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第二章 初めての領地
25 ギルドマスターからの報告
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リオンティールと別れた後、アルトルートは、応接室に入った。
「待たせてしまってすまない。先ほどぶりだな、ギルドマスター」
「先ほどは失礼しました、領主さま」
ギルドマスターであるダグラスは、そう言って頭を下げるが、すぐに頭を上げる。
まるで、それは大したことではないというように。
ダグラスは、意を決するように言う。
「代官の方にはある程度お話ししましたが、ここ最近、冒険者の間で、赤い魔物の目撃情報が増えています」
アルトルートは、それには大して驚きはしなかった。
以前に、ベルトナンドから、パワードベアーのことを聞いてから、もしやとは思っていたことではあったからだ。
「赤い魔物か。それなら、最近の私も度々耳にしているが、この街周辺では、何が目撃されているんだ?」
アルトルートも、貴族たちの噂話などから、赤い魔物が目撃されたという報告が増えていることは知っていた。
現に、代官からの報告書でも、本来の生息域ではない魔物の目撃は増えていた。
「はい。今のところは、ロックワームとウルフだけです。ロックワームはやませ迷宮、ウルフは街近辺の森で発見されましたが、現在は討伐されております」
「すでにか……被害者は?」
「怪我人はいましたが、すでに完治しております。死者はいません」
「なに!?ウルフはともかく、やませ迷宮は初心者向けだろう!レッドロックワームは四等級の魔物だ。初心者が下手に相手すれば、即死するに決まってる!」
この街の領主として、アルトルートは、迷宮のことはかなり詳細に把握していた。
やませ迷宮は、もう一つの迷宮であるあらなみ迷宮と比べれば、初心者向けだ。
もちろん、魔物が出るわけだから、完全に安全とまではいかないが、きちんと装備を整えていけば、死ぬことなんてほとんどないくらいには安全な迷宮である。
そんな迷宮に挑戦する冒険者たちは、まだ戦闘能力も高くない、駆け出しばかりだ。そんな冒険者たちがレッドロックワームと遭遇したら、生きて帰れる確率など、ゼロに近いだろう。
「四等級も倒せるような奴が一緒にいたんだ。すまない。今は、それしか言えない。しばらくは知らないままでいて欲しいんだ、アルトルート」
ダグラスは、ギルドマスターとして領主へ頼んでいるわけではなく、アルトルートという人間に、友として頼んでいるように見えた。
そんな顔をされてしまえば、深く追求しにくくなってしまう。
「……わかった、ダグラス。その件は詳しくは聞かない。だが、これだけは聞かせてもらう。レッドロックワームとレッドウルフ、それぞれはいつに目撃されたんだ?」
「レッドロックワームが一週間前、レッドウルフが三日前だ」
「立て続けにということは、紅月の夜が近いということか」
紅月の夜というのは、スタンピードという、魔物の暴走が起こる夜のことだ。その日は、血のように赤い月が出るため、紅月の夜と呼ばれている。
紅月が、魔物の本能を強め、魔物の凶暴化させるといわれているが、根拠などはない。
魔物が暴走するときは、赤い月が夜空に浮かんでいるというだけだ。
「わかった。報告、感謝する。すぐにでも対策を立てよう。迷宮と森は、領主権限で封鎖させる」
ダグラスがわざわざ領主である自分に知らせてきたということは、こういうことを望んでいたからだろう。
ギルドが入ってはいけないと勧告したところで、冒険者などに一定数いる命知らずというものは、逆にその場所に入っていきたがる。
自分だけは大丈夫だと、何の根拠もない自信を抱えて。
だが、貴族である領主が封鎖してしまえば、この街やその周辺を拠点にする冒険者たちは、街を追い出されたくはないため、好奇心のままに行動したりはしないだろう。
貴族の命令に逆らったと取られれば、すぐさま“処理”されたとしてもおかしくないのだから、なおさらというものだ。
「ああ、頼む。俺も仕事が残っているから戻る」
ダグラスも満足したようで、そのまま立ち去ろうとする。
その後ろ姿を見て、アルトルートは、思わず言葉が漏れてしまう。
「お前のことは友として信用しているつもりだ」
どうして、そう言ってしまったのか、アルトルートにもわからない。
だが、ダグラスが何か隠し事をしており、その隠し事は、かなり重大であると、領主の本能のように感じ取っていた。
ダグラスと自分との間の、友としての信用を断ち切るほどの重大事のような、そんな気が。
ダグラスは、何も言わずに立ち去る。顔は見えなかったので、アルトルートの言葉をどう受け取ったのかはわからない。
「俺も、仕事しなくちゃな」
アルトルートは、応接室に置いてあるベルを鳴らし、代官のロイを呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
数分もかからずに来たところは、やはり優秀と言える。
「やませ迷宮とあらなみ迷宮、ファーレ大森林の三つを領主命令で封鎖する。手配しろ」
「かしこまりました」
なぜとは聞かずに、了承だけして、ロイは部屋から出ていった。
