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幼少期
5 お茶会当日
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新たな家族ができて、なんとか交流を持ちたいとは思いつつも、なかなか実現できずに、とうとうお茶会の日がやってきた。
顔合わせのときはセルネス殿下にお越しいただいたものの、今回はアドリアンネが王城に出向くことになっている。
久しぶりの外出なので、体が弱いのに、母であるフィオリアも外まで見送りに来てくれた。
「ドリー。気をつけなさいね」
『お母さまもお体に気をつけて』
アドリアンネは、少しぎこちなく微笑みながら、そう書いた紙を見せる。
「ええ。いってらっしゃい」
フィオリアは笑顔でアドリアンネに手を振った。
アドリアンネが馬車へと乗り込んだとき、フィオリアの笑顔は消える。
「私が、あんなことをしなければ……あなたは、もっと自然な笑顔をたくさん見せてくれたのかしら……」
そう呟きながら、フィオリアは屋敷の中へと戻っていった。
◇◇◇
アドリアンネは、馬車に揺られている間、ずっと深呼吸を繰り返して、気持ちを落ち着かせていた。
伯爵家と言っても、父親が城勤めなので、他の伯爵家に比べれば、王城との距離は近かった。
(どんな方がいるのかしら……)
あのとき、父は自分の異能を知っているのは陛下だけだと言っていた。
でも、実際はもっとたくさん知っているかもしれない。
もし、そうだとしたら。自分を色眼鏡で見てくるかもしれない。アドリアンネは、それが怖かった。
屋敷の空間が心地よかっただけに、他の場所でそんな扱いを受けてしまったら、外に出るのが怖くなってしまう。
(なるようになるしかないわね)
アドリアンネは、決意を固めて、動きが止まった馬車から降りた。
馬車から降りたときに見えた景色は、美しいという言葉以外が浮かばなかった。
(うわぁ……!)
そんな感嘆な声が、思わず口から漏れ出てしまいそうなくらいには、見る人を惹き付ける。
ただ豪華というわけではない。雑草の一つ一つまで丁寧に手入れされているお陰で、自然の美しさというものが感じられる。
(やはり、王城勤めの人達は能力が高いんだわ……)
ワーズソウルの庭も貴族らしく美しさがあるが、王城と比べたら霞んでしまう。
さっきまで少し怖い気持ちがあったが、その気持ちも薄れていた。
しばらくアドリアンネが庭を鑑賞していると、王城のほうから人がやってくる。
「お待たせして申し訳ありません。アドリアンネ・ワーズソウルさまでしょうか?」
そう尋ねてきた男性に、アドリアンネはこくりと頷く。
息切れしていたので、どうやら走ってきたようだった。
(そんなに急がなくてもよかったのだけど……)
そう思ったものの、特になにか文字に起こすことはしなかった。
「セルネス殿下のところへご案内します」
そう言った男性に、アドリアンネは軽くお辞儀した。
セルネスの元へと向かう道中、アドリアンネは気になったことを聞いてみることにした。
先導している男性の服の裾を引っ張る。
『なぜ遅れたのですか?』
「日時の連絡に手違いがありまして、直前まで日時は明日と失念しておりまして……」
『なぜそのようなことに?』
「職務怠慢な方がいまして……。アドリアンネさまからの手紙の内容を届いた翌日にお伝えしたため、一日ずれてしまったのです」
アドリアンネは、三日後という記載ではなく、きちんと日付けも書いておけばよかったと後悔した。
今回はきれいな庭を見ていたので時間は気にならなかったものの、暇潰しになるようなものがなければ、ずっと待ちぼうけを食らっていたにちがいない。
「その職務怠慢を犯した者は、すでに処分を受けていますので、今後このようなことはないかと思われます」
『そうですか』
アドリアンネは、少し戸惑いながら、いつもより遅くそう書いた。
その人も落ち度があったかもしれないが、自分が日付けも書いておけば、こんな手違いは起こらなかったような気がするから。
「あの東屋にて、殿下がお待ちです。申し訳ありませんが、私はこれから用事があるので、ここで失礼いたします」
アドリアンネは了承の意味を込めて、笑顔で頷く。
そして、セルネス殿下をお待たせするわけにはいかないと、少しだけ駆け足でその場所へと向かった。
「あなたがアドリアンネ・ワーズソウルさまですの?」
後ろから声をかけられて、アドリアンネは足を止める。
そして、くるっと後ろを振り返ると、そこには明らかに貴族のお嬢さまという風貌の少女がいた。
容姿は銀髪に黒目という変わったもの。
この国で銀髪を持つ少女は一人しかいなかった。
