冷宮の人形姫

りーさん

文字の大きさ
上 下
47 / 75
第一章 虐げられた姫

第47話 本当の理由

しおりを挟む
「ふわぁ……眠い」

 布団の上でうつらうつらとしながらそう呟いた。それに柵の向こう側にいる奴が提案してくる。

「寝ればいいじゃないか」
「目の前にいる変態に襲われそうだからね」

 もう二週間以上、下手したら三週間は経ってるだろう。慣れというのは恐ろしいもので、同じ空気を吸うのも嫌だった存在が、こういう何かしきりがあるなら全然平気になった。

「そんなことはしないぞ?魔力を探るくらいだ。お前の体には何の興味もない」

 前言撤回。まだまだ安心できないや。魔力を探るには自分の魔力を相手に注がないといけない。そんなことは誰にもさせたくない。少なくとも、絶対にこいつだけにはやらせない。

 ここも、もう貴族が入る牢みたいな内装になっている。ベッドは平民が使うのに比べたらフカフカだし、床には絨毯が敷いてある。本などの時間潰しの道具も置いてある状況だ。それに、なぜか僕の部屋と構造も内装も似ている気がする。

 そう、本当に気がついたらこうなっていた。深くは考えない。多分奴がやったんだろうけど考えない。

 ともかく、そのおかげで、奴がいなければ第二の快適空間になっている。なんか、柵の向こうで文句言っている奴もいたけど、そいつらもしばらくしたら何も言わなくなった。いや、言わされなくなっていたの方が正しいか。

「そういえば、何か動きはないの?」
「大きな動きはない」
「小さな動きならあるんだ」

 僕がそう指摘すると、はぁとため息をついた。話したくないならそれはそれで構わないんだけど。

「お前にはほとんど関係ないことだ」
「どんな?」
「貴族どもの権力争いが活発になってきたな。特にお前のことで」

 僕が話題の中心にあるような気がするんだけど。というか、なんで貴族達が口出しするんだ?こういうのは王が舵をとるものだろう。

「……王はなんて?」
「それがな、コロコロ意見が変わるんだ。最初は殺せの一点張りだったくせに、利用価値があるから生かしてみるかって言い出して、やっぱり信用できん、だが失くすのは惜しい……って感じでな」

 王がそんな優柔不断で、改めて大丈夫なのこの国。王がそんなだから貴族達が好き勝手やってるのかもしれないけど。

「じゃあ、もう一個聞きたいんだけど」
「なんだ?」
「帝国を攻める本当の理由・・・・・を聞かせてくれない?」

 というかそもそも、隣国がこっちに来る理由もよく分からない。土地が貧しいのは知っている。だから、奪おうとするのも。だが、冷酷と言われていても、カイルは言ってくれれば食料支援するような奴だ。

 向こうが交渉で来るなら交渉で相手するし、武力行使で来るなら武力で返す。それがあいつだ。それを他の小国は分かっている。だから、大抵は交渉する。失敗したところで、武力ほどの被害はないからだ。

 本当に隣国はただのバカの集まりなのか、他に何か狙いがあるのか……

「魔法バカかと思ってたら、意外と賢いんだな」
「君もそんな頭なのによく要職に就けるよね」

 あと誰が魔法バカだよ。どちらかと言えば、ローランドみたいな奴だろ、魔法バカは。

「端的に言うと、お前の国の魔法使い……それが本当の狙いだ」
「……何か企んでるみたいだね」

 この帝国が軍事大国になれた理由の一つに、魔法使いの質の良さがあげられる。教育の質の高さもあるが、元々の先天的な才能が他の国に生まれる者よりも高い。

 教育の面で言えば、まず、魔法を無詠唱で使う者が多い。ハリナも転移は無詠唱だし、簡単な治癒なら無詠唱で可能。そして、他国にもいるはいる。無詠唱を使えるものが。でも、アベリナ帝国と比べたら圧倒的に少ない。

 そして、コントロール力も高いのが多い。細かい微調整まではという者もいるが、的なら10発のうち9発はど真ん中という者が何人もいる。

 先天的な面で言えば、魔力が強い者が多い。魔力は訓練すれば強くはなるが、先天的な部分がやはり多くなる。魔力量が同じくらいでも、魔力の強さに違いがあれば、それだけで勝率は大きく変わる。相手よりも少ない魔力量で魔法の相殺ができるわけだから。

 そして、次に複数の属性に適性がある者、そもそも適性がある者が多い。これは完全な先天的だ。生まれてから増やすことは不可能。

 そして、他国には魔力はあれど適性がないという者もいる。その者達も魔道具を使えば魔法が使えるが、他の人よりも不便なことには変わりない。

 だから、この国の魔法使いを欲しがるのも分かる。そして、なぜ何度も攻めてきたのかも理解できる。孤児の魔法使いを連れ帰るつもりだったんだろう。バカな奴らだ。その戦争のせいで、余計に数が減っている。

「バカだと思わないか?」
「思うね」

 心を読まれたのか分からないけど、珍しくこいつの意見に同意する。

「それで企みだけど、すんごい単純だ。帝国の戦力を削ぎつつ、自国を強化したいんだ」

 アホみたいな理由だ。そんなことだろうと薄々思ってはいたが。この国の重鎮は頭がおかしい奴ばかりだ。

「あっ、帰ってきたな」

 上の方を突然見上げた。理由は分かりきっている。土でできた壁をすり抜けて、僕の腕に止まった。使い魔だ。

「何も結ばれてないな。早く帰ってこいって漢メイドから言われるかと思ったけど」
「あんたのはとこのことか?それ言ったら殺されないか?」
「手紙に書いたけど?」
「……骨は拾いに行ってやる」
「来なくていいよ」

 というか、こいつにはとこのことも話した覚えはないんだけど……もう深く考えたら負けな感じだな。

 でも、どうせなら利用できるだけ利用してみるか。

「紙とペン持ってきて」
「魔法使ったらすぐだろ」
「使ったら枷が無意味なのがバレるからね」

 こいつにはとっくにバレてるみたいだけど。でも、そう言ったら取りに行ったのか入り口の方に行った。

 さて……たまには専属らしいことでもやってみるか。
しおりを挟む
感想 154

あなたにおすすめの小説

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...