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第一章 伯爵家の次男
12 複雑な心境
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家に帰った後も、リオンティールの不安は拭えなかった。
ベルトナンドは、リオンティールが魔物と会話できるということを知られている。それが、どんなことをもたらすか。
畏怖のような目で見られてしまうのか。それとも、そもそも嘘だと決めつけられていて、気にも止めていないか。
(……五歳児だと、結構くるな)
梨央としての精神なら、たとえ避けられたりしても、そこまで堪えなかっただろう。だが、リオンティールは、梨央としての記憶があるとはいえ、まだ五歳児だ。五歳児というのは、家族が恋しくなってしまうもの。
スキルのせいで避けられるとなると、悲しいような、苦しいような、複雑な思いが押し寄せてくるものだった。
「にゃ~?にゃにゃ……」
『不安なの?大丈夫だと思うけど……』
ベッドで寝転がっていたリオンティールの傍らに、ラクがやってくる。
リオンティールは、ラクの顎を撫でながら、「まあね」と返した。
「僕もそう思うけど、人間は自分とは違うものはなかなか受け入れないから」
周りとはちがう。それだけで、爪弾きのような扱いを、梨央は受けてきた。
梨央は、責任感はちゃんとあるほうだ。期限に間に合うように行動はしている。それを、周りは自分勝手と取ってくる。
何か役割を与えられたら、いつでも全力でやるべきだという人がほとんどで、のんびりとしている梨央は、自分勝手な奴というレッテルを貼られてきた。
でも、梨央からすれば、ちゃんとやるべきことはやっているのだから、文句を言われる筋合いなどない。
そして、梨央はそんなことを言われても、自分の行いを変えたりはしなかった。
(今、考えると、蓮もよく付き合ってくれたよなぁ……)
客観的に見ても、梨央は一般人と比べて、面倒くさい部類に入るだろうに、蓮は世話焼きなのか、ずっと梨央の友達として一緒にいてくれた。
蓮と一緒に過ごした日々は、確かに楽しくて。蓮が自分に文句を言う分には、ちっとも煩わしさはなかった。
(蓮……今ごろどうしてるかなぁ……)
蓮はおそらく、梨央が黒い穴に落ちる瞬間を見ているはずだ。蓮だけ取り残されたのなら、両親に見たことを話したりするのだろうか。
そして、今のリオンティールは五歳だ。ということは、普通に考えて、あの黒い穴に落ちてから、五年は経っていると考えるべきだろう。
今ごろ、蓮は他の友達と一緒に過ごしているのかもしれない。梨央とは違って、蓮は友達が多くいたから。
(結構、蓮のことは大事に思ってたのか、僕も)
両親のことは、そこまで気になっているわけでもないのに、蓮のことはここまで気になってしまう。
何をしてるのか。自分のことは覚えてくれているのか。
もし、自分のことなど忘れて、楽しく過ごしているのだとしたら。
嬉しいような、寂しいような、複雑な心境になる。
「にゃあにゃ~。にゃにゃ~にゃ?」
『今度はどうしたのさ。置いてきぼりにされた子どもみたいだよ?』
ラクがリオンティールの顔を覗き込むようにそう言ってきた。
やけに勘がいいなと思いながらも、リオンティールはラクから目をそらして言う。
「逆だよ。置いてったのは僕のほうだから」
「にゃっ?」
『えっ?』
ラクが訳がわからないというような反応をしたが、リオンティールはそれ以上は何も言わなかった。
少し気まずい空気が流れつつあったので、リオンティールは話の話題を変える。
「そういえば、さっきから僕の心を読み取ってるみたいだけど、スレイクスの能力なの?」
「にゃん。にゃあ、にゃにゃあ。にゃ~……」
『ちがうよ。なんか、君の感情が伝わってくるんだよね。なんでかはわからないけど……』
「ふーん……従魔になったからかな。僕はわからないけど……」
何か話していたい気分なのだが、会話を続けられない。
時計の針以外、その部屋には何の音もない。
そんな空間にバンと大きな音が鳴り、寝転がっていたリオンティールも飛び起きる。
「リオン!いる!?」
「あ、姉上……」
部屋に乗り込んできたのは、姉であるアリアーティスだった。
アリアーティスは、リオンティールの姿を見つけると、側まで駆け寄る。
「お兄さまに聞いたわ。あなた、魔物と会話できるの!?」
どうやら、兄は家族にはリオンティールの力を話しているらしい。
リオンティールは余計なことをと思うが、貴族としては、力に目覚めた、ないしはそれを目撃した場合は、それを当主に伝えたりするのは、貴族の嫡子の義務でもある。
それをリオンティールは知らないので、兄を募らせていた。
「……それが、何か?」
どんな目で見られるのだろう。そう警戒していた彼の心は、この後に続くアリアーティスの言葉で、一瞬にして崩れ去る。
「じゃあ、私の従魔の言葉を通訳してほしいの!仲良くお話ししたいってずっと思ってて!」
アリアーティスは、懇願するようにリオンティールを見る。
リオンティールは、そんな姉に呆気にとられていた。
「あ、あの……変に思わないんですか?」
リオンティールがそう言うと、アリアーティスはきょとんとしたが、すぐに笑い飛ばした。
「そんなわけないじゃない。リオンにどんな力があっても、私のかわいい弟ということは変わらないわよ」
アリアーティスは、そう言ってリオンティールを抱き締める。
普段なら嫌がるリオンティールだが、今回はそれを素直に受け入れた。
「それで~、やってくれるの?」
「いいですよ。ありのままをお話しするので、姉上が傷つくかもしれませんが」
