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第一章 伯爵家の次男
9 招き猫……?
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「意外とおいしかったなぁ……あのお店」
ベルトナンドが認めているのだから、おいしくないはずはなかったのだが、連れていかれたお店の外見は、ボロボロとは言わなくても、寂れた店だった。
勝手な偏見とわかってはいても、そこがおいしい店だとは、リオンティールはお世辞にも思えなかった。
「なんであんなにもボロボロだったんですかね?」
「見た目で判断するような奴を断るためだそうだ」
それを聞いて、なるほどと思いつつも、納得はしなかった。
客を選別するのは、ある程度儲かってからでないと、店は赤字になる。店は、入りたいと思わせないといけないからだ。
「経営は大丈夫なんですか?」
「ああ。私の他にも、気に入っている貴族はその店に寄付している。平民の客をすべて断っても、お釣りが来る額だ」
「へぇ~……」
どうやらあの店は、寄付によって成り立っているらしい。
寄付だけで成り立っているような店は、前世ではあまり聞かなかったが、根っからの身分差社会の国では、身分差のない日本と常識は変わってしまうだろう。
リオンティールも、上級貴族の子どもとして学んでいたから、なんとなくはわかる。
貴族は、平民からしたら無駄だと思われても、金を使うのが普通だ。貴族は、湯水のようとまでは行かなくても、気になるものは躊躇なく購入でもして、街にお金を落とすのも義務だ。
平民たちも、貴族に気に入られるように努力している。貴族に気に入られれば、平民でも購入してくれる可能性が広がる。
だが、先に平民に広がってしまったものは、貴族はあまり買いたがらないので、最初は貴族に好印象を持たれるものかつ、平民でも買えるようなものでなくては流行らない。
それが、身分差社会の国の流行と経営だ。売りたいなら貴族に売り出さないとほとんど売れることはない。
だが、逆にいえば、貴族のお気に入りにでもなれば、それだけで生き残れる。リオンティールが連れていってもらった店は後者だった。
店の外観よりも、質のほうにこだわっているのかもしれない。
「でも、もうちょっと外観は整えたほうがいいような気もしますけど」
「確かにそうだな。今度、進言してみよう。そんなことよりも、魔物を探そうか」
「はい、兄上」
店の話は終えて、リオンティールは魔物探しに切り換える。
だが、午前でも見つからなかった魔物は、午後になったからといって、簡単に見つかるものではなかった。
リオンティールの歩みは、だんだんと遅くなる。時々、木を背に休息を取りながらも、奥のほうまで足を進めると、茂みの一角がきらりと光る。
「うん?」
陽光でも反射したのかと、リオンティールが再びそこに目を向けると、まだきらきらと輝いていた。
その光は、リオンティールが近づくほど輝きを増す。
そして、草根をかき分けると、そこには猫のような生物が、体を丸めて眠っていた。
額にはコインのようなものを着けており、その白い体はガラスのように光っていた。そして、それを除けば猫の姿。
(招き猫……?)
リオンティールは、そのようにしか見えなかった。
もちろん、リオンティールが梨央だったときに日本で見た招き猫とはぜんぜん違う。日本のはもっとふくよかな見た目だったのに、目の前にいる猫は普通の体型。
そして、あれは置物だがこの猫は生きているものだ。
でも、全体の雰囲気が招き猫だった。一度それに見えてしまうと、それ以外には見えてこない。輝いているのは、額のコインらしきものだけのはずだか、リオンティールには全体が輝いて見えた。
リオンティールが手を近づけると、気配に気づいたのか猫が飛び起きて、そのままどこかに行ってしまった。
残されたリオンティールは、呆然とそれを見るしかできない。
「何だったんだろう……あれ」
「リオン。何かいたのか?」
後を追ってきて、ベルトナンドがリオンティールの後ろに来ていた。
リオンティールは、先ほどのことをベルトナンドに説明する。
ベルトナンドは、リオンティールの説明を聞くと、少し驚いた反応を見せる。
「それは珍しいな」
「兄上、ご存じなのですか?」
「ああ。私のヒュティカよりも珍しい魔物だ。スレイクスという。戦闘能力はそこまでないものの、幸運を招くとされている魔物なんだ」
「そうなのですか」
その説明を聞いて、ますます招き猫みたいだなと感じる。
それはそうとして、魔物であるならば、手懐けるのはあの招き猫でもいいのではないかと思い始めた。
あの招き猫しか、魔物は見かけていないから、このチャンスを逃せば、次に見つけられるのはいつになるのかわからない。
リオンティールとしては、別に契約は一年後とかになっても構わないのだが、父親に圧をかけられたり、急かされたりするのは面倒だ。
リオンティールも、別に不真面目というわけではない。面倒事は、早めに片づけておきたかった。
「魔物なら、それでもいいですよね?」
「ああ。かまわないだろう。だが……また見つけられるとは限らないぞ?警戒心が強いからな」
リオンティールは、先ほどのぐっすりと眠っていたスレイクスを思い浮かべる。
(あれのどこが警戒心が強いんだろう……?)
