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幼少期
13 生誕パーティー 3
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セルネスが励ましてくれたお陰で、なんとか落ち着きを取り戻したアドリアンネは、次にクーファの元へと挨拶に向かう。
普通は、パーティーの主役には一番に挨拶に行くべきなのだが、それはその主役が一番位が高いからであり、その主役よりも位が高い存在がいれば、そちらを優先しなければならない。
今回は、国王が参加していた。国王以上に位が高い人間など存在しないので、アドリアンネたちは、最初に国王たちに挨拶をしていた。
クーファの前には、挨拶をしようと多くのペアが並んでいたが、セルネスの存在に気づくと、真っ二つに道を開ける。
(これがセルネス殿下……!)
アドリアンネは、そんなよくわからない感心をしていた。
道が割れたので、セルネスとアドリアンネはそこを通っていく。
二人の姿を見て、周りの令嬢たちが何やら話していたが、アドリアンネはまったく耳に入らなかった。
「なんだ、来てくれたのか、セルネス」
「兄上の生誕パーティーなのですから、当然出席いたしますよ。そんな薄情な弟だと思われていたのなら心外です」
いつものように、ニコニコしながら話しているのに、アドリアンネは、なぜか寒気を感じる。
そして、セルネスの周りに、軽く冷風が吹いているように感じた。
「アドリアンネさま、王城でお会いして以来ですわね」
急に自分に話題を振られたアドリアンネは、慌ててミレージュのほうを向き、にこりと笑みを浮かべる。
本来なら、ここで紙でも取り出して書くべきなのだが、この大勢の人の前で筆話をする勇気が、今のアドリアンネにはなかった。
「以前はあまりお話しできませんでしたし、向こうでお話ししませんか?」
アドリアンネは、セルネスに言われたこともあり、少し迷ったが、公爵令嬢の提案を断れるはずもなく、こくりと頷いた。
「では、クーファさま。セルネスさま。わたくしたちは失礼いたしますわ」
「ああ、行っておいで」
クーファは優しげにミレージュとアドリアンネを見送る。
だが、セルネスの目はどこか冷めていた。
そのセルネスの視線がアドリアンネは気になったが、姿がはっきりしなくなってからは、気にすることもなかった。
◇◇◇
セルネスと別れて、パーティー会場の端に、アドリアンネとミレージュが来る。
こんな端にまで今回の主役とその弟の婚約者たちが来るとは思われていなかったのか、周りがざわめき出した。
「さて、ここなら思う存分話せますわね」
『周りの視線が気になるのですが……』
ニコニコと微笑んでいるミレージュに、アドリアンネは紙にそう書いて見せた。
ミレージュは、その紙を見ると、周りに視線を配る。
そのとたんに、視線は感じなくなった。
「これで大丈夫でしょう」
『どうしてそこまでして……?』
自分で言うのもなんだが、アドリアンネには、特に話して得するような相手ではない。
自分のほうが格下だし、特に何か力を持っているどころか、ギリギリ伯爵家にぶら下がっている名ばかりの上級貴族。
そんな自分と会話したがる存在は、今まで存在しなかった。
「わたくしは、あなたとお話がしたかったの。変に思わないでほしいのだけど、わたくし、あなたと初めて会った気がしないの」
『それは、王城でお会いしているから……』
アドリアンネがそう書くと、ミレージュは静かに首を振る。
「あのときから、初めて会った気がしないのですわ。なぜか、あなたの姿を見たとたんに、心が暖かくなるような気がしましたの」
「不思議でしょう?」と言いながら、ミレージュは笑みを浮かべる。
いつものとは違い、少しぎこちなく見えた。
『私は、よくわかりません。王妃殿下に気になることは聞かれましたが』
「そうですの。王妃殿下が何をお聞きになったかは聞きませんわ。でも、気になりますわね……」
王族との会話は、たとえどんな内容だとしても、他者に公言してはならないとされている。
例外は、アドリアンネの婚約のときのように、当事者がその場におらず、伝言のようなものを頼まれた場合のみだ。
「……アドリアンネさま、あなたも、異能をお持ちなのでは?」
ミレージュのその言葉に、アドリアンネは顔を歪める。それだけで、答えを出したようなものだった。
「お持ちなのですね。話せない病気というのは聞いたことがなくて、もしやとは思っていたのですが……」
アドリアンネは、久しぶりに恐怖を感じた。
ミレージュに気づかれている。もしかしたら、異能が何なのかも話していないだけでわかっているかもしれない。
(いや、ミレージュさまはご存じのはずだわ。だって、あのときーー)
そのとき、アドリアンネを激しい頭痛が襲う。
アドリアンネは顔を歪め、頭を抱えた。
ミレージュは、明らかに様子がおかしいアドリアンネに声をかける。
「アドリアンネさま!アドリアンネさま!どうしましたの!?」
声をかけても、当たり前だが応答はない。
目は明らかに焦点が定まっておらず、過呼吸気味になっていた。
ミレージュは、アドリアンネを壁にもたれかかせて、すぐに侍従を呼ぶ。
「アドリアンネさまに個室の用意を!早く!」
侍従も、ただ事ではないことに気づき、すぐにアドリアンネを抱えて会場の外へと連れていった。
「アドリアンネさま……一体、どうして……」
残されたミレージュは、その後ろ姿を見つめることしかできなかった。
普通は、パーティーの主役には一番に挨拶に行くべきなのだが、それはその主役が一番位が高いからであり、その主役よりも位が高い存在がいれば、そちらを優先しなければならない。
今回は、国王が参加していた。国王以上に位が高い人間など存在しないので、アドリアンネたちは、最初に国王たちに挨拶をしていた。
クーファの前には、挨拶をしようと多くのペアが並んでいたが、セルネスの存在に気づくと、真っ二つに道を開ける。
(これがセルネス殿下……!)
