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13. 領地視察 1

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 領地視察当日、わたくしたちは離れへと集められました。
 離れは屋敷とは違い、少しボロボロでこじんまりとしていて、貴族の家の敷地内にあるようなものには見えませんでした。
 そして、馬車がある厩戸とは、逆方向です。

「養父さま。領地に向かわれるのではないのですか?」
「ああ、だから、ここから向かうんだ」

 なんのことやらとわたくしは首をかしげますが、ルークの表情はピクリとも変わらず、平然としております。
 ルークは養父さまが何をなさるつもりなのか知っているのでしょうか?なんか、仲間はずれの気分ですわね。

 養父さまは、鍵を取り出して入り口を開けます。ここに来たからには、建物の中に入ることは予想しておりましたが、ここからどうやって領地に向かうというのでしょう。

「エリス。ルーク。来なさい」

 名前を呼ばれて、わたくしとルークは養父さまの後をついていき、建物の中へと入りました。
 そこには、光り輝く魔術陣があります。

 養父さまとルークが当然のようにその魔術陣の中心に行きますが、わたくしは動けません。

「エリス、どうしたんだ」

 来ようとしないわたくしが気になったのか、養父さまはそのように尋ねました。
 わたくしは、魔術陣を示しながら尋ねます。

「養父さま、これは……」
「人を移動させる転移魔術の陣だ。ここから領主邸に直接向かおうと思ってね」

 にこりと微笑みながら言う養父さまに、わたくしは目を見開きます。

(人を移動させる転移魔術!?)

 わたくしの生まれ故郷であるライル王国は、転移魔術は存在するものの、わたくしが使っていたような手紙などの小さなものを移動させる程度です。
 人を移動させる魔術は、聞いたことはありますが、このように日常的に使われているものではありません。
 養父さまは、わたくしを迎えに来るときに何度も使っていましたが、それは非常に稀有な例なのです。

「で、ですが、貴族は道中の街で金銭を落とすものなのではありませんか?」

 貴族のような富める者たちは、貧しき者たちに『施し』をするのがライル王国では習わしでありました。
 貴族たちの消費活動は、自分の権力を見せつける意味合いがあります。
 気まぐれに金銭を振り撒くことで、慈悲深いことを示すのだが、それが実際に平民たちの暮らしに役立っているのです。

 だからこそ、このような慣習を疑問に思うこともなく、わたくしはそれが当然のこととして生きてきたのですけど、帝国では違うのでしょうか?

「もちろん、金銭を落とすこともする。帰りは馬車で帰るつもりだ」
「では、なぜ行きはこのような方法を……?」

 そんな面倒なことをするくらいならば、行きも馬車で行けばよいではありませんか?と言外に尋ねると、養父さまは、はぁとため息をついて答えます。

「領地視察は、決められた日程があるんだ。それに遅れるわけにはいかないから、到着が不確定な馬車を使うわけにはいかない」
「帝国では、このような移動が普通だ。早く慣れたほうがいい」

 どうやら、この場ではわたくしのほうが異端のようです。養父さまもルークも、おかしなことを言っているとは、欠片も思っていないかのような表情をしています。
 ルークはむしろ、わたくしのほうが何を言っているのかと、視線で責められているかのような気がいたします。

「かしこまりました。これで向かいますわ」
「では、エリスもこちらに来い」
「はい」

 わたくしは、おそるおそる魔術陣の中央に向かいます。
 魔術陣に足を踏み入れたとたん、魔力が抜けるような感覚がしました。どうやら、魔力を吸収されているようですわね。微々たる量ではありますが、この感覚は少し気になってしまいますわ。

 それでも、そのまま歩みを進めて、養父さまの元まで来ると、養父さまはわたくしとルークを右腕で抱えました。

「転移ーールミニエ!」

 養父さまがそう口にした瞬間、魔術陣の輝きは一層に強まります。
 眩しくて目を瞑りましたが、数秒後には光が薄れていき、わたくしはゆっくりと目を開きました。

 わたくしは周囲を見渡しますが、特に景色の変化は見受けられません。

「よし、行こうか」

 養父さまに急かされて、わたくしは建物の外に出ます。

「わぁ……!」

 外の景色は、先ほどとはまるで違いました。そこは、真っ白な銀世界。わたくしが、本の中でしか見たことがなかったもの。

「雪だわ……!」
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