無口令嬢は心眼王子に愛される

りーさん

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幼少期

15 見舞い (セルネス視点)

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 アドリアンネが倒れたと聞いて、セルネスは王宮の一室にいるアドリアンネの元へと向かった。
 ドアをノックしてみるも、返事がない。
 いつもならやらないことだが、心眼で中の様子を見てみると、布団を被って寝転がっている。
 セルネスは、そっとドアを開けると、小さい寝息が聞こえてくる。

「なんだ、寝てたのか」

 そう言うと同時に、少し安堵した。
 ないとは思っていても、もしかしたらと思っていた自分もいたからだ。
 アドリアンネーー第二王子の婚約者の体調不良は、パーティーを続行不可能にするのは十分すぎる理由だった。
 まだ、少し気分が悪くなっただとか、それくらいなら問題ないものの、意識もはっきりしなくなるほどだと、疑われるのが毒。
 そのため、のんきにパーティーなど続けられるはずもない。

(ずっと彼女と共にいたのだから、立食などしていないのはわかりきっていたことだが)

 そもそも、あんなに緊張していて、食べ物が喉を通るわけもない。
 そんな図太い神経をしていないのは、今までの交流でわかりきっていることだった。

(そういえば、彼女は普通の令嬢とは違うくらいに気が弱い気もするな)

 伯爵家は、普通に考えれば上級貴族。
 貴族というものは、位が高くなっていくほどに、気位も高くなっていくものだ。
 クーファの婚約者のミレージュがそのいい例と言えるだろう。
 だが、ミレージュとアドリアンネはあまりにも違いすぎる。
 彼女の心の声の反応が面白いので、ずっと観察していたセルネスにはわかるが、彼女はやけに人目を気にしている。
 名ばかりと言われていようが、伯爵家なのだから、もう少し堂々としていても良い気がするものなのだが、彼女のそれは、まるでいきなり身一つで異国にでも放り出されたかのような雰囲気を醸し出している。
 とにかく周りを気にして、悪い方向に考え、その場から消えてしまいそうなくらいに小さくなっていく。
 それは、人が多ければ多いほど発揮された。

「やはり、あなたは僕の知る令嬢とはかけ離れ過ぎている」

 最初は、他の令嬢と毛色が違うので、興味が引き立てられただけだった。
 でも、今はーー

(意外と僕は、あなたに好意を抱いているのかもしれない)

 それが異性としてなのか、はたまた親愛のようなものなのか、まだセルネスにはわからない。
 ただ言えるのは、アドリアンネを苦しめた要因を突き止めて、そのまま消し去ってしまいたいという思いを強く感じているということだけだった。

「……母上、逃がす気はありませんからね」

 今回の件と直接関係があるかはわからないが、何か間接的には関係がありそうなことを、あの王妃は知っているような気がした。
 一番手っ取り早いのは、あの王妃を問い詰めることだろう。

「すみません。大事な用ができてしまったので、今日は失礼します」

 アドリアンネに微笑みを向けて、セルネスは部屋から出ていった。
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