異世界でもマイペースに行きます

りーさん

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第一章 伯爵家の次男

7 リオンティールの嫌なこと

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 転生先の暮らしにも慣れたころ。
 リオンティールがいつものようにゴロゴロしていたら、メリザが部屋にやってきた。

「リオンティールさま。いらっしゃいますか?」
「メリザ、何の用?」
「アルトルートさまがお呼びです。お話があると」
「父上が?はーい……」

 珍しいなと思いながら、リオンティールはあくびをして、父親であるアルトルートの元に向かう。
 アルトルートは、放任主義と言えば聞こえは悪いかもしれないが、自由にのびのびと過ごさせてくれる。
 さすがに犯罪などは禁止させられるだろうが、基本的に本人がやりたいと言えばその意志を尊重する。
 そのために、リオンティールののんびりとしただらけた生活も、許してはくれる。あまり誉められたことではないために、少し複雑な表情を浮かべることが多いが。
 それでも、愛する妻にそっくりなリオンティールには、父親は少し甘いところがあるので、注意されたりはしない。
 普段、自由に過ごさせてもらっているのだからと、リオンティールも父親からの呼び出しがあればたとえあくびが出るくらい眠かったとしても、従うようにはしていた。
 呼びに来た使用人の案内に従い、リオンティールはアルトルートの部屋の前まで来た。

「アルトルートさま。リオンティールさまをお連れしました」
「入りなさい」

 部屋の中から聞こえてきた声に従い、リオンティールは中に入る。

「父上、お呼びですか」
「ああ。少し長くなるだろうから、そこに座りなさい」

 リオンティールは、転生のときに見た容姿を見て、改めて歴戦の猛者のようだと思いながらソファに座る。

(見た目とは違って、中身はけっこう紳士なんだけどね)

 まだ転生した記憶がないときに、そのギャップもいいのと惚気ていた母親を思い浮かべていると、「さて」と話し出したので、リオンティールは、いつの間にか向かいに座っていたアルトルートに意識を向ける。

「リオンも来年には学園の入学を控えているだろう」
「そうですね」

 この国にも、日本と同じように小学校という概念がある。
 四季という概念もあり、今は、
 現在、五歳のリオンティールは、来年には学園入学を控えていた。

「学園に入学すれば、貴族としてのマナーや教養を求められる。最低限の振る舞いをしていれば大丈夫だが、その中にお前は絶対に嫌というようなものもある。大きく分けて二つだな。今回呼んだのもそれが理由だ」
「なんですか?」

 リオンティールは思い当たる節がなく首をかしげる。

「一つ目は社交界だ」
「帰ります」

 リオンティールは座った目でそう言って、ドアのほうに向かっていた。
 だが、そこからは足が動かなかった。

(まさか……)

 リオンティールの体は自分の意志とは関係なく動き、またソファに座らされる。
 アルトルートが得意とする傀儡術だ。体の動きを操るだけの傀儡術は、攻撃ではないため、リオンティールの攻撃無効では防げない。

「父上、勝手に操らないでください」
「話が終わってないのに退出しようとするからだ。話は最後まで聞け」
「どうせ社交界に出ろと言うのでしょう?お断りします」

 リオンティールは、自分の部屋という安寧の地で好きな本でも読んだり、のんびり昼寝をしたい。そのために転生したようなものなのに、なぜそんな場所に飛び込まなければならないのか。
 リオンティールはじっとアルトルートを見つめる。
 アルトルートは、軽くため息をついた。

「そうも言ってられん。王家直々の招待状があるからな。お前にも名指しで届いている」

 なんでだ。
 リオンティールは、そう言いそうになったが、ぐっと堪えた。
 お茶会したときに、母親がそんなことも言っていたような気がしたからだ。
 
「まぁ、これは半年以上先の話だ。今はそこまで気に止める必要はない」
「では、呼んだ理由はなんなのですか」
「呼んだのは二つ目のほうだ。招待状のこともあるが、貴族には通過儀礼というものが存在する。貴族は、下の者に力を示さなければならないときがある」

