30 / 31
第二章 初めての領地
30 今宵は赤い月が浮かぶ 2
しおりを挟む
自分の部屋に戻ったリオンティールは、床に座り、従魔であるラクの背中を撫でていた。
ラクは、いつもとは違い、どこか息遣いが荒く、くたびれているように見えた。
「大丈夫なの?」
『う~ん……。なんか、体が熱いんだよね』
リオンティールは、少し意識しながらラクの体に触れる。
言われてみればというくらいだが、確かに体が熱いような気もした。
「魔力足りないとか?それか、風邪じゃない?」
『魔力は足りてるし、そもそも、魔力が足りないくらいで熱は出ないよ。それに、人間よりも魔物は体が頑丈だから、それもない。病気になるのも稀だし』
「あっ、なるにはなるんだ」
半分冗談のつもりで言ったことだが、魔物も病気にはなるらしい。
だが、魔物がかかる病気は知らず、ましてや、どんな症状が出るのかもわからないリオンティールは、原因を突き止めることができない。
仮に、病気ではないとして、他にどんな理由があるのかも想像できなかった。
「なんか心当たりないの?」
『そんなものあったら、君に解決してもらってるよ』
「なんで僕に任せる前提なの」
リオンティールも、自分は人でなしではないつもりでいる。ラクの体調が良くなるというのなら、自分にできる範囲でのことならやるつもりだった。
だが、最初から頼る前提でいられると、ふいに協力する気が失せるのだから不思議だ。
『とにかく、心当たりはないよ』
「う~ん……。兄上たちなら何か知ってるのかなぁ?」
『そう思うなら、聞きに行けば?』
「いや~、今はちょっと……」
多分、あのブラコンの兄姉たちのことだ。聞けば教えてくれるだろう。
だが、リオンティールは二人のことを嫌っているも同然のようなことを言い、その空間にいたくないからと逃げてきたところだ。また戻れと言われて素直に頷いたりはできない。
つまり、気まずいのだ。
(それに、忙しいかもしれないし)
そもそも、リオンティールも領地に来ることになったのはなぜか?
それは、スタンピードの危険があるためだ。
スタンピードの前兆のようなものが現れており、自衛手段を持っていない(と思われている)リオンティールを、屋敷に一人で残すのは危険と判断され、手が届くところに連れてこられた。
高い戦闘能力を持つ兄姉たちは、そのスタンピードの対応を共に行う可能性は極めて高いといえる。
それなら、それぞれがどうやって動くかの作戦会議や、戦闘のための事前準備のようなものをしていたとしても、何もおかしな話ではない。
それを邪魔するのはよろしくないことだ。
(……あれ?)
その時、リオンティールはあることに気がついた。
それは、スタンピードが近いこと。
リオンティールが領地に連れてこられた理由でもあるので、当たり前のことなのだが、そのことについて、深く考えていなかった。
スタンピードとはどんな現象なのか。それを、リオンティールは先ほど兄に聞いていた。
スタンピードは、魔物が凶暴化し、赤い魔物という強力な魔物が生まれる現象のことだ。ここで引っかかるのは、前者の魔物が凶暴化するというところである。
魔物の凶暴化は、何を意味するのか。そもそも、凶暴化とはどういう意味なのか。
普通に考えれば、理性を失い暴走することだろ
う。ならば、なぜそんなことになってしまうのか。
赤い月が浮かぶというだけで、理性が吹き飛んだりするのであれば、今ごろラクは暴れているはずだ。
ラクだけではなく、家族が連れている従魔も暴れるだろう。というか、それならそもそも連れてこずに、どこかに隔離くらいはするはずだ。
それならば、赤い月は、直接的に理性を失わせるのではなく、理性を失うのはあくまでも結果なのだろう。
ならば、何をすれば理性を失うようなことが起きるのか。そこまではリオンティールもわからないが、ラクが苦しんでいることに、その答えが隠されているような気がした。
「ねぇ……赤い月って、君たちに何をするの?」
『……さぁ?あんまり覚えてないんだよね、赤い月の夜のこと。赤い月が視界に入ってからの記憶がないんだ』
「じゃあ、次の朝はどうなってたの?」
