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第一章 伯爵家の次男
10 大きなヒグマ!?
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ベルトナンドから離れて、先ほどの招き猫みたいな魔物を探す。
あの招き猫は、草をかき分けて見つけたため、探す時も同じように探していた。
だが、探しても探しても、スレイクスどころか、魔物らしい影はなかった。
(ここまでいないものなのかな……)
リオンティールがここまで歩いて、先ほどの招き猫みたいな存在以外に、魔物を見かけていない。
アルトルートは雑魚の精でもいいと言っていたのだから、精ぐらいはいてもいいような気がする。
それなのに、まったく見かけていなかった。
数が少ないにしても、一匹も見かけないことなどあるのだろうか。
「いないとあの猫を探さないといけないからなぁ……」
別に、猫が嫌なわけではない。ただ、どこにいるかもわからない猫を探すなど、どれほどの時間がかかるかわからない。
あの兄に、また見つかるかわからないと言われたのも、リオンティールの不安を煽る要因になっていた。
何時間もかかるかもしれない猫を探すよりは、他の魔物がひょっこり姿を表してほしいと願うのは当然の心理だった。
面倒事は、早く終わらせたい。
リオンティールは、それが全てだった。
「……うん?」
リオンティールは、再び見覚えのあるような光を見つける。
またスレイクスとかいう猫だろうかと見ていると、その光が飛び出して、リオンティールの前を横断していった。
それに続くように、大きな影が飛び出してくる。
「わっ!」
予想外のものが飛び出してきたので、リオンティールは思わず声をあげてしまう。
その存在は、リオンティールの声に反応して、くるりと顔をこちらに向けた。
(熊……?いや、それにしても大きすぎる!)
その大きなものは、地球の動物でいうヒグマに似ていたが、体格はその比ではない。
遠目で見ても、軽く五メートルは越えていそうな巨体だった。
リオンティールのほうに狙いを変えたようで、その巨体にしては速いスピードで突進してきた。
(そういえば、ヒグマも意外と足が速いんだっけ……)
そんな現実逃避ともとれるようなことを考えてしまう。
リオンティールは、とりあえず手を交差させて、守りの姿勢に入る。
本来なら、これは無謀だ。相手が突進してきているなら、横に逸れるほうが生き残れる可能性は高い。
それにはその姿勢に入ってからリオンティールも気づいたが、もう避ける時間など残されていない。
リオンティールは目をつぶる。
だが、何かが触れたような感覚があるだけで、痛みも何もない。
おそるおそる目を開けると、リオンティールの腕に、ヒグマのような何かの爪が当たっている。いや、触れている。そこには、痛みも何も感じない。
服は破れているが、皮膚には傷一つない。
ヒグマらしきものも、訳がわからないというように、戸惑いを見せていた。
リオンティールは、少し考えてから気づく。
(そうか。攻撃無効の恩恵の効果か)
攻撃を防いでから、その恩恵の存在を思い出した。
リオンティールは、ただ攻撃を防ぐだけのものだと思っていたが、衝撃なども無効化してくれるようだった。
そのため、確かに大きな爪がリオンティールの腕に当たっているのだが、傷もなければ痛みも感じない。刺さるでも、かするでもなく、ただそこに尖っている何かが触れているだけのような感覚だった。
怪我もしないし痛みもない。そう考えると、リオンティールはとたんに冷静になってきた。
「さてっと」
リオンティールは呼吸を整えて、腕に魔力を込める。
そして、そのまま押し返した。
ヒグマらしきものはバランスを崩したものの、リオンティールも同時にバランスを崩す。
「うわっとと……さて、どうするか」
「伏せろ!」
後ろから声が聞こえて、リオンティールはとっさにしゃがんだ。
その瞬間、リオンティールの頭上を何かが飛んでいき、ヒグマらしきものの額辺りを貫く。
ヒグマらしきものはそれには怯んだだけだったが、地面から飛び出してきた土に、首を切られた。
それは、歴史の教科書で見たギロチンのようだった。ギロチンとは違い、下から切られているが。
(うわっ……グロい)
リオンティールが顔を歪めながらそれを見ていると、後ろから足音が近づいてくる。
足音に気がつき、リオンティールが振り返ると、そこにはベルトナンドがいた。
「兄上!」
「リオン!大丈夫だったか!?」
ベルトナンドはリオンティールのほうに駆け寄り、リオンティールの体を確認しようとする。
リオンティールは、さらりと兄を自分から離した。
「大丈夫ですよ、怪我一つありませんから」
「……そうか。ならよかった」
てっきり、安心して一息つくかと思っていたのに、ベルトナンドは何か疑るような視線を向けている。
何か気づかれたかと、リオンティールは冷や汗をかいていた。
二人は、しばらくお互いに視線をぶつけ合っていたが、やがてベルトナンドは、リオンティールから視線をそらした。
