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第三章 休みくらい好きにさせて
第4話 眠っているときに
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※すみません。リリアン視点の続きが思ったよりも短かったので、前話にくっつけました。
↓本編
すーすーと寝息をたて始めた主をレアが見つめている。抵抗されたらどうしようかと思っていたが、自分の言ったように、抵抗せずに受け入れてくれたようだった。
レアの魔法は、自分よりも強い魔力を持っている相手には効きにくい。効かないわけではないが、抵抗されたら魔法を弾かれる。主であるリリアンは魔魂の持ち主なので、魔力の強さでは敵わない。
「ご主人は、何者なんかねぇ~……」
後天的に魔魂を持つなんて、聞いたことがなかった。魂は、生まれ持っている物なのだから、魔魂があるということは、元々の魂に魔力が宿ったということになる。
そんなのは、長い時を生きているレアも聞いたことがない。自分のコレクションを探せばあるのかもしれないが、魔魂の主として狙われているのに、離れるわけにはいかない。
第一部隊は主の命令でアリエルとかいう女子生徒を調べているし、第二部隊は旦那様の命令で主を狙った者を探っている。彼は、不器用すぎるだけで、娘を可愛がってはいるのだ。
本当に主の言うように、駒として扱っているのなら、ホーストの次期当主との婚約を仮婚約にするのを認めるわけがない。表向きは公爵家同士の繋がりを深めるための婚約だが、一番は娘が望んだから婚約したというのに。
兄は、正義感が強すぎる。それなりに兄として主を見てはいるのだけど、主の今までの言動のせいで、口調が強くなる。それに売り言葉に買い言葉の精神で言い返したりするから、どんどん関係が悪化するというループだ。
でも、最近の主は、どこか他人事のような感じだ。ソフィアとかいう少女にはそこまででもないが、ほとんどの者に義務感のようなもので接している節がある。
普通は、自分のことを悪く言われたら、何かしら反応は示すものだ。傷ついて泣いたり、負け犬の遠吠えのように嘲笑ったり。でも、主はなんとも思ってないようだった。赤の他人の悪口を聞いているだけのような、自分は当事者なんかじゃないというような。
あの主が、素を見せたことがあっただろうか。オーラが素直なあの主のことだから、嘘をついたことはないだろう。でも、本当のことも、果たして話してくれているのだろうか。
レアからしてみれば、傷つきたくないから、なんとも思ってないという風に思いたいだけにしか見えなかった。
「一言命令してくれば、あの女たちも片づけるのにね」
思い浮かべているのは、パーティーのときに、主のことを卑しいなどとふざけた言動を抜かしていた女たち。
自分勝手に片づけないのは、主が命令していないことと、彼女たちが貴族だからだ。平民ならば、たとえ性格が急変したりしたとしても、そこまで問題になったりはしないが、貴族令嬢となれば話は別だ。
いきなり自分達の娘の性格が変われば、不審に思う者は当然出てくる。それで調べられれば、自分のことがばれてしまう恐れもある。すると、責任を取らされるのは、主であるリリアンだ。それなのに、勝手に行動するわけにはいかなかった。嫌われるのが目に見えている。
命令されても主が危険なことは変わらないが、そうなったら当主の記憶も堂々と変えてやるだけだ。
レアが聞く人が聞けばドン引きするようなことを考えていると、小さくドアの開く音がする。
「ご主人は寝てるけど、無断で入ってくるのはよくないんじゃないかなぁ?アイリス」
「寝ているとわかって入ってきたに決まっているでしょう?隊長」
お互いに、普段なら呼ばない呼び方で呼んでいる。それは、重要な事柄があるということだ。
「それで、わざわざご主人が寝ているときを狙ったんなら、内緒話かな?」
「ええ。……『紅き月』を覚えていますね?」
それを聞いたレアの表情は強ばった。それだけで、レアが覚えていることを伝えるのには充分だった。
「……今は、『青き月』かと思ってたんだけど」
「間違ってはないと思います。サリア隊長からお聞きした構成員には、聞き覚えのあるやつもいましたし」
「それがどうしたのさ」
紅き月だろうが、青き月だろうが、自分たちとは敵対の関係であることは変わらない。その刃は、今は主にも向かっている。名前が違うだけで、根本的には変わらないだろう。
「それでですね、そいつらがこの学園に潜伏しているそうなんですよね。サリア隊長には自分から伝えるから、私は隊長に伝えてくれとルクト隊長に言われまして」
「同時連絡できたよね?それをやらないってことは……」
「はい。向こうに情報が漏れています。魔法が感知できるものを設置しているようですね。特に、戦闘能力の高いサリア隊長は警戒されてます。その次は、ルクト隊長です」
レアは、めんどくさそうなことになりそうで、ため息をつく。主であるリリアンと同じように、自分もめんどくさがり屋なのだ。
自分の私的な感情は置いておくとして、そうなると厄介だ。あのときの言葉からして、主であるリリアン自体は脅威でないと思われている。サリアたちを警戒するということは、自分たちはそれなりに脅威と思われている。
つまりは、自分たちがいないときを狙う可能性が高い。なるべく主の側にはいるとはいえ、どうしても離れてしまうことはある。モニカという女は自分のことを知っているので目の前に堂々と現れることができるが、ソフィアは知らない。なので、ソフィアと交流しているときは、表立って護衛ができない。
一番安全なのは、領地に行ってもらうことだ。あそこなら、白梟である自分たち以外にも、七影がいる。主を守る肉壁にはなるだろう。
