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第一章 虐げられた姫
第56話 話したい思い
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「お師匠様帰ってきたんだ~!」
「あぁ、すぐにハリナに連れ出されたが」
ここにローランド兄様が来たのは何度目だろうか。
私は、いまだにシトリン宮には戻っていない。まだ危険があるからだそうだ。
「お前の方はどうした?終わったのか?」
「さてね……あいつら次第かなぁ?」
ローランド兄様とフェリクス兄様は時々何の話をしているのか分からなくなる。
会話している本人達が分かっているのだから、全然問題はないだろうけど。
「そういえば、まだ個別交流してないのって誰がいるっけ?」
「トリリウムとレイクスだな」
トリリウムは聞いた覚えがある。でも、レイクスって誰だろう。
「トリー姉様と……レイ兄様かぁ……レイ兄様はなぁ……」
ローランド兄様が何か言葉を濁す。そんなに口ごもるような人なのかな。
「別にそんなに悪い奴ではないだろう。少し兄弟愛が過ぎているだけだ」
兄弟愛?ということはいわゆる……シスコンとかブラコンってやつかな。
いつか会えば分かるかな。とりあえず、寝よう。
* * *
その翌日。服を着替えて、フェリクスが身支度を整える。
「今日は公務を片づけないといけないから、しばらく留守にする。勝手に部屋を出るなよ」
フェリクスの言葉に、フィレンティアはうなずいた。
「皇女殿下。ご無沙汰しております」
フィレンティアが声がした方に視線を向けると、そこにはセリアが立っている。
セリアのご無沙汰しておりますで、そういえばしばらく会っていなかったことを思い出した。
「最近いろいろと立て込んでおりまして……今日から私は皇女殿下のお側に戻りますから、よろしくお願いしますね」
「あれ?ハリナはいないのか。まだ仕事中?」
セリアが声がした方に反射的にナイフを向けようとしたが、相手に気づき、慌てて礼をする。
「申し訳ございません。お見えだったのに気がつかず……」
「癖で気配を消してきたこちらが悪いから、気にしなくていい。それで、その子が第四皇女?」
「はい。フィレンティア・イトルト・アベリニア第四皇女殿下です」
青年が、フィレンティアの方に近づく。フィレンティアは、顔をあげて顔を確認した。
見覚えがない顔。覚えていないだけかもしれないが、見た事はないと思う。
「俺はレイクス・フォルト・アベリニア。アベリナ帝国の第二皇子で、君の兄だ」
そう言いながら、フィレンティアを持ち上げた。
(この人が二人の話していた……)
兄弟愛が過ぎているとか言われていた事を思い出した。
「にしても、小さいなぁ……これが普通なのか?」
「いえ……皇女殿下はあまりお召し上がりにならないので……」
「ここの料理は口には合わないか?」
フィレンティアは、首を横に振る。味覚はほとんどないようなものなのに、まずいも何もない。ただ、今までろくに食べていなかったので、食の通りが悪いだけだ。
フィレンティアの食事量は、少しずつ増えている。
「そうか……合わないなら全員クビにしようかとも思ったが……」
(さすがにやりすぎのような……)
わざとまずいものを食べているとかだったら、セリアだって容赦はしない。だが、提供されている食事に毒が混ざっているなどの事はない。なので、なにもしない。だが、レイクスは疑いだけで消そうとする。そのため、兄弟愛が過ぎていると言われている。
(これは、フィレンティア皇女殿下とローランド皇子殿下が狙われた事は言わない方がいいですね……)
言おうものなら、間違いなく皇宮に仕えている騎士達を全員処分するだろう。それが分かっているからこそ、そういう事はレイクスの耳に入らないように気をつけている。
「そういえば、話せなくなったんだったか?」
「はい。フェレス様の話では、一生話さないかもしれないと……」
「……なんであいつが投げ出すんだ?普通はなんとか模索するものだろう。父上が甘いから調子に乗っているようだな。やはり罰の一つでも与えた方が……」
フィレンティアをおろして、フェレスの元に向かおうとする。その時、レイクスの服が何者かに掴まれた。
「……フィレンティア?」
(……?)
フィレンティアは、訳が分からないといった顔で服を掴んだ手を見た。
服を掴んだのは、完全に無意識だった。でも、フェレスに何もしてほしくない。瞬時にそう思ったのであろう事は、フィレンティアにも分かった。
「何か用があるのか?俺はフェレスの所に行かないと……」
ローランドなら、掴んだだけで察してくれただろうが、レイクスはあまり勘が良いほどではない。
フィレンティアはもう一度服を掴んで、首を横に振る。
「フェレス様に罰を与えてほしくないのではないでしょうか?」
「……そうなのか?それならやらないが……」
セリアが自分の思いを代弁してくれた。レイクスは、セリアの言葉に少し疑いながらも納得して、フェレスの元に向かうのは止めた。
(話せたら……すぐに伝わったのかな)
もし、熱いのを我慢して話したなら、すぐに伝わったかもしれない。そう思えて仕方なかった。
(話してみる?)