『気がついたら起き上がっていたから、寝てたんじゃないかなぁ?』
リオンティールは、ますますわからなくなった。
覚えていないのは、凶暴化していたことにより理性を失っていたから。寝ていたというのは、凶暴化したことにより、体力を使い果たしたからと説明がつくが、赤い月と凶暴化の因果関係がわからない。
赤い月の何が、魔物を凶暴化させるのか。
(難しいことは苦手なんだけどなぁ)
リオンティールは、その時その時を乗り越えていくタイプなので、あまり深く考え込むことはない。考えるだけ時間の無駄かもしれないし、わかったところで、何か役立ったりするわけでもないことがほとんどだからだ。
だが、今回は違う。ラクは、従魔の前に、リオンティールにとっては、蓮の次に仲のいい友達のようなものだ。そんなラクが苦しんでいたのなら、それを解決するために、考え込んだりはする。
必ずしも解決できるとは限らないのだが、それでも何か自分にできることがないかの手がかりを掴もうという意志はある。
今のところ、掴めた手がかりは、赤い月と何か関係があるかもしれない程度だが。
「あぁ~!頭がパンクする……!」
『それなら無理して考えなくてもいいんだけど……。君に倒れられるほうが困るし』
ずっと念で会話していたラクには、リオンティールの考えていることが筒抜けになっていた。
普段のリオンティールと比べればいろいろと考えているほうだと感心しているところはあったが、それ以上に大丈夫なのかという心配が勝っていた。
案の定、リオンティールは今にも溶けそうなくらいにくたびれている。先ほどまではラクのほうが辛そうな状況だったのに、わずかな間に、立場が逆転していた。
「それなら、最終手段しかないか……!」
『最終手段……?』
意を決したような様子のリオンティールに、父親にでも聞いてくるのかと思いながらラクが首をかしげる。
リオンティールは、溶けそうな体で立ち上がり、そのままある方向に歩きだし、バタンと倒れる。
倒れた場所は、ベッドの上だった。
『寝るの!?』
「こういうときは寝るに限るものだよ~。じゃあ、おやすみ~……」
そう言うと、数秒もしないうちに、ラクの耳にはリオンティールの寝息が聞こえてきた。
(おやすみ~じゃないんだけどなぁ……)
ラクは、いつもと何も変わらないリオンティールを呆れた目で見ていた。
ラクは、いつもとは違い、どこか息遣いが荒く、くたびれているように見えた。
「大丈夫なの?」
『う~ん……。なんか、体が熱いんだよね』
リオンティールは、少し意識しながらラクの体に触れる。
言われてみればというくらいだが、確かに体が熱いような気もした。
「魔力足りないとか?それか、風邪じゃない?」
『魔力は足りてるし、そもそも、魔力が足りないくらいで熱は出ないよ。それに、人間よりも魔物は体が頑丈だから、それもない。病気になるのも稀だし』
「あっ、なるにはなるんだ」
半分冗談のつもりで言ったことだが、魔物も病気にはなるらしい。
だが、魔物がかかる病気は知らず、ましてや、どんな症状が出るのかもわからないリオンティールは、原因を突き止めることができない。
仮に、病気ではないとして、他にどんな理由があるのかも想像できなかった。
「なんか心当たりないの?」
『そんなものあったら、君に解決してもらってるよ』
「なんで僕に任せる前提なの」
リオンティールも、自分は人でなしではないつもりでいる。ラクの体調が良くなるというのなら、自分にできる範囲でのことならやるつもりだった。
だが、最初から頼る前提でいられると、ふいに協力する気が失せるのだから不思議だ。
『とにかく、心当たりはないよ』
「う~ん……。兄上たちなら何か知ってるのかなぁ?」
『そう思うなら、聞きに行けば?』
「いや~、今はちょっと……」
多分、あのブラコンの兄姉たちのことだ。聞けば教えてくれるだろう。
だが、リオンティールは二人のことを嫌っているも同然のようなことを言い、その空間にいたくないからと逃げてきたところだ。また戻れと言われて素直に頷いたりはできない。
つまり、気まずいのだ。
(それに、忙しいかもしれないし)
そもそも、リオンティールも領地に来ることになったのはなぜか?
