異世界でもマイペースに行きます

りーさん

文字の大きさ
上 下
13 / 31
第一章 伯爵家の次男

13 初めてのパーティー 1

しおりを挟む
 リオンティールは憂鬱だった。
 従魔を手に入れてしばらくは、悠々自適な日々を送っていたが、従魔を手に入れてからおよそ半年。ついにこの時が来てしまったからだ。
 リオンティールが、鏡の前でくるくると回りながら、身だしなみを確認していると、こんこんという音が部屋に響く。

「リオン。準備はできたかしら」
「はい、母上。支度が終わってしまいました」

 そう言いながら、リオンティールは扉を開けた。
 訪ねてきたのは、リオンティールの母であるアイリーシアだった。
 はぁとため息をつきながら出てきたリオンティールに、アイリーシアも軽くため息をつく。

「まだ不満なのですか」
「当たり前です。パーティーなんて行きたくありません」

 今日は、以前に両親から聞いていた、王家主催のパーティーがある。
 リオンティールは、全力で拒否したいところだが、伯爵家が王家からの招待を断れるわけもない。
 嫌々ながらも、服を仕立てたり、マナーやダンスを学んだりして、この日に備えていた。
 それでも、行かなくて済むなら行きたくないと思っている自分がいる。
 リオンティールは、自分が思っているよりも諦めが悪いところがあった。

「パーティーに行けば、お友達ができるのよ?」
「友達なんていりませんよ」

 蓮のような存在なら、リオンティールだって歓迎するところだが、あんな人間は、貴族社会では生き残れないだろう。
 それに、リオンティールは五歳とはいえ、中身の梨央は十を余裕で越える。話が合うような友人ができるとは思えなかった。
 相手は梨央に合わせられないだろうし、梨央は相手に合わせることが苦手だ。

「そうです。母上。リオンには友達なんていりませんよ」
「ええ。リオンには私がいれば充分なのですから!」

 いつの間にか側まで来ていたアリアーティスとベルトナンドが、アイリーシアに声を荒らげる。
 だが、その言葉に真っ先に反応したのは、互い同士だった。

「アリアはおかしなことを言うな。リオンに必要なのは私だろう」

 呆れるようにそう言うベルトナンドに、アリアーティスは冷たい目を向けて返す。

「お兄さまこそ何をおっしゃっているのです。私だけで充分ですわ」

 互いに睨みあっている兄姉を、リオンティールが冷たい目で見ていると、母がわざとらしくため息をつく。

「どうやら二人とも、相当に暇なようですね。旦那さまにお相手をお願いしておきますわ」

 冷ややかな笑みを向けてそう言う母に、兄姉たちは顔を青くして震えだした。

「そ、そういえば、学園の課題が残っておりましたので、失礼いたします!」
「わ、私も、お手紙の返事を書かなければなりませんので!」

 どう聞いても言い訳にしか聞こえないような言葉を残し、二人はすたこらとその場を後にする。

(あの二人も父上は恐ろしいのか……)

 先ほどまで冷たい目を向けていたのに、年相応の子どもにしか見えなかった反応に、リオンティールは苦笑いしてしまう。
 アイリーシアはため息をつき、リオンティールの手を引く。

「ほら、行きますよ」

 その言葉で、リオンティールはこの後のパーティーを思い出し、再び憂鬱な気分がぶり返した。

「はぁーい……」

 母に連れられて、リオンティールは屋敷を出た。

 ◇◇◇

「うわぁ……広い」

 会場へと入ったリオンティールは、その広さに圧倒される。
 普通の日本人として暮らしていた梨央にとっては、ロウェルト家の屋敷も立派なものだったが、やはり王宮には敵わない。

「リオン。私から離れないようにね」
「はい、母上」

 アイリーシアに声をかけられて、リオンティールは後をついていく。
 しばらく歩いて、動きが止まったので、リオンティールも傍らに立った。
 リオンティールは、辺りをキョロキョロと見渡す。

「たくさんの人がいますね」
「当然よ。すべての貴族が集まるのだもの」
「すべてのですか!?」

 リオンティールはそう声をあげて驚いたが、冷静に考えると、王家主催のパーティーなのだから、小規模なはずもない。
 でも、すべての貴族というのはさすがに少ないようなような気もする。
 リオンティールがパーティーのために、他の貴族のことを勉強していたが、リオンティールが記憶した貴族も、何人かは見当たらない。

「その割には少なくないですか……?」

 リオンティールが浮かんだ疑問も口にすると、アイリーシアはふふと笑う。

「会場入りするのは、身分順なのよ。位が低い貴族から会場入りするから、侯爵や公爵位の人たちはこれから入ってくるの」
「へぇ~……」

 リオンティールが入り口のほうに意識を向けると、会場入りしている人たちがちらほらと見える。
 遠目から見ているだけなので、はっきりと判別できるわけではないが、貴族の家を勉強したときに、侯爵やロウェルトより上の伯爵として名が上がっていた者たちのように見える。
 そして、その者たちは、自分達の横を通りすぎていった。そして、まるで決められているかのように、そこに真っ直ぐ向かって立ち止まる。
 後から来る者ほど、入り口からは遠くの位置に立っているようだった。

「母上。会場での立ち位置も身分が関係しているのですか?」
「そうよ。間もなく王家の方々が会場入りするけど、身分が高いほど、玉座に近づけるのよ」

 アイリーシアが、高位な貴族のほうを指差している。
 リオンティールがそちらのほうを見ると、明らかに高価な椅子が三つ置かれていた。あれが、王家の方々の座る椅子なのだとリオンティールも理解する。

(王さまは中央かな。小さいのは王子か王女か)

 椅子の大きさや位置から、どこに誰が座るのか推測していると、会場内に声が響く。

「ルーカディウス国王陛下、シャーロット王妃殿下、レンノラード殿下のご入来!」

 その声と共に、会場の貴族たちは一斉に礼を取る。
 アイリーシアも頭を下げていたので、リオンティールも慌てて礼を取った。
 だが、王家がどんなものか気になったリオンティールは、チラリと視線だけを王家のほうに向ける。

(あれが王さまと王妃さま……?)

 視線の先には、ふくよかなおじさんという風貌の男と、傾国のという冠が付きそうな美しい女性がいた。あの入来の声の後に登場したので、おそらくは、その二人が国王と王妃なのだが、ギャップがありすぎて、違和感しかない。十は年が離れているんじゃないかと疑うほどだ。親子と言われたほうが納得する。それとも、王妃が美魔女なのだろうか。
 リオンティールは、次に王子のほうを見る。
 王子は、自分と同い年というのは聞いていたが、自分とはちがい、凛々しい顔立ちをしている。だが、視線だけ小刻みに動かしていて、まるで何かを探しているようだった。
 ふと、王子がこちらのほうを見る。そのとき、王子はにやりと表情を変えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。

サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。 人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、 前世のポイントを使ってチート化! 新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...