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第一章 虐げられた姫
第48話 月明かりの塔で 1
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時間は戻り、フェリクスにフィレンティアを預けた直後。ローランドは空中で狙ってきた者がいた場所に来ていた。
そこには、何も見当たらない。
「さすがにもう回収されてるか」
それならとそういう者達が送られる場所の方に向かった。
* * *
一方で騎士達は、目の前にいる存在に違和感を覚えた。その人は、ここの侍女の格好はしているものの、明らかに刺客らしき者を連れていたからだ。
「……なぜここに?」
「害獣を連れてきました。入りますね」
中に入っていいかも聞かずに入ろうとする人物を、騎士達は止めた。
「ここに立ち入るには許可が……」
「影の副長である私に立ち入ってはならない場所があるとでも?少なくとも、皇族の居住地区画でなければ私は自由に出入りする許可を陛下からもらっています。通りますよ」
淡々と自分は許可を得ていることを説明して、再び入ろうとする。今度は止められなかったが、掴んでいる者が意識を取り戻し、少し抵抗し出した。
「おい、離せ!」
「お静かに願います」
首に衝撃を与えて、気絶させた。
「入りますね」
気絶した人物の襟を掴んで中に入っていった。
「副長って言ってたよな……」
「じゃあ、あれが噂の『氷の──』」
そこまで言ったところで、後ろからナイフが飛んでくる。そのナイフは肌に触れるか触れないかを通りすぎた。
「私、その名は好きではありませんので。次に私がいるところでそのようなことを言えば、刺しますから」
「は、はい……」
────ガキン。
一人の騎士が返事した瞬間、かすかに金属が何かにぶつかったような音が聞こえる。セリアはその音に気づき後ろを見るが、騎士達は気づいていないようだった。
(何だったのかしら、あの音)
返事には何も言わずに、そう思いながら部屋の暗闇に消えていった。
「こえーよ、影の副長」
完全に姿が見えなくなったところで、騎士の一人がボソッと呟いた。それに少し幼い声で返事がある。
「いつにも増して機嫌が悪そうだね、あれ。でも、もう少し注意してほしいよ。ナイフが僕に刺さるところだった」
「それは危な…かっ……た……」
声がする方を見ると、一人の男の子がいる。その右手には、先ほど投げられたナイフが握られている。
「久しぶりかな?それとも初めましてだっけ?」
「お、お初にお目にかかります……」
「いかがいたしましたか、ローランド皇子殿下」
「塔に用があるから」
そう言って目の前にある建物を指差す。ここは、刺客や、貴族の犯罪者を入れておく場所。通称、月明かりの塔。
ここにかけられている魔法や、建物の位置などの関係で、日は当たらず、月の明かりだけが当たるためだ。
ローランドはその月明かりの塔の中に入っていく。
「ここは初めてだな」
初めてでも、構造は知っているので、自分の目的の人物がいる場所を探る。
(刺客はあっちだったかな……)
そう考えながら奥の方に進んでいく。塔は入れられる人物が誰なのかによってだいたいの場所が決まっている。入り口に近いほど悪事が軽く、身分が高い。逆に、遠いほど重い悪事か、身分が低い。
そして階段をくだったり廊下を歩いていることおよそ10分。目的の場所に近づくと、そこには先客がいた。地下なので、そこまではっきりとは見えないが、誰なのかはなんとなく分かった。
「セリアもここにいたんだね。ナイフが飛んできたからそうだとは思ったけど」
「それは申し訳ありません。お怪我は……」
「安心して。飛んできた瞬間、結界を張ったから」
あのときの何かにぶつかったような金属音はセリアのナイフがローランドの結界にぶつかった音だった。
ローランドはここに向かう途中でナイフが飛んできて、瞬時に結界を張っていた。そして、ぶつかったナイフを見たら、影がよく使っていたのと、騎士が言っていた副長という言葉で分かった。
「それでさ、それ?ティアを狙った不届き者」
「そうですね。皇子殿下を狙った方は逃がしましたが」
「別にいいよ。こっちを逃がしてたら許さなかったけど」
自分の命が狙われたとしても何とも思わない。それは、自分の命が大切なものではないからだ。皇族は、自らも駒として考える節がある。人間は死を恐れるというが、彼らはまったく恐れない。
「それは危なかったですね。実験台は勘弁です」
「セリアにはやらないよ。……あっちにはやるかもしれないけど……」
そう言いながら天井を見上げた。
「……墓石を二つほど買っておいた方がよろしいですね」
「いや、百はいるかな。……あいつらだけですませるつもりないし」
「承知いたしました」
「セリア」
ローランドとセリアが少し物騒な会話をしているところに、話しかけてくる人物がいた。
「ハリナ、どうしたの?」
「仕事よ。身の程知らずの駄犬を探し出すわよ」
「総動員ですか。承知しました、隊長」
“影”として動かされることを察知し、タメ口とハリナという名前呼びから敬語と隊長という呼び方に変えた。
「ローランド皇子殿下、失礼します」
「うん、そっちは任せたよ」
