冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第38話 リスク

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「……悪化したね」

 眠っている皇女様を見て僕はそう言った。

「どういうことですか」
「軽い魔力切れを起こしてる。少し魔力が暴れてるし。何があったの?」

 魔力切れなら起きてもおかしくはない。でも、魔力の暴走は滅多なことでは起こらない。

「今日はベルフォード皇子殿下とエドニークス皇子殿下と交流しただけなのですが……」

 あの二人は別段魔力も強くないし、第三皇子はともかく、第四皇子は無理強いするような性格ではなかったはずだし……

「う~ん……あっ、池に行かなかった?」
「エドニークス皇子殿下を追いかけて行きましたね」
「精霊に触れたんじゃない?」

 皇女様の宮からそれほど離れていないあの池には、精霊がよく集まっている。皇女様は見えているみたいだし、触れてもおかしくないっちゃあ、おかしくないけど……

「精霊に囲まれているということは言っていましたけど……」
「じゃあ、泉に何かあったかな。僕にもうざったいくらい寄ってきてるし。終わったら見に行ってみようか」
「泉に何かあったら非常事態ですよ。それに、今もいるんですか?阿呆が」
「うん。ときっどきいるんだよ。荒らす命知らずの愚か者が」

 精霊の泉は精霊が誕生する場所。泉は各国に何ヵ所もある。この国でも把握しているだけで・・・・・・・・・6ヶ所ほどあったはずだ。

 精霊はたった一匹でも味方につけるだけで戦力は大幅にあがる。精霊は自分が気に入った者にしか力は貸さない。だが、まだ意識が目覚める前の誕生したばかりの精霊に魔力を注いでしまえば、精霊はその魔力に依存するようになる。

 泉が狙われるのがこれが理由だ。

 僕とレクトで脅しをかけたからあまり来なくなったけど……それでもゼロではない。国境沿いのにいたっては、他国から来ることもあるから、それも面倒なところだ。

「一応、魔力を沈静化して、弱体化はかけ直したけど、また話せるとは思わないことだね」
「どういう意味ですか」
「皇女様が自分で強くしたのと精霊で強くさせられたのとではわけが違う。精霊の魔力の残滓のようなものが残っているから、弱体化もあまり意味をなさない。さすがに精霊よりも魔力は弱いから」

 魔法の強さは魔力の強さに比例する。どんなに多くの魔力を使っても、魔力自体が強くなければただの見た目だけのこけおどしになる。逆に、使用する量が少なくても、魔力が強ければ上の魔法にも通じる。

 精霊の泉は、魔力の純度が高く、精霊が生まれる。魔力量で越えるのは可能でも、強さで越えるのは普通の人間には不可能だ。

 一応、僕の魔力を使えば勝てる。でも、勝てるくらいにまで強いのを付与したら、拒絶反応が起きやすくなる。

 拒絶反応は、自分と合わない魔力が体内に存在するときに起きる症状。大抵は、魔力の暴走だ。そして、対処が遅れれば死にいたることもある。

 それなら、精霊の魔力の残滓がなくなるまで待った方がいい。その方が時間はかかるだろうが、リスクは少なくなる。

「で、どっちがいいの?」
「……仕方ありませんね。時間が解決するのを待ちましょうか」

 どうせ読んでるんだろうと思って聞いてみたけど……そろそろやめてくれてもいいと思う。

「やめられたら苦労はしません」
「苦労してるようには見えないね」
「じゃあ、あなたが心を読まれないようにしたらいいんじゃない?私は皇女殿下は分からないもの」

 昔のようにタメ口をきいて言い返してきた。なんでこいつは僕が考えることが分かるのかは知らない。もしかしたら、僕にたいしてだけではないのかもしれないけど。

「それができたら苦労はしないね。じゃあ、僕は泉を回ってくるから。一週間くらいは帰れないから、皇女様を悪化させないでね」
「そんなことを言われても、私達は精霊は見えませんし……」
「じゃあ、これあげる。試作品だけど」

 僕はポケットに入れていたものをハリナに向かって投げる。ハリナは驚きつつもキャッチした。

「これは何ですか?」
「僕の魔力を入れといた魔石をちょっと改造したの。それがあれば精霊が見えると思うよ。光だけだろうけど」

 皇族の魔力だけが精霊……正確には、魔力を見ることを可能とする。それは、皇族の魔力の波長は、どんな形にも変えられるから。そもそも魔力には波長がある。血筋が近いほどその波長は似ている。なので、皇族の血筋ではなかったとしても、波長が合えばその魔力を見ることは可能だ。

「……ちなみに、これは他の魔法使いや陛下には?」
「言ってないけど?」

 絶対に面倒くさいことになるからね。カイルになら別に言ってもいい。だが、あの強欲なあいつらにばれたら質問責めにあうだけでなく、残りの魔道具の試作品をぶんどられるだろうし。

「……私を巻き込む気?」
「あっ、それもいいね」
「ふざけないでください」

 意外と本気だったんだけど。カイルに一人怒られるくらいなら、二人一緒の方がマシだし。

「あっ、そうだ。聞いてるか知らないけど、皇女様の命を狙ってたやつ、逃げられたみたいだね」
「……永遠に、ですね」
「兵の目を盗んで服毒自殺したんでしたか?した方も、させた方も」

 自分達は戦争に駆り出されなかったからと言って、この国の兵士であることには変わらない。だから、罰則は間違いなく受けるだろう。カイルは、よくも悪くも人には興味を持たないから、手本通りの罰則しか与えないけど……今回はそうならなさそうだ。

 まぁ、カイルの気分で明日の朝日が拝めるか決まるのは変わらないけど。

「それで、新たな情報が入ったらしくてね。まだいるんだってさ。そいつと同じ愚か者」
「つまりは、私達に駄犬を躾けろということですか?」
「それだけじゃ足りないわよ、ハリナ。飼い主に牙を剥く犬は処分した方がいいでしょ?」

 根っからの帝国貴族だな、この二人。皇女様が寝ててよかったわ。

 これ以上はあまり聞きたくなくて部屋から出た。あの二人の本性知ったら皇女様はどうするんだろう……

 まぁ、いいや。悪いようにはならないだろう。

 そんなことよりも、問題はこいつらだ。僕が泉に行くと言ってしまったから、逃がさないと言わんばかりに、服を掴んでくる。

「逃げないから。それで、案内してくれるんでしょ?」

 そう言ったら、やっと離してくれた。そして、先導し始める。

 僕は泉に行ってるから、しばらく駄犬の世話は任せたよ。
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