異世界でもマイペースに行きます

りーさん

文字の大きさ
上 下
10 / 31
第一章 伯爵家の次男

10 大きなヒグマ!?

しおりを挟む
 ベルトナンドから離れて、先ほどの招き猫みたいな魔物を探す。
 あの招き猫は、草をかき分けて見つけたため、探す時も同じように探していた。
 だが、探しても探しても、スレイクスどころか、魔物らしい影はなかった。

(ここまでいないものなのかな……)

 リオンティールがここまで歩いて、先ほどの招き猫みたいな存在以外に、魔物を見かけていない。
 アルトルートは雑魚の精でもいいと言っていたのだから、精ぐらいはいてもいいような気がする。
 それなのに、まったく見かけていなかった。
 数が少ないにしても、一匹も見かけないことなどあるのだろうか。

「いないとあの猫を探さないといけないからなぁ……」

 別に、猫が嫌なわけではない。ただ、どこにいるかもわからない猫を探すなど、どれほどの時間がかかるかわからない。
 あの兄に、また見つかるかわからないと言われたのも、リオンティールの不安を煽る要因になっていた。
 何時間もかかるかもしれない猫を探すよりは、他の魔物がひょっこり姿を表してほしいと願うのは当然の心理だった。
 面倒事は、早く終わらせたい。
 リオンティールは、それが全てだった。

「……うん?」

 リオンティールは、再び見覚えのあるような光を見つける。
 またスレイクスとかいう猫だろうかと見ていると、その光が飛び出して、リオンティールの前を横断していった。
 それに続くように、大きな影が飛び出してくる。

「わっ!」

 予想外のものが飛び出してきたので、リオンティールは思わず声をあげてしまう。
 その存在は、リオンティールの声に反応して、くるりと顔をこちらに向けた。

(熊……?いや、それにしても大きすぎる!)

 その大きなものは、地球の動物でいうヒグマに似ていたが、体格はその比ではない。
 遠目で見ても、軽く五メートルは越えていそうな巨体だった。
 リオンティールのほうに狙いを変えたようで、その巨体にしては速いスピードで突進してきた。

(そういえば、ヒグマも意外と足が速いんだっけ……)

 そんな現実逃避ともとれるようなことを考えてしまう。
 リオンティールは、とりあえず手を交差させて、守りの姿勢に入る。
 本来なら、これは無謀だ。相手が突進してきているなら、横に逸れるほうが生き残れる可能性は高い。
 それにはその姿勢に入ってからリオンティールも気づいたが、もう避ける時間など残されていない。
 リオンティールは目をつぶる。
 だが、何かが触れたような感覚があるだけで、痛みも何もない。
 おそるおそる目を開けると、リオンティールの腕に、ヒグマのような何かの爪が当たっている。いや、触れている。そこには、痛みも何も感じない。
 服は破れているが、皮膚には傷一つない。
 ヒグマらしきものも、訳がわからないというように、戸惑いを見せていた。
 リオンティールは、少し考えてから気づく。

(そうか。攻撃無効の恩恵の効果か)

 攻撃を防いでから、その恩恵の存在を思い出した。
 リオンティールは、ただ攻撃を防ぐだけのものだと思っていたが、衝撃なども無効化してくれるようだった。
 そのため、確かに大きな爪がリオンティールの腕に当たっているのだが、傷もなければ痛みも感じない。刺さるでも、かするでもなく、ただそこに尖っている何かが触れているだけのような感覚だった。
 怪我もしないし痛みもない。そう考えると、リオンティールはとたんに冷静になってきた。

「さてっと」

 リオンティールは呼吸を整えて、腕に魔力を込める。
 そして、そのまま押し返した。
 ヒグマらしきものはバランスを崩したものの、リオンティールも同時にバランスを崩す。

「うわっとと……さて、どうするか」
「伏せろ!」

 後ろから声が聞こえて、リオンティールはとっさにしゃがんだ。
 その瞬間、リオンティールの頭上を何かが飛んでいき、ヒグマらしきものの額辺りを貫く。
 ヒグマらしきものはそれには怯んだだけだったが、地面から飛び出してきた土に、首を切られた。
 それは、歴史の教科書で見たギロチンのようだった。ギロチンとは違い、下から切られているが。

(うわっ……グロい)

 リオンティールが顔を歪めながらそれを見ていると、後ろから足音が近づいてくる。
 足音に気がつき、リオンティールが振り返ると、そこにはベルトナンドがいた。

「兄上!」
「リオン!大丈夫だったか!?」

 ベルトナンドはリオンティールのほうに駆け寄り、リオンティールの体を確認しようとする。
 リオンティールは、さらりと兄を自分から離した。

「大丈夫ですよ、怪我一つありませんから」
「……そうか。ならよかった」

 てっきり、安心して一息つくかと思っていたのに、ベルトナンドは何か疑るような視線を向けている。
 何か気づかれたかと、リオンティールは冷や汗をかいていた。
 二人は、しばらくお互いに視線をぶつけ合っていたが、やがてベルトナンドは、リオンティールから視線をそらした。

「それより、スレイクスを探していたのではなかったのか?」
「は、はい!探してきます」

 リオンティールは、普段の自分では考えられないくらいに、その場を駆け出していった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。

サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。 人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、 前世のポイントを使ってチート化! 新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

処理中です...