 リオンティールも、そう言われると、緩んでいた気が引き締まったのを感じた。
 この国を支配しているのは貴族だが、守っているのも貴族だ。平民は、普段は税を納める代わりに、何か事件などがあれば貴族に解決してもらい、貴族は普段は平民に税を納めさせる代わりに、事件などがあれば解決に向けて動くという関係を築いている。
 貴族からしてみても、自分たちの私腹を肥やしてくれる平民が減るのは好ましくない。そのために、平民の言葉には耳を傾けることが多い。
 悪政を続け平民の数が減ってしまえば、当然ながら税金は減るので、生活基準を下げなければならない。
 そうなれば、悪政などにより金がないのだと後ろ指を指されるきっかけになる。
 それは、名誉を重んじる貴族にはこの上ない屈辱だ。
 生活基準を下げられずに金を借りる存在もいるが、金がないときに借りたとしても、返せなくなって余計に蓄えた金が減るだけだ。

(まぁ、僕からしてみればお金さえくれればいいって感じなんだけど)

 それでも、誰も好き好んでだらけているだけの存在を、永遠に養いたいなどと思うはずがない。
 愛想を尽かされないためにも、自分のペースにはなるだろうが、貴族の勤めは果たすつもりではいた。

(果たすついでに魔素の回収もできるだろうしね)

 もうほとんど忘れかけていたような役割を思い出しながら、アルトルートに向き直る。

「貴族は、学園に入る前にほとんどが魔物を従える。力を示すには一番の方法だからな」
「なら、僕も……?」
「そうだ。リオンにも魔物を従えてもらう。魔物であればなんでもかまわん。雑魚の精でもいい」

 精というのは、精霊の子どものようなもの。
 まだ精霊としての力はほとんど持っていないが、植物の成長を早めるなど、自然を操ることができる。
 魔物というのは、獣を除く、人に危害を加えられるほどの力、または何か特別な力を持つものの総称のため、精も魔物の類いに入る。

「強いものを従えろとはおっしゃらないのですね」

 アルトルート本人が、魔物を従えるのが力を示すのに一番と言っていた。
 魔物は、ほぼ全ての者が、同じ強さの認識を持っている。人間同士だと相性の問題もあるため、人によっては弱くも強くもなる。
 だが、魔物であれば、特異体でもない限り性質は同じ。相性の問題もあるにはあるが、人間ほどではないため、強い魔物を従えれば、それだけ強さを外に示すことができる。
 だからこそ、別に弱くてもかまわないというアルトルートの言葉は貴族としてはおかしなことだ。
 そう考えたリオンティールの言葉は、アルトルートのふんという鼻息で打ち消される。

「我が子に頼りきるほど落ちぶれてはいない。もちろん、貴族の格があるのだから、強いものを従えるのなら従えてほしい気持ちはあるが、そのために命を捨てろとは言わん」
「……そうですか」

 もしかしたら、こういうところに母親は惚れたのかもしれない。
 リオンティールがそう思うくらいには、重みのある言葉だった。

(父上だから言えるんだろうけどね……)

 普通の貴族は、少しでも家格をあげたいと子どもに期待するもの。わざわざ子どもに期待しなくても、それだけの実力のあるアルトルートだからこそのセリフだ。
 リオンティールの兄姉たちが優秀だからもう必要ないというのもあるのだろうが。

「話を戻すが、そのために魔物の生息域に向かわねばならない。人によっては一日で終わるかもしれないが、場合によっては一週間以上かかることもある。私はそこまで長くは時間がとれそうにないから、長期休暇で戻ってくるあの子達についてきてもらうといい。ベルトナンドなら喜んで行きたがるだろう」
「はい、父上。お話は以上でしょうか?」

 早く部屋に戻ってゴロゴロしたかったリオンティールは、早々に話を切り上げようとする。
 それを見抜いてか、アルトルートは呆れたような表情をリオンティールに向けた。

「……ああ。戻るといい。ベルトナンドが戻ってくるまでに英気を養えておくように」
「はい。では、失礼します」

 リオンティールがそう言って部屋を出ると、先ほど自分を連れてきたメリザが立っていた。
 話が終わるまで待っていてくれたようだった。

「従魔の件ですか?」

 メリザは何の話をしていたのか想像したようで、リオンティールに確認の質問をしてくる。

「うん。兄上たちが帰ってきたら忙しくなりそうだから、それまでゆっくりしてるね」

 ふわぁとあくびをして、リオンティールは立ち去った。

(魔獣は恐れを抱く方も多いのに、リオンティールさまは変わらないのね)

 リオンティールの後ろ姿を見ながら、メリザは苦笑していた。
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