「ご主人の嫌がることはしたくないけど、しかたないよね」
こうして、レアも当主の味方につくことになった。
↓本編
すーすーと寝息をたて始めた主をレアが見つめている。抵抗されたらどうしようかと思っていたが、自分の言ったように、抵抗せずに受け入れてくれたようだった。
レアの魔法は、自分よりも強い魔力を持っている相手には効きにくい。効かないわけではないが、抵抗されたら魔法を弾かれる。主であるリリアンは魔魂の持ち主なので、魔力の強さでは敵わない。
「ご主人は、何者なんかねぇ~……」
後天的に魔魂を持つなんて、聞いたことがなかった。魂は、生まれ持っている物なのだから、魔魂があるということは、元々の魂に魔力が宿ったということになる。
そんなのは、長い時を生きているレアも聞いたことがない。自分のコレクションを探せばあるのかもしれないが、魔魂の主として狙われているのに、離れるわけにはいかない。
第一部隊は主の命令でアリエルとかいう女子生徒を調べているし、第二部隊は旦那様の命令で主を狙った者を探っている。彼は、不器用すぎるだけで、娘を可愛がってはいるのだ。
本当に主の言うように、駒として扱っているのなら、ホーストの次期当主との婚約を仮婚約にするのを認めるわけがない。表向きは公爵家同士の繋がりを深めるための婚約だが、一番は娘が望んだから婚約したというのに。
兄は、正義感が強すぎる。それなりに兄として主を見てはいるのだけど、主の今までの言動のせいで、口調が強くなる。それに売り言葉に買い言葉の精神で言い返したりするから、どんどん関係が悪化するというループだ。
でも、最近の主は、どこか他人事のような感じだ。ソフィアとかいう少女にはそこまででもないが、ほとんどの者に義務感のようなもので接している節がある。
普通は、自分のことを悪く言われたら、何かしら反応は示すものだ。傷ついて泣いたり、負け犬の遠吠えのように嘲笑ったり。でも、主はなんとも思ってないようだった。赤の他人の悪口を聞いているだけのような、自分は当事者なんかじゃないというような。
あの主が、素を見せたことがあっただろうか。オーラが素直なあの主のことだから、嘘をついたことはないだろう。でも、本当のことも、果たして話してくれているのだろうか。
レアからしてみれば、傷つきたくないから、なんとも思ってないという風に思いたいだけにしか見えなかった。
「一言命令してくれば、あの女たちも片づけるのにね」
思い浮かべているのは、パーティーのときに、主のことを卑しいなどとふざけた言動を抜かしていた女たち。
自分勝手に片づけないのは、主が命令していないことと、彼女たちが貴族だからだ。平民ならば、たとえ性格が急変したりしたとしても、そこまで問題になったりはしないが、貴族令嬢となれば話は別だ。
いきなり自分達の娘の性格が変われば、不審に思う者は当然出てくる。それで調べられれば、自分のことがばれてしまう恐れもある。すると、責任を取らされるのは、主であるリリアンだ。それなのに、勝手に行動するわけにはいかなかった。嫌われるのが目に見えている。
命令されても主が危険なことは変わらないが、そうなったら当主の記憶も堂々と変えてやるだけだ。
レアが聞く人が聞けばドン引きするようなことを考えていると、小さくドアの開く音がする。
「ご主人は寝てるけど、無断で入ってくるのはよくないんじゃないかなぁ?アイリス」
「寝ているとわかって入ってきたに決まっているでしょう?隊長」
お互いに、普段なら呼ばない呼び方で呼んでいる。それは、重要な事柄があるということだ。
「それで、わざわざご主人が寝ているときを狙ったんなら、内緒話かな?」
「ええ。……『紅き月』を覚えていますね?」
それを聞いたレアの表情は強ばった。それだけで、レアが覚えていることを伝えるのには充分だった。
「……今は、『青き月』かと思ってたんだけど」
「間違ってはないと思います。サリア隊長からお聞きした構成員には、聞き覚えのあるやつもいましたし」
「それがどうしたのさ」
紅き月だろうが、青き月だろうが、自分たちとは敵対の関係であることは変わらない。その刃は、今は主にも向かっている。名前が違うだけで、根本的には変わらないだろう。
「それでですね、そいつらがこの学園に潜伏しているそうなんですよね。サリア隊長には自分から伝えるから、私は隊長に伝えてくれとルクト隊長に言われまして」
「同時連絡できたよね?それをやらないってことは……」
「はい。向こうに情報が漏れています。魔法が感知できるものを設置しているようですね。特に、戦闘能力の高いサリア隊長は警戒されてます。その次は、ルクト隊長です」
レアは、めんどくさそうなことになりそうで、ため息をつく。主であるリリアンと同じように、自分もめんどくさがり屋なのだ。
自分の私的な感情は置いておくとして、そうなると厄介だ。あのときの言葉からして、主であるリリアン自体は脅威でないと思われている。サリアたちを警戒するということは、自分たちはそれなりに脅威と思われている。
つまりは、自分たちがいないときを狙う可能性が高い。なるべく主の側にはいるとはいえ、どうしても離れてしまうことはある。モニカという女は自分のことを知っているので目の前に堂々と現れることができるが、ソフィアは知らない。なので、ソフィアと交流しているときは、表立って護衛ができない。
一番安全なのは、領地に行ってもらうことだ。あそこなら、白梟である自分たち以外にも、七影がいる。主を守る肉壁にはなるだろう。
「ご主人の嫌がることはしたくないけど、しかたないよね」
こうして、レアも当主の味方につくことになった。
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