「それより、スレイクスを探していたのではなかったのか?」
「は、はい!探してきます」
リオンティールは、普段の自分では考えられないくらいに、その場を駆け出していった。
あの招き猫は、草をかき分けて見つけたため、探す時も同じように探していた。
だが、探しても探しても、スレイクスどころか、魔物らしい影はなかった。
(ここまでいないものなのかな……)
リオンティールがここまで歩いて、先ほどの招き猫みたいな存在以外に、魔物を見かけていない。
アルトルートは雑魚の精でもいいと言っていたのだから、精ぐらいはいてもいいような気がする。
それなのに、まったく見かけていなかった。
数が少ないにしても、一匹も見かけないことなどあるのだろうか。
「いないとあの猫を探さないといけないからなぁ……」
別に、猫が嫌なわけではない。ただ、どこにいるかもわからない猫を探すなど、どれほどの時間がかかるかわからない。
あの兄に、また見つかるかわからないと言われたのも、リオンティールの不安を煽る要因になっていた。
何時間もかかるかもしれない猫を探すよりは、他の魔物がひょっこり姿を表してほしいと願うのは当然の心理だった。
面倒事は、早く終わらせたい。
リオンティールは、それが全てだった。
「……うん?」
リオンティールは、再び見覚えのあるような光を見つける。
またスレイクスとかいう猫だろうかと見ていると、その光が飛び出して、リオンティールの前を横断していった。
それに続くように、大きな影が飛び出してくる。
「わっ!」
予想外のものが飛び出してきたので、リオンティールは思わず声をあげてしまう。
その存在は、リオンティールの声に反応して、くるりと顔をこちらに向けた。
(熊……?いや、それにしても大きすぎる!)
その大きなものは、地球の動物でいうヒグマに似ていたが、体格はその比ではない。
遠目で見ても、軽く五メートルは越えていそうな巨体だった。
リオンティールのほうに狙いを変えたようで、その巨体にしては速いスピードで突進してきた。
(そういえば、ヒグマも意外と足が速いんだっけ……)
そんな現実逃避ともとれるようなことを考えてしまう。
リオンティールは、とりあえず手を交差させて、守りの姿勢に入る。
本来なら、これは無謀だ。相手が突進してきているなら、横に逸れるほうが生き残れる可能性は高い。
それにはその姿勢に入ってからリオンティールも気づいたが、もう避ける時間など残されていない。
リオンティールは目をつぶる。
だが、何かが触れたような感覚があるだけで、痛みも何もない。
おそるおそる目を開けると、リオンティールの腕に、ヒグマのような何かの爪が当たっている。いや、触れている。そこには、痛みも何も感じない。
服は破れているが、皮膚には傷一つない。
ヒグマらしきものも、訳がわからないというように、戸惑いを見せていた。
リオンティールは、少し考えてから気づく。
(そうか。攻撃無効の恩恵の効果か)
攻撃を防いでから、その恩恵の存在を思い出した。
リオンティールは、ただ攻撃を防ぐだけのものだと思っていたが、衝撃なども無効化してくれるようだった。
そのため、確かに大きな爪がリオンティールの腕に当たっているのだが、傷もなければ痛みも感じない。刺さるでも、かするでもなく、ただそこに尖っている何かが触れているだけのような感覚だった。
怪我もしないし痛みもない。そう考えると、リオンティールはとたんに冷静になってきた。
「さてっと」
リオンティールは呼吸を整えて、腕に魔力を込める。
そして、そのまま押し返した。
ヒグマらしきものはバランスを崩したものの、リオンティールも同時にバランスを崩す。
「うわっとと……さて、どうするか」
「伏せろ!」
後ろから声が聞こえて、リオンティールはとっさにしゃがんだ。
その瞬間、リオンティールの頭上を何かが飛んでいき、ヒグマらしきものの額辺りを貫く。
ヒグマらしきものはそれには怯んだだけだったが、地面から飛び出してきた土に、首を切られた。
それは、歴史の教科書で見たギロチンのようだった。ギロチンとは違い、下から切られているが。
(うわっ……グロい)
リオンティールが顔を歪めながらそれを見ていると、後ろから足音が近づいてくる。
足音に気がつき、リオンティールが振り返ると、そこにはベルトナンドがいた。
「兄上!」
「リオン!大丈夫だったか!?」
ベルトナンドはリオンティールのほうに駆け寄り、リオンティールの体を確認しようとする。
リオンティールは、さらりと兄を自分から離した。
「大丈夫ですよ、怪我一つありませんから」
「……そうか。ならよかった」
てっきり、安心して一息つくかと思っていたのに、ベルトナンドは何か疑るような視線を向けている。
何か気づかれたかと、リオンティールは冷や汗をかいていた。
二人は、しばらくお互いに視線をぶつけ合っていたが、やがてベルトナンドは、リオンティールから視線をそらした。
「それより、スレイクスを探していたのではなかったのか?」
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