ローランドの言葉を聞いてセリアはハリナの後についていった。
「さて……僕はこっちを頑張るかな」
そこには、何も見当たらない。
「さすがにもう回収されてるか」
それならとそういう者達が送られる場所の方に向かった。
* * *
一方で騎士達は、目の前にいる存在に違和感を覚えた。その人は、ここの侍女の格好はしているものの、明らかに刺客らしき者を連れていたからだ。
「……なぜここに?」
「害獣を連れてきました。入りますね」
中に入っていいかも聞かずに入ろうとする人物を、騎士達は止めた。
「ここに立ち入るには許可が……」
「影の副長である私に立ち入ってはならない場所があるとでも?少なくとも、皇族の居住地区画でなければ私は自由に出入りする許可を陛下からもらっています。通りますよ」
淡々と自分は許可を得ていることを説明して、再び入ろうとする。今度は止められなかったが、掴んでいる者が意識を取り戻し、少し抵抗し出した。
「おい、離せ!」
「お静かに願います」
首に衝撃を与えて、気絶させた。
「入りますね」
気絶した人物の襟を掴んで中に入っていった。
「副長って言ってたよな……」
「じゃあ、あれが噂の『氷の──』」
そこまで言ったところで、後ろからナイフが飛んでくる。そのナイフは肌に触れるか触れないかを通りすぎた。
「私、その名は好きではありませんので。次に私がいるところでそのようなことを言えば、刺しますから」
「は、はい……」
────ガキン。
一人の騎士が返事した瞬間、かすかに金属が何かにぶつかったような音が聞こえる。セリアはその音に気づき後ろを見るが、騎士達は気づいていないようだった。
(何だったのかしら、あの音)
返事には何も言わずに、そう思いながら部屋の暗闇に消えていった。
「こえーよ、影の副長」
完全に姿が見えなくなったところで、騎士の一人がボソッと呟いた。それに少し幼い声で返事がある。
「いつにも増して機嫌が悪そうだね、あれ。でも、もう少し注意してほしいよ。ナイフが僕に刺さるところだった」
「それは危な…かっ……た……」
声がする方を見ると、一人の男の子がいる。その右手には、先ほど投げられたナイフが握られている。
「久しぶりかな?それとも初めましてだっけ?」
「お、お初にお目にかかります……」
「いかがいたしましたか、ローランド皇子殿下」
「塔に用があるから」
そう言って目の前にある建物を指差す。ここは、刺客や、貴族の犯罪者を入れておく場所。通称、月明かりの塔。
ここにかけられている魔法や、建物の位置などの関係で、日は当たらず、月の明かりだけが当たるためだ。
ローランドはその月明かりの塔の中に入っていく。
「ここは初めてだな」
初めてでも、構造は知っているので、自分の目的の人物がいる場所を探る。
(刺客はあっちだったかな……)
そう考えながら奥の方に進んでいく。塔は入れられる人物が誰なのかによってだいたいの場所が決まっている。入り口に近いほど悪事が軽く、身分が高い。逆に、遠いほど重い悪事か、身分が低い。
そして階段をくだったり廊下を歩いていることおよそ10分。目的の場所に近づくと、そこには先客がいた。地下なので、そこまではっきりとは見えないが、誰なのかはなんとなく分かった。
「セリアもここにいたんだね。ナイフが飛んできたからそうだとは思ったけど」
「それは申し訳ありません。お怪我は……」
「安心して。飛んできた瞬間、結界を張ったから」
あのときの何かにぶつかったような金属音はセリアのナイフがローランドの結界にぶつかった音だった。
ローランドはここに向かう途中でナイフが飛んできて、瞬時に結界を張っていた。そして、ぶつかったナイフを見たら、影がよく使っていたのと、騎士が言っていた副長という言葉で分かった。
「それでさ、それ?ティアを狙った不届き者」
「そうですね。皇子殿下を狙った方は逃がしましたが」
「別にいいよ。こっちを逃がしてたら許さなかったけど」
自分の命が狙われたとしても何とも思わない。それは、自分の命が大切なものではないからだ。皇族は、自らも駒として考える節がある。人間は死を恐れるというが、彼らはまったく恐れない。
「それは危なかったですね。実験台は勘弁です」
「セリアにはやらないよ。……あっちにはやるかもしれないけど……」
そう言いながら天井を見上げた。
「……墓石を二つほど買っておいた方がよろしいですね」
「いや、百はいるかな。……あいつらだけですませるつもりないし」
「承知いたしました」
「セリア」
ローランドとセリアが少し物騒な会話をしているところに、話しかけてくる人物がいた。
「ハリナ、どうしたの?」
「仕事よ。身の程知らずの駄犬を探し出すわよ」
「総動員ですか。承知しました、隊長」
“影”として動かされることを察知し、タメ口とハリナという名前呼びから敬語と隊長という呼び方に変えた。
「ローランド皇子殿下、失礼します」
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ローランドの言葉を聞いてセリアはハリナの後についていった。
「さて……僕はこっちを頑張るかな」
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