冷宮の人形姫

りーさん

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第二章 愛される末っ子姫

第13話 末っ子姫の眠る間に

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 フィレンティアが昏睡状態でフェレスに抱えられて連れてこられたので、フィレンティアを探していたアマリリスも、フィレンティアがいなくなったと聞いていたフローラル、ローランド、ハリナ、セリアもどういうことだとフェレスに詰め寄った。
 フェレスは、サラマンティールのことは伏せて魔力暴走を起こしたことを説明した。
 サラマンティールのことを話せば、この妹バカと皇女バカは殺りに行くなどと言いかねない。さすがにそんなことになればこの帝国が被害を被る。
 別に国が滅んでも、この国に思い入れが強くあるわけではないからかまわないのだが、しわ寄せが来るのは困る。
 魔力暴走が起こったのはなぜかとも聞かれたが、それは分からないと返しておいた。本当に分からないからだ。自分は、あくまでも魔力暴走するフィレンティアの側にサラマンティールが立っていたのを見ただけで、どうして魔力が暴走したのかはまるで分からない。
 ちなみに、今回の件ではなんとか首は繋がったままだ。特に、カイラード辺りに首を切られるかと思ったのだが、カイラードはフェレスに通常の五倍の仕事量を課すだけで許した。
 怠け者のフェレスにとってはそれでも致命傷だが。
 そして、今はフェレスがフィレンティアの側にいる。容態が急変したときに魔法に長けた存在がいなければ危険という理由だ。
 自分が眠らせる魔法をかけたからとはいえ、気持ち良さそうにすやすやと眠っている。
 フェレスはベッドの脇に頬杖をついてフィレンティアを観察していた。
 やはり、違和感を感じる。
 精神が大人のようだなとは以前から感じていたが、今ははっきりと感じ取れる。それどころか、どこか異質なものも感じる。
 まるで、何か余計なものが入り込んでいるかのように。でも、そんなものは見当たらない。

「自分たちが帰ってくるまでに原因を究明して治せって、無茶振りが過ぎるよなぁ……」

 フェレスが、ある事情からしばらく泉の守護をしなければならないからフィレンティアを治せないとばか正直に言ったところ、泉は自分たちがなんとかするから、帰ってくるまでに治せと命じられた。
 カイラードは執務があるので皇宮に留まっているものの、レイクス、フローラル、アマリリス、ローランド、ベルフォードが泉の見回りに行ってしまった。
 そんなに皇族が出かけていて大丈夫なのかと思われるかもしれないが、全員が普通に十人の刺客を息を切らさずに相手できるくらいの強さを兼ね備えているので、もはや護衛がいらないレベルだった。
 皇族に何かあってはならないから、足にしがみついてでもついていっただろうが。

「まだ終わらないんですか?」
「あのねぇ~。いつもの魔力暴走と系統がちがうんだよ!簡単には抑えられないの!」

 前までは、精霊など外部からの干渉によって起こることが多かったが、今は自分の意思……と言ってはおかしいかもしれないが、自分の感情の暴走により起こしている。
 それは、まずはその感情を取り除かないことには無理だ。
 以前、魔力切れを起こしたときは、まだ魔法が強く残っていたので、すぐにその原因となる感情も静まっていたが、今は違う。
 見ればわかる。感情を封じていた魔法が跡形もなくなくなっている。これなら、感情を理解できるかもしれない。
 だが、理解できるかと表に出せるかは話が別だ。表に出したくないと思ったからこそ魔法で封じたのであって、今は違うという保証はどこにもない。

「皇女様が普通に感情を出して、人間らしくなったら……貴族どもはどう思うんだか」

 言ってしまえば、人形だからあまり干渉してこなかったと言っても過言ではない。
 帝位継承権はあるものの、あの様子では、どう考えても皇帝にはなれないし、政略結婚もできそうになかった。
 だからといって、危険分子というわけでもなく、ただそこで息をしているだけの幼い皇女という価値観だっただろう。
 誰だって、人形に過度な敵対心は向けない。だが、それが人ならどうか?人だけではなく、強い魔力を持った子どもなら。
 貴族たちはすぐに目をつけるに違いない。あの悪妃の娘なのだから、当然相応の魔力を持っているに違いないと考え、今のうちに自分たちの思考に染めようと。
 下手をすれば、フェリクスを皇太子の座から引きずり下ろさせようとくらいはするかもしれない。
 それを恐れて、フィレンティアを狙っているのが第一皇妃の母国なわけなのだから。