「それどういう意味!?」
「あっはは!そのままの意味ですよ!」
自分のからかいに過剰に反応する姉に、リオンティールは珍しく声をあげながら笑った。
ベルトナンドは、リオンティールが魔物と会話できるということを知られている。それが、どんなことをもたらすか。
畏怖のような目で見られてしまうのか。それとも、そもそも嘘だと決めつけられていて、気にも止めていないか。
(……五歳児だと、結構くるな)
梨央としての精神なら、たとえ避けられたりしても、そこまで堪えなかっただろう。だが、リオンティールは、梨央としての記憶があるとはいえ、まだ五歳児だ。五歳児というのは、家族が恋しくなってしまうもの。
スキルのせいで避けられるとなると、悲しいような、苦しいような、複雑な思いが押し寄せてくるものだった。
「にゃ~?にゃにゃ……」
『不安なの?大丈夫だと思うけど……』
ベッドで寝転がっていたリオンティールの傍らに、ラクがやってくる。
リオンティールは、ラクの顎を撫でながら、「まあね」と返した。
「僕もそう思うけど、人間は自分とは違うものはなかなか受け入れないから」
周りとはちがう。それだけで、爪弾きのような扱いを、梨央は受けてきた。
梨央は、責任感はちゃんとあるほうだ。期限に間に合うように行動はしている。それを、周りは自分勝手と取ってくる。
何か役割を与えられたら、いつでも全力でやるべきだという人がほとんどで、のんびりとしている梨央は、自分勝手な奴というレッテルを貼られてきた。
でも、梨央からすれば、ちゃんとやるべきことはやっているのだから、文句を言われる筋合いなどない。
そして、梨央はそんなことを言われても、自分の行いを変えたりはしなかった。
(今、考えると、蓮もよく付き合ってくれたよなぁ……)
客観的に見ても、梨央は一般人と比べて、面倒くさい部類に入るだろうに、蓮は世話焼きなのか、ずっと梨央の友達として一緒にいてくれた。
蓮と一緒に過ごした日々は、確かに楽しくて。蓮が自分に文句を言う分には、ちっとも煩わしさはなかった。
(蓮……今ごろどうしてるかなぁ……)
蓮はおそらく、梨央が黒い穴に落ちる瞬間を見ているはずだ。蓮だけ取り残されたのなら、両親に見たことを話したりするのだろうか。
そして、今のリオンティールは五歳だ。ということは、普通に考えて、あの黒い穴に落ちてから、五年は経っていると考えるべきだろう。
今ごろ、蓮は他の友達と一緒に過ごしているのかもしれない。梨央とは違って、蓮は友達が多くいたから。
(結構、蓮のことは大事に思ってたのか、僕も)
両親のことは、そこまで気になっているわけでもないのに、蓮のことはここまで気になってしまう。
何をしてるのか。自分のことは覚えてくれているのか。
もし、自分のことなど忘れて、楽しく過ごしているのだとしたら。
嬉しいような、寂しいような、複雑な心境になる。
「にゃあにゃ~。にゃにゃ~にゃ?」
『今度はどうしたのさ。置いてきぼりにされた子どもみたいだよ?』
ラクがリオンティールの顔を覗き込むようにそう言ってきた。
やけに勘がいいなと思いながらも、リオンティールはラクから目をそらして言う。
「逆だよ。置いてったのは僕のほうだから」
「にゃっ?」
『えっ?』
ラクが訳がわからないというような反応をしたが、リオンティールはそれ以上は何も言わなかった。
少し気まずい空気が流れつつあったので、リオンティールは話の話題を変える。
「そういえば、さっきから僕の心を読み取ってるみたいだけど、スレイクスの能力なの?」
「にゃん。にゃあ、にゃにゃあ。にゃ~……」
『ちがうよ。なんか、君の感情が伝わってくるんだよね。なんでかはわからないけど……』
「ふーん……従魔になったからかな。僕はわからないけど……」
何か話していたい気分なのだが、会話を続けられない。
時計の針以外、その部屋には何の音もない。
そんな空間にバンと大きな音が鳴り、寝転がっていたリオンティールも飛び起きる。
「リオン!いる!?」
「あ、姉上……」
部屋に乗り込んできたのは、姉であるアリアーティスだった。
アリアーティスは、リオンティールの姿を見つけると、側まで駆け寄る。
「お兄さまに聞いたわ。あなた、魔物と会話できるの!?」
どうやら、兄は家族にはリオンティールの力を話しているらしい。
リオンティールは余計なことをと思うが、貴族としては、力に目覚めた、ないしはそれを目撃した場合は、それを当主に伝えたりするのは、貴族の嫡子の義務でもある。
それをリオンティールは知らないので、兄を募らせていた。
「……それが、何か?」
どんな目で見られるのだろう。そう警戒していた彼の心は、この後に続くアリアーティスの言葉で、一瞬にして崩れ去る。
「じゃあ、私の従魔の言葉を通訳してほしいの!仲良くお話ししたいってずっと思ってて!」
アリアーティスは、懇願するようにリオンティールを見る。
リオンティールは、そんな姉に呆気にとられていた。
「あ、あの……変に思わないんですか?」
リオンティールがそう言うと、アリアーティスはきょとんとしたが、すぐに笑い飛ばした。
「そんなわけないじゃない。リオンにどんな力があっても、私のかわいい弟ということは変わらないわよ」
アリアーティスは、そう言ってリオンティールを抱き締める。
普段なら嫌がるリオンティールだが、今回はそれを素直に受け入れた。
「それで~、やってくれるの?」
「いいですよ。ありのままをお話しするので、姉上が傷つくかもしれませんが」
「それどういう意味!?」
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