アドリアンネは、急いで紙に文字を書く。
『私に何かご用でしょうか?ミレージュ・サウスティールさま』
顔合わせのときはセルネス殿下にお越しいただいたものの、今回はアドリアンネが王城に出向くことになっている。
久しぶりの外出なので、体が弱いのに、母であるフィオリアも外まで見送りに来てくれた。
「ドリー。気をつけなさいね」
『お母さまもお体に気をつけて』
アドリアンネは、少しぎこちなく微笑みながら、そう書いた紙を見せる。
「ええ。いってらっしゃい」
フィオリアは笑顔でアドリアンネに手を振った。
アドリアンネが馬車へと乗り込んだとき、フィオリアの笑顔は消える。
「私が、あんなことをしなければ……あなたは、もっと自然な笑顔をたくさん見せてくれたのかしら……」
そう呟きながら、フィオリアは屋敷の中へと戻っていった。
◇◇◇
アドリアンネは、馬車に揺られている間、ずっと深呼吸を繰り返して、気持ちを落ち着かせていた。
伯爵家と言っても、父親が城勤めなので、他の伯爵家に比べれば、王城との距離は近かった。
(どんな方がいるのかしら……)
あのとき、父は自分の異能を知っているのは陛下だけだと言っていた。
でも、実際はもっとたくさん知っているかもしれない。
もし、そうだとしたら。自分を色眼鏡で見てくるかもしれない。アドリアンネは、それが怖かった。
屋敷の空間が心地よかっただけに、他の場所でそんな扱いを受けてしまったら、外に出るのが怖くなってしまう。
(なるようになるしかないわね)
アドリアンネは、決意を固めて、動きが止まった馬車から降りた。
馬車から降りたときに見えた景色は、美しいという言葉以外が浮かばなかった。
(うわぁ……!)
そんな感嘆な声が、思わず口から漏れ出てしまいそうなくらいには、見る人を惹き付ける。
ただ豪華というわけではない。雑草の一つ一つまで丁寧に手入れされているお陰で、自然の美しさというものが感じられる。
(やはり、王城勤めの人達は能力が高いんだわ……)
ワーズソウルの庭も貴族らしく美しさがあるが、王城と比べたら霞んでしまう。
さっきまで少し怖い気持ちがあったが、その気持ちも薄れていた。
しばらくアドリアンネが庭を鑑賞していると、王城のほうから人がやってくる。
「お待たせして申し訳ありません。アドリアンネ・ワーズソウルさまでしょうか?」
そう尋ねてきた男性に、アドリアンネはこくりと頷く。
息切れしていたので、どうやら走ってきたようだった。
(そんなに急がなくてもよかったのだけど……)
そう思ったものの、特になにか文字に起こすことはしなかった。
「セルネス殿下のところへご案内します」
そう言った男性に、アドリアンネは軽くお辞儀した。
セルネスの元へと向かう道中、アドリアンネは気になったことを聞いてみることにした。
先導している男性の服の裾を引っ張る。
『なぜ遅れたのですか?』
「日時の連絡に手違いがありまして、直前まで日時は明日と失念しておりまして……」
『なぜそのようなことに?』
「職務怠慢な方がいまして……。アドリアンネさまからの手紙の内容を届いた翌日にお伝えしたため、一日ずれてしまったのです」
アドリアンネは、三日後という記載ではなく、きちんと日付けも書いておけばよかったと後悔した。
今回はきれいな庭を見ていたので時間は気にならなかったものの、暇潰しになるようなものがなければ、ずっと待ちぼうけを食らっていたにちがいない。
「その職務怠慢を犯した者は、すでに処分を受けていますので、今後このようなことはないかと思われます」
『そうですか』
アドリアンネは、少し戸惑いながら、いつもより遅くそう書いた。
その人も落ち度があったかもしれないが、自分が日付けも書いておけば、こんな手違いは起こらなかったような気がするから。
「あの東屋にて、殿下がお待ちです。申し訳ありませんが、私はこれから用事があるので、ここで失礼いたします」
アドリアンネは了承の意味を込めて、笑顔で頷く。
そして、セルネス殿下をお待たせするわけにはいかないと、少しだけ駆け足でその場所へと向かった。
「あなたがアドリアンネ・ワーズソウルさまですの?」
後ろから声をかけられて、アドリアンネは足を止める。
そして、くるっと後ろを振り返ると、そこには明らかに貴族のお嬢さまという風貌の少女がいた。
容姿は銀髪に黒目という変わったもの。
この国で銀髪を持つ少女は一人しかいなかった。
アドリアンネは、急いで紙に文字を書く。
『私に何かご用でしょうか?ミレージュ・サウスティールさま』
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