それは、スタンピードの危険があるためだ。
スタンピードの前兆のようなものが現れており、自衛手段を持っていない(と思われている)リオンティールを、屋敷に一人で残すのは危険と判断され、手が届くところに連れてこられた。
高い戦闘能力を持つ兄姉たちは、そのスタンピードの対応を共に行う可能性は極めて高いといえる。
それなら、それぞれがどうやって動くかの作戦会議や、戦闘のための事前準備のようなものをしていたとしても、何もおかしな話ではない。
それを邪魔するのはよろしくないことだ。
(……あれ?)
その時、リオンティールはあることに気がついた。
それは、スタンピードが近いこと。
リオンティールが領地に連れてこられた理由でもあるので、当たり前のことなのだが、そのことについて、深く考えていなかった。
スタンピードとはどんな現象なのか。それを、リオンティールは先ほど兄に聞いていた。
スタンピードは、魔物が凶暴化し、赤い魔物という強力な魔物が生まれる現象のことだ。ここで引っかかるのは、前者の魔物が凶暴化するというところである。
魔物の凶暴化は、何を意味するのか。そもそも、凶暴化とはどういう意味なのか。
普通に考えれば、理性を失い暴走することだろ
う。ならば、なぜそんなことになってしまうのか。
赤い月が浮かぶというだけで、理性が吹き飛んだりするのであれば、今ごろラクは暴れているはずだ。
ラクだけではなく、家族が連れている従魔も暴れるだろう。というか、それならそもそも連れてこずに、どこかに隔離くらいはするはずだ。
それならば、赤い月は、直接的に理性を失わせるのではなく、理性を失うのはあくまでも結果なのだろう。
ならば、何をすれば理性を失うようなことが起きるのか。そこまではリオンティールもわからないが、ラクが苦しんでいることに、その答えが隠されているような気がした。
「ねぇ……赤い月って、君たちに何をするの?」
『……さぁ?あんまり覚えてないんだよね、赤い月の夜のこと。赤い月が視界に入ってからの記憶がないんだ』
「じゃあ、次の朝はどうなってたの?」
『気がついたら起き上がっていたから、寝てたんじゃないかなぁ?』
リオンティールは、ますますわからなくなった。
覚えていないのは、凶暴化していたことにより理性を失っていたから。寝ていたというのは、凶暴化したことにより、体力を使い果たしたからと説明がつくが、赤い月と凶暴化の因果関係がわからない。
赤い月の何が、魔物を凶暴化させるのか。
(難しいことは苦手なんだけどなぁ)
リオンティールは、その時その時を乗り越えていくタイプなので、あまり深く考え込むことはない。考えるだけ時間の無駄かもしれないし、わかったところで、何か役立ったりするわけでもないことがほとんどだからだ。
だが、今回は違う。ラクは、従魔の前に、リオンティールにとっては、蓮の次に仲のいい友達のようなものだ。そんなラクが苦しんでいたのなら、それを解決するために、考え込んだりはする。
必ずしも解決できるとは限らないのだが、それでも何か自分にできることがないかの手がかりを掴もうという意志はある。
今のところ、掴めた手がかりは、赤い月と何か関係があるかもしれない程度だが。
「あぁ~!頭がパンクする……!」
『それなら無理して考えなくてもいいんだけど……。君に倒れられるほうが困るし』
ずっと念で会話していたラクには、リオンティールの考えていることが筒抜けになっていた。
普段のリオンティールと比べればいろいろと考えているほうだと感心しているところはあったが、それ以上に大丈夫なのかという心配が勝っていた。
案の定、リオンティールは今にも溶けそうなくらいにくたびれている。先ほどまではラクのほうが辛そうな状況だったのに、わずかな間に、立場が逆転していた。
「それなら、最終手段しかないか……!」
『最終手段……?』
意を決したような様子のリオンティールに、父親にでも聞いてくるのかと思いながらラクが首をかしげる。
リオンティールは、溶けそうな体で立ち上がり、そのままある方向に歩きだし、バタンと倒れる。
倒れた場所は、ベッドの上だった。
『寝るの!?』
「こういうときは寝るに限るものだよ~。じゃあ、おやすみ~……」
そう言うと、数秒もしないうちに、ラクの耳にはリオンティールの寝息が聞こえてきた。
(おやすみ~じゃないんだけどなぁ……)
ラクは、いつもと何も変わらないリオンティールを呆れた目で見ていた。
12
お気に入りに追加
1,225
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。
サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。
人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、
前世のポイントを使ってチート化!
新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる