22 / 22
学園入学
21 新しい環境
しおりを挟む
会場入りした二人は、真っ先に生徒たちの注目を浴びる。
(緊張で倒れてしまいそうだわ……)
緊張のあまり、動きが固まっているところがあったが、セルネスに迷惑はかけられないという思いでなんとか王子の婚約者という重責をこなしていく。
セルネスはというと、こんなのは慣れているといわんばかりに動じることもしなかった。
(やっぱり、王子殿下は違うんだわ……)
育ちだけでなく、精神面の強さでも圧倒的に負けていたアドリアンネは、少し落ち込んでしまう。
そのままセルネスのエスコートで席につき、入学式が始まった。
(……あれ?この光景、前にもどこかで……)
自分が席に座って壇上を見たとき、アドリアンネは強い既視感に襲われた。
絶対にどこかで見たはずなのに、それがどこだったのか、アドリアンネは思い出せない。
思い出そうとすると、なぜかもやがかかってしまう。
そのことが気になってしまい、クーファの言葉も、教師の言葉も何も頭に入ってこなかった。
アドリアンネが無意識のうちに会場から出たときに、我に返る。
『もう入学式って終わりましたか?』
セルネスの裾を周りに気づかれない程度に軽く引っ張り、紙を見せて尋ねる。
「終わったけど……気づいてなかったの?」
アドリアンネは、少し恥ずかしがりながらこくりと頷く。
『ちょっと考え事をしてまして。すみません』
「いや、謝ることはないけど。それじゃあ、教室に向かおうか」
『同じクラスでしたか?』
アドリアンネがそう紙に書いて聞いてみた。
入学前で聞いたクラス分けでは、アドリアンネとセルネスは違うクラスだった。
それに、少しほっとしながらも、どこかで残念に思っていたのだが、まるで共に行こうとしているセルネスに疑問を感じた。
「うん。同じにしてもらったから」
そう微笑みながら答えるセルネスに、アドリアンネはこれ以上は聞かないほうがいいと本能的に感じ取った。
◇◇◇
セルネスとアドリアンネは特別クラス。
特別クラスは、優秀な成績を修めている者、伯爵以上の上級貴族、強い異能を持っている者が所属する。
アドリアンネも伯爵家であるが、もう長らく異能持ちも輩出しておらず、大して力を持っている家でもないため、普通クラスになるはずだった。
(セルネス殿下は何を言ったのかしら……)
王子の婚約者を普通クラスになんかいれられないとでも言ったのではないか。
そう思わなければ、セルネスが何かよからぬことをしたのではないかと疑心暗鬼になってしまう。
セルネスに手を引かれてアドリアンネが教室へと入ると、一気に騒がしくなった。
「セルネス殿下よ!」
「同じクラスだなんて光栄だわ……!」
「エスコートしているのはもしかして……」
セルネスにエスコートされている女性として、アドリアンネのほうにも注目が集まる。
(やっぱり、セルネス殿下は目立つのね……)
あまり目立ちたくはなかったアドリアンネは、セルネスから離れようとするが、セルネスはさりげなく手を握って離さない。
(えっ?どうして?)
セルネスは、そのまま手を引いて、席まで連れていった。
アドリアンネは、最後までセルネスの行動についていけていなかった。
◇◇◇
登校初日を終え、そろそろ屋敷に帰ろうとアドリアンネが支度をしていると、セルネスの姿が目に入る。
セルネスの周りには、たくさんの人が集まっていた。そのほとんどが女性だった。
(王子という身分も大変なのね……)
目立つのが好きではないアドリアンネも、セルネスの状況に多少同情した。
でも、そんな女性に囲まれているセルネスが、いろんな女性に目を向けているのを見ると、なぜかアドリアンネはもやもやする。
その光景を見ていたくなくて、アドリアンネは席を立とうとすると、アドリアンネの周りにも人が集まってくる。
「あなたがセルネス殿下の婚約者ですの?」
目の前の女子がそう聞いてきて、アドリアンネはこくりと頷く。
「あなたがワーズソウルの真珠と呼ばれているお方ですか。その話に違わずお美しいですわ」
『ありがとうございます』
真珠の話は初耳だったが、褒めてくれていると感じたので、そう書いて見せると、周りがこそこそと話し出す。
だが、その声は大きかったため、アドリアンネの耳にも聞こえていた。
「話せないって噂は本当なのね」
「伯爵家と言っても、末端の末端でしょう?なぜセルネス殿下と……」
その声を聞きながら、それは私も知りたいとアドリアンネは同意してしまう。
アドリアンネも、いまだに根拠のある理由は知らないからだ。異能は公表していないし、末端の末端なのも事実。
今は、セルネスとの仲も良好なので、続けてもいいと思ってはいるものの、最初は申し訳なさが勝っていた。
「アドリアンネ。よかったら、学校を見て回らない?」
いつの間にか近づいてきていたセルネスにさりげなく手を握られて、アドリアンネは少し赤面してしまう。
そして、ゆっくりと頷いた。
◇◇◇
学校を歩いているとき、アドリアンネはセルネスに先ほど気になったことを聞いてみる。
『先ほど、私のことを呼び捨てで呼んでいましたが』
「うん。そっちのほうが牽制できるかなって」
笑顔でそう答えるセルネスに、何を牽制するつもりだったのだろうと首をかしげる。
「これからはそう呼ぼうか。婚約者なのだから問題はないだろうし」
『私の心臓が持たないのでやめてください』
紙で顔を隠しながら、アドリアンネはそう訴えた。
(緊張で倒れてしまいそうだわ……)
緊張のあまり、動きが固まっているところがあったが、セルネスに迷惑はかけられないという思いでなんとか王子の婚約者という重責をこなしていく。
セルネスはというと、こんなのは慣れているといわんばかりに動じることもしなかった。
(やっぱり、王子殿下は違うんだわ……)
育ちだけでなく、精神面の強さでも圧倒的に負けていたアドリアンネは、少し落ち込んでしまう。
そのままセルネスのエスコートで席につき、入学式が始まった。
(……あれ?この光景、前にもどこかで……)
自分が席に座って壇上を見たとき、アドリアンネは強い既視感に襲われた。
絶対にどこかで見たはずなのに、それがどこだったのか、アドリアンネは思い出せない。
思い出そうとすると、なぜかもやがかかってしまう。
そのことが気になってしまい、クーファの言葉も、教師の言葉も何も頭に入ってこなかった。
アドリアンネが無意識のうちに会場から出たときに、我に返る。
『もう入学式って終わりましたか?』
セルネスの裾を周りに気づかれない程度に軽く引っ張り、紙を見せて尋ねる。
「終わったけど……気づいてなかったの?」
アドリアンネは、少し恥ずかしがりながらこくりと頷く。
『ちょっと考え事をしてまして。すみません』
「いや、謝ることはないけど。それじゃあ、教室に向かおうか」
『同じクラスでしたか?』
アドリアンネがそう紙に書いて聞いてみた。
入学前で聞いたクラス分けでは、アドリアンネとセルネスは違うクラスだった。
それに、少しほっとしながらも、どこかで残念に思っていたのだが、まるで共に行こうとしているセルネスに疑問を感じた。
「うん。同じにしてもらったから」
そう微笑みながら答えるセルネスに、アドリアンネはこれ以上は聞かないほうがいいと本能的に感じ取った。
◇◇◇
セルネスとアドリアンネは特別クラス。
特別クラスは、優秀な成績を修めている者、伯爵以上の上級貴族、強い異能を持っている者が所属する。
アドリアンネも伯爵家であるが、もう長らく異能持ちも輩出しておらず、大して力を持っている家でもないため、普通クラスになるはずだった。
(セルネス殿下は何を言ったのかしら……)
王子の婚約者を普通クラスになんかいれられないとでも言ったのではないか。
そう思わなければ、セルネスが何かよからぬことをしたのではないかと疑心暗鬼になってしまう。
セルネスに手を引かれてアドリアンネが教室へと入ると、一気に騒がしくなった。
「セルネス殿下よ!」
「同じクラスだなんて光栄だわ……!」
「エスコートしているのはもしかして……」
セルネスにエスコートされている女性として、アドリアンネのほうにも注目が集まる。
(やっぱり、セルネス殿下は目立つのね……)
あまり目立ちたくはなかったアドリアンネは、セルネスから離れようとするが、セルネスはさりげなく手を握って離さない。
(えっ?どうして?)
セルネスは、そのまま手を引いて、席まで連れていった。
アドリアンネは、最後までセルネスの行動についていけていなかった。
◇◇◇
登校初日を終え、そろそろ屋敷に帰ろうとアドリアンネが支度をしていると、セルネスの姿が目に入る。
セルネスの周りには、たくさんの人が集まっていた。そのほとんどが女性だった。
(王子という身分も大変なのね……)
目立つのが好きではないアドリアンネも、セルネスの状況に多少同情した。
でも、そんな女性に囲まれているセルネスが、いろんな女性に目を向けているのを見ると、なぜかアドリアンネはもやもやする。
その光景を見ていたくなくて、アドリアンネは席を立とうとすると、アドリアンネの周りにも人が集まってくる。
「あなたがセルネス殿下の婚約者ですの?」
目の前の女子がそう聞いてきて、アドリアンネはこくりと頷く。
「あなたがワーズソウルの真珠と呼ばれているお方ですか。その話に違わずお美しいですわ」
『ありがとうございます』
真珠の話は初耳だったが、褒めてくれていると感じたので、そう書いて見せると、周りがこそこそと話し出す。
だが、その声は大きかったため、アドリアンネの耳にも聞こえていた。
「話せないって噂は本当なのね」
「伯爵家と言っても、末端の末端でしょう?なぜセルネス殿下と……」
その声を聞きながら、それは私も知りたいとアドリアンネは同意してしまう。
アドリアンネも、いまだに根拠のある理由は知らないからだ。異能は公表していないし、末端の末端なのも事実。
今は、セルネスとの仲も良好なので、続けてもいいと思ってはいるものの、最初は申し訳なさが勝っていた。
「アドリアンネ。よかったら、学校を見て回らない?」
いつの間にか近づいてきていたセルネスにさりげなく手を握られて、アドリアンネは少し赤面してしまう。
そして、ゆっくりと頷いた。
◇◇◇
学校を歩いているとき、アドリアンネはセルネスに先ほど気になったことを聞いてみる。
『先ほど、私のことを呼び捨てで呼んでいましたが』
「うん。そっちのほうが牽制できるかなって」
笑顔でそう答えるセルネスに、何を牽制するつもりだったのだろうと首をかしげる。
「これからはそう呼ぼうか。婚約者なのだから問題はないだろうし」
『私の心臓が持たないのでやめてください』
紙で顔を隠しながら、アドリアンネはそう訴えた。
6
お気に入りに追加
1,198
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白いです!
続きが気になる!
ありがとうございます!
頑張って更新しますね!