異世界でもマイペースに行きます

りーさん

文字の大きさ
上 下
9 / 31
第一章 伯爵家の次男

9 招き猫……?

しおりを挟む
「意外とおいしかったなぁ……あのお店」

 ベルトナンドが認めているのだから、おいしくないはずはなかったのだが、連れていかれたお店の外見は、ボロボロとは言わなくても、寂れた店だった。
 勝手な偏見とわかってはいても、そこがおいしい店だとは、リオンティールはお世辞にも思えなかった。

「なんであんなにもボロボロだったんですかね?」
「見た目で判断するような奴を断るためだそうだ」

 それを聞いて、なるほどと思いつつも、納得はしなかった。
 客を選別するのは、ある程度儲かってからでないと、店は赤字になる。店は、入りたいと思わせないといけないからだ。

「経営は大丈夫なんですか?」
「ああ。私の他にも、気に入っている貴族はその店に寄付している。平民の客をすべて断っても、お釣りが来る額だ」
「へぇ~……」

 どうやらあの店は、寄付によって成り立っているらしい。
 寄付だけで成り立っているような店は、前世ではあまり聞かなかったが、根っからの身分差社会の国では、身分差のない日本と常識は変わってしまうだろう。
 リオンティールも、上級貴族の子どもとして学んでいたから、なんとなくはわかる。
 貴族は、平民からしたら無駄だと思われても、金を使うのが普通だ。貴族は、湯水のようとまでは行かなくても、気になるものは躊躇なく購入でもして、街にお金を落とすのも義務だ。
 平民たちも、貴族に気に入られるように努力している。貴族に気に入られれば、平民でも購入してくれる可能性が広がる。
 だが、先に平民に広がってしまったものは、貴族はあまり買いたがらないので、最初は貴族に好印象を持たれるものかつ、平民でも買えるようなものでなくては流行らない。
 それが、身分差社会の国の流行と経営だ。売りたいなら貴族に売り出さないとほとんど売れることはない。
 だが、逆にいえば、貴族のお気に入りにでもなれば、それだけで生き残れる。リオンティールが連れていってもらった店は後者だった。
 店の外観よりも、質のほうにこだわっているのかもしれない。

「でも、もうちょっと外観は整えたほうがいいような気もしますけど」
「確かにそうだな。今度、進言してみよう。そんなことよりも、魔物を探そうか」
「はい、兄上」

 店の話は終えて、リオンティールは魔物探しに切り換える。
 だが、午前でも見つからなかった魔物は、午後になったからといって、簡単に見つかるものではなかった。
 リオンティールの歩みは、だんだんと遅くなる。時々、木を背に休息を取りながらも、奥のほうまで足を進めると、茂みの一角がきらりと光る。

「うん?」

 陽光でも反射したのかと、リオンティールが再びそこに目を向けると、まだきらきらと輝いていた。
 その光は、リオンティールが近づくほど輝きを増す。
 そして、草根をかき分けると、そこには猫のような生物が、体を丸めて眠っていた。
 額にはコインのようなものを着けており、その白い体はガラスのように光っていた。そして、それを除けば猫の姿。

(招き猫……?)

 リオンティールは、そのようにしか見えなかった。
 もちろん、リオンティールが梨央だったときに日本で見た招き猫とはぜんぜん違う。日本のはもっとふくよかな見た目だったのに、目の前にいる猫は普通の体型。
 そして、あれは置物だがこの猫は生きているものだ。
 でも、全体の雰囲気が招き猫だった。一度それに見えてしまうと、それ以外には見えてこない。輝いているのは、額のコインらしきものだけのはずだか、リオンティールには全体が輝いて見えた。
 リオンティールが手を近づけると、気配に気づいたのか猫が飛び起きて、そのままどこかに行ってしまった。
 残されたリオンティールは、呆然とそれを見るしかできない。

「何だったんだろう……あれ」
「リオン。何かいたのか?」

 後を追ってきて、ベルトナンドがリオンティールの後ろに来ていた。
 リオンティールは、先ほどのことをベルトナンドに説明する。
 ベルトナンドは、リオンティールの説明を聞くと、少し驚いた反応を見せる。

「それは珍しいな」
「兄上、ご存じなのですか?」
「ああ。私のヒュティカよりも珍しい魔物だ。スレイクスという。戦闘能力はそこまでないものの、幸運を招くとされている魔物なんだ」
「そうなのですか」

 その説明を聞いて、ますます招き猫みたいだなと感じる。
 それはそうとして、魔物であるならば、手懐けるのはあの招き猫でもいいのではないかと思い始めた。
 あの招き猫しか、魔物は見かけていないから、このチャンスを逃せば、次に見つけられるのはいつになるのかわからない。
 リオンティールとしては、別に契約は一年後とかになっても構わないのだが、父親に圧をかけられたり、急かされたりするのは面倒だ。
 リオンティールも、別に不真面目というわけではない。面倒事は、早めに片づけておきたかった。
 
「魔物なら、それでもいいですよね?」
「ああ。かまわないだろう。だが……また見つけられるとは限らないぞ?警戒心が強いからな」

 リオンティールは、先ほどのぐっすりと眠っていたスレイクスを思い浮かべる。

(あれのどこが警戒心が強いんだろう……?)

 そう思いながらも、ベルトナンドに軽く手を振る。

「とりあえず、探してみます。では」

 リオンティールは、招き猫らしき魔物が逃げていった方向に、駆け出していった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。

サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。 人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、 前世のポイントを使ってチート化! 新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...