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第二章 初めての領地
26 マイペースなご主人さま
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一方のリオンティールは、すっかりとだらけていた。
「はぁ~……ここのベッドも寝心地いいね~」
ゴロゴロと転がりながら、リオンティールは感心するように言う。
それを、ラクは呆れるように見ていた。
「にゃ~にゃ~」
『あまり寝ると太るよ?』
「大丈夫だって!僕、あんまり食べないし」
「にゃにゃあ……。にゃ、にゃにゃん」
『そういう問題じゃ……。まぁ、いいけどさ』
あくびしながら楽観的に言うリオンティールに、もうなんの言葉をかけていいかわからなくなる。
このまま、ずっとだらだらしているのだろうか。いや、しているだろう。そう判断できるくらいには、ラクはリオンティールのことを見てきたつもりだった。
リオンティールは、とにかくマイペースだ。
自由時間を与えられると、本を読んでいるか、寝ているかのどちらか。
それは怠惰なだけだと思われるかもしれないが、そういうわけでもない。
鍛練するように言われると、一応はやっているからだ。やる気のなさを、隠す気もないが。
その鍛練もとにかくゆっくりと進めるお陰で、通常なら半日で終わらせるようなことを、リオンティールは一日ほどかけて行う。
家族も、やっていることは事実なのと、末っ子のリオンティールには甘いところがあるので、なんだかんだ注意しない。
それが、彼のこのような行いを助長させている原因でもあるだろう。
そんな風にリオンティールに呆れるようなことはあっても、なんだかんだ従魔になって正解だったと、ラクは感じている。
ラクの種族……スレイクスは、幸運をもたらす魔物と言われているので、その身柄を狙われることは多々あった。
幸運というのは、事故や事件に遭遇しにくくなるというだけでなく、金運や仕事の成功率などもあげてしまうことができるので、要らないと思う人間などほとんどいなかった。
だが、幸運をもたらすと言われている魔物のほとんどは、伝説のような意味合いが強く、それに見合うほどの強さを兼ね備えている。だからこそ、欲する者は多くいたが、行動に移すような愚かな者たちはいなかった。
スレイクスの存在が、公となるまでは。
高い戦闘能力を持たず、決して弱いとは言いきれないほどの幸運の力を持っていたスレイクスは、すぐに人間たちに狙われ、乱獲される対象となった。
それまでスレイクスは、数多く生息しており、人里にも溢れていたのだが、次第に姿を消していくこととなった。
それが、スレイクスが珍しい魔物と言われるようになった所以でもあり、会うだけで幸運が訪れるなんて伝説までつくようになった要因であった。
ラクも、以前は人が来ない山奥で仲間と共に生活をしていたが、人間の密猟者に見つかってしまい、連れ去られそうになってしまうが、その途中で逃げ出し、命からがら、リオンティールと会った森までやってきた。
そこでほとぼりが収まるまで身を潜めておくつもりだったのだが、以前まで住んでいた山奥と比べて、人の出入りが多く、なかなか外には出られなかった。
パワードベアーが彷徨いていたというのも、外に出られなかった要因だろう。
なかなかの不幸続きだが、これもちゃんとした理由がある。
スレイクスは、体に蓄えている魔力により幸運を招き、危険から身を守っているが、魔力がないと、逆に不幸を呼び寄せるようになってしまう。
今日のがいい例と言えるだろう。賊に襲われ、乗っていた馬車が子どもを引きそうになったのだ。
今思えば、リオンティールとの初対面の時に限り、パワードベアーに見つかり、結果的に助かったとはいえ、リオンティールを危険な目に合わせてしまったのも、そのせいなのかもしれない。
そう思えるなら、なぜリオンティールに言わないのかと問われると、信用できなかったからとしか言いようがないと言えるだろう。
魔力がないと不幸を招くが、逆にいえば、魔力さえ注げば、いつでも幸運が手に入るのだ。そんな簡単な方法だと知ってしまえば、リオンティールは際限なく使ってしまいそうでーーその思いが、何度もリオンティールを危険な目に合わせる要因となってしまった。
(そう考えると、嫌な奴だよね、ボク……)
自分の力を悪用しないでいてくれて、それを見込んで従魔の契約まで行ったというのに、心の底では信用しきれなくて、何度も命の危機にさらしている。
そんな魔物など、すぐに捨てたくなるようなものだが、リオンティールはそんなことをしようとは欠片も思わないようだった。
一度、魔力がないと幸運を招けないことを話したときに、責めてきたことはあるが、それは会話の流れからのものであり、まるでじゃれあいのようだった。
リオンティールがラクを責める言葉に、嫌悪感や不満は、ほとんど込められていなかったように思う。
それは、強い家族がいるから大丈夫だという安心感があったからかもしれないが……ラクにとっては、おかしなことだった。
自分の力を悪用しなさそうだから契約してあげると、ずいぶんと上からの言い方で契約したのに、心の底では信じていなかったのだから、責められても何の文句も言えないというのに、まったく責められないと、それはそれで複雑になってしまう。
責めてくれたほうが……自分の心が、軽くなるからだろう。許してくれないほうが、仕方ないのだからと、そう自分を騙すことができる。
あっさり許されると、その心を、どこにぶつけていいのか、どうやって推し量ればいいのか、何もわからなくなってしまう。
結局は、今でも昔でも、ラクは自分のことしか考えていなかった。
