異世界でもマイペースに行きます

りーさん

文字の大きさ
上 下
12 / 31
第一章 伯爵家の次男

12 複雑な心境

しおりを挟む
 家に帰った後も、リオンティールの不安は拭えなかった。
 ベルトナンドは、リオンティールが魔物と会話できるということを知られている。それが、どんなことをもたらすか。
 畏怖のような目で見られてしまうのか。それとも、そもそも嘘だと決めつけられていて、気にも止めていないか。

(……五歳児だと、結構くるな)

 梨央としての精神なら、たとえ避けられたりしても、そこまで堪えなかっただろう。だが、リオンティールは、梨央としての記憶があるとはいえ、まだ五歳児だ。五歳児というのは、家族が恋しくなってしまうもの。
 スキルのせいで避けられるとなると、悲しいような、苦しいような、複雑な思いが押し寄せてくるものだった。

「にゃ~?にゃにゃ……」
『不安なの?大丈夫だと思うけど……』

 ベッドで寝転がっていたリオンティールの傍らに、ラクがやってくる。
 リオンティールは、ラクの顎を撫でながら、「まあね」と返した。

「僕もそう思うけど、人間は自分とは違うものはなかなか受け入れないから」

 周りとはちがう。それだけで、爪弾きのような扱いを、梨央は受けてきた。
 梨央は、責任感はちゃんとあるほうだ。期限に間に合うように行動はしている。それを、周りは自分勝手と取ってくる。
 何か役割を与えられたら、いつでも全力でやるべきだという人がほとんどで、のんびりとしている梨央は、自分勝手な奴というレッテルを貼られてきた。
 でも、梨央からすれば、ちゃんとやるべきことはやっているのだから、文句を言われる筋合いなどない。
 そして、梨央はそんなことを言われても、自分の行いを変えたりはしなかった。

(今、考えると、蓮もよく付き合ってくれたよなぁ……)

 客観的に見ても、梨央は一般人と比べて、面倒くさい部類に入るだろうに、蓮は世話焼きなのか、ずっと梨央の友達として一緒にいてくれた。
 蓮と一緒に過ごした日々は、確かに楽しくて。蓮が自分に文句を言う分には、ちっとも煩わしさはなかった。

(蓮……今ごろどうしてるかなぁ……)

 蓮はおそらく、梨央が黒い穴に落ちる瞬間を見ているはずだ。蓮だけ取り残されたのなら、両親に見たことを話したりするのだろうか。
 そして、今のリオンティールは五歳だ。ということは、普通に考えて、あの黒い穴に落ちてから、五年は経っていると考えるべきだろう。
 今ごろ、蓮は他の友達と一緒に過ごしているのかもしれない。梨央とは違って、蓮は友達が多くいたから。

(結構、蓮のことは大事に思ってたのか、僕も)

 両親のことは、そこまで気になっているわけでもないのに、蓮のことはここまで気になってしまう。
 何をしてるのか。自分のことは覚えてくれているのか。
 もし、自分のことなど忘れて、楽しく過ごしているのだとしたら。
 嬉しいような、寂しいような、複雑な心境になる。

「にゃあにゃ~。にゃにゃ~にゃ?」
『今度はどうしたのさ。置いてきぼりにされた子どもみたいだよ?』

 ラクがリオンティールの顔を覗き込むようにそう言ってきた。
 やけに勘がいいなと思いながらも、リオンティールはラクから目をそらして言う。

「逆だよ。置いてったのは僕のほうだから」
「にゃっ?」
『えっ?』

 ラクが訳がわからないというような反応をしたが、リオンティールはそれ以上は何も言わなかった。
 少し気まずい空気が流れつつあったので、リオンティールは話の話題を変える。

「そういえば、さっきから僕の心を読み取ってるみたいだけど、スレイクスの能力なの?」
「にゃん。にゃあ、にゃにゃあ。にゃ~……」
『ちがうよ。なんか、君の感情が伝わってくるんだよね。なんでかはわからないけど……』
「ふーん……従魔になったからかな。僕はわからないけど……」

 何か話していたい気分なのだが、会話を続けられない。
 時計の針以外、その部屋には何の音もない。
 そんな空間にバンと大きな音が鳴り、寝転がっていたリオンティールも飛び起きる。

「リオン!いる!?」
「あ、姉上……」

 部屋に乗り込んできたのは、姉であるアリアーティスだった。
 アリアーティスは、リオンティールの姿を見つけると、側まで駆け寄る。

「お兄さまに聞いたわ。あなた、魔物と会話できるの!?」

 どうやら、兄は家族にはリオンティールの力を話しているらしい。
 リオンティールは余計なことをと思うが、貴族としては、力に目覚めた、ないしはそれを目撃した場合は、それを当主に伝えたりするのは、貴族の嫡子の義務でもある。
 それをリオンティールは知らないので、兄を募らせていた。

「……それが、何か?」

 どんな目で見られるのだろう。そう警戒していた彼の心は、この後に続くアリアーティスの言葉で、一瞬にして崩れ去る。

「じゃあ、私の従魔の言葉を通訳してほしいの!仲良くお話ししたいってずっと思ってて!」

 アリアーティスは、懇願するようにリオンティールを見る。
 リオンティールは、そんな姉に呆気にとられていた。

「あ、あの……変に思わないんですか?」

 リオンティールがそう言うと、アリアーティスはきょとんとしたが、すぐに笑い飛ばした。

「そんなわけないじゃない。リオンにどんな力があっても、私のかわいい弟ということは変わらないわよ」

 アリアーティスは、そう言ってリオンティールを抱き締める。
 普段なら嫌がるリオンティールだが、今回はそれを素直に受け入れた。

「それで~、やってくれるの?」
「いいですよ。ありのままをお話しするので、姉上が傷つくかもしれませんが」
「それどういう意味!?」
「あっはは!そのままの意味ですよ!」

 自分のからかいに過剰に反応する姉に、リオンティールは珍しく声をあげながら笑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。

サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。 人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、 前世のポイントを使ってチート化! 新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

処理中です...