アドリアンネは、そんなよくわからない感心をしていた。
道が割れたので、セルネスとアドリアンネはそこを通っていく。
二人の姿を見て、周りの令嬢たちが何やら話していたが、アドリアンネはまったく耳に入らなかった。
「なんだ、来てくれたのか、セルネス」
「兄上の生誕パーティーなのですから、当然出席いたしますよ。そんな薄情な弟だと思われていたのなら心外です」
いつものように、ニコニコしながら話しているのに、アドリアンネは、なぜか寒気を感じる。
そして、セルネスの周りに、軽く冷風が吹いているように感じた。
「アドリアンネさま、王城でお会いして以来ですわね」
急に自分に話題を振られたアドリアンネは、慌ててミレージュのほうを向き、にこりと笑みを浮かべる。
本来なら、ここで紙でも取り出して書くべきなのだが、この大勢の人の前で筆話をする勇気が、今のアドリアンネにはなかった。
「以前はあまりお話しできませんでしたし、向こうでお話ししませんか?」
アドリアンネは、セルネスに言われたこともあり、少し迷ったが、公爵令嬢の提案を断れるはずもなく、こくりと頷いた。
「では、クーファさま。セルネスさま。わたくしたちは失礼いたしますわ」
「ああ、行っておいで」
クーファは優しげにミレージュとアドリアンネを見送る。
だが、セルネスの目はどこか冷めていた。
そのセルネスの視線がアドリアンネは気になったが、姿がはっきりしなくなってからは、気にすることもなかった。
◇◇◇
セルネスと別れて、パーティー会場の端に、アドリアンネとミレージュが来る。
こんな端にまで今回の主役とその弟の婚約者たちが来るとは思われていなかったのか、周りがざわめき出した。
「さて、ここなら思う存分話せますわね」
『周りの視線が気になるのですが……』
ニコニコと微笑んでいるミレージュに、アドリアンネは紙にそう書いて見せた。
ミレージュは、その紙を見ると、周りに視線を配る。
そのとたんに、視線は感じなくなった。
「これで大丈夫でしょう」
『どうしてそこまでして……?』
自分で言うのもなんだが、アドリアンネには、特に話して得するような相手ではない。
自分のほうが格下だし、特に何か力を持っているどころか、ギリギリ伯爵家にぶら下がっている名ばかりの上級貴族。
そんな自分と会話したがる存在は、今まで存在しなかった。
「わたくしは、あなたとお話がしたかったの。変に思わないでほしいのだけど、わたくし、あなたと初めて会った気がしないの」
『それは、王城でお会いしているから……』
アドリアンネがそう書くと、ミレージュは静かに首を振る。
「あのときから、初めて会った気がしないのですわ。なぜか、あなたの姿を見たとたんに、心が暖かくなるような気がしましたの」
「不思議でしょう?」と言いながら、ミレージュは笑みを浮かべる。
いつものとは違い、少しぎこちなく見えた。
『私は、よくわかりません。王妃殿下に気になることは聞かれましたが』
「そうですの。王妃殿下が何をお聞きになったかは聞きませんわ。でも、気になりますわね……」
王族との会話は、たとえどんな内容だとしても、他者に公言してはならないとされている。
例外は、アドリアンネの婚約のときのように、当事者がその場におらず、伝言のようなものを頼まれた場合のみだ。
「……アドリアンネさま、あなたも、異能をお持ちなのでは?」
ミレージュのその言葉に、アドリアンネは顔を歪める。それだけで、答えを出したようなものだった。
「お持ちなのですね。話せない病気というのは聞いたことがなくて、もしやとは思っていたのですが……」
アドリアンネは、久しぶりに恐怖を感じた。
ミレージュに気づかれている。もしかしたら、異能が何なのかも話していないだけでわかっているかもしれない。
(いや、ミレージュさまはご存じのはずだわ。だって、あのときーー)
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ミレージュは、アドリアンネを壁にもたれかかせて、すぐに侍従を呼ぶ。
「アドリアンネさまに個室の用意を!早く!」
侍従も、ただ事ではないことに気づき、すぐにアドリアンネを抱えて会場の外へと連れていった。
「アドリアンネさま……一体、どうして……」
残されたミレージュは、その後ろ姿を見つめることしかできなかった。
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