異世界でもマイペースに行きます

りーさん

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第一章 伯爵家の次男

14 初めてのパーティー 2

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 リオンティールは慌てて頭を下げる。

(な、なに今の!)

 勘違いでなければ、おそらく自分を見てにやりとしたはずだ。だが、リオンティールはそんな顔をされるようなことをやった覚えがない。
 ここにいる他の貴族も、自分のことはロウェルトの落ちこぼれくらいにしか思っていないはずだ。それなのに、面白がられているように見えた。

「皆の者、楽にせよ」

 いろいろ気になることはあるが、まずはここを乗りきろうと、リオンティールは思考を切り替えた。
 言われた通りに、リオンティールは頭を上げる。
 国王が何やら演説のようなものを始めたので、リオンティールは国王一家を観察する。
 改めて見てみると、本当にちぐはぐとした家族だと思う。
 王妃は、国王の娘と言われたほうが違和感がないくらいには。
 王子のほうはなんとなく見ることはできず、国王と王妃のほうに集中した。だが、王家とリオンティールとはそれなりに距離があり、王子も、国王や王妃の近くにいるので、視界には自然と王子が入ってきてしまう。
 度々目も合うが、その度に笑いかけてくる。それも、爽やかな笑みというよりは、不敵な笑みというほうが近い。
 目が合わないときはそうでもないのに。

「では、引き続きパーティーを楽しんでくれ」

 長い演説を終えたようで、締めの言葉が聞こえる。
 国王がそう言うと、一部の大人たちは談笑を始めるが、自分のような子どもを連れている人たちは、国王の前に並び始める。

「母上、あれはなんですか?」
「陛下へご挨拶するための列よ。社交界デビューをした子どもは、陛下の元へ挨拶に伺うのが通例なの」

 へぇ~と感心しながら列を見ていたが、不意に手を引かれる。
 ふと見上げると、母が自分の手を引っ張っていた。

「ほら、行くわよ」

 リオンティールは、うん?と思ったが、すぐに理由に気がつく。

(僕も社交界デビューした子どもじゃん!)

 リオンティールは、生まれてこの方、屋敷の外に出たことがない。当然ながら、お茶会なども、家族以外とはしてこなかったため、公の場に出るのは、今日が初めてだ。
 普段ならば、ちゃっちゃと終わらせちゃおうと母に従うのだが、国王に挨拶に行くということは、必然的に王子に近づくことになる。
 あの王子には、どうも近寄りたくなかった。どこか得体の知れない。
 でも、そんな理由で断るわけにも行かず、リオンティールは母に引っ張られるように挨拶するための列へと並んだ。
 ロウェルトは伯爵位のため、早いうちに順番が回ってくる。

「あら、アイリーシア夫人。お久しぶりね」
「お久しゅうございます、王妃殿下」

 さすがに公の場だからか、友人ではなく、臣下と主として互いに接していた。
 リオンティールはというと、そんな母の後ろに隠れながら、王子の様子を伺っていたが、先に目があったのは王妃のほうだった。

「それで、そこの坊やはいつまで隠れているのかしら」

 王妃に声をかけられてしまっては、無視するわけにもいかない。
 リオンティールは、心の中で深くため息をつきながら、礼を取る。

「アルトルート・ロウェルトの第三子、リオンティール・ロウェルトと申します」
「あらあら、いいのよ。リーシャの息子なんだもの。そこまで畏まらないで」
「……はい、王妃殿下」

 リーシャというのは、母の愛称だ。
 わざわざ公の場で伯爵夫人を愛称で呼ぶなど、何か意図でもあるのか。
 そう思い、リオンティールは王妃を観察する。
 先ほどとは違い、それは何の感情も含まれていない、無機質な目だ。強いて言えば、そこに警戒心が含まれているくらいであって。

「リオンティール……と言ったか?そなたのことは、母上や使用人たちからよく聞いている」

 その声で、リオンティールの意識は、王妃から外れた。
 今まで、ほとんど話していなかった王子が口を開いたからだ。
 リオンティールは、完全に王子のほうへと向いた。
 王妃に向けられていた警戒心は、王子に向くにつれ、嫌悪感に変わってきている。話しかけるんじゃねぇという冷たい目で王子を見ていた。

「王子殿下のお耳にはどのようなお話が入っていらっしゃるのでしょうか?」
「ロウェルト伯爵夫人によく似ている、という話や、そなたの珍妙な呼ばれ方も度々、耳にすることがあるな」
「レンノラード……!」

 ニヤニヤしながらそう言う王子の言葉を、王妃が慌てて止めようとするが、口から出てしまっては、なかったことになどできない。
 リオンティールは、口元に小さく笑みを浮かべる。

「そうですか。あまり心地よい気分ではありませんが、楽しまれておられるようで何よりです」
「別に、楽しんではいないんだがな。つまらんことで盛り上がるものだと思っているだけだ」
「ええ。本当に、退屈でつまらないのでしょうね。だからこそ、他家のことに首を突っ込みたがるものなのでしょう」

 リオンティールは、口角をあげて王子のほうを見ている。一見すると、子どもが無邪気に笑っているように見えるが、その言葉は、子どもが発するようなものではない。
 王子のほうは、そんなリオンティールの様子に体を少し震わせた。

「……そなたはちがうのか?」
「当然でしょう。そんなつまらなくてくだらないことに時間を割くのでしたら、童話でも読んでいたほうがためになるというものです」

 リオンティールがため息まじりにそう言うと、ギャラリーとなっていた他の貴族たちが騒がしくなってくる。
 先ほどから、子どもらしく、大きめの声で話していたため、周りにも聞こえていたようだ。

(まぁ、そうなるようにしたんだけど)

 リオンティールは、別に蔑まれるのを嫌うことはない。言いたい者には言わせておけばいいと思っている。
 だからといって、当然ながら言ってもらいたいわけでもない。黙っていてくれるなら、黙ってくれるほうがいい。
 これだけ言われても素知らぬふりをするならば、もう放っておくしかない。止めようとしたところで無駄だからだ。

(そういえば、この感覚、前にもあったような……?)

 リオンティールは、王子が発言したのを利用したが、いつの間にか王子が自分に合わせていた。王子に誘導されていたようにも感じる。リオンティールが王子の様子をうかがうと、ふっと不敵な笑みを浮かべる。
 何か、王子の興味を引いてしまったのかとリオンティールが警戒していると、肩をぽんぽんと叩かれた。

「あまりここにいすぎては、他の方々がご挨拶できないわ。行くわよ、リオン」
「はい、母上」

 アイリーシアは、少し早口になりながら、リオンティールを連れ出そうとする。

(この子……なんなのかしら)

 アイリーシアにとって、リオンティールは、かわいい我が子だ。少々、マイペース過ぎる気はするが、それでも、愛しい我が子には違いない……はずだというのに。
 先ほどのリオンティールの様子は、アイリーシアにとっては、とても異様な光景だった。
 普通の子どもなら、王子に対しては、物怖じや、憧れ等で、うまく話すことができないのが普通だ。それなのに、リオンティールはまったく物怖じせず、王子に掴みかかった。それだけに飽きたらず、王子と一緒に、周りを牽制したりもした。
 それに合わせてきた王子も恐ろしいところはあるが、それを当たり前のようにやりのけたリオンティールにも、畏怖の念を抱いていた。

 リオンには、何かある

 このパーティーが終わるまで、アイリーシアは、そう感じ続けていた。
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