無口令嬢は心眼王子に愛される

りーさん

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幼少期

13 生誕パーティー 2 (セルネス視点)

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 会場入りした瞬間、注目がアドリアンネとセルネスに注目が集まる。
 今までこんなに注目が集まったことがないアドリアンネは、緊張で今にも倒れそうなのが、わざわざ心眼を使わなくてもわかった。
 それでも、セルネス殿下に迷惑をかけられないという思いで、なんとか顔には出さないようにしているようだった。

「……アドリアンネ嬢、大丈夫ですか?今から父上たちに挨拶に行きますが……」

 セルネスの質問にも、小さく一回だけ頷くことしかできない。
 セルネスは本気で大丈夫かと思い始めた。
 このままだと、本当に倒れてしまいそうだ。

(陛下に何か粗相をしないかしら。私の家なんてちょっとでも機嫌を損ねたらすぐに取り潰しされるーー)

 そんなことを、声は聞こえないはずなのに、早口で聞こえてくるのを感じた。

(別に父上はそんな暴君ではないんだけどなぁ……)

 腹黒いところもあるし、セルネスの異能を利用しようともしてくるが、気に入らないという理由だけで取り潰しなど行わない。
 そんなことをしていれば、とっくに民たちの不満がたまり、反乱などが起きているだろう。
 いきなり取り潰しされるような無礼というのは、隠し持っている武器を国王に向けるとか、それほどのレベルでなければ、いきなり取り潰しになどならない。

「国王陛下、王妃殿下にご挨拶申し上げます」
「久しぶりね、セルネス。その子があなたの婚約者かしら?」

 王妃は、さりげなくとまでは言わなくても、ほとんど違和感なくアドリアンネに話を振る。
 アドリアンネは、にこりと笑うだけ。特に紙を見せて自己紹介などはしない。
 それは、無礼ではなく正しい対応だ。王妃は今、セルネスに声をかけているのであり、この場合はセルネスが応答するべき。
 アドリアンネは、きちんとマナーを学んでいることがそこでわかった。
 そんな堂々とした姿は、先ほどの様子からは想像できなかった。

(やるときはやるというタイプなのか)

 セルネスは一人納得しながら、アドリアンネを紹介する。

「はい。アドリアンネ・ワーズソウル伯爵令嬢です」
「ワーズソウル……というと、あなたはフィオリアの娘ですか?アドリアンネ嬢」

 王妃の質問に、アドリアンネはこくりと頷く。

「そう……。あの子は元気かしら?」

 アドリアンネは、ゆっくりと頷く。
 それに違和感を感じて、セルネスは心眼を使って、視線を国王たちから反らさずにアドリアンネを視界に入れる。

(なんでそんなことを聞くのかしら?お母さまと王妃殿下はお知り合いみたいだけど……)

 先ほどゆっくりと頷いていたのは、混乱していたのが理由だと気づいた。
 ここで混乱するということは、母から王妃と知り合いということは聞いていなかったようだった。

(まぁ、僕も知らなかったけど) 

 そんなことよりも、王妃がこの場でそんなことを聞いてくるのが意外だった。
 普段ならば、こんな風に談話ともとれるような話題を振ることは滅多にない。

「ごめんなさいね。ちょっと気になっただけだから、もう行っていいわ」

 そう言われてしまったので、セルネスたちはおとなしく立ち去る。

(何も聞くな、ということか……)

 おそらくは、先ほどの言葉は、特に意味があって聞いたわけではなく、思わず口から飛び出してしまった言葉。
 それをセルネスに追求されると、心眼により何もかもばれてしまうと考えて、セルネスをその場から立ち去らせた。
 でも、こんなのは時間稼ぎに過ぎない。セルネスからしてみれば、後で聞いてみればいいだけの話だ。

「ふぅ~………」

 隣で、大きな息を吐く音が聞こえた。
 それは、アドリアンネが緊張から解かれて、思わずついてしまったため息だった。

「これから兄上にも挨拶に行きますので、安心するのはまだ早いかと……」

 セルネスがそう言うと、アドリアンネは再び倒れそうになる。

(彼女は、身分の高い存在が苦手のようだな)

 普通に考えたら、貴族ならよく抱く感情なのだが、セルネスが今まで見てきた令嬢たちは、恐れ多いと言っておきながら、内心はほくそ笑んでいる令嬢ばかりだった。
 でも、アドリアンネは裏表がほとんどない。
 なんとかごまかそうとすることはあるものの、それは醜い感情を隠すためではなく、セルネスに失礼な言動と思われることをしないためのごまかしだった。
 それも、そこそこ顔には出ているので、見る人が見れば嘘をついているのが丸わかりだ。

「私が一緒ですので大丈夫ですよ。そんなに緊張しすぎると、かえって失敗してしまうかもしれません」

 病弱な人みたいになりかけているアドリアンネを、なんとか健康状態に戻すために励ます。
 セルネスの励ましが少しは聞いたのか、倒れそうな雰囲気はなくなった。
 そして、セルネスににこりと微笑みを向ける。

(やはり、彼女は笑顔が一番似合う)

 セルネスも無意識に笑みを浮かべて、クーファの元へと向かった。
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