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第三章 休みくらい好きにさせて

第24話 事件発生 3 (ソフィア視点)

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 気がついたら、見覚えのない場所にいた。そして、縄で手足を縛られている。

「ソフィアさん……」
「大丈夫です。落ち着きましょう」

 不安そうな声色でモニカが声をかけてくる。ソフィアもいきなり知らないところに連れてこられたのは不安なのだが、あのトラブルホイホイとよく一緒にいたからか、トラブルに巻き込まれることも多く、その分、幾分かは冷静になれていた。これに関しては、彼女に感謝しなくもない。十中八九、このトラブルもあのトラブルホイホイ関係だろうが。
 ソフィアは、これまでのことを整理してみる。
 事の発端は、リリアンが出ていったところまでさかのぼる。

*ー*ー*ー

 ソフィアは、リリアンの出ていった扉を見つめる。

(いくらなんでも、あれはないわよね)

 いくら勉強したくないとはいえ、公爵令嬢としての態度を出しながら拒否して、結局気まずくなって出ていった。
 昔から何も変わっていない。口は悪いくせにそれとは正反対のお人好し。そのくせ重度の人たらし。1日に一人は落としてるんじゃないかというレベル。
 現に、リリアンとして転生してから3ヶ月くらいしか経っていないのに、一人を改心させるどころか、惚れさせる。その他に二人も惚れさせているし、険悪の仲だったはずの兄と父ともそれなりの仲になっている。
 悲しいのは、本人にその自覚がないことだ。
 モニカがあんなにアピールしているのに気づかない。カインもあんなに熱がこもっているのに気づかない。
 兄や父も同様。目が腐っているのではと本気で疑いたくなるくらいに気づいていない。あまりにも周りが可哀想すぎる。
 考えが脱線してしまったが、そんな彼女は徹底的にソフィアからの教えは避けようとする。
 私が善意から教えようとしているのに、何かしら理由をつけては断るのだ。捕まえても、結局は逃げられることもしばしば。
 自分のどこが嫌だというのかまったくわからない。
 そのままずっと見つめていると、ふっと体の浮遊感が訪れて現在にいたる。そのときに、人影が見えたような気はしたが。

「あの……ソフィアさん」
「なんですか?」
「今回のこと、もしかしたら『青の月』の仕業かもしれません」
「『青の月』……もしかして、あなたが所属していた集団?」
「えっ!?なんで……!?」

 モニカが驚きの表情で目を見開く。
 ソフィアが知っているのは、もちろんゲームの知識だ。
 リリアンである麗香には、ネタバレにならないように中途半端な情報を教えていたけど、自分はフルコンプリートしているので、完璧に把握している。
 そのため、当然ながらモニカが所属していた場所すらもわかる。

「リリアン様から少しね」
「……リリアン様と仲が良いんですね。会ったのは私が先なのに……」

 わかりやすいくらいにソフィアに嫉妬している。これを隠してもいないのに、なんでリリアンは気づかないのだろう。
 自分は転生していて、前世からの友だちだったから気心が知れていると説明できたらどんなにいいだろう。
 でも、そんなことは説明できない。信じてもらえないかもしれないし、信じてもらえたとしても、転生とか魂なんて、神殿が何を言ってくるかわかったものではない。

「私とリリアン様は似ているから気が合うだけなんじゃない」
「同族嫌悪っていう言葉もあるんですよ……?」
「私たちには当てはまらないだけですよ」

 少し誇らしげに言う。別に、そこまで誇らしいということでもないけど。

「目覚めていたのか」

 モニカのものでも、もちろん自分のものでもない低い声が響く。
 ソフィアがそちらのほうに視線だけ向けると、そこにはフードを被った謎の男が部屋に入ってきていた。

「あ、あなたは……」
「あぁ、モニカ殿。お久しぶり……というべきかな?」
「あなたの狙いはなんなのかしら?……ギルベール」
「私の名前を知っているとは。あなたとは初対面のはずだが?」
「ええ。初対面よ?それがなにか?」
「……見たところ、平民だろう。情報網があるとは思えん。まさか、貴様も魔魂の主か?」

 ソフィアは、この世界に来て初めて疑問を感じた。

(マコン……?)

 そんな言葉はゲームには出てこなかった。どんな意味を持つのかもわからない。
 やはり、ここはゲームのようでゲームではないのだ。それは、リリアンのような転生者がいるからという理由ではない。
 ここには、“選択肢”というものがないから。そりゃあ、ある程度の性格などはゲームの通りなのかもしれないけど、データなんかではなく、一人一人生きている。正解の選択肢なんてないし、決まったセリフもない。
 最初は、ゲームの通りに動かないリリアンを疑問に思った。シナリオ通りに動かないのはなぜなのだろうと。そこで、彼女が転生者で、しかも前世の友人だと知って納得。
 そこから、自分の好きなように生きるリリアンを見て、ここはゲームなんかじゃないと知った。強制力なんてものはないし、決まったセリフもないし、選択肢もない。
 それを気づかせてくれた友には感謝している。

(だからといって、私はあの子に惚れたりはしないけど)

 それでも、たとえマコンの主とかいう不可思議な存在でも、友人であることは変わらない。こんなやつに渡すわけにはいかない。

「そのマコンの主とやらは知らないけど、リリアンを狙うなら私も容赦はしなくてよ?」
「その状態で何ができる?」

 自分を見下した目。これから自分がどんな目に合うかなんて、想像すらもしていないような目。
 あの余裕綽々な顔を変えてやれると思ったら、無意識に笑みがこぼれる。

「縄で縛っていたみたいだけど、私は火魔法が使えるから、燃やせるのよ」

 すでに焼け焦げている縄をギルベールに見せる。それでも、余裕綽々な表情は消えない。これくらいは想定の範囲内なのだろう。

「さてっと……」

 ソフィアは、無意識にそう呟くと、大きく深呼吸をする。
 そして、右足に力をいれた。
 今からやるのは、自分にここと似たゲームの知識があるからこそできる荒業。ゲームでは未来に攻略対象である天才魔法使いが見つける魔力の使い方。
 これが発表されて喜んだのは、魔法使いではなくーー騎士だった。

「吹っ飛びなさい!」

 ソフィアが叫んだ瞬間、その場に男の姿はなくなっていた。
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