゃねぇの?)

 そうは思ったが、レイは口には出さなかった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

所(世界)変われば品(常識)変わる

章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。 それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。 予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう? ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。 完結まで予約投稿済み。 全21話。

処理中です...