「せっかく戻ったのに、忙しくなりそうだな……」
アルトルートは、ため息をつくように、ボソッと呟いた。
「待たせてしまってすまない。先ほどぶりだな、ギルドマスター」
「先ほどは失礼しました、領主さま」
ギルドマスターであるダグラスは、そう言って頭を下げるが、すぐに頭を上げる。
まるで、それは大したことではないというように。
ダグラスは、意を決するように言う。
「代官の方にはある程度お話ししましたが、ここ最近、冒険者の間で、赤い魔物の目撃情報が増えています」
アルトルートは、それには大して驚きはしなかった。
以前に、ベルトナンドから、パワードベアーのことを聞いてから、もしやとは思っていたことではあったからだ。
「赤い魔物か。それなら、最近の私も度々耳にしているが、この街周辺では、何が目撃されているんだ?」
アルトルートも、貴族たちの噂話などから、赤い魔物が目撃されたという報告が増えていることは知っていた。
現に、代官からの報告書でも、本来の生息域ではない魔物の目撃は増えていた。
「はい。今のところは、ロックワームとウルフだけです。ロックワームはやませ迷宮、ウルフは街近辺の森で発見されましたが、現在は討伐されております」
「すでにか……被害者は?」
「怪我人はいましたが、すでに完治しております。死者はいません」
「なに!?ウルフはともかく、やませ迷宮は初心者向けだろう!レッドロックワームは四等級の魔物だ。初心者が下手に相手すれば、即死するに決まってる!」
この街の領主として、アルトルートは、迷宮のことはかなり詳細に把握していた。
やませ迷宮は、もう一つの迷宮であるあらなみ迷宮と比べれば、初心者向けだ。
もちろん、魔物が出るわけだから、完全に安全とまではいかないが、きちんと装備を整えていけば、死ぬことなんてほとんどないくらいには安全な迷宮である。
そんな迷宮に挑戦する冒険者たちは、まだ戦闘能力も高くない、駆け出しばかりだ。そんな冒険者たちがレッドロックワームと遭遇したら、生きて帰れる確率など、ゼロに近いだろう。
「四等級も倒せるような奴が一緒にいたんだ。すまない。今は、それしか言えない。しばらくは知らないままでいて欲しいんだ、アルトルート」
ダグラスは、ギルドマスターとして領主へ頼んでいるわけではなく、アルトルートという人間に、友として頼んでいるように見えた。
そんな顔をされてしまえば、深く追求しにくくなってしまう。
「……わかった、ダグラス。その件は詳しくは聞かない。だが、これだけは聞かせてもらう。レッドロックワームとレッドウルフ、それぞれはいつに目撃されたんだ?」
「レッドロックワームが一週間前、レッドウルフが三日前だ」
「立て続けにということは、紅月の夜が近いということか」
紅月の夜というのは、スタンピードという、魔物の暴走が起こる夜のことだ。その日は、血のように赤い月が出るため、紅月の夜と呼ばれている。
紅月が、魔物の本能を強め、魔物の凶暴化させるといわれているが、根拠などはない。
魔物が暴走するときは、赤い月が夜空に浮かんでいるというだけだ。
「わかった。報告、感謝する。すぐにでも対策を立てよう。迷宮と森は、領主権限で封鎖させる」
ダグラスがわざわざ領主である自分に知らせてきたということは、こういうことを望んでいたからだろう。
ギルドが入ってはいけないと勧告したところで、冒険者などに一定数いる命知らずというものは、逆にその場所に入っていきたがる。
自分だけは大丈夫だと、何の根拠もない自信を抱えて。
だが、貴族である領主が封鎖してしまえば、この街やその周辺を拠点にする冒険者たちは、街を追い出されたくはないため、好奇心のままに行動したりはしないだろう。
貴族の命令に逆らったと取られれば、すぐさま“処理”されたとしてもおかしくないのだから、なおさらというものだ。
「ああ、頼む。俺も仕事が残っているから戻る」
ダグラスも満足したようで、そのまま立ち去ろうとする。
その後ろ姿を見て、アルトルートは、思わず言葉が漏れてしまう。
「お前のことは友として信用しているつもりだ」
どうして、そう言ってしまったのか、アルトルートにもわからない。
だが、ダグラスが何か隠し事をしており、その隠し事は、かなり重大であると、領主の本能のように感じ取っていた。
ダグラスと自分との間の、友としての信用を断ち切るほどの重大事のような、そんな気が。
ダグラスは、何も言わずに立ち去る。顔は見えなかったので、アルトルートの言葉をどう受け取ったのかはわからない。
「俺も、仕事しなくちゃな」
アルトルートは、応接室に置いてあるベルを鳴らし、代官のロイを呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
数分もかからずに来たところは、やはり優秀と言える。
「やませ迷宮とあらなみ迷宮、ファーレ大森林の三つを領主命令で封鎖する。手配しろ」
「かしこまりました」
なぜとは聞かずに、了承だけして、ロイは部屋から出ていった。
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アルトルートは、ため息をつくように、ボソッと呟いた。
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