話そうとすると、胸が少しヒリヒリして、熱い。
(人形に、言葉はいらないって事なのかな)
でも、熱さが気持ち少なく感じたような気がした。
「さて、俺は騎士団のところにでも行くか」
「鍛練するのですか?」
「いや、話す事があるだけ」
不適な笑みを浮かべながら、レイクスは部屋から出ていった。
それを、フィレンティアはただ見つめていた。
「あぁ、すぐにハリナに連れ出されたが」
ここにローランド兄様が来たのは何度目だろうか。
私は、いまだにシトリン宮には戻っていない。まだ危険があるからだそうだ。
「お前の方はどうした?終わったのか?」
「さてね……あいつら次第かなぁ?」
ローランド兄様とフェリクス兄様は時々何の話をしているのか分からなくなる。
会話している本人達が分かっているのだから、全然問題はないだろうけど。
「そういえば、まだ個別交流してないのって誰がいるっけ?」
「トリリウムとレイクスだな」
トリリウムは聞いた覚えがある。でも、レイクスって誰だろう。
「トリー姉様と……レイ兄様かぁ……レイ兄様はなぁ……」
ローランド兄様が何か言葉を濁す。そんなに口ごもるような人なのかな。
「別にそんなに悪い奴ではないだろう。少し兄弟愛が過ぎているだけだ」
兄弟愛?ということはいわゆる……シスコンとかブラコンってやつかな。
いつか会えば分かるかな。とりあえず、寝よう。
* * *
その翌日。服を着替えて、フェリクスが身支度を整える。
「今日は公務を片づけないといけないから、しばらく留守にする。勝手に部屋を出るなよ」
フェリクスの言葉に、フィレンティアはうなずいた。
「皇女殿下。ご無沙汰しております」
フィレンティアが声がした方に視線を向けると、そこにはセリアが立っている。
セリアのご無沙汰しておりますで、そういえばしばらく会っていなかったことを思い出した。
「最近いろいろと立て込んでおりまして……今日から私は皇女殿下のお側に戻りますから、よろしくお願いしますね」
「あれ?ハリナはいないのか。まだ仕事中?」
セリアが声がした方に反射的にナイフを向けようとしたが、相手に気づき、慌てて礼をする。
「申し訳ございません。お見えだったのに気がつかず……」
「癖で気配を消してきたこちらが悪いから、気にしなくていい。それで、その子が第四皇女?」
「はい。フィレンティア・イトルト・アベリニア第四皇女殿下です」
青年が、フィレンティアの方に近づく。フィレンティアは、顔をあげて顔を確認した。
見覚えがない顔。覚えていないだけかもしれないが、見た事はないと思う。
「俺はレイクス・フォルト・アベリニア。アベリナ帝国の第二皇子で、君の兄だ」
そう言いながら、フィレンティアを持ち上げた。
(この人が二人の話していた……)
兄弟愛が過ぎているとか言われていた事を思い出した。
「にしても、小さいなぁ……これが普通なのか?」
「いえ……皇女殿下はあまりお召し上がりにならないので……」
「ここの料理は口には合わないか?」
フィレンティアは、首を横に振る。味覚はほとんどないようなものなのに、まずいも何もない。ただ、今までろくに食べていなかったので、食の通りが悪いだけだ。
フィレンティアの食事量は、少しずつ増えている。
「そうか……合わないなら全員クビにしようかとも思ったが……」
(さすがにやりすぎのような……)
わざとまずいものを食べているとかだったら、セリアだって容赦はしない。だが、提供されている食事に毒が混ざっているなどの事はない。なので、なにもしない。だが、レイクスは疑いだけで消そうとする。そのため、兄弟愛が過ぎていると言われている。
(これは、フィレンティア皇女殿下とローランド皇子殿下が狙われた事は言わない方がいいですね……)
言おうものなら、間違いなく皇宮に仕えている騎士達を全員処分するだろう。それが分かっているからこそ、そういう事はレイクスの耳に入らないように気をつけている。
「そういえば、話せなくなったんだったか?」
「はい。フェレス様の話では、一生話さないかもしれないと……」
「……なんであいつが投げ出すんだ?普通はなんとか模索するものだろう。父上が甘いから調子に乗っているようだな。やはり罰の一つでも与えた方が……」
フィレンティアをおろして、フェレスの元に向かおうとする。その時、レイクスの服が何者かに掴まれた。
「……フィレンティア?」
(……?)
フィレンティアは、訳が分からないといった顔で服を掴んだ手を見た。
服を掴んだのは、完全に無意識だった。でも、フェレスに何もしてほしくない。瞬時にそう思ったのであろう事は、フィレンティアにも分かった。
「何か用があるのか?俺はフェレスの所に行かないと……」
ローランドなら、掴んだだけで察してくれただろうが、レイクスはあまり勘が良いほどではない。
フィレンティアはもう一度服を掴んで、首を横に振る。
「フェレス様に罰を与えてほしくないのではないでしょうか?」
「……そうなのか?それならやらないが……」
セリアが自分の思いを代弁してくれた。レイクスは、セリアの言葉に少し疑いながらも納得して、フェレスの元に向かうのは止めた。
(話せたら……すぐに伝わったのかな)
もし、熱いのを我慢して話したなら、すぐに伝わったかもしれない。そう思えて仕方なかった。
(話してみる?)
話そうとすると、胸が少しヒリヒリして、熱い。
(人形に、言葉はいらないって事なのかな)
でも、熱さが気持ち少なく感じたような気がした。
「さて、俺は騎士団のところにでも行くか」
「鍛練するのですか?」
「いや、話す事があるだけ」
不適な笑みを浮かべながら、レイクスは部屋から出ていった。
それを、フィレンティアはただ見つめていた。
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