「権力争いとかよくやるよね~。ハリナもそう思わない?」
「確かにくだらないとは思いますが、権力トップの公爵であるあなたが言ってもあまり説得力はありませんね」

 フェレスがフィレンティアを放置しないために監視しているハリナに声をかける。
 それでも、こんな冷たい対応しかしてこない。
 別に仲良くお話ししたいわけではないが、自分は本家なのだからもう少し態度を直してもいいのではないかと思ってしまう。

「ですが、ほとんどの駄犬は躾を行いましたが……」
「ほんと?皇女様に最初に刺客を送ったやつ、捕まえてないでしょ」
「相手が四大公爵家の一角ですからね……。刺客の証言だけでは動けません。刺客がレイドリアに罪を着せようとしている可能性もゼロではありませんからね」
「そうだね。本当にレイドリアならこんなお粗末なことはしないよ」

 レイドリアは、現在、公爵家の中で家の力が一番弱い。
 裏では、オマケの公爵家だとか、レイドリアを抜いて三大公爵家などと呼ばれる有り様だ。 そんなレイドリアも、実力では敵わないことを知ってか、自分たちの望む居場所を手に入れるために、裏で模索している。だが、証拠がない。
 公爵家を証拠もなしに断罪はできない。
 そこが貴族社会のめんどくさいところだ。
 もちろん、皇帝なら罪の一つや二つでっち上げて処罰もできる。やれるならそうしているだろう。だが、それもできない。
 レイドリアは貴族では評判が悪くても、平民とは交遊関係が多く、好意的に見ているものが多い。適当な理由で処罰してしまうと、平民から反発を買う恐れもある。
 今の皇帝や皇子たちなら力でねじ伏せられるだろうが、それこそレイドリアが望んでいることでもある。
 レイドリアが望んでいるのは、アベリナ皇族を皇族から引きずり下ろすことだからだ。もちろん、今の公爵が絶対にそうだとは限らない。だが、歴代の公爵家は時折反乱を企てていた。
 実行される前に突き止めて処罰したので、まだ公爵家にぶら下がっているというだけだ。名ばかりの公爵家となっている。
 公爵家が格下げにならないのは、皇族が自分に仇なす存在には容赦しないものの、それ以外はどうでもいいと思っていることも原因かもしれないが。
 自分を狙っているものさえ消せてしまえばそれで満足なのである。それ以上はやろうとは思わない。興味がないからだ。
 反乱を企てるなら消去する。それだけの理念で行動しているに過ぎない。

「もうちょっと危機感を持ってくれてもいいと思うのに」
「レイドリアがお嫌いですか?」
「あいつを好きっていう貴族いるかなぁ?いるんならそれこそ反逆仲間だって」
「……まぁ、そうかもしれませんが」

 反逆を起こされると、困るのは皇族だけではない。貴族たちもそうだ。
 反逆を起こした人間が君主となり、自分の立場が脅かされるかもしれないからだ。
 少なくとも、今の一族が王として君臨し続け、自分たちが過ちを犯さなければ、そのまま自分たちの地位も未来永劫続いていくのだから。
 だからこそ、反逆が起きれば、貴族たちも阻止する。
 反逆を起こしかねないレイドリアを好む存在はまずいないだろう。いるとするならば、反逆後も安定した地位が約束されている存在。つまりは、協力者くらいではないだろうか。

「まぁ、レイドリアなら、もう少しうまい手を使ってくるよ。代を重ねるごとに、あいつらもずる賢くなってるからね」
「そうですね。どちらかと言えば、奴らの方が誰かに罪を擦り付けそうです」
「もう擦り付けられているのがいたりしてね」

 笑いごとではないが、フェレスは少し笑ってしまった。声は出さず、笑みだけを浮かべて。

「あなたのそういう予感ほど当たるんですよね~……。何も話さないでくれません?」
「じゃあ、皇女様に異変が起きても何も話さないけど、それでいいの?」
「それとこれとは話が別です」
「話すなって言ったのはそっちだよ?」
「ああ言えばこう言うんですから……」

 ハリナが今にも殴りかかってきそうなので、フェレスはからかうのはこれくらいにしておいた。
 普段はぞんざいに扱われているが、意外とこのはとこと接する時間は楽しくて仕方ないのだ。
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