そう思いながらも、ベルトナンドに軽く手を振る。
「とりあえず、探してみます。では」
リオンティールは、招き猫らしき魔物が逃げていった方向に、駆け出していった。
ベルトナンドが認めているのだから、おいしくないはずはなかったのだが、連れていかれたお店の外見は、ボロボロとは言わなくても、寂れた店だった。
勝手な偏見とわかってはいても、そこがおいしい店だとは、リオンティールはお世辞にも思えなかった。
「なんであんなにもボロボロだったんですかね?」
「見た目で判断するような奴を断るためだそうだ」
それを聞いて、なるほどと思いつつも、納得はしなかった。
客を選別するのは、ある程度儲かってからでないと、店は赤字になる。店は、入りたいと思わせないといけないからだ。
「経営は大丈夫なんですか?」
「ああ。私の他にも、気に入っている貴族はその店に寄付している。平民の客をすべて断っても、お釣りが来る額だ」
「へぇ~……」
どうやらあの店は、寄付によって成り立っているらしい。
寄付だけで成り立っているような店は、前世ではあまり聞かなかったが、根っからの身分差社会の国では、身分差のない日本と常識は変わってしまうだろう。
リオンティールも、上級貴族の子どもとして学んでいたから、なんとなくはわかる。
貴族は、平民からしたら無駄だと思われても、金を使うのが普通だ。貴族は、湯水のようとまでは行かなくても、気になるものは躊躇なく購入でもして、街にお金を落とすのも義務だ。
平民たちも、貴族に気に入られるように努力している。貴族に気に入られれば、平民でも購入してくれる可能性が広がる。
だが、先に平民に広がってしまったものは、貴族はあまり買いたがらないので、最初は貴族に好印象を持たれるものかつ、平民でも買えるようなものでなくては流行らない。
それが、身分差社会の国の流行と経営だ。売りたいなら貴族に売り出さないとほとんど売れることはない。
だが、逆にいえば、貴族のお気に入りにでもなれば、それだけで生き残れる。リオンティールが連れていってもらった店は後者だった。
店の外観よりも、質のほうにこだわっているのかもしれない。
「でも、もうちょっと外観は整えたほうがいいような気もしますけど」
「確かにそうだな。今度、進言してみよう。そんなことよりも、魔物を探そうか」
「はい、兄上」
店の話は終えて、リオンティールは魔物探しに切り換える。
だが、午前でも見つからなかった魔物は、午後になったからといって、簡単に見つかるものではなかった。
リオンティールの歩みは、だんだんと遅くなる。時々、木を背に休息を取りながらも、奥のほうまで足を進めると、茂みの一角がきらりと光る。
「うん?」
陽光でも反射したのかと、リオンティールが再びそこに目を向けると、まだきらきらと輝いていた。
その光は、リオンティールが近づくほど輝きを増す。
そして、草根をかき分けると、そこには猫のような生物が、体を丸めて眠っていた。
額にはコインのようなものを着けており、その白い体はガラスのように光っていた。そして、それを除けば猫の姿。
(招き猫……?)
リオンティールは、そのようにしか見えなかった。
もちろん、リオンティールが梨央だったときに日本で見た招き猫とはぜんぜん違う。日本のはもっとふくよかな見た目だったのに、目の前にいる猫は普通の体型。
そして、あれは置物だがこの猫は生きているものだ。
でも、全体の雰囲気が招き猫だった。一度それに見えてしまうと、それ以外には見えてこない。輝いているのは、額のコインらしきものだけのはずだか、リオンティールには全体が輝いて見えた。
リオンティールが手を近づけると、気配に気づいたのか猫が飛び起きて、そのままどこかに行ってしまった。
残されたリオンティールは、呆然とそれを見るしかできない。
「何だったんだろう……あれ」
「リオン。何かいたのか?」
後を追ってきて、ベルトナンドがリオンティールの後ろに来ていた。
リオンティールは、先ほどのことをベルトナンドに説明する。
ベルトナンドは、リオンティールの説明を聞くと、少し驚いた反応を見せる。
「それは珍しいな」
「兄上、ご存じなのですか?」
「ああ。私のヒュティカよりも珍しい魔物だ。スレイクスという。戦闘能力はそこまでないものの、幸運を招くとされている魔物なんだ」
「そうなのですか」
その説明を聞いて、ますます招き猫みたいだなと感じる。
それはそうとして、魔物であるならば、手懐けるのはあの招き猫でもいいのではないかと思い始めた。
あの招き猫しか、魔物は見かけていないから、このチャンスを逃せば、次に見つけられるのはいつになるのかわからない。
リオンティールとしては、別に契約は一年後とかになっても構わないのだが、父親に圧をかけられたり、急かされたりするのは面倒だ。
リオンティールも、別に不真面目というわけではない。面倒事は、早めに片づけておきたかった。
「魔物なら、それでもいいですよね?」
「ああ。かまわないだろう。だが……また見つけられるとは限らないぞ?警戒心が強いからな」
リオンティールは、先ほどのぐっすりと眠っていたスレイクスを思い浮かべる。
(あれのどこが警戒心が強いんだろう……?)
そう思いながらも、ベルトナンドに軽く手を振る。
「とりあえず、探してみます。では」
リオンティールは、招き猫らしき魔物が逃げていった方向に、駆け出していった。
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