(まぁ、呆れて捨てられるまでは……一緒にいようかな)
いつの間にかすーすーと眠っていたマイペースなご主人さまの傍らで、ラクは体を丸めて同じように眠りについた。
「はぁ~……ここのベッドも寝心地いいね~」
ゴロゴロと転がりながら、リオンティールは感心するように言う。
それを、ラクは呆れるように見ていた。
「にゃ~にゃ~」
『あまり寝ると太るよ?』
「大丈夫だって!僕、あんまり食べないし」
「にゃにゃあ……。にゃ、にゃにゃん」
『そういう問題じゃ……。まぁ、いいけどさ』
あくびしながら楽観的に言うリオンティールに、もうなんの言葉をかけていいかわからなくなる。
このまま、ずっとだらだらしているのだろうか。いや、しているだろう。そう判断できるくらいには、ラクはリオンティールのことを見てきたつもりだった。
リオンティールは、とにかくマイペースだ。
自由時間を与えられると、本を読んでいるか、寝ているかのどちらか。
それは怠惰なだけだと思われるかもしれないが、そういうわけでもない。
鍛練するように言われると、一応はやっているからだ。やる気のなさを、隠す気もないが。
その鍛練もとにかくゆっくりと進めるお陰で、通常なら半日で終わらせるようなことを、リオンティールは一日ほどかけて行う。
家族も、やっていることは事実なのと、末っ子のリオンティールには甘いところがあるので、なんだかんだ注意しない。
それが、彼のこのような行いを助長させている原因でもあるだろう。
そんな風にリオンティールに呆れるようなことはあっても、なんだかんだ従魔になって正解だったと、ラクは感じている。
ラクの種族……スレイクスは、幸運をもたらす魔物と言われているので、その身柄を狙われることは多々あった。
幸運というのは、事故や事件に遭遇しにくくなるというだけでなく、金運や仕事の成功率などもあげてしまうことができるので、要らないと思う人間などほとんどいなかった。
だが、幸運をもたらすと言われている魔物のほとんどは、伝説のような意味合いが強く、それに見合うほどの強さを兼ね備えている。だからこそ、欲する者は多くいたが、行動に移すような愚かな者たちはいなかった。
スレイクスの存在が、公となるまでは。
高い戦闘能力を持たず、決して弱いとは言いきれないほどの幸運の力を持っていたスレイクスは、すぐに人間たちに狙われ、乱獲される対象となった。
それまでスレイクスは、数多く生息しており、人里にも溢れていたのだが、次第に姿を消していくこととなった。
それが、スレイクスが珍しい魔物と言われるようになった所以でもあり、会うだけで幸運が訪れるなんて伝説までつくようになった要因であった。
ラクも、以前は人が来ない山奥で仲間と共に生活をしていたが、人間の密猟者に見つかってしまい、連れ去られそうになってしまうが、その途中で逃げ出し、命からがら、リオンティールと会った森までやってきた。
そこでほとぼりが収まるまで身を潜めておくつもりだったのだが、以前まで住んでいた山奥と比べて、人の出入りが多く、なかなか外には出られなかった。
パワードベアーが彷徨いていたというのも、外に出られなかった要因だろう。
なかなかの不幸続きだが、これもちゃんとした理由がある。
スレイクスは、体に蓄えている魔力により幸運を招き、危険から身を守っているが、魔力がないと、逆に不幸を呼び寄せるようになってしまう。
今日のがいい例と言えるだろう。賊に襲われ、乗っていた馬車が子どもを引きそうになったのだ。
今思えば、リオンティールとの初対面の時に限り、パワードベアーに見つかり、結果的に助かったとはいえ、リオンティールを危険な目に合わせてしまったのも、そのせいなのかもしれない。
そう思えるなら、なぜリオンティールに言わないのかと問われると、信用できなかったからとしか言いようがないと言えるだろう。
魔力がないと不幸を招くが、逆にいえば、魔力さえ注げば、いつでも幸運が手に入るのだ。そんな簡単な方法だと知ってしまえば、リオンティールは際限なく使ってしまいそうでーーその思いが、何度もリオンティールを危険な目に合わせる要因となってしまった。
(そう考えると、嫌な奴だよね、ボク……)
自分の力を悪用しないでいてくれて、それを見込んで従魔の契約まで行ったというのに、心の底では信用しきれなくて、何度も命の危機にさらしている。
そんな魔物など、すぐに捨てたくなるようなものだが、リオンティールはそんなことをしようとは欠片も思わないようだった。
一度、魔力がないと幸運を招けないことを話したときに、責めてきたことはあるが、それは会話の流れからのものであり、まるでじゃれあいのようだった。
リオンティールがラクを責める言葉に、嫌悪感や不満は、ほとんど込められていなかったように思う。
それは、強い家族がいるから大丈夫だという安心感があったからかもしれないが……ラクにとっては、おかしなことだった。
自分の力を悪用しなさそうだから契約してあげると、ずいぶんと上からの言い方で契約したのに、心の底では信じていなかったのだから、責められても何の文句も言えないというのに、まったく責められないと、それはそれで複雑になってしまう。
責めてくれたほうが……自分の心が、軽くなるからだろう。許してくれないほうが、仕方ないのだからと、そう自分を騙すことができる。
あっさり許されると、その心を、どこにぶつけていいのか、どうやって推し量ればいいのか、何もわからなくなってしまう。
結局は、今でも昔でも、ラクは自分のことしか考えていなかった。
(まぁ、呆れて捨てられるまでは……一緒にいようかな)
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